What you looking for?
『あなたは何を探しているのですか?』
『ね。きみが、ありす、なの、かい。』
上から声がした。
ありすは上に目を向ける。
木にぶら下がり煙管をくわえている人(?)と目が合った。
深く、暗い青色の髪に
吸い込まれそうなほどに暗く、深い、綺麗な緑の目をしている人物。
そいつは煙管を口から外すと、木から降りてきた。そして長いコートを手で払い、細い銀のフレームの眼鏡を押し上げる。
『てまえ、ありす、だよね。』
そいつはもう一度問う。しばらくありすが黙っていると思いついたように眉を上げた。
『ぁ、ぼく、いもむし。……わたし、なまえ、いった。…あなた、ありす、だよね。』
…こいつ一人称と二人称が定まってないのか?
ありすは不思議な喋り方をするいもむしとやらと少し距離をおく。そんなこと気にせずにいもむしは、ありすをじっと見つめる。
『きさま、はなせない、の。』
「…っ!はなせる!」
ありすは無視するつもりだったが、あまりにも馬鹿にされた気がしたので思わず声を張り上げた。急にありすが大声を出すものだからいもむしは驚き目を見開き一歩後ずさる。その様子をみてありすは一つ溜息をつくと、落ち着きを取り戻した。
「…あぁ、ありすだ。それがどうした」
それを聞くといもむしの表情が少し明るくなる。いもむしはありすに顔を近付けた。そして煙管を口にくわえ、口から煙を吐き出す。煙がありすの顔面に直撃して噎せる。
『やっぱ、ありすだ、おぼえてた、よかった。』
そう言っていもむしは微笑んだ。ありすはいもむしの言葉に首を傾げる。急にいもむしは顔を曇らせた。不思議に思い、ありすはいもむしの顔を覗き込む。
『ありす、おれ、じぶんのこと、いろいろ、わすれちゃったんだ…。ひとのことも、すこしわすれちゃって。はぁとのじょうおうさまに、おこられた。』
「ハートの女王…?」
いもむしは悲しい顔をして俯いた。それより気になる事がありすにはあった。…ハートの女王。聞いたことある。
記憶の片隅にあるんだ。
昔懐かしいような。
ありすが考え込んでいると、今度はいもむしが顔を覗き込む。すごく心配そうな顔をしていた。ありすは焦って片手で口元を隠し、目をそらす。その様子をみていもむしは少し微笑んだ。
『ありす、も、なにか、わすれちゃったんだね、かわいそうに。』
そう言うといもむしは少し考える仕草をして、手を叩いた。いもむしは道の先を指差しありすをじっと見る。
『このさき、おちゃかい、してる。そこで、なにか、わかる、かも。ね。』
ありすはいもむしが指差した方を見た。大きな毒々しい色をしたキノコが沢山並んでいる。いもむしの方に目を戻すと、いもむしは木の上に戻り居眠りをはじめていた。これは先に進むしかないのか…と諦め、ありすはキノコが並んだ道に足を向けた。