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押して駄目なら引いてみよ  作者: 星原渚
1章・同情
4/6

1・災難は一度で終わらない

 界樹の朝は早い。時計を見ると、針は六時五十分を指している。昨夜は二時から爆熱少女ラブ&ガールをリアルタイムで見ていたというのにこんなに早く起きられるとは、天才も困ったものだ。


 「ちょっと早く起きすぎたなー。家に出るまで後一時間、一体何のアニメを見るか……」

 界樹は考えを巡らせる。無数にあるお気に入りアニメの中から、ここ最近見ていなく、さらに一時間半で見られるストーリー。


 「アニメ映画は確定。後は何を見るかだ」

 界樹の中に無数の計算式が(無意味に)現れ、今最も相応しいアニメ映画を特定していく。


 「くそ、この三十の中からどれを選べばいいんだ」

 結果、三十まで絞れたのだが、それ以上は絞れないと判断し、一階に降りることにした。


 「あれ? イフがいない」

 教員は七時半までには学校に着いてなければいけないため、イフリは七時に出ると言っていた筈である。

 その十分前なのに起きていない妹様を起こすべく、再び階級を上りイフリの部屋へと向かう。


 「おーいイフ! もう朝だぞー!」

 界樹がコンコンと扉を叩くが、返答はない。

 仕方なく界樹は扉を開け中へと入る。


 「あれ? いない」

 いつも通り整えられた部屋の中には、あの特徴的なツインテールの姿はない。

 残された可能性は外出ぐらいなのだが、何か買い忘れでもあったのだろうか?


 「あっ……そうゆうことか」

 あるものを見た途端、界樹は全てを理解した。何故自分がこんな時間に起きることが出来たのか、何故イフリが家にいないのか、そして自分が凄く馬鹿だということが。


 「六時五十分じゃなくて 九時半じゃねえか!」

 この素晴らしいまでの勘違いに、界樹は最近で一番のツッコミを送った。


 ▼▼▼


 さて、災難というものは続いてしまうものである。

 学校初日に遅刻(入学式遅刻ではないので二次元イベントではない)という災難に見舞われた界樹なのだが、界樹が目覚めるまでの間に、第二の災難が産み出されていた。


 「カイジュ・フランシアス……やっぱり遅刻ね」

 学校生活初日の遅刻を、さも当然のように理解したイフリは、出席確認を続ける。

 界樹が寝たのはきっと二時半頃なので、九時半には起きるだろう。着いたときに散々な目に合わせれば良い。そう決めたイフリは、これ以上愚兄について考えないようにした。


 「じゃあ次よ、皆も知ってると思うけどここは実力がある人が評価されやすいわ。そして暫くすると、集団模擬戦が行われる」

 皆の視線が真剣なものに変わる。実力があるものが優位に立てるこの学校で、今から話す事が重要なものであると判断したのだろう。


 「集団模擬戦はクラス対抗、自陣にある旗を取られれば負けというシンプルなルールよ。さて、生徒一人一人が好き勝手に行動して勝てるほどこの学園は甘くないわ」

 言いたいことが分かるでしょ? そう言うかのように肩をすくめたイフリは、生徒に向かってその言葉を発する。


 「学級委員長を決めるわ!」

 

 ▼▼▼


 なんとか学校に着いた界樹は、生徒指導部で遅刻の報告をした後、一年六組の教室の前まで足を進めていた。

 「遅刻……イフがそれを許す筈がない。どう仕掛けてくる? 上から黒板消しか? 入った瞬間に火炙りか?」

 考えてみたが、妹様が何を考えているかなんて分からない。様々な可能性を頭に入れ、扉を開けることにした。 

 

 「ヒィィィィィ!」

 界樹は悲鳴じみた声を上げる。別に黒板消しが落ちてきた訳でも、火炙りにされた訳でもない。

 視線が鋭い。物凄く視線が鋭い。怒り、嫉妬、好意に……殺意。好意に関しては心当たりがなくはないが、全く訳の分からない視線に界樹は困惑する。


 「あら、皆からこんなに視線を向けられてモテモテね」

 そう言って不適に笑うイフリ。一体何をしたのだろうか? もしかしたら遅刻すれば発動するペナルティが? そんなことを考える界樹に話しかけたのは、隣のポニーテールの少女だった。


 「カイジュ! 何でよ、何で貴方なのよ!」

 「いや、何の話だよリリス……いや、佐藤だったか?」

 「前者で合ってるわよ! 何で間違ってる方に訂正するのよ!」


 朝から元気がよくて結構であるが、今はそんなことに構っている場合ではない。一刻も早く何が起こったのか知らなければならないのだ。


 「で、何で俺はこんなに嫌われてんだよ!」

 今までの過程を無視したツッコミに、クラス中が静まり返る。

 界樹が行った悪い事なんて、試験をサボって、妹を弄って、初日から遅刻をしたぐらいである。……あれ? 結構ある。


 「貴方だからよ」

 「へ?」

 「貴方が学級委員長だからよ!」

 「……へ?」

 何故に? 界樹は心からそう思った。 


 「説明してくれイフ! なんか学級委員長に勝手にされた挙げ句殺意の込められた視線が送られているんだけど」

 「あら? あなたぐらいよ、この学級委員長という位がどれだけ大事か分かっていないの」

 学級委員長……何が大切なのだろうか、正直やる気さえあれば誰でも良い気がする。指名されるような事はない筈である。


 「すまん。学級委員長の何が大事か全く分からないのだが」

 「あら。この学園の生徒なのにここまで馬鹿だとは驚いたわ」

 「ああ、それはついさっき痛感したよ」

 イフリの皮肉を実体験で返した界樹に、今日の朝に何があったのかなんとなく予想がついたイフリは口を開く。


 「馬鹿なあなたに説明してあげる。暫くするとこの学園で集団模擬戦が行われるわ。そこでこのクラスをまとめる指揮官が必要なの。後は分かるでしょ?」

 「それが学級委員長か……ってちょっと待て」

 「何よ界樹、不満でもあるの?」

 イフリの説明に納得しかけた界樹だったが、そこである疑問に気づいた。


 「じゃあ何で俺なんだよ!」

 入学魔術試験で最下位を取った界樹は、声を荒げて言った。

 「何? まさか私が個人の情だけで決めたとでも?」

 そう言われて界樹は黙り込む。イフリが個人の情で大事な事を選ぶ……万が一にもありはしない。となると一つしかない。


 「本当に俺に指揮官をやらせる気か?」

 ――どうなってもしらねぇぞ

 「あなた以上の適任者がいるのかしら?」

 ――そのどうなってもが欲しいのよ

 「なら仕方ない。やってやるよ」

 ――流石自慢の妹だ


 「「「「「なんか心の中でもやり取りしてないか?」」」」」

 勝手に燃えている兄妹を他所に、絆の凄さを知った生徒達であった。

 「じゃあ話は終わりだな。さっ授業を続けよう」

 「待ちなさい」

 さっさと席に着こうとした界樹を、イフリが笑顔で止める。


 「うん? どうしたイフ。悩みがあるなら聞いてやるぞ」

 「あら界樹。あなたがしたこと覚えてるわよね。」

 界樹の返しに、イフリが笑顔(怒り)で答える。

 「あれ? 俺委員長やるからそれでチャラじゃ……」

 「何を言っているの界樹、委員長なんて優遇されてる事なのよ。まさかそれを罰だとは思ってないわよね?」


 「……一体何をすれば?」

 「一週間トイレ掃除」

 「昭和か!」

 それから一年後、トイレの指揮官という異名が付くことになるのだが、そんなことを今の界樹が知るよしもなかった。


 ▼▼▼


 カイジュ・フランシアスが六組の学級委員長認定された時間、他のクラスでも、学級委員長の座が争われていた。

 

 決め方はクラスそれぞれである。六組のように独断で決めた四組、じゃんけんで決めた二組、そして実力で決めた一、三、五組。


 こうして、各学級の学級委員長が決定した。中には予想されていた者もいれば、予想外だった者もいる。


 六組のカイジュ・フランシアス。学園でも最も低い魔力適正を持ち、使える魔法も一種類の落ちこぼれである。


 五組のリーネ・エルフェルト。遠距離から狙い打つのが得意の弓使い。広い視野を持っているため、指揮官向きである。


 四組のヘロイ・ルート。特に目立つことはないが、全体的に魔力値が高い。


 三組のリンナ・ノーラス。実力は不明。しかし、かなりの魔力値があることが発覚している。


 二組のミナモト・チャップリン。魔力値や入学魔術試験の成績が中間という微妙な男。


 そして一組、魔力値が学年五位を一撃で気絶させ、有無を言わさずに学級委員長の座に就いた最強の男。光の魔法と補助魔法に長け、剣を持てば、学園の教師一人(一人を除く)では歯が立たない程である。


 しかし、その少年は基本不登校らしく、大事な時だけ学園に来るとのこと。その事実を残念がっている教師もいれば、少しほっとしている教師もいるらしい。


 その生徒の名はユキア・ベリアス。英雄になっていたかもしれない男である。


 ▼▼▼


 「じゃあ帰る前に明日の連絡よ」

 色々なトラブルがあったものの、無事に一日が過ぎ、明日の連絡が行われている。この後トイレ掃除が残っているのは考えないようにしていた。


 「明日は普通の模擬戦よ。しっかり体調を整えてきなさい」

 「「「「「はぁぁぁぁぁ!」」」」」

 「イフの奴、最後に爆弾放り込みやがった!」

 頭の中でほっほっほと笑っているイフリが想像出来た。

暫く投稿してなかった作者です。本当にすみません。やっとブックマークが付いてくれたこの作品(二人中一人は知人なんて言えない)。

 今回はもう一つの作品の主人公、ユキア君が登場しましたね。本来なら闇魔法を極める筈のユキア君が今回は光魔法を使っています。一体どんな変化があったのかご期待ください。(すぐに触れるとは言っていない)

 ユキア君が主人公をしている作品、復讐者の英雄譚もよろしく。

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