大きな商店じゃな!
今日は土曜日。
いつもなら遠出や友達と遊ぶ以外では家でゴロゴロしている俺だが、今日は近くのデパートに来ていた。
さて、なぜデパートにいるか…それは朝までさかのぼる。
それは朝の台所での出来事である。
俺がご飯を食べていると田が突然言ってきたのだ。
「のお優心よ、妾はこの時代のこの街について少し知りたいぞ。」
「んー…と言われてもなあ。」
俺は心の奥底で家にいたいと思っていた。
そもそも、考えてみれば地元は娯楽施設もロクに無いうえに、土日の商店街の8割りは定休日となっている。
「そうだ優心、せっかく学校休みなんだから父さんが近くのデパートに連れて行ってあげるよ。」
俺が考えていると父さんが立ち上がって言ってきた。
本日は都合よく父さんも仕事が休みなのだった。
「でぱーと…?」
田は首をかしげた。
「デパートって、食べ物や衣服とかいろいろ売っている大きなお店だよ。」
簡単に説明したが、田にはあまりピンときてはいない様子だった。
「まあ、行ってみれば分かるよ!」
父さんがフォローするように言ってくれた。
「うむ、そうじゃな。」
「そうと決まれば、行く準備しないとな。」
そうして俺はデパートに行くことになったのだ。
「思ったより広い商店じゃの。」
田は店に入るなりテンションは上げ上げだった。
「ここはまだ小さい方だよ。」
俺は田にそう言ってたやった。
「そうなのか?」
「ああ。ここは2階建てになっているが他のところはこの広さで4、5階建てだったりする場所もあるんだ。」
「ほおお!行ってみたいのお!」
俺が説明すると田のテンションは更に上がった。
「あとはここのデパートにもあるけど別館っといった場所もあるんだよ。」
父さんが付け加えるように言った。
「別館…?」
「そう。ここの別館にはゲームセンターと映画館があるんだよ。」
「げーむせんたー? えーが?」
田はまた首をかしげた。
「ははは、ゲームセンターなら今日連れて行ってあげられるけど、映画はまた今度だな。」
父さんがそう言うと田は期待の眼差しを向けながら頷いた。
「それにしても…人があんまりいないな。」
俺はそう言いながら辺りを見渡した。
「はは、昔は良かったけど今は何かイベントや大きなセールがないと土日でもここのお店はガラガラだね。」
父さんは苦笑いしながら言った。
俺の高校のある五所川原市のデパートは土日となれば人はかなりいるが、俺の住んでいるつがる市のこのデパートはいつも静かだ。
店と場所が違うだけでこう変わるとは…田舎だからなのだろうか。
「田は何が見たい?」
「うむう…」
俺が質問すると田は深く考え始めた。
聞いてなんだが、きっと何があるか分からないだろう。
「なんか…いや…こう? …むう。優心は何か買いたいものはないのか?」
結局何も思いつかなかったみたいだった。
「俺? んー、じゃあ、漫画本でも見てみるか。」
俺自身は特に用事がないので、速攻で思い付いた本屋へ行くことにした。
「父さんは少しパソコン関連の雑誌を見ているから、何かあったらそこに来るといいよ。」
本屋に着くと父さんはそう言って雑誌のある場所に歩いて行った。
「おお! ここにはいろいろな読み物が売っておるのじゃな!」
「ああ。そういえば田は昔、本とか呼んだことはあるのか?」
「妾は…字を読めるようになるために勉学の書物を読んでおったぞ。」
田の意外な返答に驚いた。
彼女は見た目によらず意外と勉強熱心なのかもしれない。
「ほほう、意外だな。じゃあ漫画本くらいなら読めるんじゃないか?」
俺はそう言いながら田を漫画本の売っている場所まで案内した。
「これが漫画本というものなのか。中身はどうなっておるんじゃ?」
「中は簡単に言うと、人や物とかの絵とその人の台詞や物の効果音とかが描いてあると言えばいいかな。」
「ふむ…分からないぞ。」
俺は何て説明したらいいかと考えながら並んである本を見ていると、試し読み用の本がヒモで吊してあるのを見つけた。
「お、試し読み用の漫画本あるじゃん。これを見てみ。」
俺はそう言ってその本を指差した。
田は恐る恐るその漫画本を手にとって中身をゆっくりと開いた。
それからしばらくして田はその本から手をはなした。
「どう…だった?」
「うむ、面白いと言えば面白かったが、この時代の事を理解していないとあまり楽しめないかもしれぬ…。」
まあ、確かに。
内容は現代人が想像する架空の世界が大半だからな。
「そっか。まあ、俺の部屋にも色々あるから暇だったら勝手に読んでもいいからな。」
そう言うと田は嬉しそうに頷いた。
それから俺は持っている漫画本の新刊を確認したりして、本屋を出ることにした。
「次、どこ行く?
」
俺は父さんに聞いた。
「そうだな…特に思いつかないからゲーセンにでもいこうか。」
父さんはそう言って別館に向かい歩き始めた。
「のお、“げーせん”とはなんじゃ?」
田が俺の服をクイクイ引っ張って質問してきた。
「さっき父さんが言ってた別館にあるゲームセンターの略称だよ。」
「おお! という事はそのげーむせんたーとやらに行くのじゃな!」
ゲームセンターに到着すると父さんは俺に千円札を渡してきた。
「お金なら持ってるよ?」
「これは田ちゃんの分だよ。優心がちゃんと管理するんだぞ。」
「分かった。」
俺はそう返事をして財布にその千円札を閉まった。
「父さんは適当にクレーンゲームをやったりしてるから、店を出るときには声をかけてね。あと、田ちゃんとは、はぐれないようにな。」
「了解。」
そうして田と一緒にゲームセンターの中へと入った。
「の、のお優心、ここは何なんじゃ?」
田は俺の服をつかんではぐれないように歩いていた。
「ここはな、少しお金のかかる娯楽施設ってところかな。」
「例えば何があるのじゃ?」
「うーん、入り口付近から並んでいるこれはクレーンゲーム。規定の硬貨を必要数投入することによって、クレーンをこのボタンで右または左方向と奥へ向かって一回ずつ動かすことができる。クレーンは中にある景品を目掛けて動かすんだ。さっき言った操作を終えるとクレーンは勝手に下に降りてきて景品をつかもうとする。あとはその人の技量で景品を持ち上げたり引きずったりしてクレーンの初期位置の下にある開口部まで運ぶんだ。」
「なんだか難しそうじゃの。」
田はそう言いながらクレーンゲームに近寄った。
「お? 優心よ、このくれーんげーむはさっき説明していたのとはなんか違うぞ。」
田が見ていたのはジョイスティックタイプのクレーンゲームだった。
「それはジョイスティックっと言ってそれを倒した方向にクレーンは動くんだよ。さっき説明したのとの違いは、ほとんどが制限時間タイプで時間内なら何回でもクレーンは動かせるってとこかな。」
俺は腕を組みながら言った。
「制限時間?」
「そう。さっきのは各指定の方向に一回ずつしか動かせないけど、これは制限時間内ならずっと動かすことができるんだ。」
「それではこっちの方がいいではないか?」
「そうでもないぞ。」
俺は苦笑いしながら言った。
「どうしてじゃ?」
「さっきのボタン操作タイプのクレーンゲームは降りてくるときしっかりとした柱があって穏やかなんだが、このジョイスティックタイプはひもみたいなので吊されてるだけで、降りてくるときも上がるときも結構荒いんだよ。」
「ふむう、どちらにも短所があるという訳じゃな。」
田はそう言って辺りのクレーンゲームを見て歩き回った。
「のお、あれはなんじゃ?」
すると今度はコンビニキャッチャーを指さした。
「ああ、あれはコンビニキャッチャー…だったかな。あれの正式名は俺もよくわからないんだ。」
正直、あのゲームをあまり遊ばない為よく分からなかった。
「どうやって遊ぶのだ?」
「まあ、見てみろ。回転している台とその上にスライドしている台があるだろ?」
「すらいど?」
「ほら前に出たり後ろに下がったりしているやつだよ。」
「うむ。」
俺は分かりやすいように百円を入れて説明しながらやることにした。
「まずこの百円玉を入れる。そうすると、景品を手に入れるための開口部が開く。そんであのアームも動かせるようになるんだ。そしたら1のボタンを押してあのアームで回転している台の景品をすくうんだ。」
そう言いながらボタンを押すと、思っていたより多くの景品がすくうことができたのでちょっと嬉しくなった。
「そんで2のボタンであの出たり下がったりしている台のもとへ落とす。あとはその出たり下がったりしている台が押してくれて上手くやれば景品を獲得って感じかな。」
すくうのはよかったが、景品は台からすべて横に落ちしまった。
「…全部違う所に落ちてしまったの。むう、妾には向いて無いかもしれんの。」
それから田は奥に進んでいったので、俺はその後を追って歩いた。
「優心よ、あれはなんじゃ!」
すると今度は音ゲーのある場所についた。
「あれはリズムゲームって言えばいいのかな…。」
「りずむ?」
勿論、田にはリズムなど言う単語は通じないとは思っていた。
「このゲームは…何というか、音に合わせて出てくる絵を規定の場所で規定のアクションをして消していくって言えばいいのかな…?」
「まったくわからんぞ。」
「ですよね…。」
分かりきった返答にガクッとなった。
俺は人に物事を教えるのが下手なのである。
「ん? 優心よ、あ奴、どこかで見たことがあるぞ。」
田はそう言いながら音ゲーをプレイしている人を指さした。
「…え?」
その人は“遊び人”といかにも怪しいロゴの入った服を着て、自前のヘッドホンをつけてノリノリでプレイしていた。
よくよく顔を見ると、それは正しく俺の兄さんだった…。
「ああ、お前はコンビニで会ったきりだっけか。」
「ふぁ…そうか、こんびにで商人をしていた奴か!」
田は一人で納得して頷いていた。
「ついでに紹介するが、あの人は俺の実の兄で同じ家に住んでるから。」
「そうなのかっ。」
「仕事上、時間帯がバラバラだからあまり家で会うこと少ないしな。」
俺達が話をしていると、兄さんの方が気づいてゲームが終わったのか俺のもとに近づいてきた。
「お前らこんな所でなにしてる?」
「えーと、ここのデパートの案内かな。」
「そうなのか。」
すると兄さんはいきなり財布を取り出して俺に二千円を渡してきた。
「これは?」
「お前と神様の分のお小遣い。」
「お、サンキュ。」
俺はその二千円をサッと財布に閉まった。
「のお、あの並んどる小部屋はなんじや?」
すると田は俺の服を引っ張りながらプリクラを指さした。
「ああ、あれはプ──」
「あれは魂を吸い取るための部屋だよ。」
俺がプリクラと言おうとした瞬間、兄さんが先に変な事を教えてしまった。
「ほ、ほほお…、なんか怖いの。」
「嘘だよっ。あれはプリクラって言って写真を撮るための小部屋。あれで写真を撮ると普通のカメラより可愛いかったりカッコよく撮れて、撮った写真はシールっていう他のモノに貼ったりできる紙に印刷されて持ち帰る事ができるんだよ。」
俺は直ぐに修正するように言った。
「なんだ、魂は取られないのか。」
田はほっとしたような顔をした。
「…ところで写真とはなんじゃ?」
「ん、お前って写真しらないのか。」
「知らんの。」
「ならせっかくだから優心と一緒に撮ってくればいいんじゃないか?」
兄さんが提案してきた。
「…実は俺、プリクラって撮った事ないんだよな。」
俺は斜め下を見ながら言った。
「…そうか、なら俺がやり方教えてやるよ。」
すると兄は一番近くにあったプリクラのもとへ行き、慣れたような手つきでプリクラの外にあるモニターをタッチして色々設定を始めた。
「すげ、兄さんって学生時代に彼女とかいたの?」
俺がそう質問した瞬間、兄さんは恐ろしいような暗い表情をした。どうやら禁句だったのかもしれない。
「あ…なんでもないや。」
「よし、設定終わったぞ。中に入れ。」
兄さんはスルーして淡々と話を進めた。
「お、おう。田も中に入れよ。」
「うむ。」
そうして俺と田はプリクラの小部屋の中へと入った。
「うわ、中ってこうなってるのか…。」
俺は親近感に浸って周りを見渡した。
「ほおら、撮影すっぞ~。」
兄さんは中の方の設定も勝手にやってくれた
「お、おう。そうだ田、あの画面の中に自分の顔が入るようにな。あと、なるべくいい表情で。」
兄さんが画面をタッチすると画面にカウント3秒の表記が出た。
「う、うむ。」
そしてカウントが終わる頃に田は今まで見せたことの無いような可愛い笑顔を見せた。
その意外な可愛さに俺の“萌え”を司るキューピットが降臨してきて、胸をアーチェリーで…いやスナイパーライフルで狙撃されたようになった。
その時初めて今日は来て良かったと心の奥底で思った。
「お、いい表情だね。」
兄さんのその一言で俺は我に戻った。
それから何枚か写真を撮影すると外へと出た。
「ほれ、記念にやるよ。」
兄さんはそう言って写真を俺に渡してまた音ゲーのもとへと歩いていった。
「どうも。」
俺は受け取ってすぐに、さっきの田の笑顔をもう一度見たいと思い写真をまじまじと眺めていた。
「のお優心、妾はお腹が空いてきたぞ…。」
そう言われて腕時計を見ると時刻は正午近くを示していた。
「もうお昼時なのか。よし、父さんに言ってご飯食いに行くか。」
そしてクレーンゲームをやっているとだろう父さんを探して、田とゲームセンターの中をうろついた。
「の、のお優心!」
気がつけば、田は何かのクレーンゲームに張り付いていているではないか。
「どうした?」
「これ、欲しいぞ!」
そのクレーンゲームの中を覗くと水の入った小さなビンが5つほど並んで置いてあった。
「なんだこれ…?」
「魚じゃ!」
そう言われてポットの中を覗くと一匹の小さくて綺麗な魚が泳いでいた。
どうやらこれは鑑賞用の魚と飼育用の水槽がセットで景品になっているクレーンゲームのようだ。
「今のクレーンゲームって魚まで景品になってるのか。ってかお前、食う気なのか?」
俺がそう言うと田はムスッとした顔をした。
「いくら妾のお腹が空いてるからといって、この魚を食べたいとは言ってないぞ。」
「ははは、冗談だよ。」
「それで…取ってはくれないか?」
田は眩しい位の期待の眼差しを向けてきた。
「…こういうのってなかなか取れないし、取れても中の魚は直ぐに死んじゃうと思うよ。」
すると田はしょんぼりとなった。
「ま、まあ、やってみないことには何も言えないけどな!」
相変わらず俺はそう言う反応には弱い。
仕方がなく俺は百円を入れてクレーンを動かしてみた。これは直接景品を狙うのではなく、景品を交換するための代わりの物を落とすタイプのモノのようだ。
しかし、驚いた事にクレーンは見事に物を掴むとスムーズに景品獲得の穴まで持ってきた。
「ま…まじか。」
俺は自分で驚きながらもその物と鑑賞魚を店員に交換してもらい、田に渡した。
まさか、苦戦もせずに一発で取れるとは。こんな日もあるか。
「ありがとう!」
田はもの凄く嬉しそうにしていた。
「お、優心もなかなかいい腕してるねえ。」
ふと気がつくと探していた父さんが後ろにいた。
「あ、父さん…ってなんか一杯取ったね。」
父さんは両手に大きな袋を持っていた。
「ははは、久しぶりに来たらなんかテンションが上がっちゃってね。」
「そうだ父さん、そろそろお昼にしない?」
俺がそう言うと父さんはふと腕時計を見た。
「おお、もうこんな時間なのか。せっかくだし、近くにあるじょっぱり食堂にでも行こうか。」
「お、いいね。」
それから俺達はデパートを後にすると、車で直ぐのところにあるじょっぱり食堂へと向かった。
じょっぱり食堂とは、俺の住んでいるつがる市で収穫された野菜や魚などの直売所となっている施設に隣接している食堂だ。
食堂の中に入ると、ゲームセンターよりも人がいるように感じられた。
「さて、好きなものを注文していいぞ。」
父さんはそう言ってメニュー表を俺に渡してきた。
「じゃあ、エビフライ定食で。」
俺はそう言って田にメニュー表を渡した。すると、田はしばらくにらめっこしていた。
「妾はこのネギ味噌ラーメンとやらにするぞ。」
「父さんはしようが焼き定食にでもしようかな。よし、注文するぞ。」
そして父さんが呼び出しボタンを押すと、店員は直ぐに駆けつけてきた。
「ご注文をお伺いします。」
「えーと、エビフライ定食とネギ味噌ラーメンとしようが焼き定食をお願いします。」
父さんがオーダーを淡々と言うと店員はものすごい速度でそれをメモ取った。俺と田はそのペンの動きを黙って見ていた。
「かしこまりました。エビフライ定食とネギ味噌ラーメンとしようが焼き定食ですね、少々お待ちください。」
そして店員は厨房へ戻っていった。
「どんなのが来るか楽しみだぞ。」
田はそう言いながらずっと厨房を見つめた。
10分位もすると最初に田のラーメンが運ばれてきた。
「お待ちどう様でした。こちらネギ味噌ラーメンになります。」
店員はそう言ってテーブルにラーメンを置くと、会釈をして去っていった。
「おお、これがネギ味噌ラーメンか!」
田は夢中になってラーメンをすすり始めた。
「巫女装束にこぼすなよ…?」
「言われなくても注意しておる。」
そう話しているうちに今度は、父さんのしようが焼き定食が届いた。
「優心のはまだみたいじゃの。」
「きっと今頃、海に行ってエビでも取りに行ってるんだろう。」
「そうなのか!?」
俺が冗談で言うと、田は真面目に受け止めている様子だった。
「冗談だよ。」
それから5分位あとに俺のエビフライ定食も届いた。
田に負けず空腹だった俺はそれにがっついて食べた。
「ふう…食った食った。」
定食はあっという間に完食したしまった。
「食べたらこの後はどうするんじゃ?」
「優心はどこか行きたい所とかあるかい?」
流れで俺に質問が回って来てしまった。
「俺は…特にないかな。」
「そっか。じゃあ、家に戻ろうか。」
そうして会計を済ますと、食堂を出て家へと戻った。
「ふう、午前中は楽しかったぞ。」
家に到着して部屋へと戻ると田はそう言って、俺の部屋にある机の隅にあの魚を置いた。
「この魚はどう飼育すればよいものか…。」
田は黙って魚とにらめっこを始めた。
「そう言えば3年位前にコッピーっていう魚を飼育してた事があって、その時の餌とか余ってるがそれでいいならあげるぞ。」
俺はそう言って押し入れからコッピーの飼育キットを出して、その中から餌を取り出した。
「おお!助かるぞ。」
そう言って田はその餌の袋を開けた。
「いいか、餌の袋の中には餌やりスプーンっていう餌をすくうための小さな道具が入ってるんだが、餌をやるときは一回につきその道具でひとすくい分だけだからな。」
俺は注意するように言った。
「わかったぞ。」
そして田はさっそく餌を魚に与え始めた。
「優心よ、今日はいろいろと感謝するぞ。」
「ん、気にすんな。」
俺はそう言ってゲーム機を手にとって電源を入れた。
「これからも、違うところを案内してくれると嬉しいぞ…。」
田はそう言ってプリクラの時みたいにニパっと笑った。
俺はそれ対して少しだけ目をそらした。
「お、おう。また今度な。」
そうして今日の街案内(?)は、トラブルもなく無事に終了したのであった。