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どうせ死ぬなら晴れた日に

作者: 丹羽凛

あんなに死にたかったのに。

自分でもわからないくらいにとても死に惹かれていた。

絶望?

そんなものはどこにもなかった。純粋に、ただ純粋に死というものが知りたかった。

結果ぼくは死ねなかった。

死ぬのがばかばかしくなった。


僕が死のうと決めた日は、あいにくの雨だった。それ程度では僕の決心は揺るがなかった。

部屋を整理し、最後に遺書を書くかどうか迷ったが、やめておいた。

何とかけばいいのか思いつかなかったからだ。

人生に疲れたわけでも、人づきあいが嫌になったわけでもない。

だから書く言葉などなかった。

靴を履いて家を出る際、一応「これまでありがとう」とだけつぶやいた。

玄関を出ると雨は僕の死を歓迎するように、強く強く地面をたたいていた。

ふと、話を思い出した。僕が生まれた時の話だ。親からは何度も何度も聞かされた。

その日も、強い雨だったらしい。

産気づいた母はすぐに救急車を呼んだが、結果的には救急車は間に合わず、家で分娩したらしい。

母は何度も誇らしげに話していた。

そんなことを思い出すと、急に母親に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

それでも僕は家を出た。傘は必要ない。びしょびしょになりながら僕は目的のビルに向かう。

そのビルでは以前も自殺した人がいたらしい。あくまで噂だ。

そのため、一種の心霊スポットとなっているらしい。屋上に幽霊が出る、と。

飛び降り自殺をしたら、地縛霊は落下地点にいるのではないかとも思うのだがなぜ屋上なのだろう。

そんなことを考えている自分が少しばかばかしくも思えた。

その噂のおかげで、屋上へと続く扉の鍵はマナーのない連中によって壊されている。

だから僕はそこを死に場所に決めた。

ビルに着いたころには、全身びしょびしょだった。そのままビルのわきにある非常階段を登っていく。

一段一段進むにつれ、足が重くなる気がした。

それでも僕は足を止めることなく登り続けた。

そして屋上の前までたどり着いた。

僕はドアノブに手を伸ばし、そのまま右へ捻る。

あっけなく扉は開いた。

そして僕の目の前に殺風景な屋上が姿を見せた。ただ一つだけ除いて。

それはあまりにもそこに似つかわしくなかった。

木でできた看板だった。

僕はそれに近づき目を走らせる。

「生まれる日は自分じゃ決められないなら、せめて死ぬ日ぐらいは晴れた日がいいじゃないか」

たったそれだけの看板がぼくの心を、決心を一瞬で壊した。

それは見事なまでに粉々に。

それだけの話。ただそれだけの話。


晴れた日に行けばよかった?

そうは思わない。

きっとまた変わらず看板がある。

「雨のほうが雰囲気でない?」

やっぱり死ぬのはばかばかしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雰囲気がとてもいいと思います。 文章の端々から滲み出る神秘的な雰囲気が、とても好みです。
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