そういうところ
「で、話って何さ」
岡田は多少ためると、ファミレスのテーブル越しに島橋に本題をつぶやいた。
「実はさ、俺フられたんだよ」
「フられたって、真由美ちゃん? マジで?」
まあ正直すぐに分かれそうなカップルだとは思っていたが、それにしては早かったと島橋は驚く。
「理由は? どうしてフられたんだよ」
「それがわかんねえんだよ」
岡田はそれに悩んでいるらしく、フられたこと自体はどうでもいい様子であった。
岡田の奢りなのでドリンクバーでも頼んでやろうとメニューを開く島橋に、岡田はうなだれた様子で続ける。
「真由美に突然「別れよう」って言われてさ、俺もびっくりして「なんで」ってしつこく問い詰めたんだよ。そしたら真由美、「そういうところよ」って言われてさ……」
「……なんかよくある別れ方だな」
そういったとたん、岡田はテーブルを勢いよく叩いて身を乗り出した。
「だろ!? よくあるよな!!」
「な、何だ急に」
「俺思うんだよ、真由美が俺と別れたのって、ただ俺に飽きただけなんじゃねえかなってさ!! で、理由付けるの面倒だから、「そういうところ」って言ってみたんだよ!!」
言わんとするところはわかるが、真由美が誰かと二股をかけているような話も聞いたことがなく、また親友なだけに岡田の短所も熟知している島橋は首をひねった。
「んー、考えすぎじゃね? 真由美ちゃんそんな遊んでるイメージないし、お前に落ち度があったんだよ」
「じゃあそれどこだよ」
「そう言われても知らないけど。とにかく、言ってみたかっただけってのは考えすぎだよ」
すると岡田は「そんな事ねえよ」と腕を振る。そしてしばし考えた後、思いついたように言った。
「たとえばお前、明日世界が終わるとするだろ?」
「急にどうした」
「いや、世界が明日終わるんだよ、隕石かなんかがすっげえ勢いで落ちてきて。で、お前がそれを阻止できるとするだろ?」
「できねえよ」
「できるんだよ、ほらなんか、一人乗りの宇宙船に乗ってビームみたいなの撃ってさ」
こういう話を理解しないのがお前の短所だ、と岡田は言う。
島橋はため息交じりに水に口を付けた。
「地球が終わるレベルの隕石なんて、一人乗りの宇宙船のビームでどうにかなるわけねえだろ。第一ビームってなんだよ」
「細かいことはいいだろ。とにかく、お前が世界の危機を救えるとするじゃん」
「そしたらさ、お前ビームうつ瞬間なんて言う?」
「何か言う余裕なんてないと思う」
「だから、なんか言うとしたらだよ」
そう言われると、どこかで見たマンガだったかアニメだったかのシーンが浮かんできた。
「んー……「世界は俺が守る」みたいな?」
「ほら、そういうこと言うだろ?」
「どういうこと言ったんだよ俺は」
「だから、なんかテンプレっていうか、マンガみたいなこと言いたくなるだろ? 真由美もそれだと思うんだよ」
つまり岡田は「そういうところよ」というセリフを真由美が言ってみたかっただけで、原因はほかにあるのではないかという。
「いやいや、普通に考えて真面目なシーンで言わねえよ、そんなセリフ」
「でもお前言ったじゃねえかよ」
「そりゃあ「もしも」の話だろ」
「思うんだよ。マンガみたいなシチュエーションになったときって、そういうセリフ言いたくなるもんなんだって。ほら、男に愛想尽きて別れるんだぜ? しかもその男が「なんで俺と別れるんだ」とか聞いてくるんだぜ? 最高のスキャンダルだろ!!」
「そうでもねえよ」
「いいや、そうでもあるね。絶対に真由美の奴、俺といるのに飽きただけだぜ!!」
「うん、どうでもいいけど今のお前、超カッコ悪いな」
隣の席からの視線が痛い。しかし、こういうところを気にしないのが彼の長所であり、またとんでもない短所である。
「カッコよさなんて求めて、女の悪口が言えるか馬鹿野郎!」
「いや言うなよ」
岡田は「だってそうだろうよ」と投げ捨てると、再び思いついたように島橋の鼻先を指さした。
「じゃあ逆に、お前から見て俺がどこか、具体的にダメなところあるかよ」
「性格悪いとか」
即答。しかし岡田は傷ついた様子はない。
「どんなふうに?」
「ネチネチ言うところ」
「いつ?」
「今」
「今じゃわかんねえよ、具体例出せよ」
島橋はしばらく考え、思い出したように怪訝な顔をする。
「この前飯食いに行ったじゃん。その時にお前、「お釣りが細かい」ってだけで帰りの電車不機嫌だったじゃん」
「そりゃ嫌だろ。十円を五円玉と一円玉で返されたんだぜ? 厄介払いもいいとこだろ」
「でも普通店から駅までの距離で忘れるだろ。みみっちい」
「みみっちいってなんだよ!! ほかにはなんかあるか!?」
島橋はまたしばらく考え、また思い出したように眉間にしわを寄せた。
「こないだ、お前の足踏んだ小学生にマジギレして泣かしたところ」
「いいや、そりゃ違うぞ。ああいう年ごろから注意しとかねえとダメなんだよ」
「いや、お前あの時やばかったぞ? 小学生が必死に謝ってんのにネチネチネチネチ、見てて可哀想だった」
岡田は不服そうな顔をして、頬杖をつく。
島橋は「まあ不機嫌になるなよ」と、店員を呼んで注文を済ませた。店員が軽く頭を下げて背中を見せ、島橋に余裕ができた時、再び岡田がかみついてきた。
「でもお前、それと真由美の件は関係ないだろ!!?」
「もうしつけえよおまえぇ。飯食って帰るからな、俺」
「待てよ、そんなこと言うんなら飯代お前が出せよ」
「みみっちッ」
「また言ったな!? 俺のどこがみみっちいってんだよ!!」
島橋は いかる岡田に向かい、水を飲み干して言った。
「そういうところ」




