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査定社会

作者: 舞茸 満
掲載日:2026/02/28

これまでの人生が、老後の生活を左右する!?そんな価値基準が持ち込まれたら。あなたのことは神様が見ている…いや、AIが見ているのかも。

「納めた分、返せ!」


老人は大変な剣幕で怒鳴りつけた。

目の前には若い男性がいる。


「制度です」


目も合わせず、男性は取り合わなかった。代わりに、パソコンに何かを入力した。


総理官邸


総理の大川、国保庁長官の成田は

「国民生活保障手当」(通称国保)の支給見直しについて議論していた。


成人後40年間、毎月一定の金額を納付する事で、60歳以降は生活保障の為に手当が支給される制度だ。


少子高齢化により、60歳からの国保支給開始を遅らせる措置を採っていた。


成田は言う。


「制度はもはや破綻寸前です」


大川は目を閉じた。


「全く新しい制度を考えねばならんな」


大川は、一人の技術者を呼んだ。名は竹上。国保金制度を維持しつつ、国民が「平等」に受給出来る、新しいアイデアを求めた。


「一度持ち帰らせて下さい」


竹上は部屋を出た。


「頑張っている人が、報われる社会でなければなりません!」


政権与党の広報車が走っていく。


竹上は、早速新しい制度構築のためのプログラム作成に着手した。竹上はAI開発をはじめとしたIT技術者である。


「支給開始年齢を繰下げず、平等に支給をする…」


竹上は総理直通の電話番号に連絡をした。


「新制度では、国民を『査定』します」


「これまでの社会貢献度を評価の中心とし、税金の納付状況なども加味します」


「それまでの『人生』の査定です」


竹上は受話器を置いた。


国保支給対象者は、全国の国保事務所で支給手続きを行う。そこで、職員から支給額を伝えられる。


「おかしいだろ!」


「こんなにいただけるのですか…」


様々な声が飛び交う。


高額納税者、社会事業に参画した大手企業経営者、権力者であっても、社員へのハラスメントや街中での恫喝行為、煽り運転などがあれば「平等」に減額される。


「おかしいだろ!」


「今の言葉は減額要因に該当します」


職員はパソコンのキーボードを叩いた。


[カスタマーハラスメント行為追加:暴言1件]


怒鳴った老人は、その場に崩れ落ちた。


「新・人権保護法」という法律が施行され、いわゆる「迷惑行為」には厳罰を科す。弱者救済を色濃くし、「健全」な社会構築を現政権は目指している。


「こんなにいただけて…」


その女性は、長らく病気の夫を支えながら、地域の活動にも参加していた。


[地域貢献活動:30年]

[介護:15年]


[国保支給増額要因該当者]ニ決定スル


「ちょっと!何だいこれは!」


大幅減額と認定された老婆が怒鳴る。

職員は表情を変えずに言う。


「あなた先日、バスを待つ親子連れの列に割り込みましたね」

「他にも、地域で度々迷惑行為が記録されています」


[地域迷惑行為該当:82件]

[家族への心理的虐待:嫁イビり20年]

[児童への迷惑行為:48件]

[カスタマーハラスメント行為:件数超過]


[国保不支給要因該当者]ニ決定スル 


地域や施設の防犯カメラ映像とも連携しており、対象者が街頭で迷惑行為を行なえば、それらは全て、データベースに「マイナス要因」として記録される。


未来を支える子供、若者に対する威圧、迷惑行為は即時「国保不支給決定」となる。



「インチキだ!」


[暴言:カスタマーハラスメント1件追加]

職員はパソコンに入力する。


「あなた、飼い犬の糞未処理、登下校の子供達への恫喝、自転車の逆走行為…」


「厳しい査定となります」


職員がEnterキーを押す


[迷惑行為件数超過:国保金追加納付命令]


「貴様が決めるな!」


気色ばんだ表情の老人が言う。


職員は


「私ではありません、AIです」


「あなた、減額要因超過により、本人が納めた国保金元金がマイナスです。」


「負債になります。追加納付、もしくは義務労働をお選び下さい。」


「ご本人の選択ですので、「強制」ではありません」


屈強な男性が2名現れ、老人を連れ去った。


官房長官の定例会見


「カスタマーハラスメント件数が激減しました。前年比92%減です」


「大川政権では、ハラスメントには厳しく対応します」


総理は竹上を官邸へ呼び出した。


総理は、善行が国保支給額増額要因になる事が知れ渡ると、偽善者増加を招き、結果、財政悪化に繋がる事を懸念していた。


「人の内面も全て、AIが監視しています。ご安心下さい」


ニュースや新聞は、ハラスメント激減を新制度の成果として連日伝えていた。


高齢者のみならず、未来の高齢者すなわち現役世代も査定が積み重ねられるからだ。


駅員「恫喝が減りました」


営業マン「無理な値引きを求められなくなりました」


飼い犬の餌や家畜の肥料でさえ、品質を落とすことは許されなくなった。


「綱吉だな…」


大川総理は苦笑いをした


国保事務所


「しっかり納めていたと思いましたが…」


初老の男性が頭を掻いていた。


職員がパソコンを確認する。


[偽善行為:46件] 


偽善行為は厳しい国保金支給減額要因だ。 

カーソルを下に送る。


[災害支援活動:46件]

[内訳:炊出・物資配布他、支援活動多数]


Enterキーを叩く


[判定結果:Error]


職員は上司の元へ駆け寄った。


「あの方、漫才コンビ『ケンイチ・コータロー』の、上野健一さんです」


上野健一は、かつて一世を風靡した芸人で、今は篤志家としても有名だった。


「どうも、被災地支援での彼の言動を問題と判定されたようです」


「『俺のやっていることは偽善だ』と」



竹上は、今回の件で総理官邸に呼ばれた。


「申し訳ありません、誤判定です」 


「『偽善』という言葉に反応しました」


同席した国保庁長官の成田は


「システムとしては、正しく機能していたわけですな」


大川総理は


「『偽善』と言いながら『善』を為す。言葉の裏までは読めなかったか…」


システムの抜本的な見直しと精度向上を約束し、竹上は官邸を出た。


「判断とは、難しいものだな…」




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― 新着の感想 ―
視点が面白いですね、ショートショートとして完成されています!!
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