くつろぎの宿 ルーマ
「「えっ」」
お金か…いや、入国料と聞けばなんとなく予想は出来たんだけど、リンと一緒にいれることで頭がいっぱいで忘れてたな。
仕方ないから出直すしかなさそうだ。
「すみません。今手持ちがなくお金を払うことが出来ません」
「…そうか。門は朝の八時から夜の八時まで空いている。来るならその時間内で来い」
入国料を支払うのは当たり前だろみたいな目で見られたが仕方ない。
「はい。分かりました。失礼します」
リンもお辞儀をして追いかけて来る。
抱っこされているフェンは不服そうな顔をしてる…すまんな。
まぁ、たぶんお腹が減っているだけだとは思うが。
門から出てくるとリッキー達が心配そうな顔で見てきた。
「どうした?」
「…お金がなくて入れなかったんだよ」
「いくら足りないんだ?少しくらいなら貸すぞ」
「ありがとう。実は…」
「なにー!?入国料の銅貨二枚と銭貨五枚の全額足りない?!どうして一銭も持ってないんだ?これだと入国料貸したとしても宿にも泊まれないし飯も食えないぞ!どうするつもりだったんだ?」
リッキーとアレンは有り得ないという表情で俺とリンを見ている。
「いや、お金のことを忘れてたんだ。リンと旅出来ることに浮かれてて…」
「それはなんとなく分かるわ!リンちゃんとても可愛いものね!」
「…カレン、分かってくれるのか!」
「えぇ、もちろんよ。ミナト」
リンの可愛さを分かってくれるとは…カレンとは良き理解者として今後ともよろしくやっていけそうだな。
ただ、すぐにリンを抱きしめるのはやめて欲しいが。
フェンとリッキー、アレンは馬鹿を見ているような目で見ないでくれ。
リンが可愛いのは事実で結果お金の事を忘れていたのも事実なんだから。
「…おい、バカをやるのはやめてとりあえず今後のことを話し合おう…後ろの並んでる人達が騒ぎ出したから一旦列から出るか」
「で、どうする?何かいい案があるやつはいるか?」
「はいはーい、私がリンちゃんを養うってのはどう?」
「却下だ!リンだけを養ってもミナトはどうするんだよ」
「ミナトはあんた達で何とかしなさいよ」
「はぁ、だいたい俺達は冒険者で色々遠くへ行かないといけない仕事が多いし、ミナト達にも色々事情があるだろ?そもそも養うってのは無理な話だな」
まぁ、そうだな。
旅行していきたいからリッキー達にお世話になりっぱなしになるのは無理だな。
「何か金を稼げる仕事とか無いか?」
「うむ、冒険者になるのがいいのではないか?そしたら色々教えれることがあるだろうしの」
「いいね!その案で行こう。ミナトとリンはどうだ?」
冒険者か、魔物とかの討伐クエストとかが定番だと思うけど、危険が多そうでリンに何かあったら嫌だな。
「冒険者ってのは危なくないか?危険なことをリンにはあまりさせたくないんだが」
「大丈夫だよ!お兄ちゃん。私も色々体験してみたいし、お兄ちゃんばかりに負担をかけたくないし!」
「大丈夫だよ、ミナト。冒険者って言っても魔物の討伐や商人のや護衛とかの危険なクエストばかりじゃなくて、珍しい薬草などの採集クエストや逃げたペットを探したり、街の掃除とかの安全なクエストもあるからね!安全なクエストならリンちゃんと一緒に出来るだろ?」
「そうよ、ミナト!アレンの言う通りだわ」
なるほどな!
それなら安全そうだな。
「なら冒険者になってみるか」
「うん!一緒に頑張ろうね、お兄ちゃん!」
「なら入国料と冒険者になるのに必要な金は貸してやるよ!」
「ありがとう、みんな」
「ありがとうございます!」
グゥー
リンの方から聞こえたがリンか?
いや、リンに抱っこされて胡乱げな表情で俺達を見ているフェンだろう。
「おい、それよりも我は腹が減ったぞ!いつになったら飯が食えるんだ?」
そうだね、それだけ大きな腹の音を立ててればお腹空いているのはよく分かるよ。
「そうですね!冒険者ギルド行く前に先に腹ごしらえをしましょうか?」
「うむ、味もそうだが量がある所の方がいいぞ!」
「はい!フェン様の分は俺が払います」
いやいや、リッキー。
後でちゃんと支払うから。
「なら、私がリンちゃんの分を払うわ!」
おーい…カレンもかよ。
「なら、僕達二人でミナトの分を払おうか」
「うむ」
みんな優しいな。
ここはご馳走になっておくか。
いい人達に会えた。
「ありがとう、アレン、ガルド」
「ありがとう、カレンさん!」
「じゃあ、また列に並ばないとな」
「ねぇ、お兄ちゃん。さっきのはグレイスさん達だよね?」
「そうみたいだな」
グレイス達は気づいてなさそうだったな。
ブタ野郎も見えなかったし、まぁ、関わらないのが吉だな。
「どうした?知り合いでも居たか?」
「いや、なんでもない」
無理に説明しなくてもいいだろう?
ブタ野郎にはキツイお仕置きをしたし何もして来ないだろう。
それにあっちも気づいてなかったみたいだしな。
ーーー数十分後。
やっと門まで来た。
流石にお腹も減ってきたな。
異世界の料理か、どんな料理が出てくるのだろう?
リッキー達が支払いを済ませると入国許可書を貰えた。
これで中に入れる。
「わぁー!いっぱい建物あるよ!あっちにも!あっちにも!色々な人達も沢山いるね!すごーい!!」
リンが飛び跳ねるようにはしゃいでいる。
無理もない、俺も興奮しているし。(笑)
レンガのような建物や出店のような店がたくさん見られる。
その周りには人間はもちろんケモミミを付けた人(たぶん獣人)や背の低い人が見られる。
人間が多いかな。
けど、初めて異世界らしい人を見れた!
「おーい、宿に行くぞー」
そう言われてついて行くと二階建ての「くつろぎの宿 ルーマ」と書かれた宿に着いた。
「いらっしゃい。ん?リッキーゼンかい?久しいね。いつぶりだい?」
話しかけて来たのはカウンターにいる膨よかな体型をした愛嬌のある顔立ちの女性だ。
たぶん女将さんだと思う。
「お久しぶりです。セナさん。約一年くらいですね。今日から泊まりたいんですけど、三部屋空いてますか?」
「あー、ちょっと待ってな…空いてるよ!」
「じゃあ、三部屋お願いします。一部屋三ベッド、一部屋一ベッドでお願いします」
「分かったよ!それでもう一部屋は?」
「えーと、この二人とこの子が抱き抱えている神獣様なんですけど…」
「ん?神獣…様?どれどれ?この可愛いのが神獣なのかい?」
そう言うと、カウンターから出てきてフェンに近づいて見てきた。
「そうであるぞ!我は神獣だ!」
「!?喋るのかい!?これは驚いたね!で、お嬢ちゃんが飼い主かい?」
「ううん。違うよ。フェンちゃんの契約主はお兄ちゃんだよ」
「こんにちは。俺はミナトでこっちがリン、で神獣のフェンです」
「礼儀正しい子だね。で、ベッドの数はどうする?」
ベッドか。
俺とリンはいるとしてもフェンは貸してもらえるのかな?
毛が抜け落ちたりして貸してもらえないかもしれない。
ダメだったら街で毛布みたいなやつを買わないとな。
「フェンにもベッドを貸して頂けるのですか?」
「それはあんたが決めることだよ。うちの宿はどんな客に対しても差別はしないのさ!」
やった!
フェンもふかふかのベッドで寝る方がいいだろうし。
「ではベッドを三つお願い出来ますか?」
「あぁ、構わないよ!」
「それでどんだけ泊まるんだい?」
「とりあえず、一週間お願い出来ますか?」
「あいよ!一人銀貨二枚と銅貨一枚だよ。神獣の分は銅貨七枚だ。食事をここで食べてくれるならオススメから一品タダで出してあげるからね!」
オススメから一品タダとか本当にいい店だな。
金欠な状態だし有難い。
「これでお願いします。ミナト達のも一緒に払ってるんで確認してください」
「あいよ。確かに!ちょいっと待ってておくれ。今から部屋にベッド移動させるからね!おい、ベッド三、一、三を二〇二から二〇四の部屋で移動させな!」
セナさんが大声で叫ぶとリンと同じか少し上くらいの三人の子供達がキビキビと動き出した。
こんな子供達がベッドを動かしたりしてるのか。
子供の頃から働いてるなんて偉いな。
空いてる時間があればリンとも仲良くなってくれたらいいな。
前はろくに学校も行けてないから同年代の友達とか出来なかったし。