前略、トイレの仕方を教えてください
朝、目が覚めると目の前に美少女がいた経験をもつ人は一体どれくらいいるだろう。
偶然の可能性として、例えば幼馴染みが女の子だったとして、いやまず幼馴染みという存在が希少価値が高いと思うのだが、そんなご近所付き合いをする相手と幸運にも現在進行形で友情を築くことが出来る幸運に恵まれ、しかもその相手が女の子だったとなればもしかするとBIGジャ○ボの宝くじで一等が当たる程度にはラッキーな人物なのだと僕は思う。
話が最初から盛大にそれたが、つまり朝目覚めて最初にみるのが女の子の顔、それも世辞を抜きに美少女と呼んでいい顔の女の子と顔を付き合わせるというのは17歳男子として非常に幸運と言えるのである。
そして僕は今日、そんな幸運に巡り会うことができたのだが、まずもって最初に確率論を述べたように幼馴染みの女の子、わざわざ家まで訪ねてきて部屋に上がり込み、起こしてくれるような優しい女の子の知り合いは残念なことに僕にはいない。
全くもって見知らぬ他人である女の子が、美少女が僕の顔をまじまじと見つめていた。
「……あの」
声をかけるのには、随分と勇気を振り絞ることになった。
布団にくるまりながら、同じように布団にくるまって戸惑っている女の子に声をかけると、自分の声にしてはやけに高い声が、それだけが部屋に響いた。
もしかすると僕の声帯は半年ほど一緒に暮らしている兄貴としか話していたなかったから大分と退化してしまっている可能性がある。
声を出したつもりで、どうやら自分だけ声が出てなかったらしい。
まぁちょうどいい、向こうも話があるようで声をかけてくれた。
とても耳障りのいい声だったのだし、もう一度聴いてみたいという欲求もあって僕はまず聞く姿勢を取ることにした。
ところが目の前の美少女は一向に口を開かない。布団にくるまって硬く固く、口を結んでしまっている。
一体どうしたものか、分からないがまぁ時間が解決してくれるに違いない。僕には無制限の時間がある。
このままずっと彼女が口を開くのを待つのもやぶさかではないのだ。
そんなわけで10分ほど睨みあってみたがどうにもらちが明かない。
誰もがそうだろうと確信しているが、寝たあと、起きたらトイレに生きたくなるのだ。
いつもなら布団にくるまるのを止めてさっさとトイレに行ってしまうが今日はそうもいかない。
女の子に、それも美少女と呼んでいい人に見せて問題ない体ではないのだ……いろんな意味で。
そこで先の言葉を前言撤回することにする。僕には無制限の時間はない。あるのは限りなく有限な時間である。
人間としての尊厳をかけた有限な時間である。少々自分本意になることも致し方ないと言えよう。
「あの、ちょっと向こうを向いてもらえませんか?」
また、聴いていて心地のいい声がした。
いや、待て、うん。
恐る恐る布団から腕を突きだしてみた。
目の前の美少女も腕を突きだした。
彼女の腕はとてもしなやかで、白くて、綺麗だった。
そして僕の腕のはずのもの……肩から伸びるその腕も同じようにしなやかで、白くて、綺麗だった。
勇気を振り絞って布団を脱いでみる。
目の前の美少女も布団を脱いだ。
女神がいた。均整のとれた体、細く、けれど出るところは瑞々しい果実のようにふっくらとまろび出て、胸からお腹のラインなんてちょっとむしゃぶりつきたくなる。
おへそ……とか、ちょっと舐めてみたい。
僕にとって、もしかすると理想のスタイルの美少女が上半身全裸でそこにいた。
下に目を向ければ、膨らみがある。
掴めば、感触がある……ああ、つまり、その、なんだろう。
上倉旭17歳。
引きこもりの高校中退男子。
朝目覚めると体が美少女になってしまっていた。
「やばい……トイレに行けないかもしれない」
体が変化してしまった衝撃よりも目下、膀胱炎の危機が僕に迫っていた。