少し昔話
時は現代から何百年も前の昔のお話となる。
その時代には、一人のとてもいたずら好きな神がいたそうだ。
その神のいたずらは人々を苦しめるだけではなく、他の神までもを困らせる事態に至っていたとか。
いたずらは日々エスカレートしていき、歯止めが効かなくなり始め、気がつけばいたずらとは言いにくいものになってしまったそうだ。
そんな、いたずら好きな神はこりることなく新しい悪だくみを考えていいたのだ。
今回は、神では触れることが出来ない結界を貼ったとても小さくて暗い小屋に、他の神を誘い込み、閉じこめてしまうという内容らしい。
そうやって閉じ込めた神からは上質な神力を搾り取ることができ、それを吸収することによって自分が新たなステップへ進むことができるのだ。
さてさて、計画を企ててから2日が経過した頃の話だ。
時刻は正午くらい。いたずら好きな神は計画に使う小屋がある森にいた。
その神は早朝から小屋の中一面に、封印の結界を発動する札をはっていたのだ。
「ふうん、こんな感じでいいかな。楽しみだな。」
やっとで大量のお札を貼り終えると、一人で甲高く笑った。
しばらく笑っていると森を抜けようとしている少女の姿をした神が現れた。
「おや…ちょうどいい。早く試したいからあいつでいいか。」
いたずら好きな神はその通りすがりの神をターゲットに決めた。
「おーい、そこの小さいの!」
いたずら好きな神は、敵意の無い優しい雰囲気で声を掛けた。
「…妾のことか?」
「お前以外に誰がおる。」
「妾は小さいのじゃない! “豊作の神”だ!」
豊作の神と名乗る少女は大きい声で怒鳴るように言い返した。
どうやらこの豊作の神は、話している相手がいま大問題となっているいたずら好きの神だとは知らない様子だ。
「ああ、はいはい。まあいい、とにかく少し手を貸してほしいんだ、来ておくれ!」
「なにかあったのか?」
「いいからとにかく来ておくれ!」
豊作の神は一瞬だけ不審に思ったが、“とにかく”と言うのだから、気にせず行ってしまった。
「で、どうしたんじゃ?」
「とりあえず、あの中を見ておくれ。」
いたずら好きな神は小屋の中を指差した。
「どれどれ…中は暗いのお…」
豊作の神は中に入らず入り口から覗くようにした。
この時を待っていたと言わんばかりの顔した いたずら好きな神 は豊作の神の背後に回ると、蹴り飛ばして小屋の中へ強制的に蹴り入れたのだ。
「痛たた…お主、何をするんじゃ!!」
「くくく、悪いな。」
いたずら好きな神はそう言って小屋の扉を閉めると、すぐに手持ちのお札で扉の外側にも結界を貼った。
「さてと…。」
いたずら好きな神は深呼吸をすると、結界を起動する呪文を唱え始めた。
一方、小屋の中では豊作の神が必死に出ようともがいていた。
「く、この小屋、どうしてこんなに結界だらけなんじゃ…!」
豊作の神が壁にそっと触りると、強烈な電流のようなのが流れた。
「痛っ!」
それからもいろいろと試してはみたものの、挙げ句の果てには座り込む事しかできなかった。
「どうして…妾がこんな思いをしなければならないんじゃ…。」
豊作の神はグスンと泣いてしまった。
その後も豊作の神は、その小屋の中に閉じ込められたままだった。
他の神や人々は入り口にお札が貼ってあるのを見ると、中には災いが起こるものが封じられていると思い、近寄ることはしなかったそうだ。
あれから長い月日が流れ、時は現代。
あの神が閉じ込められている小屋の辺りでは、新たな道路を作る工事が進められていた。
「さて、この気味が悪い小屋はどうするんです…?」
「どうするって、上の連中から壊すように言われてるしな。やるしか無いだろ。」
土工の一人が頭をポリポリかきながら会話をしていた。
あの小屋は市役所からの希望で取り壊してほしいとお願いがあったそうだ。
「そうっすよね…。何があっても自分は保証しませんよ。」
「あったときはあったときだ。重機でパパッとやっちゃいな。」
この土方の人たちは一刻も早く終わらせたい様子だ。
「わかりました。」
若い土工は先端をハサミのアッタチメントを取り変えたパワーショベルに乗り、その小屋へと真っ直ぐ向かって行った。
「はあ…あれからどれくらいの時がたったのじゃろうか…。」
豊作の神はというと、何百年も経った現代でも健全に生きてはいるが、小屋から抜け出すことを完全に諦めてしまっていた。
ブロロロ
「な、なんじゃ…?」
突然、小屋の外から聞いたことの無い鈍い音が響き始めた。
豊作の神はそれを聞いて、座っていた大勢からスッと立ち上がった。
バキバキ!
「あわわわ!ななな何事じゃ!!」
もの凄い音と共に大きなハサミの様なものが姿を表し、小屋の壁の一部を豪快に破壊した。
豊作の神は一刻も早く逃げ出したいと思ったが、周りに結界があるため機敏に動く事は叶わなかった。
そうしていると再びハサミのようなものが姿を表してきました。
バキバキ!
「あわわ!」
今度は小屋の壁のほとんどを破壊していった。
さらに、まだ壁の一面しか壊されていなのに老朽化が深刻化しているためか、小屋は一気に倒壊しだしたのだ。
豊作の神は崩れ落ちる瞬間に壊された壁の方へ、飛び込む様に外へと脱出した。
それからはパニック状態まま、その場から走って逃げたのだった。
「妾を助けてくれたことは感謝するが、もう少し穏便にできなかったのじゃろうか…。」
豊作の神はぶつぶつと言いながら道路をひたすらに前に進んでいた。
気がつけば見たことのない町の中へと迷い込んでいるではないか。
「はあ、それにしてもここはいったいどこなのじゃ…。場所も住居の形も変わっておるし。……とりあえず周辺を探索してみるかの。」
そして、豊作の神はあてのないままぷらぷらと町の中を探索し続けた。
気がつけば時刻は夕闇時。
「はあ…。肌寒いし、お腹は空いたし、行くあてはないし…。」
豊作の神様は道路の端にたまたまあったお地蔵様の隣にしゃがみ込んだ。
「うう…神でも人でも、助けてくれる者はおらんかの…。」
豊作の神は小屋の中に閉じ込められていた時の様に泣き出してしまった。
「君、大丈夫…?」
そんな時、一人の少年が彼女に話しかけたのだった。