狼人族の証タトゥ
FLOS高等学習院への挨拶が終わった二日後。
ロキシリアとイデュイアは初登校を始める。
日本では高校での編入生や転入生は、ほぼ無いに等しい中に現れた二人。
しかも彼之森之国よりの外国人という事もあり、目立つことは間違いなさそうだ・・・。
FLOS高等学習院、学園長室。
「初めまして、ロキシリアくんのクラスを担任している片桐だ。宜しくな」
「初めまして、こちらこそ宜しくです」
「初めまして、イデュイアさんのクラス担任の森です。宜しくね」
「初めまして」
イデュイアは少し不機嫌なようだ。
実は今朝、ロキシリアが寝坊をしたことが原因のようである。
「それではお二人さん。担任と一緒にクラスへと向かって下さいね。それから放課後は帰宅前に必ずここへ顔を出して下さい。これは私の日本国の管理下としての職務なので協力して下さいね?」
「はい」
ロキシリアとイデュイアは声を揃えて返事をした。
そして学園長室を後にした二人はお互いの教室へと向かう・・・。
「なあ村沢、お前の母親って村沢 花音だろ? 俺と村沢はこの高校の同級生でさ、アイツは相変わらず小さくて、ギャーギャー騒いでいるのか?」
「アハハハハ! 全くその通りですよ! 今朝もイデュイアと口喧嘩をしてましたね!」
「やっぱりそうか! アイツも黙っていれば淑女なんだけどな、アイツは一言一言が辛辣だからな・・・」
「片桐先生、母さんをわかってますね。あの人、俺とイデュイアの前で葵と喧嘩してそのまま離婚しましたからね」
「はぁ!? 葵って望月 葵か?」
「そうかぁ。あの二人が結婚したとは・・・」
「いやいや、離婚しましたよ?」
「あっあぁ・・・」
一方、イデュイアは・・・。
「村沢さん、律さんのお姉さんの家で暮らしているんでしょ?」
「ええ、そうですわね」
「その、律先輩とは会うことってある?」
「森先生は律の後輩でいらっしゃるの?」
「ええ。実は私もこの高校の卒業生でね、律先輩とは同じバスケットボール部にいたの。律先輩はカッコ良かったのよ」
「うふふ。そうでしたの? 今の律は残念な変態女子ですよ?」
「えっ? 変態女子?」
「用もないのに家に来て、ロキの寝顔をコソコソとのぞいたり、ロキのシャワー中をスリガラス越しにジーッと見ている変態さんですわよ?」
「はぁ!? まさか!?」
「残念ながら、そのまさかですわ」
森は立ち止まり、放心状態となってしまった・・・。
〜・〜・〜・〜
休み時間。
「なあ村沢、日本語がめちゃくちゃ上手いな。勉強を頑張ったんだな」
話しかけてきたのはロキシリアの前に座る、宮部 順一。
「ありがとう。俺も姉さんも色々な国に行くから、そこそこ話せるように教育は受けていたんだ。でも、日本の地理と歴史は世界で一番難しいよ。特に地名だね。漢字が難しすぎるよ」
「あはは。漢字は日本人でも難しいぜ。漢字の検定試験があるくらいだからね」
「俺に漢字検定試験は無理だな・・・」
「初めまして、村沢くん。私は浜田 波瑠、宜しくね」
「ハル? 綺麗な名前だね。素敵です。俺は村沢 ロキシリア・フェンダー。宜しくね」
「ィヤだぁ。綺麗なんて初めて言われたんだけど! 嬉しいんだけど!」
「ところで、村沢は兄弟はいるの?」
「俺はフェンダー家の三男。この前の戦で、両親と兄さんたちは死んだから、今は俺が家督を継いでいる」
「ご、ごめん! 知らなかったとはいえ、申し訳ないことを聞いた・・・」
「順一、気にしないで。死んだのは俺の家族だけじゃないよ。今はトランセルヴェニアの血筋は絶滅危惧種だよ」
「ねぇ、お姉さんが二年生にいるんでしょ? どんな人?」
波瑠が興味津々な表情をして聞いてきた。
「イデュイア・エピフォン。フェンダー家の親族で俺の大事な人だよ。綺麗な人だけど、ちょっと残念なところもあるかな」
「本当のお姉さんじゃないの?」
「フェンダー家とエピフォン家はトランセルヴェニア王の血筋でね、お互いに家族みたいなものだよ。公爵家って意味はわかるかな?」
「ヒョー! 貴族かよ!?」
順一と波留は ヒョー! と言うところから声を揃えた。
「今の時代に爵位なんてないよ。今はルーナニア領だからね」
まさか彼之森之国が戦闘民族とか、リュカスの民が狼人族なんて言えないよな・・・。
「ねえ村沢くん。私は原野 美梨。クラス委員長だよ」
「初めまして」
「その、言いづらいんだけど。手首から模様が見えるけど・・・」
どうやら狼人族のタトゥに気がついたみたいだ。
「あぁ・・・これは部族の証で、出生と同時に彫られるんだ。左手首から左胸まで彫られている。なるべく目に付かないようにするよ。今日は許してもらえるかな?」
「ご、ごめん。私ったら興味本位で・・・本当にごめんなさい・・・」
何?
そんな恐縮することか?
その後、原野クラス委員長の計らいで、ロキシリアの故郷、家族のことは聞かない事にしようとなったようだ。
いや、小声で結託をされても聞こえていますよー?
狼人族の聴覚を舐めるなっての!