17、玄奘、八戒と沙悟浄と推理の練り直し
玄奘、八戒と悟浄と合流です。
玄奘は二人が持つ芭蕉扇と思わしき団扇を見て安堵した。どうやら鉄扇公主が無事に貸してくれたらしいと思ったからだ。だが玄奘と女の姿を見た、八戒は口元を歪め、沙悟浄は苦い物を口に含んだかのようなしかめっ面となった。そのままの表情で猪八戒と沙悟浄は、玄奘に帰還の挨拶をした。沙悟浄は挨拶の後に、こう述べた。
「玄奘様、せっかく芭蕉扇を借りてきたのですが無駄骨だったようです。今、そこで臭い匂いをまき散らせている女こそ、玉面公主本人です」
女から一番離れた所に立つ猪八戒は、鼻を押さえながら言う。
「本当にねぇ~、誘拐犯の香りと比べたらぁ、月とスッポンさぁ~!あの時の麝香は、上品で香水の使い方をキチンと知っている貴婦人の残り香だったけどぉ、この女のは狐だか狢だかの獣臭を消すために安物を瓶ごとぶっかけただけの悪臭だものぉ~!あ~あ、振り出しかぁ~!」
そう言った後、八戒は横にいる沙悟浄に小声で話しかける。
「あのね、豚の嗅覚は犬の1000倍らしくてね、細身だけど僕これでも豚の化生なんだよね。だからね、今地獄の中にいるみたいなの」
「八戒の兄者、ご愁傷様です」
「うん、悟浄の鮒臭いのもわかんないくらい鼻が馬鹿になってて辛い」
「え?拙者、鮒臭いのですか!?」
「うん、帰ってきた沙胡蝶に『おじさん、くさい』って言われる前にお風呂は入るべきだと進言しておくよ」
「……八戒の兄者、なんか怒ってます?」
「わかる?もう臭くて臭くて辛いを通り越して腹立たしくなってきたの」
八戒と悟浄のボソボソ声も気にせず、玄奘は考え事をそのまま口にする。
「今、この女は正面から私を狙いに来た。玉面公主は、沙胡蝶さん誘拐の犯人ではない。なら犯人は誰だ?」
悟浄は小脇に抱えた芭蕉扇を両手で捧げ持った。
「玄奘様。実は芭蕉洞にこれを借りにいった時、鉄扇公主は留守でした。そして八戒の兄者は麝香の香りを嗅いでいます」
人差し指を軽く噛みながら、八戒は自らの考えを口にした。
「もしかしたらぁ~、鉄扇公主がぁ~、あの子を攫ってどこかに連れ去っているのかもぉ~?賢い人ならぁ、自宅に隠すはずがぁないものねぇ?」
この八戒の言葉に玄奘も悟浄も八戒もお互いの顔を見て、同時に言った。
「それだ!きっと鉄扇公主だ!」
犯人の目星が付いた。新たな捜索方法を考えながら孫悟空の帰りを待とう!この考えに3人は深く頷き合う。
反対にこの3人の様子に怒りが込み上がって仕方がないのは玉面公主で、彼女は顔の白粉にヒビが入りそうなほどに怒りで顔を歪めていた。散々臭いと言われ、自分を無視して会話されたのだ。罵倒しようと口を開いたとき、憎きあの女の名が聞こえ、ついに我慢が出来なくなった。
「あの女……」
「俺の妻が、何だって?」」
自分の声が別の声でかき消えた。玉面公主は自分の情夫が来たことを知った。
玉面公主の情夫は、牛魔王です。
次回、久しぶりに沙胡蝶登場です。