12、孫悟空、竜王と海の王をしめあげる
※この回は暴力表現があります。苦手に思われる方、不快に思われる方は引き返してください。
その日、海の国の王達は恐怖の坩堝に落とされた。最凶の岩猿が再び現れたからだ。陸の悪魔と陰でコッソリ悪口を言っていたのがバレたのだろうかと王達は震え上がった。
「よう!久しぶりだな!東海竜王と三海竜王達!」
何の前触れもなしに竜宮に乗り込んだ孫悟空が、東海竜王を出会い頭に右ストレートで殴りつけた後、休むまもなく左アッパーを繰り出した。倒れ伏した東海竜王を軽々と指二本で鼻フックして持ち上げた孫悟空は東海竜王を睨みつけた。
「だ・れ・が、お前の柱を盗んだってぇ!?ジックリ話をしてやろうじゃないか!時間がないんだ!とっとと話しちまいな!!」
と、孫悟空は時間があるんだかないんだか、わからない担架を切る。東海竜王は助けを求めて、周りを見回すと、三方の方角から同じように鼻フックをされた状態で引きずられるように猛スピードで、こちらに向かってくる残りの三海竜王達が、孫悟空の分身にボコボコに殴られた状態で無理矢理連れてこられて、やってきたのが見えた。
四海竜王達は孫悟空と、その分身達に取り囲まれた。陸の悪魔と恐れる孫悟空を目の前にして、彼らはガクガクと震えだし、自分達に身に覚えはないと必死に言い募る。この陸の悪魔は、本当にたちが悪いのだ。怒らせると今度こそ殺される。東海竜王の玉座に、ふんぞり返った孫悟空は目をつり上げた。
「ああん?」
「ヒィィィィ!」
凶悪なその表情に、四海竜王達は縮み上がった。慌てて人化し、その場に平伏した。
「おい、東海竜王のおっさん!お前、『少し前に、岩から生まれたって言う猿に宮殿の柱、一本奪われちゃってね。お前、ちょっと天界行って天帝にクレーム言ってきて』……と甥っ子に無茶振りしたってなぁ?聞いたぞ、おっさん!」
東海竜王は甥っ子を思わず凝視した。甥っ子は叔父から目をそらせた。この中で一番若い甥っ子は、一番ボコボコに殴られていた。
「俺は何百年も前に、譲ってもらったんだよなぁ?この如意棒をよぅ……。なぁ、東海の竜王のおっさん?」
「な、それはお主が無理矢理……ヒ、ヒィィィイ!わ、わかった、あれは譲った、譲りました!喜んで斉天大聖様に進呈いたしました!!だから、その顔やめてくれぇ!!」
永遠にも思える寿命が、ガリガリ削られていくのを実感する東海竜王だった。
「わかればいいんだよ!何、俺も坊さんの供をやってるんだ!昔みたいにグレちゃあいねぇよ、命までは取らない。せいぜいお前の全身の鱗、一枚一枚剥ぎ取ってやるくらいにしてやるよ!」
「ヒィィィィ!それだけは、止めろ!い、いや、止めてください!」
「それは嫌か?なら甥っ子への頼み事は取り消すか?」
「け、消します消しますとも!!」
顔面蒼白の東海竜王の諾の言葉を聞いた孫悟空は、次の標的を甥っ子の海の王に捉えた。
「おい、三下の色ボケ王!」
散々、孫悟空の分身に痛めつけられた海の王は、本物の孫悟空を目の前にして気絶寸前の顔色だった。
「ヒイィ!は、はい!」
「お前は『竜王の大叔父様の宮殿の柱が、一本無くなっちゃったので天界でクリーム色の柱をもらってきて』と、タツノオトシゴが沙胡蝶に、お前の言伝だと言ったのは把握してんのか!?」
「え?何ですか、それ?わ、私は叔父の言葉通りに伝えたはずですが?」
人化した海の王は、それはそれは美しい男だった。ただボコボコに殴られた今、彼の魅力は半減していたが。孫悟空は海の王の顔を見て、確かに沙胡蝶に親らしい綺麗な顔の男だが、少しも沙胡蝶に似ていないなぁと思っていた。少しでも沙胡蝶に似ていたら、制裁の拳は鈍っていたかもしれないが、そんな心配はいらないようだとも思った。
海の王の言葉を聞き、東海竜王がギョッとした顔つきとなった。
「お前、私の頼み事をあの沙胡蝶に命じたのか?あんな人魚の出来損ないに!!」
東海竜王の叱責するような言葉に、思わず甥っ子の海の王も反論する。
「仕方ないじゃないですか!私も忙しい身なんですよ!他の子ども達も皆、手が話せない用事があったんです。暇だったのは、あれだけだったんですよ!人魚の出来損ないとはいえ、あれも一応王族ですから、天界に行っても失礼にはならないはずですよ!大体、叔父さんの頼みは無謀なんですよ!クレームを言いにいくなんて、天帝に罰を喰らうのは目に見えているじゃないですか。そんな無茶なおつかいに命なんてかけられません!だから沙胡蝶が最適だったんですよ!一応王族だし、何かあってもどうでもいい子でしたから!」
ガッ!!ガッ!!東海竜王と海の王は孫悟空の蹴りをくらって吹っ飛んだ。両手の指を鳴らしながら、孫悟空は口元を歪め開け、歯茎を出して笑顔を作り、二人の元にゆっくりと近づいていった。が、目はそれとは違い、まったく笑っていない。
「ハハハ、お前ら、誰が出来損ないだって?、どうでもいい子だってぇ?」
「ウギャー!何でそんなに殺る気満々なんだ!」
「ヒィ!……い、嫌!こ、来ないでぇええ!」
あ、この二人、終わったな……。残りの二海竜王達はお互い抱きしめ合って、腰を抜かしながらも、そう思っていた。