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弾丸はまっすぐ、正直に

『こちらカリー。標的まで、こちらからの距離200、そちらからの距離1000。クリスティ、狙撃準備』

「こちらクリスティ。了解した」


クリスティはビルの屋上で、自分と同じくらいの大きさのスナイパーライフルのスコープを覗く。肉眼では胡麻くらい小さく見える標的(ターゲット)を見つけ、スコープのダイヤルを回して口の動きさえ読めるくらいはっきり見えるようにする。


「風が少し強いか…」


端末で現在のかぜの状況を確認し、照準(レティクル)の中心より少し右に標的を持ってくる。


『突撃準備。クリスティ、先頭の赤髪が指揮を取っている。そいつをやれば敵は乱れるはずだ』


カリーの声が無線から聞こえてくる。


「了解」


クリスティはもう一度照準を合わせて、引き金に指を当てる。

すー。

息を吸う。

瞬きも服が擦れる音も束ねた髪が風で揺れるのも、全てが邪魔になる時間。

は。

短く息を吐くと、指を動かした。

パン!かりりん!

短い銃声が鳴るのと同時に、空薬莢が排出される。サイレンサーをつけたため通常の音より半分くらいの音はカットされているはずなのだが、ヘッドホンをしていても耳から頭へ、破裂音が響く。銃弾は風にあおられて少し右にずれて飛翔。予測通りだ。


『突撃!!』


スコープを覗くと、見事に頭から血を流して倒れるリーダーの赤毛と、それを助けようと駆け寄る子分たち。カリーと仲間は剣を素早く振って次々と、敵の持つ鉄パイプなどの武器だけを切り落としていく。

あっという間にその場にいた全員を確保、待機していた警察に引き渡す。

その瞬間、


「なっ!」


剣をしまい、次の指示を出していたカリーが突然に、倒れた。耳から大量の血を出している。

狙撃?!耳から脳へ弾丸が入ることを狙ってのあの打ち方は、私より近距離での狙撃。誰だ。

近くにたつビルからビルへ、目線を動かして、見つける。

真っ黒いビルの窓から、同じく黒い銃口。銃身が建物から出る範囲を最小限に、私からも撃たれないように姿は全く見えない。

なぜあそこに。カリーが仲間を捕らえるところを狙っていたのか。

ここからでは撃てない。移動するのは時間が足りない。どうすれば?!


「貸してください」


不意に、声。振り向くと、スーツに身を包んだ高身長の男。顔はよく見えないが、この声、どこかで聞いたことある気が。しかしそれを思い出す前に肩に手が置かれると、愛銃が抜き取られる。


「は?!え?!」


いつからいた?ここには特別な許可を得て閉鎖してもらっているから鍵を貸してもらわないと入れないんだけど。それに背後に気にしていた私が気配にすら気づかないなんて、一体何者?


「撃てないんでしょう?私がこの銃を使って撃って差し上げますから」


何を言い出すんだこの変な人は。


「いやいやちょっと待ってよ。銃身もほとんど見えなくて、相手の格好も何もわからないのに闇雲に撃ったって何にもならないでしょ。それにこの銃は私のオーダーメイドだから、あなたの体格には合わないし使いにくいよ」


そう言う間にもスコープを覗いて引き金に指をかける謎の人。そこで思い出す。この声は、


「怜さん?!?!」

「そんな大声出さないでくださいよ。普段狙撃銃なんて使ったことないですし、集中が途切れます」


なんで怜さんがここに?それに使ったことない銃で私が撃てない敵を撃てるはずない。そんな疑問は怜の言葉で遮られた。

パン

愛銃が火を噴く。その瞬間パリーンと、ガラスが割れる音がかすかにした。

まさか?!この銃を撃てる?!ブルストのメンバーでは私しかまともに撃つことができないのに。なぜ怜さんは?!

急いで腰に装備してあった高倍率双眼鏡で見てみると、銃が見えたすぐ隣の窓が割れている。


「やっぱり無理か」

「無理ではありませんよ、クリスティ。今ので敵は気絶したはずです。あと10秒であなたの仲間がそこに着くでしょう。クリスティも確認しに行っては?」


気絶?今のは窓に当たったはず。


「わざと窓枠に当てました。幸いなことに防弾ガラスだったみたいで、ガラスの割れはそこまでひどくないはずです」


窓枠を外してそれが頭に当たれば。銃弾の速さなら多少威力が減衰しても気絶するほどには効果がある。しかしなぜこの怜さんがそれをできるの?!


「一体、何者……?!」


喉から絞り出した声でそう問うと、


「私はただの司書ですけど、何か?」


怜さんは笑って答えた。

次に振り向いたとき、そこには誰もいなかった。

"ただの司書"が銃を撃てるわけないじゃない。この前の戦いだって一般人とは考えられない。あの無駄のない、敵を確実に捕らえることだけを考え、洗練された戦い方は、訓練されたものでないとできないだろう。

なぜそんな人が図書館にいるのか。

一体、何者…。

その言葉をずっと頭の中で繰り返した。

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