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106、お釈迦様の木

 太上老君は自らゆっくりと沙胡蝶の傍に歩み寄ると、沙胡蝶を立たせてVIP席に座らせるようにと檜と楡に命じた。孫悟空はレースのクッションは1つまでと彼らを押しとどめる。


「そう言えば”三蔵法師”には、新しく入った沙悟浄の名前の由来を話していなかったと釈迦如来が言っておったから、その説明をしようかのう。沙悟浄の”悟浄”は、そなたもよく知っている釈迦が興した宗教に関することが由来だが、”沙”は、沙悟浄が川で生まれた化生だからという意味の他に、もう一つあっての。それは釈迦如来自身に関係しておるのじゃよ」


 それは釈迦如来がまだ神仏化していない現世で肉体があったころの話だった。その晩年、病に伏していた釈迦如来の傍にあった2本の木が、苦しげな釈迦如来の少しばかりの気晴らしになればと本来の花が咲く季節を無視して、自身の生命力を限界まで使い、果物のような花のような、爽やかな甘い匂いを放つ白い花をずっと咲かせ続けて、病で苦しむ釈迦如来の心を慰めた。


 そうして釈迦如来の現世での最期を心安らかにした2本の木は、釈迦如来の死を看取った後、自身もその命を失った。その2本の木の名前は、”沙羅双樹”という。釈迦は神化した後に、自身のためにその命を使ってくれた”沙羅双樹”に感謝し、”沙羅双樹”の魂を愛おしいと言って、天界人として生まれ変わるように転じさせたのだと太上老君は言った。


「その”沙羅双樹”が転生した天女はな、前世で木だった自分の香りを纏って生まれてきたために、酒造りの巫女となったのだが、500年前に悪い竜から身を守るために地上界に降り立ち、その後は人の身となって、幸せな一生を送ったらしい。釈迦如来は”沙羅双樹”を愛でていたために、その木の名前から一文字を自身の宗教に連なる意としたのだよ。沙悟浄は元々双子として、この世に生まれるはずだったと知った釈迦如来が、双子という言葉から、その2本の木を連想し思い出したのじゃよ。”沙”とは”水で洗って、善いモノと悪いモノを選り分ける”と釈迦如来は言って、悟浄に”沙”という名を与えたのじゃ」


 そう言って太上老君はソファに座る沙胡蝶の両手に自分の皺だらけの両手を重ねる。


「沙胡蝶という名にも、偶然だが釈迦如来の心を慰める”沙”が入っているのだ。だから愛おしい沙胡蝶が”三蔵法師”となっても、釈迦如来は怒るまい。むしろ……」


 むしろ……と続く言葉は太上老君の心の中でだけ紡がれる。むしろ……釈迦如来が選んだ玄奘よりも、()()の方が”三蔵法師”として、釈迦如来は信仰心をより得られて、しかも心の安らぎを()()()()()()ぶりに感じて喜ぶはずだ……、と。


「ホッホッホッ!要は”三蔵法師”は信仰心さえ集められれば問題ないのだから、安心して旅立ちなさい!」


 沙胡蝶は太上老君に両手を掴まれて床に座ることも立ち上がることも出来なかったので、せめて頭だけでもと、コクンと頭を下げた。


「これでこの話は終いじゃ!別れの餞別に宴を開こう!……何、この爺は酒も好きじゃが、果実水も好きでのう。ここでお昼ご飯を食べてから旅立つと良い!」


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