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押して駄目なら引いてみよ  作者: 星原渚
序章・入学
3/6

3・妹は可愛い

 「「「「「へ?」」」」」

 間抜けな声と共に、皆の視線が入ってきた少女に集中する。赤髪のツインテールが特徴的な、青い目の少女である。その幼い風貌から、教師らしさを感じろというのは無理な話だろう。

 

 その少女は視線に構うことなく教卓へ向かうと、後ろの黒板に文字を書き始める。

 「今日から六組の担任になった、イフリ・フランシアスよ。年は十二、文句があるなら理事長に言いに行きなさい」


 「「「「「えぇぇぇ!」」」」」

 クラス中から声が上がる。担任が年下ということに、皆が驚きを隠せていなかったが、そんな中、界樹は別の理由で、パニックを起こしていた。


 「イフ。……なんでお前が教師やってんだ?」

 界樹の質問に、イフリは不適な笑みを浮かべ、視線を界樹の方へと向ける。

 「あら。私が先生してちゃいけないのかしら。お兄ちゃん」

 「「「「「お兄ちゃん!?」」」」」


 イフリの言葉に、更に教室が騒がしくなる。しかし、一番パニックになっているのは界樹である。義妹が自分の担任だなんて、冗談にも程があるだろう。


 「いや可笑しいだろ! 確かにイフは俺より頭が良いし、魔法もずば抜けてるし、正直ここの教師連中で一番強いけど、まだ十二歳だぞ。て言うか中学どうした!」


 界樹は色々言いたいことがあったが、なんとか最小限に押さえる。それでもかなり多いのだが、明日、中学校に入る予定の義妹が先生をやっているのである。これぐらいは普通だろう。


 「黙って聞きなさい界樹。今は私が話をしているの、先生の話は最後まで聞くって常識も分からないのかしら」

 「しかも上から!」

 「ええ当然よ。教師が生徒相手に上から喋るなんてよくある話じゃない。そんな事も分からないの? 私の愚兄は」

 

 「ガハッ」

 愛しの義妹の言葉に、界樹のヒットポイントは0となる。界樹はその場で崩れ落ち、他の生徒は哀れに思いながらも視線をイフリに向ける。


 「はい。界樹君が倒れたところで、自己紹介に移りましょうか」

 さっきまでとは違い、優しい声で皆に話しかける。正直、家でもあんなに優しそうな喋り方をしていなかったのだが、今の界樹にはどうでも良かった。


 一番から順に、自己紹介が始まっていく。界樹は自己紹介を聞くこともなく机に屈伏していたのだが、ある少女の自己紹介で意識を起こす。

 

 自己紹介をしようとしているのは、入学式の時に質問してきた銀髪の少女である。少女は周りをキョロキョロしながら、ゆっくりと言葉を発している。


 「私は……シズク・ライネスです。……宜しくお願いします」

 周りから沢山の拍手が送られる。中には何人か見惚れている者もいた。


 「銀髪、ショートカット、臆病、あとは……」

 「そこ、リアルに属性を当てはめない!」

 イフリに注意され、界樹は渋々思考を止める。正直考えるのは自由だと思うのだが、イフリは許してくれないらしい。


 「「「「「属性ってなんだ」」」」」

 周りが疑問がっていたが、放っておくことにした。


 その後も自己紹介は進み、次は界樹の番である。さっきから色々と注目を集めているため、あまり目立ったことをしたくはなかった界樹だったが、イフリの一言で考えが変わる。


 「さあ、界樹。貴方も自己紹介しなさい。貴方のことだからきっと皆が腹を抱えて笑うとっておきのネタがあるんでしょう」

 イフリが嫌味ったらしく言う。界樹の妹様は笑いのネタをご所望らしい。妹様がご所望ならば仕方がない。界樹はスッと立ちあがる。


 「ええ、俺の名前はカイジュ・フランシアスです。最近起こった不思議な出来事は、何故か妹の布団に黄色い世界地図……」

 そこまで言うと、界樹の右横を黄色い閃光が走る。後ろを見ると、黒板から黒い煙が立ち込んでいた。何故かは言うまでもないだろう。


 「あら、面白い冗談ね。もう一度、しっかりと、自己紹介をして下さい」

 顔がピクピク動いているが、イフリは笑みを浮かべながら界樹に話しかける。妹様がご所望なら仕方がない。(ここまで怒っているイフリを見れば弄らないわけにはいかない)界樹は再び口を開く。


 「ええ、カイジュ・フランシアスです。俺の最も感動した言葉は、『世界は混沌に満ちている。ならばこの魔眼を持って、世界にカオスを引き起こそう』で……」

 「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

 界樹がポーズを取りながら紹介していると、イフリは突然、大きな叫び声を上げる。


 「あれ? どうしたんですか先生。ただ感動した言葉を紹介しているだけですが」

 イフリの叫びに対し、界樹は煽る様に問いかける。イフリはムッと口を尖らせるが、言葉を発することはない。ただその視線から「止めろ」と合図しているが、ここで追い討ちをかけずに何が兄か。


 「というわけで、漆黒に生きる魔眼使いイフリートの兄、カイジュ・フランシアスの自己紹介を終わります」

 「いやぁぁぁぁぁ!」

 叫び終わったイフリを見ると、目に涙を浮かべ、今にも溢れそうなのを必死に堪えていた。いくら大人らしくても、やっぱり中身は子供である。……帰ったらよしよししてあげよう。


 因みにイフリートというのは、たまたま見ていた中二病アニメにイフリがハマってしまい、自分で作り出したキャラクターである。ただ、利口な妹様は一週間で恥ずかしい事だと気づき、その後は黒歴史としてしっかりイフリの心に刻まれている。


 「じゃあ次の人」

 涙を拭いたイフリは、顔中を真っ赤にしながら話を振る。次の人は困った様子を見せたが、イフリに睨まれて強制的に自己紹介を始めることとなった。


 その後も自己紹介は続き、次は隣のポニテ少女である。正直ポニテ少女に興味はないが、さっきの仕返しで大分心の傷も癒えた。暇潰しも兼ねて聞くのもありだろう。


 「私はリリス・クラウド。伯爵の位を持つハウル・クラウドの次女として有名よ。貴族としては接しないで、ここでは皆平等だと思っているわ」

 周りから今まで以上に拍手が起きる。貴族相手だから気を配ったのか、単純に自己紹介が良かったからなのかは分からないが。


 「で、どういうことなの」

 ホームルームも終わり帰宅の準備をしていると、後ろから声がかけられる。

 「えーと確か木村……じゃなかった小林、わかった佐藤だ!」

 「全然違うわよ! リリスよリリス。名前ぐらい覚えなさいよ」


 「じゃあリリス。何の用だ? 俺には帰って『爆熱少女ラブ&ガール』を見返すという使命があるんだけど」

 界樹が鬱陶しそうに尋ねるが、リリスは全く気にしていない様である。

 「何よ爆熱なんとかって。そんなのより私との話の方が大事でしょう」

 「全く。それより用件を言ってくれ、パッと答えて帰るから」

 「分かったわ。聞きたいのは一つ、あんたが言っていたアニメって何?」


 「動く絵。じゃあ」

 そう言って界樹は帰っていく。アニメなど簡単に言うと動く絵である。その説明に割く時間があるのなら、一刻も早く『爆熱少女ラブ&ガール』(今日から二期が始まる)を見返す方が良いだろう。


 ▼▼▼


 「この馬鹿兄ぃぃぃぃぃ!」

 その夜、二十時になってようやく帰宅したイフリは、リビングを素通りし、二階にいる界樹の元へと向かった。


 「どうしたんだイフ」

 「どうしたんもこうしたもあるか! あんな大勢の前で私の黒歴史をばらしてくれちゃってただで済むと思っているわけ!」

 

 イフリは顔中真っ赤になりながら、界樹の胸ぐらを掴む。確かに少しやり過ぎた。やはり受けるべきだと感じた界樹は目を閉じる。

 「何か言い残すことは?」

 「何もございません」

 「よろしい!」

 炎を纏ったストレートが、界樹の顔面に突き刺さった。


 「ふん、今日はこれくらいにしてあげるわ」

 イフリが何処かで聞いたような台詞を吐く。

 これが兄妹のルールである。仲の良い兄妹であるが、相手を怒らせることも多々ある。その時は、一発相手を殴りそれでチャラとするのだ。(最後の台詞はイフリが気に入っているだけある)


 妹の拳を受け、暫く伸びていた界樹だったが、ばっと体を起こしイフリに問いかける。

 「で、それはそれとして。なんで教師なんてやってんだよ」

 「それは色々あったのよ。理事長がどうしてもって言うし、まあ良いかなと思って」


 「ならなんで黙ってた」

 界樹の質問に、イフリは眉をピクリと動かす。

 「………ほら、その方が面白いじゃない?」

 イフリは作り笑いを浮かべながら返すが、界樹が納得する筈もない。


 「ほーう愛しの妹よ。兄に隠し事とはやるじゃないか」

 「いや、まあ隠し事をしてたのは悪かったわよ。でもほら、界樹でも私と同じ状況になったなら同じことをしたと思うわ……さらば」


 弁明しても無駄だと判断したイフリは、隙を突いてリビングへと降りる。正直そんなことをしても無駄なのだが、家の妹様はそういうことには頭が回らないらしい。


 「おーい。夕食はどうする?」

 「あっ! 買い物に行ってない」

 その日の夕食が昨日の余りだったことは言うまでもない。

 さて、今回もやって来ました作者コーナーです。今回はイフリと界樹の兄妹関係が明らかになりました。妹が担任教師なんて想像がつきませんが、家で悪戯しても成績を落とされそうです。

 次回は一体どうなるやら、ではお楽しみに(未だにブックマーク0)

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