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一話完結短編集  作者: 賀茂橋長晟
12/19

怖いと言って語り継げ!!

 近頃、口裂け女や人面犬、赤マントにおびえる小学生も少ないと聞く。その分、インターネットを通じてやってくる化け物や、電話ではなくメールを送ってくるメリーさんなど、怪談も時代になじんできているらしい。

 しかし、そうなってくると困ったのは、学校で誰かが適当な怪談話として上げた結果生まれてしまった、存在のよく分からない怪人たちである。

 そんなよく分からない噂が語り継がれるはずもなく、怪人達は途方にくれていた。そしてある新月の夜、某小学校に集まって会議を行うことになったのだ。

「よし、全員いるだろうな」

 皆をまとめるのは、通称切り裂き男。口裂け女の話が間違って広まった結果生まれた怪人である。

 帰りが遅くなった子供をバラバラに斬殺しにやってくるという中々猟奇的な怪人なので、下手をすれば口裂け女と並ぶような怪人になれるはずだったのだが、生まれた時代が悪かった。

 帰りが遅くなるも何も、元から外で遊ぶ子供が少なくなったのだ。ゲームや漫画の普及のせいである。

 それに、そもそも口裂け女の話を勘違いした子供が友達に話しただけなので、活動範囲も広くない。しかも全国的に語り継がれることもなかったので、その地方で有名な程度だ。

「我々怪談組の中でも、俺はトップクラスに怖いはずなんだ。見ろ、全身包帯、怪しげなコート、コートの中にはメスやらカッターナイフやらがびっしり。極めつけは日本刀まで持ってるんだぞ」

 切り裂き男がコートを広げると、夜中の教室に刃物を何枚も落とす音が響く。小学生特有の、設定をべたべたとくっつけたがる癖が出た結果がこれだという。ちなみに、その自慢の刃物で人間を斬ったことは一度もないらしい。

 そんな彼を笑うのは、黒い男物の学生服。しかし中身はなく、ただ学生服と学生帽がふわふわと浮いているだけだ。

 学生服はくねくねと袖を動かし、どこからともなく声を発した。

「まあ、明確な目的があるだけいいじゃないの。私なんて、赤マントさんの話を間違われた結果の「黒服さん」ですし。それに広めた子が赤マントさん自体をよく知らなかったらしく、何をすればいいのかも分かりません」

 一応「夜な夜な学校の中を歩き回る」という活動をしてみてはいたのだが、ただの用務員と変わらないという。

 黒服はくたりと椅子の上にへたれこんだ。

「それに黒服さん」って、なんだかやばい仕事をしている人みたいじゃない」

「ああ、スパイとか、ヤクザとかな」

「私も切り裂き男さんのように武器やらの設定まで作ってくれれば、キャラも見えたんです」

「まあ、こんな俺が組のリーダーをしてるぐらいだし、他の奴らも自分のキャラは見えてねえよな」

 その他メンバーもそれは自覚しているらしく、元気なくうつむいた。

「僕は怪談らしいけど、金次郎先輩みたいにどこの学校にもあるわけじゃないから苦労するよ」

 そういって青く錆びた体で頬杖をつくのは、学校の銅像だった「希望の像」。

 メンバーの中では珍しく「実際は呪いの像であり、夜中に動き出す」と、それらしさをかもし出しているのだが、生徒の少ない地方の学校で、しかも二宮金次郎ほど有名な像でもない。というか、その学校オリジナルなので隣町の学校ですら知られていない。

「そう考えると、切り裂き男さんみたいに「こんなことをしてくる」っていう具体的な話があるのはいいよね」

「そうですね、我々はただ「夜中に歩く」としか言われてないし」

 希望の像と黒服が意気投合していると、その隣で小さく咳払いが聞こえる。振り向くと、一枚の写真がひらりと起き上がり、そこに写るめがねをつけた男性がきょろきょろとあたりを見渡した。

「……私に比べれば、黒服さんも希望の像さんもお幸せですよ」

「松谷さんだっけ? 目の動きだけは妙にリアルですね」

 松谷は「そうでしょう」と目をぎょろりと動かす。

 彼は他の学校で言うところの「音楽室のベートーベン」のような存在である。

 廃校となった某学校の音楽室には、かつて噂があった。それは、音楽室の隅に飾られた古い写真の目が夜な夜な動き出す、というもの。その正体が、この松谷という男なのだ。

 しかし、彼は別にベートーベンのような作曲家というわけではない。ただ単に、昔この学校で音楽教師をやっていたというだけのはなしだった。

「私が学校を去るときに「音楽室に飾る」といって生徒が撮ってくれた写真が、いつからこんなことに……」

「それを言ったら僕だって似たようなもんだよ。「健やかに、希望を持って成長するように」って意味で作られたのに、いつしか「呪いの像」って酷くないかなぁ」

「というか、別に自殺したわけでも学校に恨みがあるわけでもないのにこんな扱いは酷いですよ」

 それだけではないと松谷は言う。

 元々いた学校が廃校になる前は、なんども悪がきに「幽霊写真を倒してやる!!」と破かれそうになり肝を冷やしたとか。

 その話を聞くと、黒服がにこやかに、刃物をご自慢のトレンチコートにしまっている切り裂き男に目をやった。

「そう考えると、私や切り裂き男さんは神出鬼没な設定でよかったよね」

「ああ。どうせ俺は日が落ちた後も遊んでる子供しか狙わねえし、お前はただ夜中に現れてうろつくだけだもんな」

 改めて自分の身の上話を広げると、全員くたびれたように、この先のことを考えて落ち込んだ。

「そう考えると、赤マントさんはすげえよな、赤マントなのに青マントも持ってくるし、それにどっちを選んでも殺すんだろ?」

「ええ。ですが最近「黄色」を選べば無事に助かるという設定を作られたみたいで、本人も嫌がってたよ」

「ああ、口裂け女の姉さんも、最近は腐っちまってさぁ。男同士がいちゃつく漫画しか読んでねえよ」

 しかし、口裂け女も赤マントも有名な都市伝説。それだけ、別段自分の足で子供達を怖がらせなくても、噂が噂を呼んで人々に伝わるため、そう簡単には消えない。

 それに近頃のインターネットで興味本位に調べるような子供も何人かいるので、そのこともあって有名どころの都市伝説はずいぶん楽をしているんだとか。

「さて、そうなると困るのは俺たち、適当に作られたやつらだ」

「そうですね、このままでは消えてしまいます。ベートーベン公と並ぶ、とまではいかなくても「ある学校に恐ろしい写真があるらしい」ぐらいは言ってもらいたいです」

 皆、松谷の意見にうなずく。

 切り裂き男は教師の持つ棒のようにナイフを振り上げ、机に打ち付けた。

「では、本題に入るぞ。俺たちが今後も怪人として生きていけるよう、なにか良い案はないか」

 沈黙の中、手が上がる。見れば机の上に少女の上半身だけが乗っている。

 かの有名な「てけてけ」の怪談から生まれた「べたべた」である。

 べたべたと手で這ってきて、つかまえた子供を殺す、と行動はてけてけそのものである。だが、彼女もやはり伝え方が悪かったのか、名前は「べたべた」。それにてけてけといえば、大きなハサミで子供をちょん切るという話も有名だが、彼女は何も持っておらず、またてけてけと大きく違うのは、上半身だけで校内を歩き回る理由。

 彼女は生前のいじめにより隠された親の形見を探しているのだ。道路にソレを投げ捨てられそしてソレを拾おうとしたところ、大型車に轢かれてこうなってしまったのだとか。

 こうして、上半身を血のついたてでべたべたと引きずり、その形見を探す、それが怪人「べたべたさん」。切り裂き男同様、元からある都市伝説が別の設定をつけられた、てけてけの亜種のようなものである。

「やっぱり、子供達だけをターゲットにしていては、今の少子化の時代じゃあ売れるのは難しいと思うの。ここは、小学生に限らず、中高生や大人も視野に入れるべきじゃないかしら」

「うーん……でも、ターゲット層を広くしたら、ますます変な設定をつけられそうだなぁ……」

「ほら、やっぱり子供より大人の方が、私達の設定を作るの上手じゃない。だから大人を怖がらせて、もっと怖い設定を作ってもらえばいいのよ」

 大部分が「なるほど」と笑みをこぼした名案だったが、それでも首をひねるものはいる。とくに切り裂き男は賛同しがたいようだった。

「俺はパスだな。俺が大人まで襲うようになったら、都市伝説じゃなくてただの無差別殺人。そもそも俺が生まれたのは「暗くなる前に帰れ」っつー子供への戒めなんだから、大人には関係ねえよ」

「私も同感だね。大人をターゲットにしたら、私は学生服じゃなくてスーツを着込むことになるじゃないか。あのレトロな感じが怖いのに」

 べとべとさんはぐでっと机に上半身を突っ伏した。

 次に手を上げたのは、金メッキに彩られた鏡の中の少女。彼女もまた、どこからか派生した小さな年で説、名を「鏡子さん」という。

 鏡の中に住む鏡子さんは、友達が欲しくて友達が欲しくて、夜中の三時三分三秒に鏡を覗くと、その子を連れ去りにやって来るんだとか。

 連れ去られなくても、一度鏡子さんの姿を見たものは、自分が何者なのか分からなくなり、精神が壊れてしまうという。

「私は、もっと皆さんで協力すればいいと思います……」

 鏡の中で、少女が小さく訴えかける。切り裂き男が聞き返すと、先ほどより少し大きな声で鏡子さんは言った。

「み、皆さんは存在は薄くても、個性やインパクトはすごいですから……。なので、この怪談組そのものが日本の学校を転々とすれば、自ずと一まとめにされて、皆さんの知名度が平等にあがると思うんです」

 これも、先ほどのべとべとさんに次ぐ妙案。

 しかし今度は別の者が首をひねった。動く写真松谷と、希望の像である。

「そりゃあ、切り裂き男さんやべとべとさんはインパクトがあるでしょうけど……」

「僕らは、僕らの出身校じゃなきゃわからないよね」

 鏡子さんの映る鏡にピシッとひびが入った。

 会議は踊る。されど会議は進まず。

 そろそろ日が昇る時間だ。会議はコレにて終わらなければならない。

「……はぁ、じゃあまた一月後の新月の晩に集まるぞ」

「了解したよ」

「はーい」

 願わくば、誰かが彼らの会議を覗き、彼らを語り継ぐことを祈るばかりである。

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