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103、三蔵一行と太上老君

お節介爺様登場です。

 五宝貝の店に三蔵一行がやってきたのは、林で彼らと別れてから2日後のことだった。客寄せの銘酒を片っ端から飲まれてしまった檜と楡は、太上老君が、檜達が無事に試練を三蔵達に課せたお祝いだと言って、店のありとあらゆる酒を買い占めてくれたことで嬉しい悲鳴をあげることとなった。


 太上老君は、檜達が試練が終わっても、地上界にいて、人間の5人兄弟と過ごすことを許してくれた。老君が言うには、少なくとも地上界に現れた()が、その一生を幸せに終えるまでは、お前達は天界に戻っても落ち着いて金銀の炉を守れないだろうからとのことだった。さらには五宝貝と呼ばれる神器である、七星剣と東海竜王から返却された幌金縄を二人が地上にいる間は貸し与えると老君は言った。


「お前達の友達であり、北斗七星の8番目の()である沙胡蝶を守るのだろう?」

「ありがとうございます、太上老君!」


 檜と楡と、新たに太上老君の息子となった人間の5人兄弟は、いっせいに太上老君に抱きついた。


「ホッホッホッ!」


 白い髭を揺らして太上老君は笑う。そして片方の眉をあげて檜に、三蔵達が来たから出迎えるようにと指示した。


「くれぐれも粗相のないように、な。どんなに驚いても店に入るまでは疑問を彼らにぶつけてはならんぞ」

「?はい、わかりました」


 店内に訪問のベルが鳴り響く。店の者達は、いつものように店から出て並び、出迎えの挨拶をしようとして……、皆は驚きで目を丸くした。


 真っ白い()に乗る()()()()。手綱を引くのは孫悟空。その後ろを歩くのは()()()。一行の最後を守るのは猪八戒。人間の僧呂を守る美しい3人の化生の供。そして誰よりも美しい”三蔵法師”。”三蔵法師”の姿は美しいが、とても小さい子どものようにしか見えない。


 驚いて声が出ない檜に”三蔵法師”が声を掛ける。幼く可愛い男の子の声だった。


「先日はお世話になりました。旅に出る前に別れのご挨拶と、こちらに来られている太上老君様にもご挨拶をと思い立ち、お伺いさせていただいた次第です。お時間は今は大丈夫ですか?お邪魔をしてもかまわないでしょうか?」


 口をパクパクさせている檜を後ろでつついたが檜は驚きすぎて話せないようだったので、楡が”三蔵法師”に挨拶をした。


「これはこれは三蔵法師ご一行様!挨拶が遅れてすみません。まだまだ未熟で勉強中の身でお恥ずかしい!ご丁寧なご挨拶いたみ入ります。老君は、あなたたちを待っていましたので、案内をこれに……。馬はどうしましょうか?」


 すると孫悟空が”三蔵法師”に代わって答える。


「この馬は、()()()()の血筋の者が馬に変化している故、馬屋は不要、どこか家屋があれば人化して、()()()そっくりの姿となれるので店内にも連れていけます」

「そうですか。ならば変化できる場所にお連れしてから、老君のところに案内しましょう」


 神様にお会いするなら草履を脱がなくてはとかがむ”三蔵法師”に、老君は無礼講でよいとおっしゃっていたのでと押しとどめて、檜達は今にも口から飛び出しそうな言葉を飲み込みながら、店内のVIP席に彼らを案内した。


 VIP席の中央では太上老君が優雅に座っていた。大の酒好きの老君だが、今日訪れるのは()()()()()”三蔵法師”だからと言って、酒は控え、代わりに檜達に爽やかな味の()()()を持ってこさせていた。太上老君は、ゆったりとしたクリーム色の着物をまとい、その髪も眉も髭も真っ白で、皺だらけの好々爺の顔で立ち上がり、自ら三蔵法師一行を出迎えた。


 ”三蔵法師”は片膝を地に着け、神仏への礼をし、初めての挨拶の口上を完璧に述べる。()()の供達も彼に習い、片膝を付けている。太上老君は満足げに、これに頷いた。


「ホッホッホッ、初にお目にかかる。某は太上老君と申す爺じゃ。挨拶も済んだし、ここからは無礼講といこうぞ。ほれ、”三蔵法師”の()()、爺のそばに来て、その顔をよく見せておくれ」


 ”三蔵法師”は片膝をつけたまま、もう一度深く頭を下げると、静かに立ち上がり、美しい姿勢で歩き、太上老君の前に立った。4才くらいの男の子が旅の僧呂姿で老君を見上げている。白い日よけの旅の布帽子をかぶった幼くも聡明そうな黒い瞳がキラキラと輝いている。太上老君はホッホッホッと笑った。


「これはこれは可愛らしい坊だこと。どれ、爺に抱っこさせておくれ」


 完全に孫を溺愛する祖父の表情になっている老君は、”三蔵法師”を抱き上げようと手を伸ばしたが、目をパチクリさせた後、手を引っ込めた。


「……おやおや、これは失礼をしましたな。抱っこは諦めて、手を拝借しましょうかの」


 ”三蔵法師の右手を優しく手にとると、手の甲に髭だらけの口を軽く押し当て手を離し、またホッホッホッと笑った。


「今日は誠によい日じゃ!試練を君らは乗り越えたし、沙悟浄も無事に合流出来たようだし、海中界の秘蔵の()()()も仲間になったのじゃからな」


 ホッホッホッ!太上老君の笑い声だけが店内に響く。


「老君、真珠……()って、さっちゃんのことですか?」

分かりにくいかもしれないので、この回の配役の説明を。

三蔵法師→沙胡蝶

孫悟空→孫悟空

猪八戒→猪八戒

沙悟浄→玄奘

白馬→沙悟浄

……と、なっています。

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