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序章
狭い小さな暗い部屋。
闇に溶けるように静かに窓枠に腰掛けた少女は、そっと唄を紡ぎだす。
〜♪
大都会の中心部のマンションの13階、その少女は1人謳う、悲しい唄を。ちょうど陽が隠れた時、唄も止んだ。
まだ15歳の少女が1人で暮らすにはそのマンションはあまりに豪華すぎた。また少女が纏う服も、年頃の少女が着ているようなそれではなかった。黒を基調とした柔らかな布にふんだんにレースをあしらった、いわゆるゴシックロリータ。大都会の一角で、その部屋だけが取り残されたように他とは違っていた。
歌うのを止めた彼女は手元にある封筒にちらりと目をやって小さく溜息をついた。
『闇陰 美霊様』
整った明朝体が踊っていることから、一目でそれが彼女の父からだと分かる。
「あの、糞親父っ」
小さく毒づいて、美霊は中身を確認もせずに封筒をゴミ箱へと投げ捨ててから、カレンダーを眺めた。
4月5日………。
明日から高校が始まる。