生きる楽しさ
あれから3日後・・・
神山は八丈島に降り立った。広場に集められたクローンたち。最後の決戦が始まった。
「それでは、ただいまより3時間後に戦いを開始いたします。それまでの間自由時間とさせていただきます。解散。」
スピーカーから流れる音声はやけに明るい。
「神山、一緒に行動した方がいいですね。携帯電話でいつでも連絡はとれるとはいえ、緊急事態もあるでしょう。」
「そうだな。それで、何か策はあるのか?」
「えぇ・・・政府に八丈島での決着を求めたのは私です。私はこの八丈島にあらかじめ細工を施してます。あなたが有利に戦うためのね・・・」
「だが・・・こうして殺されるクローンも不憫だな。クローンも同じ人間だ。殺し合わずに済む方法だってあったはずなのにな・・・」
「甘いことを言っていては生き残れませんよ?さあ、私についてきてください。ここには罠が仕掛けられています。3時間後から動きだすように設定してあるので、まずはこの地図に印されている場所に移動します。」
二人は八丈島にある三原山に登った。
山頂付近にさしかかった時、Xは立ち止まった。
「ここが我々の拠点です。そろそろ戦いが始まりますね。このヘリに乗って殲滅しましょう。」
「かなり卑怯な気もするが・・・わかった。」
2人はヘリコプターに乗り込んだ。
神山はヘリコプターに備え付けられたガトリングガンでクローンを次々に射殺していった。
「なあX、おまえは抵抗がないのか?こうやってただ不幸なだけの罪のない人間を殺めることが。」
Xの操縦幹を持つ手が止まった。
「罪の意識などないですよ。彼らは存在することが罪なのですから。」
「おまえの考えがわからないわけじゃない。だが・・・」
「急いでください。あとクローンは2人です。見つければ数秒で勝利するんです。」
「・・・ああ。」
ズドーーン
その時ヘリをとてつもない衝撃が襲った。
「なんだ!?」
「くっ・・・何者かがヘリコプターで突っ込んだようです・・・こちらの方が頑丈だったから爆発はしなかったものの・・・うっ・・・不時着します!!」
二人の乗ったヘリコプターは森の中に墜落した。
「・・・神山!?どこですか!?・・・はぐれた。しかしなぜ私達のヘリ以外に別のヘリが存在したんだ・・・!!・・・空港か。空港には戦闘用ではないがヘリがあったんだ・・・神山と連絡を・・・」
しかし無惨にもXの携帯電話はボロボロに砕けていた。
「このままでは計画が・・・」
そのころ・・・
「Xが電話にでない・・・武器はナイフのみ、か。」
ざっざっざっざ
「誰だ!?」
神山の目の前にはクローンがナイフを持って立っていた。
「あんたが最後だな。俺の仲間が命を捨てて作ったチャンス・・・無駄にはしない。本物をここで殺して・・・俺が本物になるんだ。」
「俺は・・・おまえに恨みはない。だが・・・死ぬわけにはいかないんだ。俺はXと共にこの国を治していかなきゃいけない。死んでいったクローンのためにも・・・俺はそうすると決心した。」
「お互い退くことはできないみたいだな。ナイフでの真剣勝負だ。」
2人はナイフを構えた。
同じ顔、同じ構え、同じ目付きで。
勝負はほんの一瞬だった。
神山の体は赤い血で染まった。
そして、クローンはその場に胸を押さえ倒れ込んだ。
神山はクローンの前でしゃがみこんだ。
「本当に・・・すまない。あんたらクローンにはなんの罪はないのに・・・俺がおまえのためにも・・・国を変えてやる。」
クローンが微かに動いた。
「俺・・は・・・死ぬのは怖く・・・ねえ・・・ただ・・・もっと生きる・・・楽しさってやつを・・・味わいたかったな・・・おまえの言葉・・・信じるから・・な・・・」
クローンの動きは止まった。
東京都の離れ小島で今・・・決着がついた。