24、海の国の者と陸の国の者
瓢箪の中は大量の酒で満ちていた。吸い込まれて直ぐに、すばやく水面に出て瓢箪内の空気が少ないことを目で確認した沙胡蝶は、思いっきり息を吸い、水中に戻って、深い所まで吸い込まれていった孫悟空を探した。
沙胡蝶を養育したミス・オクトは、とても賢い女性だった。ミス・オクトが教えてくれたことを沙胡蝶は忘れていなかったので、事は一刻を争うと沙胡蝶は必死だった。
『海の国の者は鱗があるので、水中にずっといても生きられる。でも陸の国の者は、空気というものを体に取り込まないと息が出来なくて死んでしまう』
暫くして沙胡蝶は水中の奥深くに引きずられるように沈んでいく孫悟空を見つける。幸いな事に彼の意識は失われていない。良かった。でも、ぐずぐずしてはいられない。沈む孫悟空に抱きつくと、驚いた表情の彼と目が合う。沙胡蝶は彼の両頬をしっかと持った。驚く表情の彼の唇が、何か言おうとしている。
「待って!喋っちゃダメです!」
空気が無くなる!沙胡蝶は慌てて彼の開きかけた唇に自分の唇を重ね、先ほどの空気を与える。目を見開いたままの彼の唇を閉じさせつつ、沙胡蝶は、自分の左手はそのままにして、右手を自身の頭に伸ばした。
ミス・オクトは人前で、けして取ってはいけないと言ったけれど……。これは海の魔女の最高傑作だもの。きっと悟空さんを守ってくれる!沙胡蝶は頭の真珠を外し、孫悟空の頭にそれを乗せた。
「おい!何してんだ!?」
孫悟空は陸にいるのと同じように話している。
さすが、ミス・オクト!上手く悟空さんを守っている。間に合って本当に良かった。沙胡蝶がにへらっと笑うのを孫悟空は凝視する。たった三枚の小さな鱗しかない者にとって水中で息は出来ても、強い酒は対抗できる代物ではなかったらしい。あっというまに沙胡蝶は酒精に飲み込まれていった。




