彼之森之国トランセルヴェニア
月が妖艶に輝く夜
星たちの輝きは満ち潮となる
風と共に現れる物怪
歪みより現れる物怪
物怪が人の生き血や肉を喰らう
リュカスの民は爪を研ぎ
リュカスの民は牙を研ぎ
森の彼方の国は救われた
〜・〜・〜・〜
目が覚めると硬い床で仰向けになっていた。
途切れ途切れの記憶。
起きあがろうとするが、腹に力が入らない。
入口と見られるドアはスライドドア。
ベッドや洗面台もある。
病院か?
俺は横向きになり、床に手をつく。が、体を支えるための手はヌルっと滑った。
輸血に使用するような袋が破けて、血液が床にこぼれていたようだ。
どうやら俺から血を抜いていたように見える。
「言ったとおりですね。僕の血は赤いようですよ? 僕は人間で確定のようです」
何のことだ?
俺は何を言っているんだ?
自分で話しておきながら、解釈に困っている自分がいる。思わず血まみれの手で、頭をかいてしまった。
頭をかいた左腕の内側に、白い模様がある事に気がつく。
俺は節々の痛さを我慢しながら立ち上がった。
「なんで僕は裸なんだろう?」
ん?
「僕? 何で僕?」
頭の中での一人称は俺と言ったはず。
「僕…」
「僕、僕、僕!」
俺! と言ったはずだが、口から出る言葉は僕。
「これは一体、どういう事でしょうか?」
???
今は 何だこりゃ? と言ったはず。
「それにしても、何故、僕は裸なのでしょうか? そしてこの場所は一体、何の施設なのでしょうか? ふふっ、そして何故、丁寧な言葉で話しているのでしょうか?」
訳 : んなことより、何でワシはマッパなん? てか、ここはどこなん? ギャハハハ! なんなんだよ、この丁寧語!
と言ったつもり。
「ふふっ、これは困った事になりました。 まるで気分が悪くなるような言葉使いですね」
訳 : ギャハハハ! 何なんだよ、自分で言っていて気持ち悪いんじゃね?
すると入り口の扉からノックが…。
「リュコスの民よ、入ってもよろしいかな?」
「ふふっ」
↑
いまだにギャハハと笑っているもよう。
ん? リュコスの民?
俺のことか?
俺の返答を待つでもなく扉は開いた。
おいおい、俺が着替え中だったらどうすんだよ・・・。
あ・・・。
俺、マッパじゃね?
入って来たのは二人の男と女が一人。女は偉そうな太った男の後ろに隠れている。
「ずいぶん暴れたようだが、どうやら成功したようですね」
太った男が片方の男に言う。
「はい。では村沢くん」
太った男の背後から村沢と呼ばれた、小柄な女が現れた。
顔を真っ赤にしながら俺の口に体温計を差し込み、血圧を測ってる。
ピピッとなる音と共に体温と血圧の測定は終わった。
「もっ望月さん、こっこれを両目に当てて下さい」
そう言って軍隊が使う暗視スコープのような物を俺に手渡した。
「あっ、ちがっ違くて、こっこうです」
俺は逆さまに装着していたようだ。
ピピッとなり、測定は終了。
「簡易測定が終了しました」
村沢はそう言って太っちょに三枚のレシートのような物を手渡した。
「おお。視力が16.0!」
「嬉しそうにお話をしているところ申し訳ありませんが、僕の状況を教えてもらえませんか?」
訳 : あんたらさ、今の状況が何なのか教えろよ!
と言ったつもり。
「素晴らしい! 言葉遣いも丁寧だ!」
おぉーい! ガン無視するんかーい!
男二人が握手をしながら喜んでいる。
「それじゃ村沢くん。あとは頼んだよ」
「はっはい・・・」
男二人が部屋を出ると、村沢は俺をチラ見し、持っていた安っぽいブリーフケースで顔を隠した。
「あっあの。もっ望月さん」
「何でしょうか?」
「ふっ服はどうされました?」
ん?
ウッヒョーー!
そう言えば俺、マッパじゃんよ!?