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浪漫譚Ⅶ


 ルベルスキの真南には森が繁っている。その森は密度がかなり濃く、日の光は背の高い針葉樹林に遮られて視界はかなり悪いし、道幅も狭いために大軍での行軍には適していない。

 ただ、その森の中央には小さな川沿いに細い街道が走っており、列をなして行軍するならその小川沿いの小路を進むしかないだろう。

 コルトの予想通り、キプチャクの兵士はそこを進んできた。


「敵兵は小川から来ました! 小川沿いに細長い陣形になっています!」


 何もかもが予定通りだった。

 この村に行くには南北に延びた街道しか無い。ルブリンは街道の北あり、南に行くとクラクフとリヴィウを通る大街道へと繋がる。


「予定では街道沿いを守り抜くって話だが、今なら相手の陣形の頭を叩ける絶好の機会だぞ」


 バリケードからは森の入り口が霞んで見えた。不自然なくらい静けさを保っている。敵本隊はまだ森の中にいるのだろう。


「それにコルト、俺が聞いた話じゃモンゴル軍の先鋒には弓騎兵を置くらしいじゃないか。そいつがのらりくらりと動き回って俺たちを寄せ付けない戦法だ。連中は細い道にいるから今なら敵は引こうにも引けない。騎突で押しつぶせる」

「確かに。俺たちにゃ馬もあるし、前と違って装備は万全だ。コルト様、指示を出して下さい!」

「そうだ! リヴォニアの気合と勢いをモンゴルの連中に思い知らせてやれ!」


 周りにいた騎士たちは頬を火照らせて盛り上がる。フランクと同様に突撃を支持し出した。

 騎士団の馬は200頭ほどで相手は2000。突撃を受けて後退する前線部隊と、そんなことを知らない前進し続ける後続部隊がぶつかりあえば細い小路は大混乱をきたすだろう。それは前の戦いでも実証済みだ。

 それに、フランクを筆頭にしたリヴォニア騎士や増援に来たドイツ騎士ほどの精鋭であれば蹴散らせられない数では無い。


「……いや待て。少し考えてみろ。今度はあの赤い将軍が直々に指揮を取ってるんだ。そんな策は容易く受け止められるだろ」


 最大の悩みの種は赤い鎧を着たあの男だった。悠然と部下を見殺しにする度量と、穿った弓矢一本で進撃を止めるほどの武技を持ち合わせているカリスマだ。


「いいから指示を出せ! 俺たちの活躍でお前の憂鬱を吹き飛ばしてやるよ!」

「ふざけるな! リスクが大きすぎる。騎士団の戦法は連中も熟知しているんだ。重装に任せて突撃して何度やられてきたと思ってるんだ?」


 こちらがモンゴルの戦法を知っているように、モンゴル軍もこちらの戦法を熟知している。だからこそ、50年前の大会戦では完膚なきまでに叩き潰された。


「考えてる暇なんかねえ! 野郎共準備だ! 馬を牽けぇ! 長槍を携えろ!」

「これ以上は許さないぞ。指示を取り下げろ。さもなくばお前の首を落とさなければならない」


 俺は即座に剣を抜いて切っ先を首筋に突き立てる。

 フランクは怯えるどころか、目を見開いて笑いだした。


「上等だ。やれるもんならやってみな。お前がそのちんけな剣を突き立てれば、背後にいるリヴォニアの男たちが黙っちゃいねえがな」


 唇を上げて歯を見せると背後に控えた騎士たちが吼えた。リヴォニアの騎士たちは逐一熱い。


「ほ、報告です!」


 そんな折だった。再び斥候が飛び込んでくる。


「敵部隊の先鋒は弓騎兵ではありません! 鱗鎧に長槍を携えた重装騎騎兵です!」

「な、なんだと?」


 フランクは手にしたモーニングスターを地面に落とす。俺も息を吐くと剣を鞘に仕舞う。


「やはり俺たちの動きを読んでいたか。このまま勢いに任せて突撃すれば数に優る敵重騎兵に散々にやられていただろうよ。よくやった。距離はどれだけ詰めていたのか?」

「キプチャクの連中は途中で進軍速度を落としておりました。ですので、30分ほどで敵の先頭が森から出て来るでしょう!」

「敵は突撃体勢も取っていたのか。だとしたらなおさら運がいいな」


 虎の子の騎士を失えば終わりだった。こんな最初からジョーカーは切れっこない。


「……悪かった。コルトに散々落ち着けだの言っていたが、俺が一番焦っていたらしい。逸ったことをした。首を刎ねていい」


 フランクは黙って膝をぬかるんだ地面につけて頭を差し出した。今必要なのはそんなことじゃない。


「気持ちはわかる。ほら敵軍がお出ましだ。馬は隠せ! 全軍、バリケードに張り付け!」

「いいのか。これで示しはつかない」

「当たり前だろ。こんな所でお前を斬った所で何にもならない。それに言ったはずだ。俺たち全員で勝利を得るんだからな」





 正午。敵は自陣から2000フィートの所で完全に停止した。

 人数は2000ほど。斥候の情報通りであった。


「コルト隊長、アーバレストを射かけますか?」

「あそこまではどうやっても届かない。無駄にボルトを消耗するだけだ」


 敵は改良したアーヴァレストの射程も完全に把握しているらしい。ギリギリ届かない所で隊列を組み直している。

 天高くそびえる槍の穂先からして重騎兵は1400ほど。残りが弓騎兵と見るのが正しそうだ。

 対するこちらの歩兵は正面に600人。左右に200人の1000人が控えていた。


「敵は3列横隊か。こっちに面攻撃を仕掛けてくるみたいだな」

「敵は野戦陣地を構築! 対陣地用攻撃陣形とれい! 百人長移動せよ!」


 赤い鎧の男が何やら大声で指示を出している。それに伴ってドラや耳に響く金属音がこちらまで聞こえてきた。

 ここまで大規模なキプチャクハンの兵団は、聞いたことはあっても直に見たことは無かった。何度も略奪に遭ったルブリンの兵はあるかもしれないが、本国からの騎士や従士達は見たことあるはず無い。

 クロスボウや弓矢を携えた兵士を見回すと、誰もかれもが十字を切って神に祈っている。


「……フランク、お前の出番だ」

「敵陣に一発かましてやるのか?」


 学習能力ゼロか。


「味方に一発かましてやれ。とびきり上等な文句を浴びせてやれ!」


 目の前にいる髭もじゃ男も話がつかめてきたらしく、しょげていた顔にいつもの覇気が戻った。


「なるほどな。面白ぇ。一発火ぃつけてやるよ」


 フランクは武器を荒っぽく投げ捨てると、バリケードに飛び乗った。


「お、おい、そんな所に上がってどうするんだ……」

「うおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああ!」


 敵の楽器の音も止んだ。味方の震えも止まった。フランクは一呼吸置いて続ける。


「奮い立て男たちよ! 多くは言わねえ。ここで勝てば俺たちが最初の勇者になるんだ。どうだ、英雄となって美味いものを食ってべらぼうな美女を抱きてえだろ? だったら戦え! 今日1日戦い抜けばそれが手に入るんだ! 隣にいる仲間を信じろ。目の前の敵だけに全てを賭けろ!」


 フランクの猛りは伝わったようだった。死にかけていたその目に再び光が宿りだす。それに、俺の覚悟も決まった。

 動きが一瞬止まったキプチャク軍だったが、再び楽器の音が鳴り出して横隊を作り始める。

 一連の動作を見ていたのだが、噂に違わずモンゴル軍の騎兵は意志のある生き物のようだった。流れているのが楽曲なのかただの打撃音かは分からない。しかし、それに従って馬が踊るように一定の間隔を保ったまま動いている。


「……来るぞ」

「敵が突撃してきました! 一列横隊! その数、およそ……」


 敵方から銅鑼が散々に打ち鳴らされるのと同時に横隊が動き出した。

 隣に控える観測手の声が止まった。口を何度も開け閉めしたまま動かない。


「お、おい! どうしたってんだ!」

「数が、数が読めません、1000人近くいるのかもしれません……」


 左右にいる味方も戸惑っている。

 とにかく、馬上の敵の数は読めない。通常よりも迫力が出るため正常な判断がし辛くなるものだ。

 だが、常識的に考えて敵軍は総勢2000を3分割するんだろうし、先ほどの見立てで槍の穂先が1400ほどだから各陣に6~700ずつと見るのがいいだろう。


「落ち着け。2000を三分割するんだから多く見積もって700だろう。とにかく冷静でいろ! この作戦に狂いは無い!」


 ここ数日の晴天のため、雪解けの泥を巻き上げて馬蹄を轟かす。その音は腹の底に響き渡る。

 ほんの10秒も経たないうちに距離を1300フィートまで詰められた。速い、敵騎兵の動きが予想外に速すぎる。


「敵距離、およそ1300フィート!」

「アーヴァレスト射撃始め!」


 横で赤い旗が揚がった。バリケードに詰める騎士たちの更に背後、村の中心部から黒い筋が空へと放たれる。ポドルスキ卿から借り受けたアーヴァレスト隊300がボルトの雨を敵へと降らせたのだ。

 天高く撃ち掛けられたボルトは、一定の高さまで行くとそのまま急降下。地面を走るステップの鱗鎧を貫き、更には馬の頭蓋骨をも砕いた。鎧兜を射られて敵陣に辿りつく前に討ち死にするか、敵騎兵は自慢の健脚を失って体を投げ出されるかで次々に潰れてゆく。馬のいななく音がどこか侘しい。

 放り出される仲間に目もくれず、走り出した第1陣とバリケードまで距離は1000フィートほど。改良したから装填が早いとはいえ、第1陣に曲射が出来るのはあと二回だろう。それでも300人の一斉射撃で40人近くは戦力外になった。

 今度は敵陣深くで火の手が上がった。


「あれは、火か!」

「第2陣3陣の前に煙幕です!」


 突撃をかます第1陣と、背後に控える2陣3陣の間に煙幕が焚かれた。

 それには焦った。かなり、焦った。

 こうなると敵の次の手が予想できない。風はゆるやかな南風。煙幕は一歩一歩泥濘んだ地面を踏みしめるようにゆっくりと近づいてくる。


「あと800フィート! コ、コルト様、これでは……」

「……あの赤い鎧、何を考えているんだ?」


 第1陣は焚かれた煙幕に目もくれずに突進してくる。バリケードまで残り800フィート。再びアーヴァレスト隊が曲射を始めると、再び30名ほどが落馬する。


「左右から1分隊づつ中央に集中!」

「おおおおう!」


 両脇に配置した400人のうち200人を正面に集める。

 森が広がっていたので槍の素材には困らなかった。穂先が小剣・ナイフ・農作業用のフォークとよりどりみどり。中には木の先端を尖らせたものまである。敵がやって来たら持ち上げてファランクスを築く。

 残り400フィート。ここまでくれば馬を急停止させることは不可能。敵は串刺しとなる。


「長槍隊構え! 敵を刺せ!」


 号令と共に一斉に長槍が上がった。

 勢いそのままに敵騎兵はバリケードへと衝突。数十秒ほど断末魔が聞こえる。第1陣のうち100は串刺しとなって即死だった。


「各自武器持ち替え! 敵を一歩も中へと引き入れるな!」


 機動力を失ったキプチャク兵は馬を乗り捨て、槍から腰に差したサーベルや短弓を携えてなおも突撃してくる。

 得物に小回りが利く分、バリケードを乗り越えて中で乱戦になる場面も増え始めた。だが、それはごくごく少数の話で、戦線全体からすればかなり余裕があるが、やってきたのは3分の1に過ぎない。

 とはいえ、局地的な戦況を見れば、順調に事は動いている。敵が突撃をかましてから20分ほどの戦闘で第1陣はおよそ半数になるまで減っていた。


「俺たちゃやりゃぁ出来るんだ。モンゴル人掛かって来いよ! いくらでも殺してやらぁ!」

「そうだ! 脅威に曝されるのはこれで終わりだ! 遥か東に帰りやがれ!」


 意気上がった味方兵士たちから野次も飛ぶ。兵たちもいっぱいいっぱいのはずだが、フランクの鼓舞や戦況の順調具合から心にゆとりが出来たのだろう。俺もそういう風に思っていた。


「下手したら騎兵の出番は無いかも知れないな」


 何もかもが上手くいきすぎて怖いくらいだ。これまでの杞憂は何だったのか。先月の自分にバリケードに届かずに死んでいった兵士や馬の死体を見せてやりたい。

 しかし、それは向こうの赤い鎧の将帥もおんなじことを思っていたらしい。


「て、敵が再び出てきました! その数およそ600! 先ほどよりも動きが早いです!」


 次の手を打った。敵の第2陣が煙幕を斬り裂いてやって来た。バリケード真正面めがけて一直線に駆けて来る。

 携えているのは短槍ばかり。軽騎兵ばかり。


「おい、あんなに速いのか……」


 第1陣も速いと感じたが、その比では無かった。身につけている防具も違うのだろう。ヤクの毛の房がつけられた椎の実型の兜に簡単な鎖帷子ぐらいで、ぶつかり合って戦う気など毛頭ないのだろう。

 とにかく動きやすい兵装である。


「コルト様、あれが敵総大将でしょうか」

「ああ。ヤツがこの部隊の大将だ」


 一瞬だが煙幕の切れ間にあの赤い鎧が見えた。その顔には驚かされた。


「……笑っている?」


 妙齢の男はしっかりと笑っていた。自身の作戦全てが上手くいって喜んでいるのか、戦いが終わっていないのに喜びだした俺たちを小馬鹿にしたものなのか、はたまたその両方なのかは定かでない。


「あああ! 敵第2陣、が真っ二つに割れました!」


 慌てて正面を見直すと敵騎兵の姿が無い。いや、いることにはいるのだが、元見ていた所には居なかった。

 瞬きをする位のほんの数秒で、あの速度を保ったまま、大した指示も出されずに、600ほどの横隊真っ二つに割れて綺麗な一列縦隊に組み直し、正面のバリケードを回避。手薄になった左右の陣地めがけてバリケードを騎射しつつ突撃してきた。

 最精鋭の騎兵が見せる操馬術はこれほどまでに魅せるものなのか。


「…く、指示を!」


 俺の中で時間がゆっくりと過ぎ去った。耳元ではヒュンヒュンと黒い稲妻が走り、さっきまで話していた若い従士が大声を上げて倒れる。しかし、そんなことは全く気にならない。

 それほどまでにあの馬術は美しい。思わずため息が出る。


「なんてことだ……」


 幼き日にマリボルグで見たサーカスの曲芸を見ているようだった。肉切り包丁や燃え盛る松明を自在に回す芸人、空中に張られた一本のロープを回転しながら渡る踊り子。


「さすがはモンゴル人だ。あれに突撃しても敵うはずないな」

「コルト様! 早く指示を!」


 怯える兵士のすがるような声で正気に戻った。

 敵軽騎兵は騎射しつつ両翼のバリケードに接近。各バリケードともに300対100人。しかし、騎射しつつ近寄ってくるので真っ当に戦うことなど出来ないだろう。

 かといって、余裕が出来たとはいえ予断を許さない現状では中央の兵士を引きぬくことも能わない。

 そうなると一つしか方策は残っていなかった。


「……背後にいるフランクに伝えろ! バリケード沿いの敵兵を一掃だ!」

「はは、はぁ?」

「突撃だ! 騎兵をぶつけろ! リヴォニアの矜持を見せつけてやれ!」

「は、ははっ!」


 伝令が猛ダッシュで町の中心へと向かう。

 あれほどまでに突撃を拒んでいたのにいとも容易く突撃させるなんて朝令暮改も甚だしい。敵兵全部を引きつけに引きつけてから使うはずだった騎兵をここで使わされるとは。

 とにかく中央は盤石だ。これまで重騎兵700を引きつけた。弓騎兵が600ほどだから残りの兵数は700になる。だが、何かが決定的に違う。


「い、いや、待て、おかしいぞ」


 眼前に広がる敵兵の消耗具合からいって第1陣の半数を倒したのは間違いない。

 煙幕とバリケードまでにある遺体は50ほどで、バリケードの間際に転がる遺体の数は100体も無い。死んでいる明らかに人数が少なすぎる。死んだ人数は多く見積もって200ほどぐらいだ。

 そうなると計算が狂う。


「くそっ! さっさとこっちにきやがれ!」


 左右のバリケードは近寄らずに騎射をする敵兵に苛立っている。

 操馬術を褒めている場合では無かった。ほんの数分前の自分を叱ってやりたい。

 これまで相手していた第1陣の人数は400人。それに対して正面バリケードは800人で対等に渡り合っていた。

 今度攻め寄せて来たのは軽騎兵の300ずつ。騎射を繰り出して、のらりくらりと交わしながら戦ってくるだろうからまともな戦いになるはずが無い。かといって、弩兵を前線に回しても動く的に一人一人が当たったところで大した戦火は期待できないし、背後からの曲射で敵集団を一網打尽に出来くなる。

 それに、あの操馬術だ。左右どちらかの戦線を放棄して左右どちらかのバリケードへ重点突撃という芸当も簡単にこなしそうだ。そうなった場合は簡単にどちらかのバリケードは決壊。中に侵入されるだろう。


「リヴォニアとドイツの騎士たちよ! 立ち上がれ!」


 弩兵の更に奥から鬨の声が上がった。

 これには俺の心も少々休まった気がする。そのすぐ後だ。重大なことに気が付いた。


「ま、待て! 出撃させたら……」


 冷静になって考えれば分かることだった。敵の遊軍になりつつある弓騎兵に重騎兵をぶつけるのは最悪手である。

 しかも敵は総勢600人。たかだが200人の騎士では話にならない。


「コルト! やめろ! 頼む! 突撃は中止だ!」

「な、なんだなんだ?」


 戦の始まった正午から数えて30分ほど経っただろうか。早くも俺はズタボロである。

 全ては作戦通りに運んでいたはずだ。敵を引きつけてジリジリと消耗させる。間違った作戦では無い。

 しかし、どこで道を間違えたのだろうか。森の細い道の中を進んでいた時に奇襲を掛けなかったからか? いや、あの時の先陣には重騎兵1400が布陣していたから、突撃すれば騎兵を消耗したのみの結果だっただろう。


「くそっ! なんなんだ! 俺は何でここで戦っているんだ。なぜ俺がこんな目に遭わなければならないっ!」


 だったらどうしろというのだ。何もかも捨てて敵と会戦を挑めば良かったのか? それともなんだ。戦わずして国に帰ればよかったのか? そうすれば騎士団の名誉は地に堕ちるし、俺は破門されるだろう。

 ルブリンに籠城という手もあった。だが、他の各都市の貴族は兵を供出しているということもあるし、キプチャクハンの備えとして俺たち騎士団が派遣されているというのもあるから却下された。そう考えると、ポドルスキ卿は町を担保にしてのうのうと敵に寝返るために、俺たちを捨て石にしたんじゃないかとも思える。


「どうしたコルト、酷く顔色が悪いぞ。まぁ、理由は一つしかないだろうが」


 自問自答を続ける俺にフランクが肩に手を置いた。ガントレット越しに温かみを感じる。目を細めて微笑むフランクもこの戦いの結末を感じ取っているのかもしれない。

 それに、赤い鎧の男が指揮する重騎兵の900も残っている。最低でもこれを撃破しなければ勝ちにはならない。

 一応だが新兵器もまだ残っている。というか、勝利への一縷の望みはポケットに入っている新兵器である火薬の塊しか無かった。

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