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どうしても友達が欲しい

フルーツタルト

作者: なっこ


俺の幼馴染であり親友の弟でもある奴は、日常生活で常に擬態を使っている。



俺に言わせてみれば無口で無愛想で自分勝手なヘタレなのだが、それを完璧に隠す力量だけは褒めてやってもいいレベルだ。俺の妹は、そんな奴に尊敬の目を向けている。頭はいいのにおれの妹は残念ながら根元が阿呆なのだ。そんな純粋な目で奴を見るな、目が腐ったらどうする、まったく。


そしてそんなお馬鹿な妹は、そのややこしい幼馴染に惚れられていることに全く気づいていないのだから、これまた困ったものである。妹が何か言うたびに『冷めた目で見られた』と言っているが、あの目のどこを見て冷めて感じるのか。まったく困った阿呆だ、俺の可愛い妹は。間違いなくギラギラとしたケダモノの熱視線だというのに。それもこれもまあ、真綿で包むように俺と幼馴染とその兄貴の3人がかりで籠の中で大事に育ててきたからだから、仕方のないことかもしれないがな。




俺たちの妹は、残念なことにとても可愛い。可愛くて、小学校の頃はよくしつこいハエがウロウロしていた。もちろん、虫退治は怠りはしなかったが。


不幸中の幸いとでも言うべきか、妹は成長するにつれてだんだんと視力が落ちてきた。高校生になった今では、メガネ無しでは日常生活に支障をきたすほどに。そしてそれほどの視力矯正をするとなれば、当然メガネの奥の瞳は実際よりかなり小さく見える。いわば瓶底メガネ予備軍である。これで当面の害虫は花を通り過ぎる。





俺たち3人は、妹の高校入学時、幾度となく会議を重ねた。幸い、妹は自分に大変無頓着であり、志望校の誘導には苦労はしなかった。幼少期から明らかに妹をロックオンしていた幼馴染という名の最強の騎士の元に送り込むことは造作もないことだった。奴の嗅覚は本物だ。どんな羽虫も見逃さない。まったく役に立つ番犬である。


しかし、その高校生活は大いなる問題だ。高校生ともなれば、さすがに妹の魅力に気づく害虫はきっと出てくる。


中学時代、周りはほとんどまだ見る目のない猿ばかりだったので、地味に、おとなしく目立たないを徹底させておけば良かった。だが高校はそうはいかないだろう。地味を追求させてしまうと、逆に浮いて、そして目立ってしまう。目立ったところを比較的目のいい害虫に攫われでもしたら、これまでの努力は水の泡だ。究極なまでの“普通”を徹底させる必要があった。


しかしこれにはまだ大きな障害があった。なぜなら俺たちが大事にしすぎたせいで、彼女は全くもって“普通”ではなくなっていたからである。そしてさらに、中学生で徹底的にまで地味にさせたせいで、色んなベクトルが狂っていたのである。これは大きな誤算だった。しかし擬態の天才である幼馴染と、なぜかいつの間にか人心掌握に長けてしまっている幼馴染の兄である俺の親友により、妹は見事、いっそ華麗なまでに“普通”になった。








さて、最近になって妹は『友達が欲しい』と言い出した。自分に無頓着な妹は、それよりさらに他人に興味がない。時折、気まぐれに興味を持つこともまあ無くはないが、あまりにも稀なことであり、期間が短いので俺たちの中では無かったことにされている。家族(この場合、幼馴染の家族もこの内に含まれるのだが)かそうでないか。妹の中で、人類はこの二つに分類されるのだ。……極端すぎる。あまりにも極端だ。


そしてそんな妹の最近の気まぐれな興味は、友人というものにあるらしい。彼女は友達が欲しいと言っているが、俺たちにはわかる。本気じゃない。友達がどういうものか、自分が持たないものに興味を示しているだけだ。この手のことは今までにも何度かあった。これは、また別の興味を与えておけばいずれ薄れるタイプのものだ。一過性のもの、とでも言うべきか。



とりあえず友達作りのためにメガネを外そうとしていたので、それを阻止するために最近妹が好きな人気のケーキ屋さんのイチゴショートを与えておいた。効果覿面だった。……覿面すぎて、少し心配になるほどに。











それはさておき。俺の友人関係は少し変わっていて、まあそれは最早腐れ縁どころか、文字どおり家族と言ってもいいレベルに幼少期から大学までを共に生きている妹の幼馴染の兄貴、つまり俺にとっての幼馴染であり親友である奴も同じなのだが。


高校のとき、少々やんちゃをしていたらある男にチームに誘われた。チームとは言っても愚連隊のようなしっかりしたものではなく、本当に気心のおける連中と連んでたまにバイクでも流しに行く、そんな感じの緩いものだった。


ただその時期、本当に運の悪いことにそういう輩が少なく無かったこと、そういう連中に限って血の気が多かったこと、そして俺たちにちょっと喧嘩のセンスがあったこと、殴り合いに負けられない理由が出来てしまったこと。その全ての要因がちょっとずつ色々噛み合って、俺たちはただのバイク好きなチームから、バイク好きでちょっとやんちゃ、なチームになった。最後の要因以外は全て、本当に運が悪かっただけだ。最後の一つは、殴り合いに負けられない理由、というより、正しくは怪我をすることができなくなってしまったのだ。



一度、俺と親友は2人で10人ほどに囲まれた。その頃はまだ、俺たちはただバイク好きな仲間とワイワイやってるのが楽しかったから、喧嘩も買う気にはならなかった。ただ10人というのは抵抗するのも少々面倒だな、と思い、2人でタコ殴りにされた。俺も親友も、フィジカルは割と頑丈に出来てる自信はあったので、特に目立った応酬もせず、黙って殴られたのだ。だがそのあと家に帰ったら、ボコボコの俺たちを見て妹がキレて、……泣いた。昔からなにをしてもほとんど表情を変えることのなかった妹が、ポロポロと大粒の涙を零して、そしてそれを拭うこともせずに俺たちの手当てをしていたのだ。妹の噛み締めた唇からは、真っ赤な血が出ていた。『……血が出てるぞ』と言って指先で唇を拭ってやれば、俺と親友を涙目で睨みつけたのだ。あれには正直、………勃った。その後ろで人を殺しそうな目をして殺気を放っている男には、俺の邪な感情と生理現象はばっちりバレたらしいが。実の妹ではあるが、俺はあいつより優先できる女を見つけられる気がしないとそのとき思った。隣で唾を飲み込んでいた親友も同じく。



そこまでは良かったのだが、問題はそのあと。妹は怪我が治るまで俺たちと会ってくれなくなった。同じ家に住んでいて会わないなど不可能、俺は始め、呑気にもそう思っていたが、妹は本気だった。文字通り、影も形も消えてしまったのだ。そうして俺の顔の腫れが完璧に引くまでの3ヶ月、俺たちは妹を一目見ることも叶わなかった。家から、否、街から完璧に消えていたのだ。お袋たちに聞いても、ニヤニヤとさあ?の一点張り。会えない、無事を確認することができない、姿を見ることも叶わない。これは俺たちに結構なダメージを食らわせた。そしてその3ヶ月で、俺も親友も気づいたのだ。俺たちの中で妹は、たぶん今までもこれからも、俺たちにとって生涯たった1人の女だと。俺に関しては実の妹であることも承知の上だが、それを含めても俺はこいつが全てだ。3ヶ月ぶりに妹を目にしたとき、そう本能が訴えた。まるで飢えた獣が喉の渇きを潤わすかのように、すっと染み込んだ事実であった。




会えない3ヶ月は、唐突に終わりを迎えた。ある日、学校を終えて家に帰ると、妹は居間でテレビを見ていた。そして板チョコをそのままかじりながら、振り返りもせず『……おかえり』と一言言ったのだ。俺はカバンを放り投げ、妹に近寄る。妹はテレビの前のソファで、部屋着のまま寝転がっていた。今日の部屋着は幼馴染セレクトのモコモコショーパンとTシャツ。その姿を見たら、力が抜けた。妹の足元にへたり込むと、彼女はちらりと俺を見る。それが許されてるように感じて、彼女の白い脚を手に取り、足の甲に口づけをした。すると止まらなくて、だんだん上に目掛けて唇をその綺麗な足に滑らせる。妹はなにも言わず、黙って俺を見つめていた。ご褒美かよチクショウ。こいつをめちゃめちゃにしてえ。そう思いつつ、太ももまでキスしたとき、部屋の扉が勢いよく開いた。奴も限界だったようだ。大きく肩で息をしながら飛び込んできた俺の親友は、妹の脚にキスする俺には見向きもせずに、妹に切なげな目線をやる。妹はじっと奴を見て、そっと右手を差し出した。……チョコを持ってなかった方の手だ。どうやら奴も許されたらしい。犬のように彼女の頭側に飛び込んで、その手の甲にキスを落とす。妹の掌を自分の頰に持って行き、じっと彼女を見つめている。が、妹の目はもうテレビに釘付けだ。しばらくして、もう一つ玄関を入った足音が聞こえてきて、妹はふと身体を起こした。まだ開かないリビングのドアをじっと見て、ポツリと呟いた。『……怪我人とは、会わない』その瞬間、俺と親友は目を見合わせて、もう二度と怪我をしないことを誓ったのだ。







後から聞けば、3ヶ月間、仕事と趣味で海外を飛び回る叔父に付いて行ってたらしい。さすがに国を出られては、俺たちも探す手段も見つける手立ても無かったわけだ。幼馴染にだけは言っていたらしい。あの日、久々に帰ってきたと聞いた幼馴染が最近近所に出来たケーキ屋のフルーツタルトを持ってきたのだが、妹はその鋭い嗅覚で幼馴染が何かを持っていることを察知してソファから起き上がったのだった。



あれ……知らない間に兄がシスコン拗らせて……溺愛している……なぜだ…。

そして禁断なことになってしまっている…

今すぐ暴走を止めろお前ら…

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