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104、秘めたる真珠

「老君。真珠姫って……それは、さっちゃんのことですか!?」


 それまで我慢していたパニックが太上老君の言葉で、一気に箍がはずれてしまった五宝貝の北斗七星兄弟は口々にしゃべり出した。


「ってか、何でさっちゃん、三蔵様になってるの!?はっきり言ってよく似合っているけどさ!」

「そうだよそうだよ!旅の僧の姿も最高に可愛らしくて、よく似合っているけど、なんでなのさ?」

「で、何で三蔵様が沙悟浄さんに?確かに三蔵様は化生かと思うほどに強かったですが……」

「沙悟浄さんは白馬の姿になっているし……。怖さがなくなって凜々しい白馬が、さっちゃんによく似合っているけれど……」

「それに真珠姫の姫って、女人のことでしょ?さっちゃんは、やっぱり女の子だったの!?」

「なんでお姫様が王子様になってるの!?僕らはどちらだろうと友達だけどね!弟が妹になろうと、ずっと僕らは友達で義兄妹だよ!」

「さっちゃん、老君!説明してください!!」


 イケメン7人兄弟ホストに押し寄せられる前に、”三蔵法師”こと沙胡蝶をサッと抱き上げ、彼らから遠ざけたのは勿論、孫悟空だった。太上老君は自分の()()()と孫悟空の睨み合いを面白そうに見て、ホッホッホッ!と大きく笑った。


「いや~、すまんすまん!ついここ12、3年前から流行っておる、所謂、業界用語ってモノを言ってしまったわい!」

「ぎょうかいようご?」

「少し前から天界では、業界用語というか、言葉の響きが同じモノを使っての言葉遊び的な流行があってだな……、つまり”姫”は”秘める”という意味を指す隠語となるのじゃ」


 そう笑ったまま太上老君は、四海竜王の一人東海竜王の甥っこ……つまり沙胡蝶の父親である、海の王の沢山いる子の中で、天界の者達に真珠姫”……”秘めたる真珠”と噂されている人物について話し始めた。


「4つの海を治めている四海竜王の末尾の海の王……いや元・海の王か。とにかく、その男は、天界でも危険視されておった竜だったんだが……」


 大昔、海の国の人口は、ある事件をきっかけに激減した。竜族も三海竜王と一人の竜族の血を引く人魚の男を除き、皆、食中毒で亡くなってしまったのだ。4つの海の結界を作るのは四海竜王の務めであり、4人の竜王が結界を作らないと、海の化生達は海の国では生きていけなかった。だから、どうしても4人の竜王が必要だった故に、三海竜王達は背に腹は代えられないからと、その竜族の血を引く人魚の男を無理矢理に竜族に転じさせた。


 しかし、竜族に転じさせられた人魚の男は、海中界でも天界でも女性相手のトラブルに事欠かない問題児だった。王の勉強も仕事もしない怠惰な者で、無理矢理に竜族に転じさせた三海竜王の罪悪感や厚意に甘え、竜族になったばかりで上手く力を使えないからと言い訳をし、500年近くも海の結界を作るのに協力しなかったのだ。


 名ばかりの竜王だったので、男は”竜王”とは名乗らせてもらえなかった。そのどうしようもない出来損ないの海の王が、結果的にだが竜族や他の海の国の民達のためにした良いことが、一つだけあった。それは竜族になりえる子どもを100人も作ったことである。これだけいれば、男よりも()()()後継者の一人くらいはいるだろうと思われたのだが……。


 男の100人の息子と娘は種族は皆、違うが、その性質が父親そっくりだったのだ。竜王の寵妃の子どもは皆、母親の属性の種族に生まれつくが、竜王の血が入っているため、知性も魔力も寿命も他の海の国の化生たちよりも基本値が高く生まれてくるのだが、100人の子ども達は、それらを高める勉強から逃げ、王族として生まれたのに、国の仕事を手伝うこともなく、日々、父親と同じように自由気ままに遊んで暮らしていたのだ。


 これには天界も神々も、勿論、三海竜王達もガッカリして、本来4人の竜王で作るべき結界を3人で作っている状況が、いつまで持つかわからない現状で、そう遠くない未来に四海竜王が治める4つの海の国は崩壊すると危機感が高まって飽和状態になったころ……男は人間との間に101番目の子を設けた。


 その子が生まれて直ぐに、この101番目の子どもは特別だと天界と神々は思ったという。何故なら生まれた一瞬後から、その子どもは真珠色の結界に守られ、遠見の鏡にも映らなかったからだ。寵妃の子どもだから、当然その子は母親と同じ人間に生まれているはずなのに、超強固な結界で守られているのだ。


 なので当然、それに疑問を持った天界も神々も、101番目の子どもの様子を知ろうと間者を送ったのだが、その子がいるという離宮には間者達は入れなかった。何か理由があるのかと四海竜王に探りを入れても、海の王は後宮に入り浸りで話にならないし、三海竜王達は、101番目の子は足がある子どもだからと苦手意識から、まともに顔も見ていない状態で、要を得なかった。


 そうして4、5年様子を伺っていたら、ある変化が起きたのだ。地上界の人間達……特に海の傍に国を造り、栄えてきた人間達を中心にして、海に関係のある神々に対して信仰心が急激に高まってきたのだ。信仰心を集めたくて仕方がない他の神々を差し置いて何故なのか?と、天界と神々が調べたところ、それは誰も姿を見ることが出来ない101番目の子の仕業だということがわかった。


 どうやって信仰心を高めたのかというと、海を使っての交易で栄えたい人間達と、嵐で壊れた船の瓦礫から海の国を守りたい海の国の民達が、商売という形での信頼関係を築いたことで、海で命を落とす人間が激減し、人間の船の被害がないことで二次被害を被る海の国の被害もなくなったことで、両方の感謝の心が、海に関係する神々への信仰心に変換されたということだった。この誰にも損をさせない方法を提示したのが、幼い101番目の子だったのだ。


「この時の調査で分かったことは、他にもあってな。四海竜王も気づいておらぬ事なのだが”竜族”の中で、”竜王”と呼ばれる希少種は、ほぼ神化しているのだと判明したのじゃ。故に海中界に海の国という世界を創造できておるのだが、神化しておるから海関係の神々と同じで、信仰心が神力となって、それを彼らは魔力と同じと思っておったのだよ。3人の竜王では海の結界にそろそろ限界がきておった。それなのに12、3年前から徐々に3人でも余裕で結界を保っておるのも、信仰心が増えて、神力が上がってきたからじゃった。その101番目の子の為したことの結果だと歴然じゃった」


 やはり101番目の子は特別だった。なんとかして、その子の姿が見たいと天界も神々も、やっきとなったが、さらにそれは困難なものとなった。何故ならば101番目の子の傍には、竜宮の者でさえ近づけなくなったからだ。さらに不思議なことに、近づけないばかりか、その子どもが提示した案は、素晴らしいモノだったというのに、海の国の民達が口々に101番目の子を誹謗中傷し出したのだ。101番目の子は出来損ないだと役立たずだと叫ぶ。まるで誰もが、その子に近づけないように牽制しあい、監視しあっているようだった。


 天界と神々は、その噂を信じる四海竜王達を陰で笑った。我々はお前達のように愚かではないのだ。この突然の国をあげての悪口大会は、101番目の子を守る真珠色の結界と同じで、見えないし魔力もないが、れっきとした()()なのだと悟る。誰がどのような意図で、子を守っているのかは不明だが、いつか必ずその秘めたる子を知ろうぞ!そして出来ればその聡明さで我らに、より信仰心を得る助言がもらえれば……

 いやいっそのこと天界か、神々にスカウトしてもいいかもしれない。


「……と、まぁ、このようなわけで、101番目の子のことを我々は、”真珠色の結界で守られている秘めたる子”、つまり”真珠姫”という愛称で、我ら天界と神々は注目しておったのよ」


 ホッホッホッ!と、愉快そうに太上老君は笑う。天界と神々を差し置いて、この爺が一番乗りで”真珠姫”に会うたわいと、実に嬉しげに体を揺すった。三蔵一行と五宝貝のメンバーは、キョトンとしている沙胡蝶を言葉もなくして見つめていた。

孫悟空「お節介爺様。ちょっと苦しくないかい?その言い訳は……」

太上老君「ん、同意じゃ!次から気を付けるわい」

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