水の音がする
ぴちょん……
ぽちょん……
水の音がする。
静かな夜の1DKアパートに、どこかから水が滴る音がしている。
お風呂の蛇口、締めかたが緩かったかな?
か弱いあたし、力がないからなぁ……。
確かめに行くと、ちゃんと閉まってた。
っていうか、水の音は小さくなって、後ろのほうから聞こえてる。
キッチンかな? と思ったけど、それなら音はアルミのシンクに当たって『ぼとっ、ぼっとん』なはずだ。そしてやっぱり流し台は静かだった。
居間に戻ると、音がはっきりとおおきくなった。
同居ネコの白丸くんが上のほうを見つめて固まってる。
彼の視線を追って、天井を見て、あたしも固まった。
そこにずぶ濡れの白い女のひとが、いた。
隅っこに磔になった蜘蛛みたいな格好で、濡れた黒髪を垂らして、ぎろりとあたしを睨んでる。
水は彼女の髪や白い着物から滴っていて、あたしのベッドに向けて落ち、でも途中で異空間に吸い込まれるように消えていた。そして水の音を立てる。
ぴちょん……
ちゃぷん……
もちろん怖かったけど、勇気をだして、笑顔で話しかけてみた。
「こ……、こんばんは」
すると女のひとの表情が変わった。
びっくりしたような顔を一瞬すると、まんざらでもないみたいに少し笑ってくれた。
よかった。
なんだか悪いひとではないみたいだ。
それにあたしは他人の彼氏を寝取った覚えもなければどんな恨まれることしたつもりもない。このひとに呪い殺されるいわれもない。
困るんだよねー。
せっかく見つけたこのアパート。ペット可でここより安いとこ、ないんだから。
出ていかされてたまるか。
「へー……。以前、この部屋に住んでた方なんですか」
ミニテーブルにお茶を置くと、彼女は悔しそうに、でもちょっと嬉しそうに、飲んでくれた。
「なるほどなるほど……。この部屋の浴室で、悪い男に殺されたんですね?」
「そうなのよ。もう、うらめしくて、うらめしくって……」
どんどんフレンドリーになってくれる。
「でも、あたしは無関係ですよね?」
「……ごめん。でも、地縛霊だから出て行けないの。ごめんね」
同居人が増えた。
白丸くんも仲良くしたがってるように見える。
まぁ、人間と違ってネコみたいなもんだ。
しかもネコと違って会話ができる。
何より──
よし。
明日、大家さんにかけ合って、家賃を激安にしてもらおう。
ラッキー☆