第2話 ザンコクナ、ゲンジツ。
ハレトは帝都の街を歩いていた。
何度も見てきた風景。
国民は徴兵され、人通りが減っても変わらない笑顔。
彼らは国が何度も戦争に負け、領土が失われ食べる物が減っても、苦しみを表に出す事なく強く生き続けてきた。
無力感、後悔、申し訳なさで胸が痛くなる。
ハレトは何度も己に問いかけてきた。
――いつまで神に救いを求めているのか、と。
いない『勇者』の事を考え続けてきて、守るべき国民を失い続けてきて。
たしかに『勇者』は最強であり、国が総力を挙げて戦っても勝利できるかは分からないのかもしれない。
だが、『勇者』は『無敵』ではない。
――『勇者』がいないのなら、
――神の戯れで帝国を蔑ろにするなら、
――神が苦しみながらも生き続ける国民を救わないのなら、
「神に仇なす怪物になってやる」
夕陽が照らさない裏路地へ、ハレトは迷わず進む。
ハレトが来たのはランタンの灯りが照らす古物商の店だった。
店の扉を開けると、客は相変わらずいない。
ただ、腰の曲がった老婆が店守りをしていた。
「いらっしゃい…」
「何をお探しで…?」
ハレトは、
「『孵るべきは己の覚悟』」
と。
老婆は入口の表札を[OPEN]から[CLOSE]にし、ハレトを奥のドアへと案内した。
表の狭い店内と比べ、そこは円卓の机があるだけの簡素で広い部屋だった。
老婆は指をパチンと鳴らすと、姿がだんだんと変わっていった。
胸や背丈が徐々に大きくなり、肌もそれに伴うように若返っていった。
そこには、銀髪でショートボブの麗しい女性がいた。
頭には小さくツノが生えている。
「相変わらず美しいな、『リリス』」
「そんな事言ったって、安くならないわよ?」
彼女は妖しく微笑む。
『リリス』――サキュバスと呼ばれる種族の悪魔の長であり、魔王軍の幹部である。
彼女は現在『情報屋』として活動している。
彼はリリスに訊く。
「リロテット国の『勇者』は、今何処にいる?」
「えっとねぇ…」
リリスは、再び指を鳴らす。
すると、円卓上にあった地図に赤い印がつく。
「ここよ」
そこはナートバ高原の横に広がる『怪物の森』と呼ばれる森だった。
「『怪物の森』かぁ、厄介だな」
ハレトは右手を顎に当て、考え込む。
「貴方なら大丈夫よ」
リリスは余程暇なのか、ハレトに抱きついている。
しばらくした後、ハレトは言う。
「今夜中に『勇者』を殺す」
その目に迷いは一切無い。
ハレトは円卓上の地形を頭に叩き込むと、ポケットから金貨を数枚出して置いた。
「今回は羽振が良いわね」
「今日死ぬかもしれないからな」
彼は笑いながら言う。
「俺が死んだら、遺骨の回収頼むわ」
彼女も口に手を当てて笑い、こう言う。
「マンドラゴラの肥料にしてあげる♡」




