23、沙胡蝶と魔法の瓢箪
孫悟空登場です。
沙胡蝶は孫悟空の声に弾かれたように立ち上がった。
孫悟空さんが助けにきてくれた!翠さんに攫われたけれど、直ぐに拘束は解かれたし、手首にお薬をぬってくれる優しい女性だったので、つい忘れて、一緒に外食に出て、まったりとお昼ご飯を食べていたけれど、翠さんは誘拐犯だったのだ。私は三蔵法師という人と勘違いされて攫われてきたのだったと、沙胡蝶は思い出した。
昨日、流砂河で会った沙悟浄様も後から出会った玄奘さんも猪八戒さんも親切な青年達だった。孫悟空さんも昨日お会いしたばかりだけど、一晩中、流砂河の河原で私を膝に抱きかかえ、眠らせてくれたすっごく優しい青年だ。4人とも優しい人達だから、とても心配してくれていたのだろうし、ずっと探してくれていたのかも知れない。
ああっ、ミス・オクト!私が陸に上がるのを、とても心配していたあなたに今すぐ教えてあげたいな!私がこれまでの旅で出会った陸の国の人達は本当に皆、親切で優しい人ばかりだよ!翠さんは誘拐をしたけれど、何か深い事情があったに違いありません!
最初にお会いしたときの寂しい哀しそうな表情が嘘のように、今はこうして、沢山の人達に囲まれて、穏やかに幸せそうに微笑んでいるんですもの。お腹も膨れたし、詳しいお話を聞かせてもらえるかもしれません。でも兎にも角にも、まずは探しに来てくれた孫悟空さんにお礼を言おう……と、すぐに沙胡蝶は駆け寄ろうとしたら、檜に後ろから優しく抱き寄せられた。
「やっと弟子が到着か。遅かったねー!君、仙術の天才らしいけど鈍くね?」
楡は沙胡蝶の左手を優しく持ち上げ、手の甲に軽くキスを落とす。
「君の大事な師匠への僕らの試練は見事クリアさ!彼は完璧だったよ!……次は弟子の君の番だ!」
楡はVIP席の後ろから真っ黒な瓢箪を取り出した。瓢箪のくびれた所には金と銀の飾り紐が巻き付けられている。それが何か知っていた鉄扇公主は檜から沙胡蝶を引きはがし、守るように立ちふさがる。
「さっちゃん!これは名前を呼んで返事をした者を吸い込んでしまう瓢箪だから気をつけて!」
「さっちゃん、これの蓋を開けるけど、彼が名前を呼んでも返事しちゃだめだよ?吸い込まれてしまうからね」
「さっちゃん、お口閉じててよ!」
3人同時に言われ、沙胡蝶は軽く混乱するが、その瓢箪が危険な魔法の瓢箪だと知り……。2人が孫悟空に何か善くないことをしようとしていると察した。
楡が瓢箪の蓋を開け、檜が名前を呼ぶ。
「斉天大聖、孫悟空」
「ん?何だ!ーっと、わっ!?」
一瞬の出来事だった。素早く鉄扇公主の腕を振り払い、瓢箪に吸い込まれようとする孫悟空の袖を幸運にも掴むことが出来た沙胡蝶は、彼と共に瓢箪に吸い込まれていった。
※このお話での、仙術と魔力の違いについて
仙術……仙骨という骨を持つ者が仙人の修行を積むことで得られる力。神通力とも言われている。人に多く見られるが、一部の人外や動物達も仙人になれる。 孫悟空は、この仙術の天才。
魔力……人外が持って生まれた魔法の力。海の魔女は、この魔法の力がとても強い。




