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今日1日だけ泊めてくれないか?

 時刻は18時を上回ったところ。

 俺達は学校の生徒玄関にいた。


「はあ、やっと帰れる…」


 俺の名前は工藤優心くどうゆうしん

 現在17歳。運動は全然得意じゃないし、勉強も平均的だしと特に目立った特技は持ち合わせていない。


 俺の住んでいるところは青森県の津軽弁で有名なつがる市。一言で言って田舎だ。

 そんな俺は、お隣の五所川原市にある私立の商業高校に通っている現在高校二年生だ。本当は県立の工業高校に行きたかったのだが、学力足りずで今にあたる…。

 ついでにこの辺りの地域では全てではないが私立の高校に行く者より、県立の高校に行く者の方が頭脳が優れているのだ。


「いや~、だるがったなあ」


 このへらへら笑いながら喋っているのは俺の友達の笠井拓斗かさいたくとだ。

 出身は同じ中学校であったが、その時は話をすることなど特になく関わりが少なかったが、高校1年生の時に同じクラスになり、仲良くなった。

 彼の見た目は弱そうだが、メンタル面では誰よりも屈強で将来は陸上自衛隊を目指している。

 ただ、津軽弁が酷いと言う一面もある…。


「なんか明日が土曜日な気がするわ…。」


 俺はボソボソと言った。


「わがるわあ~。でも明日は金曜日。」


 拓斗たくとは気だるそうに言った。


「あ、でも部活はないぞ!」


 しかし、すぐに修正するように言ってきた。

 俺達は同じ部活で「簿記部」と言うのに所属している。名前からしてまさに商業高校って感じだ。

 簿記部は名前の通り簿記検定の勉強をする部活だが、簿記に限らず他の検定の勉強もする。ついでに最終目標は日商簿記検定の2級を合格する事らしい。


「まあ、ないだけましだよな。」


 俺はそう言うと生徒玄関から外にでて空を見上げた。今は4月の中旬なので、この地域の外は既に薄暗い。


「はあ、まだ肌寒いな…」


 外は冷たい風が吹いていた。


「あたりめえだろ。おめえチャリなんだはんで(なんだから)、風邪には気をつけろよ?」


 拓斗たくとは喋りながら小走りで俺について来た。


「バスとか面倒くさいんだよなあ。」


 俺はそんな文句を言いながら自転車小屋に向かった。

 正直バスや電車を乗るのが面倒なので、家から学校まで約10キロほどあるが自転車で通っていた。


「そんなこと言ってれば成長しねえぞ~。…てか自転車のほうが面倒くね?」


 拓斗たくとは自転車かバスで通っている。どちらでくるかは気分で決めているそうだ。ついでに今日はバスで来ている。


「そんなこと分かってるけどさ…」


 そうも話しているうちに自分の自転車が置いている場所にたどり着いた。自転車の前に立つとポケットに入れている自転車の鍵を取り出して、鍵を解除した。


「んじゃ、帰るか。」


 それから俺と拓斗は、たわいもない日常会話をしながら拓斗が乗るバスがあるというバスターミナルを目指して自転車を引きながら歩いて向かった。



 話をしながら歩いているとバスターミナルまでの距離もあっという間に感じられる。

 バスターミナルに着くと俺は直ぐに自転車に股がった。


「気をつけて帰れよ。」


 俺は拓斗にそう言って、ゆっくりと自転車をこぎ始めた。


「おめえの方が気をつけろよお!」


 後ろから拓斗のそう言う声が聞こえたので、「了解」という合図にグッドのジェスチャーをした。



 バスターミナルから少し進んだ先にある新しくできた大きな病院の前を通り過ぎ、岩木川にかかっている“いぬい橋”にたどり着いた。

 ちなみに岩木川とは青森県西部を流れる一級河川だ。


 辺りは日が完全に沈んでしまったのかほとんど真っ暗闇だった。というのも、ここが田舎だ言うというのが理由なのか、街灯という概念がほとんどないのだ。


 橋を渡り終えると小さな住宅街を抜けて農道に出た。

 農道は街灯が一切存在しないが、一本道で人が来れば直ぐに対処できるし、道の付近には大きなデパートなどがあって、そこの駐車場の明かりがここまで届いてくるため、言うほど真っ暗という訳ではない。

 一本道とという事で、俺は少し速めの速度で自転車をこいだ。

 そして、農道を抜けるとそこから少し進んだ所にある住宅街に向かった。そこの住宅街の道路を進んだ先にある消防署の手前に俺の家はある。俺はその道路をビューっとひたすら勢いにのせて進んだ。…その時である。


「…えっぐ、えっぐ」


 俺の家の近くにある道路の隅にある地蔵から女の子の泣く声がした。

 俺はそれに驚いて自転車を急ブレーキして止まり、乗ったまま声のする方を見た。しかし辺りが薄暗くハッキリ見えなかったため、いつも持ち歩いているLEDのペンライトで声のする方を照らした。


 すると、そこにいたのは巫女装束を来た背丈140センチほどの女の子がしゃがんで泣いていた。


「…幽霊!?」


 一瞬、恐怖が背筋を走った。

 しかし、俺には霊感力という概念がほぼ0パーセントと言ってもいいくらい存在しないことを思い出した。素通りしようとも思ったが、このまま放っておくのも気が引けるため、一応声をかけてみることにした。


「君、大丈夫…?」


 俺が話しかけると女の子はゆっくりとこっちを向いた。


「寒い…お腹空いた…。」


 俺はさっと財布を出して中を確認した。中には今朝、母さんから貰った野口さんが一人だけ顔を見せた。

 それを確認すると、すかさず制服のブレザーの上着を形にかけるようにして彼女に着せた。


「近くにコンビニあるから、そこで何か食べる物買ってあげるよ。」


 心の中では素晴らしい紳士な行動をとったと変に浮かれている。


「こんびに…?…よくわからないがそこで食べ物が頂けるのであればお願いするぞ。」


 そうして俺は少女と消防署の目の前にあるコンビニに向かった。


 「ここが“こんびに”か!」


 彼女はまるで初めて入ったかのような反応を見せた。

 明るいところで改まって彼女を見ると、どこから来たのかは分からないが、あちこち小さなすり傷があり、巫女装束は土などで汚れていた。


「お主!何でもいいのか!?」


 女の子は期待の眼差しを向けてきた。


「うーん、500円までならおごるぞ。」


「ごひゃく…えん…?」


 彼女は「円」の意味を知らない様子だ。


「まあ、いいや。食べたいの適当に持ってきてくれ。」


「助かるぞ。」


 彼女はそう返事すると真っ直ぐにおにぎりのもとへ向かった。

 そしてそこにあるおにぎりを特に選ばず3個手にして持ってきた。


「これを食べていいか?」


「ああ、会計してくるからそこで待ってろよ。」


「わかった!」


 俺は彼女からおにぎりを受けとりすぐにレジへ向かった。


「いらっしゃいませ…ん?優心ゆうしんじゃないか。」


「あ、兄さん」


 会計してくれてるこの人は俺の兄さんの工藤陽雅くどうようまだ。家から徒歩3分弱というこのコンビニで働いている。


「お前、そこの女の子誰だ…?まさか、小さい子をナンパしたのか?…そうなのか。まあ、ロリコンなのは知っているが、とうとうやらかしたか。」


「あの、兄さん。勘違いはしないでくれよな…」


「ははは、冗談だよ。」


 そうして無事に会計を済ませることができた。


「すまん、またせた。外で食べようか」


 俺はそう言ってコンビニの外にでて、そこに置いてある椅子に座った。


「ほら、おにぎり。」


「ありがとうなのじゃ!」


 俺は黙って彼女は何で巫女装束なのかを考えた。

 黙って見ているとおにぎりを開けるのに苦戦していたようなので、何も言わずに彼女からおにぎりをとりあげ、開封してから渡した。


「ほお、そうやって開けるのか。感謝するぞ!…ところでお主は何という名じゃ?」


 言われてみればお互い自己紹介していなかった。


「俺は工藤優心くどうゆうしんだ。君は?」


「妾は…大まかに言うのならば豊作の神じゃ。」


「え…神…?」


 正直、その発言に驚いた。


「ほ、本当じゃぞ…!」


「あ、ああ。別に疑ってはないよ。」


 彼女は泣きそうな顔をしたのでとりあえず慰めに言ってしまった。


「…別にいいのじゃ。妾は豊作に関してはの力はあるが、それ以外の力は何にもないからの…。今すぐに証明できるような力などはもっておらん。」 


 彼女は暗い顔をして下を向いた。


「…そんなこと言うなよ」


 さらに慰めるように言った。


「じゃあさ、神様はなんであんな所にいて泣いていたんだ?」


 俺は仕切り直すように聞いた。しかし、その質問をすると彼女はどこか切なそうな表情をした。


「それは…。妾は悪い神のいたずらでどこかの小屋に閉じこめられてしまったのじゃ。あれから何年たったのかはわからないが、今日その小屋に魔物が来て破壊してしまっての、妾は脱出できた訳じゃ。」


「閉じ込められたって神様ならどうにかできたんじゃないのか?」


 彼女は重いため息をついた。


「小屋の中には神を封じ込める結界が一面に貼られていて抵抗できなかったのじゃ。それに、神だからといって何でも力があるわけじゃないぞ…。」


「そりゃ、そうだよな…」


 俺は何か当たり前すぎる事を聞いた気がしてしまった。


「しかし脱出できたとはいえ、久方ぶりに外にでると世界が変わりすぎていて、行くあてもないうえに迷子になってしまったのじゃ…。」


「それで困って泣いていたのか」


「そうじゃ…」


 彼女はもしゃもしゃとおにぎりにかぶりついた。


「じゃあさ、お前これからどうするの?」


「どうするとはどう言うことじゃ…?」


 彼女は首を傾げた。


「ほら…あてがないんだろ?」


「うむ…。今日は取りあえずどこかで夜が明けるのを待つとするかの。」


 すると彼女は言いづらそうにこっちをみた。


「…その、今日1日だけお主の家に泊めてはくれんかの…?」


 俺はなんとなくそう言うとは思っていた。


「ん~、分かった、親に交渉してみるよ。」

「ほ、本当か!?」


 なんやかんやで俺は心のどこかでこんな寒い夜を外で過ごしてほしくないと思っていた。


「ああ、泊められるように説得してみるよ。」


 それから彼女がおにぎりを食べ終えた頃に家へ向かった。




 「おお!ここがお主の家か!以外と近くにあるんじゃな。」

 俺の家はさっきのコンビニから徒歩で3分もあれば着く距離にある。

 到着してすぐに自転車を車庫にしまい、彼女を玄関に案内した。


「ここからは静かにしてくれよな?」


「わ、わかったぞ…」


 特に意味は無かったが俺は静かに玄関の扉を開けた。

 家の中に入って俺が「ただいま」と言うと、「おかえり」と言う何人かの声が台所から返ってきた。


「よし、履き物を脱いで俺についてきて」


 俺は小声で言った。


「うむ」

 彼女が履き物を脱ぎ終わると俺は彼女を連れて台所の入り口に向かった。台所には家族一同が揃って晩ご飯を食べている。

 ついでに俺の家族は父さん、母さん、じいちゃん、ばあちゃん、兄、俺の6人家族である。


「ん?その子は誰だ?」


 早速父さんが指摘してきた。


「えーと…。非常に説明しにくいんだけど、豊作の神様だよ。」


 父さんはしばらく黙ってから言った。


「そうか。で、神様がうちに来て何かあったのか?」


 父さんは比較的優しい感じで話した。


「それが、話すと長いんだけど…率直に言えば今行くあてが無いらしく、今日1日ここに泊めてやってもいいかな…?」


「うーん、父さんは構わんよ。」


「ワシらだって構わんよ~」


 じいちゃんは笑顔で言った。俺は以外にあっさりと交渉する事ができてホッとした。


「か、かたじけない!」


 彼女は父さん達にお礼を言った。


「いえいえ。ほら優心、着替えておいで。」


「お、おう」


 母さんにそう言われて彼女を連れて部屋に向かった。俺の部屋は二階に上がってすぐの場所にある。


 部屋に入ると彼女はもの珍しそうに辺りを見渡した。俺の部屋は散らかっては無いが、綺麗とも言えない。


「おお!ここがお主の部屋か!」


「ああ。あんまりあちこち触んなよ」


 俺はそう言い学校のカバンを床ドスンと置いた。


「のお、壁に掛かってあるあれはなんじゃ!?」


 彼女は興味津々に聞いてきた。

 壁に掛かってあるのは俺の趣味であるエアーソフトガン達である。数はそんなにはないが、アサルトライフルの電動ガンやハンドガンのガスガンと自分の好みのものをいくつか飾ってある。

 この部屋に入れば一番目立つ物だから気にしても仕方はない。


「それはこの時代の武器を模して作られた競技用…まではいかないかもしれないが、それに近いものに使う…まあ、玩具と言えばわかるかな…?」


「まったくわからんが、とにかく凄いものなんじゃな!」


 彼女はそう言うと今度は俺の机の上に置いてあった携帯ゲーム機を手にした。


「このからくりのありそうな板はなんじゃ?」


「それは、PWPプレイワールドポータブルっていう携帯ゲーム機で、今の時代の娯楽の一つだよ。」


「これのどこが娯楽なんじゃ?」


「貸してごらん。」


 彼女はゲーム機を俺に渡した。俺はゲーム機の上にあるボタンを押してゲーム機の電源を入れて見せた。


「おお!」


 ゲーム機の画面が点灯すると彼女のテンションはハイアップした。


「後はこのゲーム機にゲームソフトって言うのを入れるといろいろ遊べるってわけ。」


「ほおお!」


 彼女がゲーム機に夢中になっていると、部屋の外から俺の名前を呼ぶ母さんの声がした。俺はゲーム機を彼女に渡し、部屋のドアを開けた。


「どうした?」


「あら、まだ着替えてなかったのね。」


「う、うん。それで何かあった?」


「そのね神様何だけど、さっき見たとき髪がボサボサだったし、顔とかなんか泥ついてたからねお風呂に入れてあげようと思うんだけどいいかな?」


「あ~、その方がいいかもね。」


 俺は汚れたまま布団には入ってほしくなかった。

 直ぐに彼女の方を振り替えると風呂について話した。


「お主の家にはお風呂もあるのか!」


「ああ。そこでちゃんと身体洗って、暖まってきてから布団で寝な。」


「そうさせて頂くぞ。」


 彼女はそう言うと母さんと一緒に風呂場に行った。

 俺はササッと着替えて晩ご飯を食べるために台所へ向かった。



 「お、来たか」


 台所にいくと父さんが俺の晩ご飯を準備してくれた。


「なあ、優心?」


「うん?」

「神様の事なんだが、何で行くあてがないんだ?」 


「ああ、それなんだけど──」


 俺は彼女が話してくれた俺に出会うまでの話を父さんにそのまま伝えた。


「ほお、それで神様は優心に出会ったのか。なんか縁がありそうだな。」


 父さんは笑いながらそう言って俺の前にご飯を置いた。俺は「頂きますと」と言い、ニュースが映っていたテレビを見ながらご飯を口に運んだ。


「そう言えば神様は今日一日だけここに泊めるんだよな?」


 父さんがふと思い出したかのように聞いてきた。


「うん、一応そう約束しているけど」


「そうか。一応父さんは何日泊めておいても何も言わないからな」


 父さんはそれを言い残すと、ふらっと台所を出て行った。

 俺は晩ご飯を食べ終えると、自分の部屋に戻ろうと廊下へ出た。

 すると風呂場の脱衣部屋から彼女と母さんが出てくる音が聞こえた。どうやら母さんも一緒に入っていたようだ。


「ふう、さっぱりしたぞ。」


 するとバスタオル一枚と無防備な状態の彼女が俺の前に姿を表した。


「うわわわ!ちょっとたんま!」


「ふぇ?どうした優心よ。」


 彼女はバスタオル一枚で男の前にでても大して気にしていない様子だった。


「いやいや、バスタオル一枚でうろついてたらだめだぞ!」


「と言われても…。妾の装束はお主の母が洗濯をしてしまって着るものがないんじゃよ…」


「おっふ、まじか…。」


 すると母さんがちらっと顔を出してこっちを見てきた。


「洗濯ならいま終わったわよ。これからドライヤーで一気に乾かしてあげるわね。」


「洗濯終わるのはやいな。……まあ、いいや。とりあえず俺は先に部屋戻ってるよ。」


「うむ。」


 彼女はそう言うと母さんのもとに歩いていった。

 それから部屋に戻ると見なれない布団が置かれていた。


「おーい、優心?」


 部屋の入り口から父さんの声がした。


「父さん、どうかした?」


「神様の分の布団置いておいたから、今日は一緒に寝るんだぞ」


「はーい。」


 俺が返事をすると、父さんは自分の部屋にいってしまった。

 俺は彼女の布団を敷くついでに自分の布団も敷いて、そのまま寝転がった。そしてさっきの携帯ゲーム機の電源をつけてゲームを始めた。



 あれから20分くらいが経った。

 階段の上がる音がすると思うと彼女が部屋に入ってきた。


「ふう、綺麗さっぱりしたぞ~」


 彼女はにぱっと笑った。身体も巫女装束もさっきまでとは違い、綺麗な姿になっていた。


「おお、よかったな。」


「そうだ、お主の母に風呂に入るよう伝えてほしいと言われたぞ」


「了解、ありがとう」


 俺はそして風呂場に行こうと寝転がっていた体を起こした。


「ところで、お主はそのげーむ機とやらで何をしていたんじゃ?」 


 彼女は相変わらずゲーム機に興味津々の様子だった。


「今はクラフト・ワールドっていうゲームをやってたんだ。このゲームはな、ゲーム内で自分の世界を作って、そこを冒険したり家を建築したりといろいろできるオープンワールドでクリエイティブなゲームだよ。」


「ほお!なんだかよくわからんが凄いの!」


「俺は風呂いってくる来るから興味あるんだったら勝手にやってもいいよ。」


「本当か!」


 俺はそう言って彼女にゲーム機を渡した。


「あまり変にいじるなよ。」


「承知しておる。」


 そして風呂へと向かった。



 「ふう…」


 お湯に浸かると今までの疲れが一気に解放されるような気がする。

 しばらくして俺は神様と名乗る彼女について少し考え出した。


「そう言えば彼女は豊作の神様と俺達に名乗ってはいるが、何という名前の神様なんだろうか…。」


「まあ、豊作の神様って言ってもたくさんいるけどな。」


「その声は兄さん。」


 いつ帰って来たのかはわからないが風呂場の外から兄さんの声がした。


「お前の独り言がたまたま聞こえたんでな。俺から言わせれば神様がお前の前に現れたってことは、これから何かあるからその予兆…かもな。」


「何かあるって…怖いな。」


「ははは、冗談だよ。次、俺が風呂はいるからさっさとあがれよ。」


 兄さんはそう言うと脱衣場からいなくなったようだ。

 俺は兄さんの「何かある」の発言が頭からはなれず、それを考えながら体を洗った。


 それから風呂をあがると、兄さんに入れると伝えてから自分の部屋に戻った。

 部屋に戻るとゲーム機を片手に布団の上で寝落ちしている彼女がいた。


「おーい、布団に入って寝ないと湯冷めして風邪引くぞ」


 俺はそう言いながら彼女の肩をさすった。しかし、彼女はピクリともせず熟睡していた。俺は黙って彼女の手元からゲーム機を取ると、布団をかけた。


「……もう…一人は…うんざり…じゃ。」


 布団をかけると彼女は何か寝言を言い始めた。

 閉じこめられていた時の夢を見ているのだろうか。考えてまれば、今日の朝まではその小屋に閉じ込められていたのだからな…。

 そう思いながらふと時計を見ると時刻は23時を上回っていた。

 いつもならまだ起きてゲームなどをしているが、今日はさっさと寝ることにした。


 俺は寝ている彼女に「おやすみ」と言ってから照明を消して、静かに布団へ潜った。

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