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14、孫悟空、海の魔女と対峙する。

孫悟空、沙胡蝶の育ての親の所にいきます。

 四海竜王達は恐怖の連続に耐えきれず、ついに泡を吹いて気絶した。孫悟空はそんな彼らを捨て置いて、海の王の逆鱗以外の鱗全てを剥がして集めた袋と他の竜王達に持ってこさせた金の防具一式の入った袋の二つを背負い、海の魔女のところに向かった。


 俺もすっかり坊さんの供らしく()()なっちまったもんだ。昔なら逆鱗も剥いで、その目もくりぬいて竜眼(りゅうがん)として高く売り飛ばしてやっただろうになぁ……などと内心、ちょっと()()()()()()自分に苦笑している孫悟空であった。


 海の魔女の所に行く前に、分身の術は()いた。沙胡蝶の頭にかけられた呪いの力を思えば、分身した状態で対峙できる余裕のある相手ではないことが孫悟空にはわかっていたからだ。


 海の魔女の住処だと聞かされた洞窟の前には一体の巨大な(たこ)がいた。金色の双眸が何の感情も映さないまま、蛸は孫悟空に襲いかかった。孫悟空は二つの袋を放り投げ応戦する。軟体動物である蛸の攻撃は厄介である。蛸の足は足であると共に手であり、蛸の攻守は完璧に近いものがあった。


 孫悟空は、その攻守の完璧さに本来の目的を見失うほどの楽しさを見出しかけた。演舞のような華麗な体術の応酬であったが、生まれもっての喧嘩好きな孫悟空の敵ではなかった。蛸の急所である眉間に拳を入れると、蛸は息を切らせて身動きが出来なくなった。蛸は人化をすると、その場にひざまずき、三つ指をついて深く頭を下げた。


「まいりました」


 蛸の人化した姿は、黄緑色の長い豊かな髪を持ち、大きな金の瞳が印象的な美しい女性であった。危惧した魔力は、ほとんど()()()()()()


「あんたも強かったよ。足が()()揃っていたなら、この勝負は俺でも危なかったかも知れないな」


 孫悟空の言葉に、蛸の化生は笑った。


「ウフフ……さすが斉天大聖孫悟空殿。聞きしに勝る仙術の才ですわね。蛸の擬態を見破るとは完敗ですわ」


 蛸が人化する前に一瞬だけ見えた蛸の本当の足の数は4本しかなかった。蛸の足は8本のはず。ならば目の前にいる蛸の化生である彼女の残りの4本の足を、彼女は沙胡蝶の頭にかけた(まじな)いの代償にしたのは明らかだった。


 孫悟空は今回の訪問の目的を話した。ミス・オクトと名乗った海の魔女は、沙胡蝶の頭に被らせた真珠は沙胡蝶の髪とミス・オクトの4本の足を媒介にして、海の魔女の魔力で育てた千年真珠に呪いを練り込んだ、海の魔女の今までの生の中で一番の最高傑作だと言った。


 そして魔力のほとんどを使い果たした今の彼女には、沙胡蝶の頭の呪いの解除は不可能だと、爽やかな、それでいて腹黒い笑顔で言い切られた。


「私にとって沙胡蝶は我が子同然、私の命よりも大事だといえるほど愛しい子なのです。ですから例え私に魔力が残っていたとしても、あの呪いを解くつもりはありませんがね」


 海の魔女は含みを込めた笑みを浮かべる。それは、沙胡蝶の呪いでお前らの大陸が滅亡しないよう命がけで気合い入れて私の可愛い子を守りやがれ!……副音声でそんな脅しが聞こえてきそうな微笑みだった。


 元々長い間、海の王に懸想していた海の魔女は海の王の歪みに薄々気づいていたと言い、沙胡蝶を守るために沙胡蝶には内緒で自らの2本の足を媒介にして、自分が持っていた千年真珠に防御の呪いを施し、沙胡蝶の身近においていたと告白をした。


 沙胡蝶が陸の人間界に行くことになり、養母である海の魔女との別れに沙胡蝶が自分の長い髪をくれたので、それと後2本、自分の足を足し、さらなる色々な呪いの強化と護身の願掛けの強化と人間界用に姿隠しの術を思いつくままにありったけ施したのだと、海の魔女は目を細めながら言った。


 真珠の呪いは解除不可能であり、陸の世界の存亡は沙胡蝶を無事に救出出来るかにかかっている。切り替えの早い孫悟空は別れの挨拶をしようとして、ふと海の魔女に同行しないかと尋ねた。助け出した後、沙胡蝶に竜王達の天界行きの話の顛末を話して二人で海に戻れば万事解決だと思ったからである。だが、これには海の魔女は否と答えた。


「沙胡蝶は海の民の特徴をほんの少ししか持ち合わせておらず、海の世界にあの子が幸せになる場所はないの。出来れば沙胡蝶の母親の故郷を探し出して、そこで人間として幸せに生きていって欲しい」


 私は沙胡蝶の幸せを誰よりも一番に願っているから……。孫悟空と別れ際の海の魔女のそう言って微笑む表情は母親以外の何物でもなかった。ちなみに……。


「……まぁ!東海竜王と海の王が沙胡蝶のことを……。そう。そう言っていたのね。そしてやっぱり、あの男は外道(げどう)の謀略も巡らせていた……と。ほうほう、それはそれは……。やることがてんこ盛りだわ」


 ピキピキとこめかみに青筋が幾本も浮かび、魔力の源である新たな足が、ニョロニョロと勢い良く生えだしている海の魔女の背後から、黒く湧き出る怒りの(うず)を見なかったことにした孫悟空であった。

竜王より怖い母の愛でした。次回、流砂河の玄奘の話です。沙胡蝶の話は、もう少しだけ先になりそうです。

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