煽動者アジテーター
ルガットの集会を見事に壊滅させたロキシリアとイデュイア。
護送車での帰路。
自宅に近づくとリビングには未だ灯りがついているのがわかった。
どうやら花音が起きているようだ。
護送車の到着とともに玄関のドアが開く。
護送車の扉が開き、降りてきたロキシリアを見た瞬間、バタンッという音と共に花音は気絶して倒れてしまった・・・。
翌朝・・・。
昨夜の出来事が何も無かったかのように目覚めるロキシリアとイデュイア。
自室から一階のリビングへ行くと、灯りが点いていない。ダイニングの明かりも点いていない。
勿論、朝食もできていない。
珍しくイデュイアが二階に駆け上がり、花音の元へと行った。
イデュイアは昨夜、花音が倒れたことを思い出したようだ。おそらく心配をしているのだろう。
顔を合わせるたび、お互いに口喧嘩をしているのに、実は仲が良いのだとロキシリアは思った。
「おい花音! いつまで寝ている! 朝食とお弁当が無いではないか!」
二階の花音の部屋からイデュイアの罵声が聞こえる・・・。
イデュイア・・・。
鬼畜だな・・・。
「ただいまぁ」
律が帰宅。
「おかえり。夜勤だったの? お疲れさま」
「昨夜の収用した患者がね・・・」
「ああ、拉致られていた人間?」
「人間って・・・。まぁそうだけど・・・」
律は一人暮らしをしていたが、花音が離婚したので、先週より共に暮らしている。
「そうそう、姉さんが倒れたんだって?」
「俺たちが帰ってきたと同時に倒れちゃってさ。まだ寝ているのにイアが起こしに行っちゃった」
「あらあら・・・」
すると二階からスタスタと小走りに花音が降りてきた。
「ロキくん!」
ロキシリアに飛びつく花音。
「良かった! 無事だったんだ! 血まみれのロキくんを見て気を失っちゃったよ! 怪我はない?」
「大丈夫だよ。母さんは大丈夫? 顔面から行ってたよ? 鼻血の跡があるし」
「うん大丈夫。ロキくんのシャツで拭いてる」
花音はロキシリアのシャツに顔を押し付けている。
「離れろ花音!」
「離れなさい姉さん!」
イデュイアと律が、母さんから俺を解放してくれた。
人間って、めんどくさい・・・。
〜・〜・〜・〜
先日のルガットへの襲撃以来、奴らの動きが全く無くなった。
日本でも大きなコムーネがいくつかあるが、ロキシリアとイデュイアが殲滅をしたのは末端のコムーネのようだ。
最近ではロキシリアたちの住むエリアでは人間の失踪事件は無いらしい。
日曜日や休日には遠方まで足を伸ばし、繁華街や大型ショッピングモールにも行ったが、ルガットたち特有の嫌な匂いはしない。
「平和なら良いことだね・・・」
「ロキ? どうしたの?」
「ううん。なんでも無い」
「変なロキ、オジサンみたいね」
花音の運転する車の後部座席でロキシリアとイデュイアが寄り添って話している。
「ねえ。ちょっとアンタたち! 離れなさいよ! イライラするんだけど!」
「ねえロキ、母さんは何をイラつているのかしら?」
イデュイアがそう言ってロキシリアの首に腕を回し、ロキシリアの頬と自分の頬を合わせている。
今にもキスをしそうな距離になっている。
「ちょっと! 離れなさい! 母さん許さないわよ!」
「ちょっと母さん、前を見て。イアは離れて。母さんで遊んじゃダメだよ。運転中は危ないよ・・・」
「はいはい」
イデュイアは楽しそうにロキシリアの頭にキスをした。
そして郊外にある大型アウトレットモールに到着。
最近の花音は毎日のように車を運転しているため、運転が上手になってきている。
車庫入れもほぼ一発で白線の中心に入れている。大きな車なのに素晴らしい技術だと思う。
「母さん車の運転が上手くなったね」
「えへへ。ありがとうロキくん。大きい車から私みたいな小柄な女性が降りてくると、余計にかっこいいでしょ?」
「うん、チュウヒから降りてくるとカッコイイよ」
「あはは。車の名前は訳さないでいいよ。ハリアーでオッケーだよ」
「うーん。日本語、難しいね・・・」
立体駐車場からアウトレットモールへのエレベーターに向かう途中、独特の嫌な匂いがする。
ロキシリアとイデュイアは気が付かない振りをし、そのまま通り過ぎた。
エレベーターに乗ると同時にイデュイアはロキシリアの正面に立ち両腕をロキシリアの首にまわす。
「うふふ・・・。見つけちゃったぁ・・・」
イデュイアは虚な目をしてロキシリアに言った・・・。