第3話 ユウシャヲコロス、チカラ。
――怪物の森にて。
テント内、リロテット国軍の将官たちは杯を交わして話していた。
「まったく、戦というのはこんなに簡単に勝てるものだと思いませんでしたな?」
「まったくだ」
「アスタリア帝国の者たちが可哀想ではないか」
「こんな小国に無様に負けてしまうとは」
彼らは既に勝ったような口ぶりで話している。
リロテット国は十数年前に農民の反乱によってできた国であり、アスタリア帝国の10分の1にも満たない領土しか持っていなかった。
1人が言う。
「これも『勇者』様のおかげです」
「感謝しますぞ、『勇者』様」
その男の目線の先には、異様な男が1人。
背は将官より低く、横は将官の倍はあるほど太っている体躯だった。
何より目立つのは鎧。
目が眩むほどの金でできており、強者と馬鹿しか着ないようなモノであった。
『勇者』は言葉を発する。
「ぼくのおかげだよね、ほんと…」
「コヒッ…これ以上攻める必要あるの?」
すると、隣に座っていた将官が耳打ちする。
「帝国には、数多の美女がいます」
「ここで攻め落とせば、すべて『勇者』様のモノ…ですよ」
『勇者』は目の色を変える。
「明日もぼくにまかせてよぉ…ブヒュッ」
「この『愚民ども、我にひれ伏せ』を使ってねぇ…ヒヒッ」
『勇者』は鼻息を荒く答える。
鎧を纏った筋骨隆々の男、将軍が椅子から立ち上がる。
そして一言。
「我らの勝利に乾杯を。」
将官たちは杯を上に上げる。
“我らの勝利に乾杯を。”
夜は更けていく。
同時刻に若い将官が1人、ランタンを持って見回りをしていた。
「まったく、ひでぇよ…」
「将軍の息子なのに見回りとかさせやがって」
愚痴を吐きながら歩いていく。
「気味が悪いな」
将官が宿舎に戻ろうと踵を返す。
瞬間。
視界が前に倒れる。
「 え」
なんで、分からない、視界が、思考が、あ、意識、飛ぶ――
[ゴトン]
森の中で1人、助けも呼べず死んでいく。
「ふぅ、とりあえず処理したけど」
ハレトは死体に近づいていく。
若い将官のようだった。
ハレトは倒れた胴体の服の中を探る。
数分後、彼が見つけたのは名札だった。
ハレトは名札を取り、とある木のウロに死体を投げ捨てる。
ハレトは両手で自分の顔を覆い隠す。
そして、こう言った。
[アルクテッド=リーク]
それは死体の名札に書かれた名前だった。
瞬間、彼の周りの空間が歪む。
みるみるうちに顔や体型が変化していく。
顔を覆っていた手を外す。
そこにいたのはハレトが殺した若い将官だった。
彼は魔法を使えない。
これは、とある道具による力だった。
――『万面』。
魔王が作った7つの呪具の内の1つ。
特定の動作を行う事で、名前を言った者の姿に変化する事ができる。
だが、一度装着すると二度とは外せない。
また、使用者が殺した相手にしか変身する事ができないという縛りがある。
ハレトは自身の服を隠し、将官の服を着る。
彼は手鏡で顔を確認する。
「よし、いくか」
落ちているランタンを拾い、敵の野営地に行くのだった。
深更、ハレトは野営地へ来た。
見張りの兵士はいるが、多くのテントの光は消えている。
明日の戦に備えて休んでいるようだった。
彼は見張りに出会わないよう、静かに移動する。
彼はリリスに教えてもらった『勇者』のテントへと向かう。
目的のテントを見つけた。
だが、見張りが多く、仮に運良くいけたとしても、『勇者』に勘づかれて殺されてしまうのがオチだ。
その時、何かがテント内に連れて行かれるのを見た。
同時にテントから将官たちが出てきた。
その中でハレトは1人の人物に目をつける。
アルクテッド=ラース――今回のリロテット国側の指揮官である。
そして、アルクテッド=リークの父親となる人物である。
彼なら、見張りや『勇者』に疑いなく近づく事ができると判断した。
彼が自身のテントに入る直前、ハレトはリークとして話しかける。
――親父、今いいか?
「ここでは指揮官と――」
――森で見回りしてた時に敵と遭遇してさ。
ラースの血相が変わる。
――何とか殺したけどさ、そん時これを拾ったんだ。
ラースに、ある紙を渡す。
「これは…この森の地下にある通路の地図!?」
それは、ハレトが事前に作った偽の地図であった。
「帝国め、奇襲を仕掛けようと…」
ラースはリークの頭を撫でる。
「でかしたリーク!」
ハレトはカマをかける。
ハレトは地図を取り、
――その地図が本当に正しいのか、確認しに行ってくるよ。
ハレトは森へと向かおうとする。
ラースが肩を持つ。
「いや、私も行こう」
釣れた。
――分かったよ、親父。
ハレトはラースを案内する。
リークを殺した場所へと。
ハレトはリークの死体がある木まで案内する。
――たしか、この近くだったような。
ラースは地図にある木を見つけると、
「この木のウロの中に――」
ラース、覗き込む。
[グシュッ]
ハレトは剣で背中を刺す。
ラース、振り向く。
正面を向いた刹那、左首から斜めに斬り落とす。
「な…ぜ ぁ」
体が崩れる。
ラースはハレト腕を掴もうとするが、届かない。
――ゴメンよ、親父。
その言葉を最後に、ラースの意識は戻る事はなかった。
リヒトはそう言うと、リークの変身を解く。
ラースは最愛の息子とともに、光の届かぬ木のウロへと捨てられた。
俺は『勇者』を殺す。
ハレトはアルクテッド=ラースへと姿を変え、『勇者』の元へと向かう。




