一路平安
無名が仏頂面で真偽と蒼輔のやり取りを見つめる横で、家鳴真事はうんうんと頷いていた。隣に立っていた修司の袖を引き、顎だけで初々しい二人を指し示す。
「見な、修司。あれが、啖呵切って婚約まで交わした後になって、ようやく恋心に気づいた男女の姿だよ」
「真事さん、たまにえげつないくらい容赦ない言い方しますよね……」
責めるような声音に、心外だなと眉をひそめた。
「何を言っているんだ。私は感心してるんだよ。あんな絶滅危惧種みたいな恋愛する人間が、この現代社会でどれほど残っていると思っているんだ。そもそもあれ、浅海くんのほうは自覚があるかも怪しいよ。婚約までしたのに。婚約までしたのに!」
「興奮するのをやめろ」
べし、と頭をごく軽く叩かれる。
「あとそれ、褒めてるつもりなら感性が相当ずれてますよ」
「今更だろう、私の感性の話は」
「開き直るんじゃない」
けらけら笑って、真事はふと、真偽と蒼輔を嫌そうな目で見ている無名に視線をやる。
「ねえ、君。すごい気まずそうだけど、あれ、多分これからずっと続くから、覚悟しておいたほうがいいよ」
ぎろ、と睨まれても、真事は笑い続けた。神威を浴びてもちっとも怯えない姿に、修司のほうが慄いている。
だが、今の真事は無敵なので、気にすることもなく笑い続けた。
「なんかよく分かんないけど、あの子たち、もう相手のために命懸けちゃったんだろう? 恋愛なんかよりずっと重いことしちゃってるのに、今さら普通の恋愛みたいに、着実にステップを踏んで親密度を高めていくとか、できるわけないよ。ずっとああだろうね、あの二人は」
「ちょ、あの、真事さん、真事さん」
「そのうち浅海くんも、真偽が他の男といると胸焼けがするとか言い出すに違いないよ。多分、心底真剣に君に相談するんじゃない? 相談相手とか、他にいなさそうだし。君はどういう顔で聞くんだろうねそれ。私も見たい」
「真事さん……!」
「契約してるから手も出せないし、真偽を盗られた側の君が、盗った側の浅海くんの恋愛相談乗らなきゃいけないの、すごい面白いな。やっぱちょっと見たい」
「真事さん、煽るな!!」
修司が顔を焦りで真っ赤に染め、真事の頭を遠慮なく叩いた。だが、彼女はけらけらと笑い続けている。
無名はぞっとするほどの無表情で真事を見つめていた。もはや修司のほうが死にそうな顔をしているが、真事は一切気にしていない。
「神様、私が気に入らない? 殺したいかな?」
「真事さん、マジで黙ってくれ。流石に目の前で自分の先輩が殺されるようなことだけは勘弁してほしい」
二人のやり取りをじっと見下ろして、無名は真事に言った。
『君、いつかひどい死に方をするよ。間違いない』
すると、真事はきょとんと目を丸めて、弾けるように笑った。
「あっはははは! なんだ、そんなこと? もしかして、私が君のおそろしさを実感できないような鈍感野郎で、危機意識の欠片もない女だと思っている? まさか。今すごい鳥肌立ってるよ。私は本能からの警告を理性で無視するタイプなんだ」
「それは全然自慢するようなことじゃないですからね、真事さん」
静かに怒りを滾らせた修司の言葉を、真事は見事にガン無視した。
「私はね、不可思議なものに殺されるならむしろ本望なんだ。だから、君に殺されるならそれも一興、と思ってるし……正直、私の魂ひとつあげれば、あの子たちのことを見逃してくれないかなとも思ってるよ」
「真事さんっ!」
「分かってるよ、修司。多分この神様は説得できない。全く、神ってのは執念深くて嫌になるね」
そういう問題じゃないだろ、という目で見下ろされても、真事は一切怯まなかった。真事は自分の命にさほど執着がない。真偽と違って、ふらふらと神や異形に呼ばれてしまうような、そんな才能は持ち合わせていないのだ。
ただ自分は、確固たる意思で神や異形に突撃していけるだけだ。真偽が気づけば禁足地に足を踏み入れている人間だとすると、真事は自分の意思で規制線を乗り越え、禁足地に侵入する人間なのだ。
不可思議を目にするために生きて、彼らのために死ぬと決めている。
それだけを、心の北極星として生きている。
無名は途端に呆れた顔になって、付き合いきれないと言わんばかりに彼女から距離を取る。
『なんだろう……気持ち悪いね、君』
「あっははは!」
君が言う、それ? と真事は思ったし、修司は隣でずっと頭を抱えていた。
ここまで読んでいただきありがとうございました!最終的に「俺たちの戦いはこれからだ!」エンドになったにも関わらず14.5万字あるという、割とすさまじい話になってしまいました……ここまで着いてきてくださった方は本当にありがとうございます。
面白かったと思ってくださった方は、星やいいね、感想等で評価いただけますと非常に励みになります!蒼輔の魂もなんとかしてやりたいですね……




