同級生男子を召喚しちゃったんだけど!
同級生女子に召還された!という短編の続編です。
堅田みおりは、クラスで二番目くらいに可愛いと言われている。ちょっと天然なのが男子に人気だが、女子には計算だと陰口を叩かれている。
(計算で天然装って、気を引きたい男子なんか、いないっつーの。いつも眠たいから反応が鈍いだけなんだよ!)
しかし、最近、みおりは同級生のモブ男こと一ノ瀬怜のことが気になって仕方ない。4月から同じクラスにいたが、地味だな、という程度の認識だった。それなのに、11月半ばの月曜日、教室で一ノ瀬を見た途端、背筋に寒気のような、得体の知れない感覚が這い上がってきて、それ以来、常に神経の一部が一ノ瀬の気配を追いかけているかのようだ。
そんなふうになるきっかけもなかったのに。初めて会ったのなら、もしかすると、一目惚れとかもあるのかもしれない。あくまでも、もしかすると、だが。しかし、半年以上同じクラスにいるのだから、今更、一目惚れとかあるわけもない。
「なんなんだろ、この感覚」
みおりの見つめているというよりは、睨んでいる視線に、一ノ瀬がびくついているのが分かる。
(モブ男が気になるなんて、錯覚だよね。たまたま、風邪かなんかで寒気がしただけだよ、きっと)
みおりは、一ノ瀬の方を見ないように努力しながら学校での日々をすごさなければならなかった。
金曜日の深夜、みおりは部屋で魔法陣を作成していた。ちょっと前に、インターネットで高位悪魔を呼び出す魔法陣をみつけて印刷していたのだ。
悪魔召還に必要だという処女の棺桶の釘とかは、当然用意できないが、肉とか適当な代用品を使ってみた。自分の指先をちょっと傷つけて、血を垂らしてみたりもした。
「一応、処女の血だから、替わりになるかもしれないよね」
呼び出すのは、ハエとか牛とかは嫌だし、臭いのも無理なので、美形で優しくて、願い事を叶えてくれるという、セーレという悪魔に決めた。
みおりは、中学生の頃から、度々、悪魔を召還しようと試みていたが成功したためしがなかった。
今回も無理だろうなと思いつつ、自己流の召還儀式を行っていると、魔法陣から何やら黒い煙のような霧のような物が湧いてきた。
「え?マジで成功?」
恐ろしいほどに動悸がする。ハエとかじゃありませんように。
しかし、魔法陣に姿を現したのは、醜い子鬼のような魔物だった。
『おまえが、わしを呼び出したのか?』
「いや、呼んでませんから」
『おまえしか、いないだろうが!』
「あんたを呼んだんじゃないもん」
『フン!まあ、どうでもいい。おまえは、わしの餌になるだけだからな!』
子鬼は、舌なめずりをして醜い手を伸ばし、みおりを捕まえようとした。
「や、やだ!触らないでよ!」
こぶだらけの黒い手に腕を掴まれて、みおりは、パニックになった。
「あんたなんか呼んでないのに!セーレを呼んだのに!」
本来、呼び出すはずだった悪魔の名前を叫んだとたん、魔法陣が鈍く光った。
そして、魔法陣の真ん中に、スウェットを着て、寝転んでポテチを頬張る一ノ瀬怜の姿が現れた。
「………」
『………』
「………」
2人と1匹は、無言で見つめ合う。一ノ瀬は、ふう、と溜め息をつくと起き上がり、ポテチのくずをスウェットになすりつけてから、みおりと子鬼の方に近寄ってきた。
「堅田、こんなのを呼び出して、どうするつもり?」
「呼びだしてないよ!勝手に来て、私を食べるって言うんだよ、こいつ」
「ふう、変なことするから、こんなのが来ちゃうんだよ。」
「一ノ瀬、助けてよ!」
「不本意だけど、勝手に餌にされても困るから、助けるよ」
一ノ瀬は、子鬼の方を見て、
「おい、その手を離せ。」
と低い声で言った。子鬼は、慌ててみおりから手を離し、震えながら、卑屈な態度で答えた。
『…あ、あなた様の獲物とは知らなかったんです。お許し下さい』
「消え失せろ」
子鬼は、さっと後ろにさがると、姿を消した。
「堅田、もうやるなよ、悪魔召還とか。マジでヤバいのが出てきちゃうよ?」
「…一ノ瀬って、何者なの?」
「うーん。悪魔、かな?」
「さっきの不細工よりも強い悪魔なんだよね?」
一ノ瀬怜は、しぶしぶ頷いた。前に召還された時の記憶は消しておいたのに、また、悪魔召還の儀式を行うとは!今回の記憶を消しても、いや、何回記憶を消しても、堅田は成功するまで悪魔召還を諦めないだろう。呼び出されては記憶を消すという鼬ごっこになるのが目に見えている。
「さっきのは、悪魔じゃない。ゴブリンだよ。」
「一ノ瀬は、悪魔なんでしょ?」
「そうだよ。」
「じゃあ、私と契約して私の願いを叶えて!」
「詳しくは話したくないけど、僕と堅田は、もう契約してる」
「そうなの?じゃあ、願いを叶えてくれるんだよね?」
「もう、一個叶えたんですけど」
「一個だけなの?一個しか叶えてくれないの?」
「いや、そんなことはないけど」
「あー、よかった。あの不細工から助けてくれただけで、お願いが終わりだなんて、ガッカリすぎるもんねー」
堅田は、前の記憶がないから思い違いしているが、怜は、面倒なので訂正しなかった。そして、一応、確認してみた。
「願いを叶えるってことは、悪魔と契約して、魂を差し出すってことだけど、いいの?」
「いいよ。死んだ後に魂がどうなるとか、今から考えても仕方ないじゃん」
そうだ。堅田は、こういう奴だった。
「で?何が望みなの?」
「んー、とりあえず、今は、美味しいチョコレートとアイスラテが欲しい」
「ああ、そう」
「あ、待って!スーパーに売ってるようなのじゃなく、有名ショコラティエの逸品だよ?」
「はあ?もー、分かりました!パリのショコラティエのトリュフチョコレートですよ、お嬢様」
一ノ瀬怜の手の上に、銀のお盆に乗ったトリュフチョコレートとアイスラテが現れた。
「わー、美味しそう!」
堅田は、チョコレートを1つ摘まんで口に運び、モブ男には見せたことがない笑顔を浮かべた。そして、アイスラテを手に取り、怜に向かって言った。
「ごちそうさま!もう寝るから、一ノ瀬、帰っていいよ」
「1つしか食べないの?」
「夜中だよ?あんまり食べたら太るもん」
「…帰る。おやすみ」
「待って、一ノ瀬!」
「なに?」
「私が呼んだら、来てね?」
「むやみやたらと呼びださないように!」
「分かってる!だから、呼んだら、来てね?」
「はいはい。分かりました」
みおりは、満足そうな顔で、おやすみ!と言って布団に潜り込んだ。怜は、残りのチョコレートをベッドサイドテーブルに載せて、みおりの部屋を後にした。
みおりは、学校で必要な物や、可愛い洋服、お菓子などは買い与えられている。食事を抜かれるようなこともなく、叩かれたりもしないから、虐待を受けているとは言えないのかもしれない。でも、母親は、みおりとあまり会話しないし、成績を気にすることもない。また、みおりが外出するのを嫌がり、小遣いを渡さず、スマホも自宅では取り上げていた。
(これって、精神的虐待なんじゃないかなー)
みおりは、いつもそう思っていた。
土曜日の昼頃、みおりが目を覚ますと、母親は、妹を連れて映画を観に、父親は、趣味の釣りに出掛けていた。みおりの食事は、三食分冷蔵庫に入っている。父親に作った弁当のおかずと同じ物を三度の食事に分けて盛り付けたのだろう。
小遣いなんかなくても、外で誰かにお金を貰えばいいんじゃないかな。何回も、そう思い、実際に盛り場に出掛けてみたこともある。でも、母親から、もっと嫌われるようなことは、結局できなかった。
食パンを焼いて、卵焼きとサラダの乗った皿とミルクとともにお盆に載せて自室に運んだ。小型のテレビをつけて、ベッドの上でご飯を食べていると、ベッドサイドテーブルの上のトリュフチョコレートが目に入った。
「そうだ。一ノ瀬にお金を貰おう」
一ノ瀬、来て!と心で呼びかけたら、5分くらいして、一ノ瀬が嫌々な感じで現れた。
「やたらと呼び出すなって言っただろ?」
「いいじゃん。ね、お金が欲しい」
「カツアゲ?」
「100万くらい欲しい」
「何に使うんだよ」
「ゲーセンとか」
「ゲーセンに100万もいらないでしょ」
「自分の自由になるお金が欲しいの。スマホも自分でお金払えば持てるし」
「未成年だから契約できないでしょ」
「そんなの、悪魔には、なんとでもなるんでしょ?」
「まあね」
怜は、スマホと1万円札3枚をみおりに渡した。
「3万ぽっち!」
「まあまあ、財布にいつも3万円入ってるようにしてあげるから」
「4万円の物が欲しかったらどうするの?足りないじゃない」
「そんな高い物いらないでしょ」
みおりは、膨れ面で3万円を財布にしまった。スマホの着信音が急に流れて驚いて画面を見ると、エレナと表示されている。
「はい、みおりです」
『あ、みおりん、電話出るの珍しいね!ダメ元でかけたんだけど、よかったよー』
「エレナちゃん、どうしたの?」
『今から、遊びにいかない?うちの彼氏が友達連れてくるから、みんなでカラオケしようよー』
「…うーん。他に誰が来るの?」
『ミリアとー、マリリン』
ちなみにエレナもミリアもマリリンも日本人である(得礼菜、魅梨亜、鞠凛と書く)。
「分かった。東駅のカラオケ屋だね」
電話を切って、スマホをじっくり見る。新機種で新品、でもアドレス帳には友達の番号が登録されている。悪魔って便利。
エレナと会話している間に一ノ瀬は、いなくなっていた。勝手に帰っちゃったんだ、とみおりは少し不満に思った。
カラオケは、楽しくなかった。エレナは、彼氏といちゃついてるし、ミリアとマリリンは1人の男を取り合っている。みおりは、いつの間にか男2人に挟まれて座っていて、やたらベタベタしてくるので気持ちが悪くなっていた。
「みおりちゃん、可愛いね。彼氏募集中じゃない?」
「募集中じゃないです」
「ええー?嘘でしょ?募集中じゃなかったら来てないでしょ?」
「いや、友達と遊びたかっただけなんで」
そこに、急にターゲットを変更したミリアが割り込んできた。
「みおりんは、箱入りなんだよねー」
「みおりちゃんて、お嬢様?」
「いえ、別に」
ミリアは、みおりと右隣の男の間に無理やり割り込んで座り、半ば男の膝に乗っかっている。結果、みおりは、左の男に密着してしまった。
「ちょうど、みんなペアになったねー」
左の男がニヤニヤしながら言う。みおり狙いだった右の男は、ちゃっかりミリアの腰を抱いている。
みおりは、さっと立ち上がった。
「門限があるんで、帰ります」
「またまたー、まだ3時だよ?」
「ママが帰ってくる時に家にいないと叱られるので!」
素早く部屋から飛び出したみおりを追いかけて、男がドアを開けた時には、もうみおりの姿はなかった。
「えー、足、早すぎない?」
みおりに本日二度目の呼び出しを受けた怜は、カラオケ屋からみおりを自宅に連れ帰っていた。みおりは、不機嫌にうつむいているが、怜も機嫌が悪い。
「やたら、呼び出すなって!」
「やたら、じゃないもん!ピンチだったんだもん!」
みおりのスマホには、エレナや、見知らぬ番号からの着信が数回あったが、みおりは、勿論出なかった。
「もう誘われても行くなよ、また呼び出されると面倒だし」
「エレナ達、怒ったと思う。もう、誘ってこないよ、多分」
「それならいいけど」
「よくないよ!学校で無視されたり、変な噂を流されたりするかもだし。なんか、あの大学生に私のスマホの番号教えてるみたいだし」
「どうするの?全員、殺しとく?」
「それは、最後の手段にしたい。やっぱ、殺すとなると、ちょっと気が引けるってゆうか…」
「あ、そう。」
「大学生の奴らには、私のこと忘れさせて」
「はいはい」
「あと、一ノ瀬は、私の彼氏ってことにして」
「はい?どうして?」
「考えたの、私」
「何を?」
「彼氏がいるから、途中で帰ったってことにしたら、しかも、彼氏が冴えない同級生だったら、エレナ達も許すんじゃないかな?」
「えー?そんなことないでしょ?僕を巻き込まないでよ」
「私の望みを叶えてくれるんでしょ?契約してるんだから」
「堅田さぁ」
「みおり、みーたんでもいいよ」
「え?」
「彼氏なんだから、名前で呼ばないと。私も、怜って呼ぶから」
「付き合ってる設定、決定なんだ」
「決定だよ!」
怜は、やれやれと肩をすくめたが、もう反論は諦めた。
週明けの月曜日、怜が登校するとエレナ達がひそひそ話をしていた。みおりの予想通り、あいつむかつくから無視だよ、無視!とか言っているのが聞こえる。
怜が机にカバンを置くのと同時くらいにみおりが登校してきた。一直線に怜に向かってきて、ニコッと微笑みかける。教室がざわっとした。
「おはよ!怜」
「…おはよ。みおり」
エレナ達も呆気にとられて2人を見ている。
「昨日、よく眠れた?私、なかなか眠れなかったんだー」
「ぐっすり寝た」
みおりは、始業ベルが鳴るまで、怜と他愛ない会話を続けた。その後も休み時間ごとに怜に話しかけにくる。昼休みになると当然のように一緒に食べよう、と弁当を持って怜の席に来た。
「みおりん、今日はどうしたの?なんでモブ男とそんなに仲良しなの?」
エレナが我慢できなくなって、みおりに話しかけてきた。
「実はー、私、怜と付き合うことにしたの」
「えー?モブ男と?いつから?」
「金曜日に告白されたんだよねー?怜?」
(僕が告白したって設定?ムリがあるでしょ?)
案の定、エレナは、
「みおりん、今まで結構なイケメンに告白されてもお断りしてたじゃん?どうしてモブ男くんにOK出したの?」
と疑問を呈してきた。
「なんでだろー?私にも分からないんだけど、なんか、ビビっときたの。気がついたら、いいよ!って返事しちゃってた感じ?」
「あー、ビビっときたんだー。それなら、仕方ないかー」
(マジか。そんなんで納得するんだ!)
エレナが納得したので、怜は、驚いた。エレナは、ひらひらと手を振ってミリア達の方に戻って行った。
「れーい!外のベンチでご飯食べよ!」
「…うん」
みおりは、作戦が上手く行ってご機嫌だ。しかし、怜は、クラスの男どもから恨みがましい目で見られて最悪な気分だった。
みおりは、母親から男女交際を禁止されているが、母親に見られても怜がなんとかするだろうと思い、自宅まで送るように怜に頼んだ。
「やっぱ、付き合いたてだから、できるだけ一緒にいたいのが普通でしょ?」
「クラスの連中が見てないところでまで付き合ってる風にしなくてもいいんじゃない?」
「なに?私と一緒にいたくないの?」
「特には」
「むかつく!」
言い合いながら、みおりの家の近所の公園を通りかかると、警察官が数人の住民と話をしている。
「気持ち悪いわねー。」
「物騒よね」
「パトロールは強化しますが、気をつけて下さい。不審者を見かけたら、すぐに通報して下さい。」
何か事件が起こっているみたいだ。
「あ、みおりちゃん」
みおりに気がついた近所のおばさんが話しかけてきた。
「あら、彼氏?珍しいわね」
「こんにちは、おばさん、何かあったんですか?」
「ああ、公園でね、動物が殺されてたのよ。犬と猫が何匹か。田中さんのとこのペロも殺されたの」
「えー、こわーい!」
「変質者の仕業だと思うんだけど、だんだんエスカレートしていくって言うでしょ?みおりちゃんも、気をつけてね」
「はい、気をつけます。」
みおりは、おばさんにお辞儀をして、その場を離れた。
「怜に送ってもらってよかった!変なヤツが出てきても守ってくれるよね?」
「お願いされたらね」
「じゃあ、お願い。私がピンチの時は、いちいちお願いしないでも助けてね」
「はいはい。分かりました」
家に帰ると、みおりの母親は、男友達を連れて帰ったことで叱り始めたが、怜がお母さん、と声をかけると大人しくなり、怜を家に上げて、お茶まで出した。
「怜、何か魔法的なもの使ったんだ?」
「使うでしょ?そりゃ。近所の人にも見られてるんだから、母親公認の彼氏になっておかないと、面倒なことになるでしょ?」
「私は、ママに説教されずにすんで助かったしね」
2人がリビングでお茶を飲んでいると、母親が心配そうに、みおりに尋ねた。
「お姉ちゃん、ゆいか、見なかった?」
「まだ帰ってないの?」
「今日は、ダンス教室の日だけど、ちょっと遅すぎる気がするの」
妹のゆいかは、母親のお気に入りだ。みおりには許されない趣味の習い事をいくつか掛け持ちしている。みおりは、嫉妬心を抑え、迎えに行くよと母親に告げた。
「え?お姉ちゃんが?でも夜に出歩くのは…」
「怜も一緒に行ってくれるから大丈夫だよ」
「そう?でも、やっぱりお母さんが行くわ」
「大丈夫ですよ、お母さん。僕とみおりで迎えに行きます」
「怜くん。じゃあ、お願いするわね」
みおりは、公園での会話を思い出していた。もし、変質者がいたら、ママだってやられしまうかもしれない。
みおりと怜は、ゆいかが通っているというダンス教室に向かって暗くなった道を辿っていた。すると、途中で、少女の悲鳴が聞こえてきた。
「ゆいか?」
2人は、急いで悲鳴の聞こえたほうに走って行った。そこには、みおりの妹のゆいかが、友達と抱き合って座り込んでいた。ゆいかか、友達のどちらからか大量の血が流れて地面に黒い染みがひろがっている。
「ゆいか!大丈夫?」
「お、お姉ちゃん!幸ちゃんが、噛まれた!」
「噛まれた?何に…」
みおりが暗闇に目を凝らすと、金曜日の夜に魔法陣から出てきた醜い子鬼が何かを咀嚼している。
「あれは…」
『これっぽっちじゃ足りないなぁ。もっと食わせろ』
子鬼は、ゆいかと幸ちゃんに飛びかかってきた。ゆいかが悲鳴をあげる。幸ちゃんは、もうグッタリしていて声も出せない。
「よせ!」
怜の声に子鬼が動きを止めた。
『だ、だんな。なんでここに』
「お前、まだこっちの世界にいたのか」
『こいつらも、だんなのエモノなんで?』
「困るんだよ、あんまり派手に暴れられると。お前には、完全に消えてもらうよ」
『ゲッ!お許し下さい!これからは、そのあたりのドブネズミしか食わないように…』
子鬼は全て話すことは叶わず、一瞬燃え上がり、チリとなって消えた。
「ゆいか、大丈夫?ゆいか!」
「お姉ちゃん…」
ゆいかは、かなりショックを受けていて、そのまま気を失った。
「怜、幸ちゃんを治してあげて。あと、2人から、あの不細工の記憶を消してあげて」
「分かった」
怜は、太股の肉がえぐれ、出血で瀕死の幸ちゃんを回復し、2人の記憶を改変してから目覚めさせた。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「ゆいかが遅いって、ママが心配してたから迎えにきた」
「ふうん。珍しいね、お姉ちゃんが迎えにきてくれるなんて!」
ゆいかは、嬉しそうに姉を見上げたが、怜に気がつくと、怪訝な表情になった。
「お姉ちゃん、その人だれ?」
「お姉ちゃんの彼氏だよ。怜くん」
「えぇーっ?お姉ちゃんがこんなフツメンと付き合うなんて、有り得ないよ!」
「それが、あり得るんだよね、怜?」
「あー、ゆいかちゃん、一ノ瀬怜です。よろしく」
「ゆいかが許してもママは許さないと思うけど」
「それが、ママも公認なんだよね」
「そんなの、信じられない。あのママが!お姉ちゃんは、将来、官僚と結婚させるって言ってるのに」
「なにそれ?そんなことママが?」
みおりは、母親が自分のことを妹に話していたのが、少し嬉しかった。
みおりと怜の2人で、幸ちゃんを自宅に送り届けたあと、みおりとゆいかを自宅の前まで送った怜は、2人と別れて家路に着いた。
みおりは、自分が呼び出してしまった不細工な子鬼が妹達を襲ったことに少なからず責任を感じ、魔法陣を印刷した紙を捨てることにした。ゴミに捨てるのは、ヤバい気がしたので夜中に流し台で燃やし、灰を洗い流した。
もう怜と契約しているから、悪魔召還の必要もない。
「そういえば、怜って召還する前からクラスにいたけど、他にも悪魔っているのかな?」
まあ、そんなことは、どうでもいいか。いたとしても、会うことはないだろう、みおりは、そう思った。
もしかすると、また続きを書くかもしれません。