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狐憑きの少女  作者: 鮎川剛
姑獲鳥
9/12

姑獲鳥 二

 桜井が倒れた後、電球の号令はどこか元気がなかった。


 当たり前だ。目の前でクラスメイトが倒れたんだから。呪いの噂にしても、実際に妖怪が暴れ回るのを見ただけに否定しきれないのが、むしろ電球を心配させているようだった。とにかく、本当に呪いとかなら、何か兆候みたいなのがあるはず。塚とかを調べる前に、実際に倒れた人たちを見てみた方がいいわね……




「それにしても、珍しいね。葛葉さんが、お見舞いに行きたいだなんて」


「そうですね。私も少し意外でした」


「……そう」


 私は今、電球とマッキー、つまりはいつもの二人と一緒に桜井が運び込まれた病院に向かっている。正直な話、私はこの町について、通学路とその近く以外はほとんど知らない。調査なら一人で出来るけど、電球たちの力を借りないと調査までこぎつけられないという訳だ。そういうことで、表向きはお見舞いという理由でこの二人に同行している。私が薄情な人間だと思われていたことは気にしないことにする。


「よし、着いたよ」


 しばらく、ていうか結構歩いて、目的の病院に着いた。ロビーは人でごった返している。電球の話によれば、今回のことが感染症ではないと分かって、今日の昼頃、ようやく患者と面会できるようになったそうだ。都合が良かった。最悪、面会謝絶なんてことになったらシャレにならない。それにしても、こんなに人が倒れてたなんて。思ってたより、被害が大きいみたいだ。


「すみません、通してください!」


 後ろから、また一人患者が運び込まれて来たらしい。私達の横を救急隊が通り抜けて行った。


「──! 葛葉さん、あの人……」


「そうね。私にも見えたわ」


 今運ばれて来た人──顔はよく見えなかったけど──の手の甲には、確かに赤い印が付いていた。色からしても、イタズラで描いたようには見えない。


「でも、心配してても仕方ないわ。早く行きましょう」


「そう……ですよね。それじゃ、受付で桜井さんの病室がどこか聞いて来ますね」


「了解。……ねえ、葛葉さん。人が倒れてるのは、本当に呪いのせいなの?」


「まだはっきりとは分からないけど、多分そうね」


「そうなんだ……」


「そんな顔しないの。呪いって言っても大したことないわ。犯人をぶっ飛ばして終わりよ。だから、安心して待ってなさい」


「葛葉さん、マッキーさん! 801号室ですって!」


「もう、病院で大声出さないの! ほら、行くわよ」




 エレベーターの中の人たちは、皆私たちと同じ八階で降りていった。倒れた人たちは、今のところ全員がこの階にいるらしい。


「すみません、クラス委員の町田です」


 電球が挨拶をしながら病室の扉を開けると、桜井はまだ意識がないようだった。ベッドの隣には桜井の母親らしい女の人が座っている。


「あら、隆二のお友達?」


「はい。どうしても心配で……」


 今度はマッキーが答える。私は……どうしよう? 今にしてみれば、私は転校してきたばかりでこの人とは面識がない。まさか馴れ馴れしくするわけにはいかないし……


「そう。わざわざありがとう。ごめんなさいね、何も用意できなくて」


「いえ、そんなこと……」


 結局、私は曖昧な返事でお茶を濁した。桜井の母親の顔には、気の毒なくらいに心配の色が出ていた。調査のためだけにここに来たことが、申し訳ないような気がした。けど、何もせずに帰る訳にはいかない。


「あの、すみません。隆二君が倒れる前、何か変わったことはありませんでしたか? どんな細かいことでもいいんですけど……」


「え、変わったこと? そんなこと言われても……」


 その時だった。ポケットの中でスマホが震え出した。取り出して確認する。神主さんからだ。病室で話す訳にもいかない。廊下に出て、電話に出た。


「もしもし、どうしたの?」


「すみません、今どちらにいらっしゃいますか?」


「え? 安葉病院だけど」


「失礼ですが、今から急いで来て下さりませんか。町の北側、児取山ことりやまの塚が破られているのが見つかりました。渡すものがございますので、私もイヅナと向かいます」


「了解。すぐ行く」


 電話を切り、病室の三人には急用とだけ伝えて病院を出た。結局今回のことが呪いと関係あるのかは少しも分からなかったけど、今は妖怪の対処が先だ。




 なんとかタクシーを捕まえて、児取山に着いた。今月のお小遣いが半分も無くなってしまった。経費で落ちるかな? いや、それはどうでもいい。えっと、神主さんとイヅナは……いた!


「ごめん、お待たせ!」


「遅いよ、美咲」


「お待ちしておりました」


「で、渡す物って?」


「はい。こちらになります」


 そう言って神主さんから差し出したのは、よく分からない素材で出来た円柱状の何か。


「えっと……何これ?」


「はい。簡単にご説明致しますと、霊魂を収納し、持ち運ぶための道具でございます。イヅナを収納すれば常に行動を共にでき、また倒した妖怪の魂を収納することで簡易型の塚のようにも使えます」


「ふーん……ありがと」


 うん。便利なのはなんとなく分かる。けど、デザインが超ダサい。正直、妖怪の目の前でもこれを取り出したくない。


「さて、そろそろ向かいましょう。暗くなっては我々だけでの対処が難しくなりますので」


 私の気持ちを知ってか知らずか、神主さんはつかつかと山の方へ歩き出した。




「はあ、はあ……ごめん、ちょっと休憩」


「また? これで四回目だよ」


「だって……」


 確かに、この間の八足山に比べれば低い山だし、道も歩きやすい。けど、今日は病院まで結構な距離を歩いた後だ。さすがに疲れが出てきた。


「もう時間がありません。お急ぎください」


「分かったわよ、今行くから────」


 今、何かが上を通り過ぎた。鳥だ。それも、小鳥がそのまま大きくなったような、明らかに違和感のある鳥。人間の子供と同じくらいのサイズ。突然変異ってことは絶対ない。あれは……


「美咲!」


「言われなくても! 狐憑き“飯綱イヅナ”!」


 イヅナを憑かせて、斜面を駆け上る。距離はだいたい二十メートル。狐火を投げて届くか? いや、届いても大したダメージにならなさそうだ。だったらこうだ。護符を一枚取り出し、点火する。護符の効果で火力を増した狐火を、細く長く、弓矢のように引き絞る。狙いを付けて……


「狐火“狐矢きつねや”!」


 青い炎の矢が一直線に飛んでいき、鳥の胴体を貫いた。鳥は物凄い悲鳴を上げながら、山頂の方へ落ちていく。


「決めるわよ、イヅナ!」


登山道から外れ、林の中に飛び込む。一蹴りするごとに、木々が後ろへ抜けていく。足場が悪い。気にしない。このまま一気に、山頂まで突っ切る! 一歩、二歩、三歩。枯れ枝が折れる音。落ち葉が擦れる音。かすかにうめき声が聞こえる。あともう少し。差し込む光が強くなる。うめき声は近い。木々の間に茶色い影が一つ。見えた! 弱っているみたいだ。近くの木に飛び移って、そのまま飛び上がる。護符をばら撒く。ちょうど九枚。狐火が燃え移り、私は青い炎に包まれた。


「終わりよ! 大狐火“九尾火送”!」


 落ちていく勢いを乗せて、炎を一気に叩きつけた。鳥は短く断末魔の叫びをあげると、前回の土蜘蛛みたいに魂だけになった。あれ? そういえば塚の中で倒してないけど、どうすれば……


「あっ!」


 そうだった。こういう時のためのあれか。


「えっと……こう?」


 懐からさっきの変な円柱を取り出して、辺りを弱々しく漂っている魂に向けてみると、円柱がほのかに光って魂を吸い込んだ。


「へえ……結構簡単ね」


「さあ、早くそいつを封印するよ。塚の場所は神主さんから聞いてるから、ついて来て」



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