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ゆめ うつつ

作者: 那津

ここは、どこだろう……?

闇の中に立っていた。

何も見えない。

ここに来る以前の記憶を辿ろうとしても、上手くいかない。

何度も試したが出発点は必ず、



――何時の間にか、ここにいた――



どうしようと途方に暮れていると、最初からあったのだろうか、ふと目の前の鏡に気がついた。

縁が金で装飾された、全身が映る高価そうな鏡。

そこに映る自分が、ニコリと笑って手招きした。



『アソビニオイデ』


迷うことなく一歩踏み出す。

鏡にそっと手を当てれば、ドンドン体が吸い込まれていく。

静かに、目を閉じた。




丘の上に立っていた。

前に進めば森が続いていて、後ろに下りるとどこかの国に着くのだろう、大きなお城とその周りに街が広がっている。

ここは、どこだろう……?

首を傾げていると声が聞こえてきた。

「大変、大変! 遅刻しちゃう」

どうやら声の主は、森を抜けて丘を上ってきているらしいがまだ姿は見えない。

「大変、大変! 街のお茶会に遅れちゃう」

やっと姿が見えた。

それ……いや、彼女はなんとも妙な格好をしていた。

頭には、ぴょんと空に伸びるうさぎの大きな白い耳のついたカチューシャ。足には、うさぎの後ろ足の形をしたフワフワの毛皮の大きな靴。手には、靴同様うさぎの毛皮の大きな手袋。そんな彼女は、その大きな靴でなんともやりにくそうにパタパタ走ってくる。

そして前を通り過ぎようとしたとき、思わず声をかけた。

「すみません」

彼女は相当急いでいるようで、くるりとこちらに顔を向けるとその場で足踏みしたまま止まった。

「ここはどこですか?」

すると彼女はニコリと微笑んだ。

「ようこそ、イカレタ国、クレイジー王国へ。私はパタパタうさぎのウサギです」

「イカレタ国……?」

「私はこれから街のお茶会に行くのですが、あなたもご一緒にどうですか?」

「お茶会……」

パタパタうさぎのウサギは手を取った。

「そうですか。ご一緒しますか」

「え、まだ何も」

ウサギは着ていた赤いチョッキのポケットから懐中時計を取り出した。

「いけない、あと3分48秒で始まってしまう。急ぎましょう」

ウサギはそのまま丘の下の街へ走り出した。それに引っ張られるように足を踏み出す。だが、たった2・3歩足を地に着けただけで、辺りが急に騒がしくなった。周りを見るとそこは既に丘ではない。

街だった。

店や家など様々な建物が立ち並び、噴水があり、人々が行き交っている。

「ここは」

ウサギは懐中時計に目をやる。

「大変、あと1分6秒!」

すると突然ウサギは今まで掴んでいた手を放し、空高く飛び上がった。

「え?」

立ち止まって目でウサギを追う。彼女はキレイな弧を描いて着地するかと思いきや、何時の間にかそこにいた馬にまたがる何者かに、チョッキの後ろ襟を掴まれた。

宙ぶらりんになっているウサギはじぶんを捕らえた男に言った。

「大変、お茶会に遅れるわ」

白い馬に乗っている彼は、重々しい鎧を着込んでいた。騎士なのだろう、腰には剣が差さっている。男が顔中を覆っている兜を脱ぐと、20代前半と思われる顔が現れた。

「大変、お茶会に遅れるわ」

繰り返すウサギを睨む。

「パタパタうさぎめ。毎日毎日街中を走り回りよって。目障りだ。俺が斬ってやろう」

そう言いながら右手で剣を抜く。

ウサギはにこやかに返した。

「ごめんなさい。お茶会に遅れるの」

そして上手いこと騎士の手から逃れるとパタパタと走り去った。

「あの……」

その騎士に尋ねる。

「ここはどこですか?」

すると騎士は面倒くさそうに、気だるそうに言う。

「ようこそ、イカレタ国、クレイジー王国へ。俺はこの国の騎士、ナイトだ」

どうやらこの国では、『ここはどこですか』と尋ねられると国の名を述べると共に自己紹介もするようだ。

「さっきのウサギさん、パタパタうさぎっていうんですか?」

「ああ。文字通り、24時間茶会のためだけに忙しくパタパタと走り回っている暇なうさぎだ。奴らは忙しすぎるあまり大抵短命だな」

するとナイトは馬の上から剣先をこちらへ向ける。

「お前は、よそ者か」

「あ……はい」

「よそ者はいろいろと面倒だ。斬ってやろう」

「え?」

「そうすれば、お前はいろいろとややこしい手続などをしないで済む。感謝しな」

「え、あの……」

ナイトが剣を振り上げた。

その時、鼓膜が破れるかと思うほど大きな爆発音が聞こえた。

驚いて振り返る。

ナイトは舌打ちして『また奴らか』と呟いた。

爆発のせいか砂煙がモクモクと立ち上がっている。その中に影が立つ。影が砂煙から出てきた。

一方は白いフード付きローブを着て、木で出来たゴツゴツの杖を持っている。その身なりからして、恐らく魔法使いだろう。

もう一方は、先ほどの魔法使いのローブの色が黒だということ意外は何も変わりはない。

白い魔法使いが杖を黒い魔法使いへ向けた。

「平和を!!」

すると白い光が飛び出す。

黒い魔法使いも白い魔法使いに杖を向けて、

「混沌を!!」

黒い光が飛び出して白い光とぶつかり、互いに四方に弾けて消える。

その光景を不思議に思い、ナイトを振り向いた。

「あの人達は?」

「白魔道士のホーリーと黒魔道士のダークだ。ライバルで、毎日ああやって“平和”だの“混沌”だの叫んでは戦っている、迷惑な奴らだ」

するとホーリーが叫んだ。

「この世に平和をもたらす、それが正義!!」

だがダークも負けてはいない。

「つまらぬ世に混沌をもたらす、それこそが正義!!」

そして魔法を使う。

互いに避けた魔法の光がたまに建物に当たってそれを破壊している。



―正義のためと知りつつも―



突如歌が聞こえてきた。



―犠牲を払うその正しき儀


それは真の正義なるか―



右を向くと、女がいた。

左目には眼帯、右目には星の絵を赤くペイントしている。右腕にリンゴの入ったカゴを提げていた。

「ここはどこですか?」

試しに聞いてみた。

答えはスグに返ってくる。

「ようこそ、イカレタ国、クレイジー王国へ。私は道化師のリンゴ売り、ピエロ」

彼女は微笑んでカゴからひとつリンゴを取り出すと差し出した。

「リンゴ、おひとついかが?」

見るとなんとも美味しそうに赤く熟れたリンゴだ。

「わあ、美味しそう」

「やめといたほうがいい」

ナイトが厳しく言った。

「え?」

ナイトはピエロを睨む。

「こいつの売るリンゴはたまにハズレがあって、毒リンゴが交じっている」

「ど……毒リンゴ!?」

ナイトはピエロに剣の刃先を突きつけた。

「目障りだ。俺が斬ってやろう」

ピエロはリンゴをカゴに戻すとニコリと笑う。

そして突然歌いだした。



―己の都合で全てを斬るか―



その歌は、初めて聞く歌だがかなり音が外れていることは明白だった。

だが気にせずピエロは歌い続ける。



―さすればいつしか己が斬られることよ


忙しきパタパタうさぎはそれゆえに命短し


己が正義と叫ぶ者達は


そのため犠牲を出すこと構わず


果たして彼らその重みに耐えれるか―



ピエロは意味ありげに微笑むと、音痴な歌声で妙な歌詞を更に街中に響かせ背を向けて去って行った。



―ここはイカレタ国、クレイジー王国―



そう歌いながら。

するとピエロの前をパタパタうさぎのウサギが『大変、大変。村のお茶会に送れちゃう』と言いながら走って行くのが見えた。

後ろでは、ホーリーとダークがいつの間にか空へ浮いて『平和!』とか『混沌!』とか叫びながら魔法で戦っている。

するとどうしたことかナイトが突然馬上から頭を下げた。

そっちを振り返って、ナイトが頭を下げている人物を見た。

その老人は、王冠を被って豪華な服を着込み、馬に乗っている。後ろには家来と思われる人を大勢連れている。

首を傾げて尋ねてみる。

「ここはどこですか?」

だが彼はチラリとこちらを見ただけで何も言わない。

するとナイトが睨んだ。

「我がクレイジー国の国王、キング王に『ここはどこか』と尋ねるとは、愚か者めが」

するとキングは目を合わせもせずに言った。

「国一偉いわしに自己紹介を求めるなど、恥を知れ」

その言葉に目を見開いた。

「どうして偉い人は自己紹介しちゃいけないんですか?」

遠くからピエロの歌が聞こえる。



―己が1番と他を見下ろす者は


いつしか天地がひっくり返ることよ


そして己の愚かさを知れば他に幸せか


知らねば己に幸せか


ここはイカレタ国、クレイジー王国


全てがおかしく、全てが正しい―



すると、ここへ来た時に見たあの全身が映る鏡がいきなり現れた。

中の自分が微笑んで手招きしている。


『カエロウカ』


ナイトとキングを振り返る。

「帰らなきゃ」

だが、ナイトが剣を向けた。

「待て。無礼者には謝罪あるのみ。身をもって詫びろ」

そして剣を振り上げた。

「え……?」

剣が勢いよく振り下ろされた。

剣は鏡を叩き割った。

鏡の中の自分は消え去り、鏡は粉々に飛び散った―――




目が覚めた。

ゆっくり身を起こす。自分の部屋だった。

朝である。いつもと何も変わらない。

しかし妙な夢だった。内容はハッキリと覚えている。

ゆっくりとベッドから出てテレビをつけた。ニュースを見れば、いつも通りの話題が流れている。

それをボーっと見ていると、電話がかかってきた。友達からである。

電話に出ると彼女は嬉しそうに言った。

「聞いて、今日好きな人に告白される夢見ちゃった」

「へぇ」

「今日は何かいいことありそうな気がする」

「夢なら、私もみたよ」

「どんな夢?」

思わず小さく笑った。

「あんなに現実味のある夢、見たことないよ」

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