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未完成な僕の初めてのカタオモイ

作者: sae

最後までお付き合いくださると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

 誰かと恋しても、終わりが見える恋ばかり。

 相手に冷められる前に、自分が冷めてしまう、これはもう性格なのかなと諦めだして数年。


 今も俺には恋人がいるけれど、最近はどこか義務的な感じで付き合ってしまっているからもうこの相手とも終わりが近づいている気がする。


 今度の相手は三カ月くらいか、スパンとしては俺的には平均的。

 でも三カ月くらいでだいたい相手の本性が見えてくるんだよな、最初はやっぱり気遣ったり猫かぶったり、まぁ可愛い姿ばっかり見せてくれる。それも別に普通だって思うから引いたりしない、付き合ううえでの相手への最低のマナーだと思う、そして俺ももちろんそのマナーを相手に持ち合わせているから。

 慣れだした頃に見えてくる相手の本音や性格、付き合い方、人への接し方、思いやりの持ち方、話し方、食べ方、生活習慣や好み、エトセトラ。上げだしたりキリがない、いろんなものが目についてだんだん目を瞑れなくなってくる。


「そういうのも含めて恋愛でしょ?そういうのを乗り越えて恋人になるんでしょ?!」

 すんなり別れを受け入れてくれなかったいつかの彼女にはそんなことも言われたな。


「結局、(わたる)くんは私のことなんかちゃんと見てくれてない」

 そう言われて泣かれて宥めたけれど、もう別れを決めた相手に心響く言葉なんか投げられるわけないし、上っ面なその場任せの言葉を吐いてまた泣かれた。


 付き合いだすとそうでもないけど、すぐに飽きだして見切りを決めだしたらもう面倒で。


 恋愛体質、なんていうけれど、全然恋愛に向いていない気がする。




 今まで好きになれば結構すぐに告っちゃってだいたいその告白は受け入れてもらえて来た。好きって告られたらそれも結構すぐに受け入れちゃってきた。


 いいなと思えば付き合って、可愛いなとなれば一緒にいる選択肢を選ぶ。

 それが俺のしてきた恋愛観、これが合ってるのか間違っているのかわからないけれど、もうずっとそうやってきたからそれが普通。今さらほかのやり方なんかわからないし、ほかにやり方なんか見つけられない。

 だから俺はあまり彼女という存在が途切れたことがない、ありがたいことに。

 でもなぜか長くは続かないのだ、残念なことに。


 最短で一日、長くて五カ月だった。


 付き合う方法より、関係を長く続けられる方法が知りたい。

 恋愛に対してのハードルは低い俺だけど、恋愛維持へのハードルがすさまじく高い。


 気軽に付き合って好きになっていければいい、不快感や嫌悪感がないなら基本ゴー姿勢。

 食べたいもの選ぶ時の直感や感覚、あの瞬間と似てる。

 腹が減ったな、食いたいな(なんかヤリたいな、全然ヤレます)


 好きな味、好きなメニュー、たまに冒険、新メニュー開拓、とりあえず口に入れてもいいなと思えたら食べる、食べてみたい。

 女も同じ。

 生理的に無理、直感的に不快感がある、そういうことでもないなら恋愛対象、恋愛対象になるなら当然肉体関係だってウェルカムだ。


 それでも付き合うのはやっぱりそれだけじゃない。

 重ねていくのは体だけじゃない、それも大事だけどそれよりも大事な時間の積み重ね――。


 それが、俺にはどんどん重荷になっていく。

 時間を重ねるほど、関係を続けられなくなるのはどうしてなんだろう――。


 自分のそばに、ずっと置いておきたいような、そんな愛おしく感じるような思い、誰かに抱いたことがない。



黒須(くろす)さ、見すぎじゃね?」

「え」

 そんだけ隙あらば見つめてて気づかれないとでも思ってんのか、こいつは。


谷川(たにがわ)にいつか穴開くぞ」

「そんな見てねぇし!」

 同期の黒須は俺とは正反対だ。

 きっと恋愛に対して一途で誠実だ、それはもう恋の仕方でわかるんだよ。


「一目惚れして、そんだけ焦がれるように見つめてるならさっさと告っちまえ」

「いやいやいや、無理だろ。困らせるとか一番したくないし」

「困らせるって……」

 自分が周りからどう評価されて見られてるか自覚ないのか?困るにしても戸惑い的なものじゃないか?喜ぶことはあっても迷惑がられることはきっとないだろう、黒須は見た目も性格も、仕事ぶりだって文句のつけようがないほどの男だ。


 まだ入社して月日は浅いけれど、何人の女子社員にお前のこと聞かれてると思ってる?

 嫌味かよ、と思うほどモテるくせに不思議と嫌味がない男、それが黒須、そして一番仲良くツルんでいる同期。


 そんな同期は同じ同期の谷川という女に惚れていた。

 谷川は――残念ながら黒須に興味はなさそうだけど。


「俺は手塚(てづか)とは違うんだよ」

「俺とは違うってなにが?俺ってどんななわけ?」

「思い立ったらすぐ行動出来て、欲しいもんすぐ手に入れられるようなそういうタイプだろ?」

 あながち間違いではない。


「恋愛に対してのそのフットワークの軽さ……俺には逆立ちしても真似できねぇよ」

「ふーん」

 そういう通り、黒須はぶっちゃけチキン野郎。

 見た目やスペックが残念なくらい、だから余計好感度上がるけどね、男としては。


「もったいねーヤツ~」

「うるせぇな、いいんだよ。別に長期戦で」

 長期戦、なんて都合のいい言い訳だよ。その間にほかの誰かにかっさわれたら泣くのは自分だぞ?そう思っても地に足固めちゃうような黒須は簡単に想い人に動けそうになくて同期として、友人として歯がゆいながらもなんだか高校生みたいなピュアな恋愛を見せられて楽しんでいたりもする。


 ある日どこかぼんやりした黒須と休憩室で出会って声をかけた。


「どした?」

「あー、手塚さ、柴田(しばた)って分かる?同期の」

 柴田……何十人といる同期の全員の把握なんかできない、名前だけではピンとこなかった。


「わからん」

「マーケティング部だって、わかんねぇよな……俺も知らないし」

 はぁ、と重いため息と一緒にこぼした黒須はあきらかに落ち込んでいて。


「柴田がなに?なんかあったの?」

「……谷川がさ、声かけてきて」

 それを聞いて、あぁ、ともう苦笑い。


「またか」

「誰だよ、柴田って」

「なんで女って自分から言ってこないんだろうな?第三者挟むほうがめんどくない?」

「誰だよ、柴田って……」

 もう黒須には俺の言葉なんか届いてなさそうだった。


「しつこい片思いしてないで、前向きに柴田と向き合ったら?案外イイ女かもよ?」

「ないわ」

 誰かも知らない、まだ認識して向き合ってもいない柴田を「ないわ」の一言でぶった切れる黒須。確かに、俺とは違う。恋愛観なんかもう天と地ほど違うかもしれない。

 めんどくせぇやつ、そう思ってもやっぱりどこか羨ましいな、なんて思えるのは自分とは違いすぎるからか。


 羨望と嫉妬、それでも隠せないどこか憧れがあって――。


 俺だって、そんな風に誰かを一途に想ってみたい。

 できるなら、終わりの見えない恋をしてみたい、そんな憧れを持っているのだと黒須に出会って気づかされていたりした。


 それからしばらくして、谷川メインで接触をする黒須が見かけたことのない女とツルんでいて首を傾げた。

 それが柴田だと知るのはその時だ。


「あ、手塚くんだ」


 スラッとしたスタイルでミニボブのはつらつとした雰囲気は単純に好感度が高い。清潔感もあってサバサバした風だけど、ちゃんと女らしい。媚びた感じもなくってしっかりしてそう、が初見の印象。


 相手は自分を認知しているのか当然のように名前を呼んできた。

 まぁ、自分で言うのもなんだけどそこそこ目立つ俺、そこに黒須とツルんでりゃ嫌でも周知されるんだけど。

 それでも俺は相手を認知していなかったからなんとなく黒須を見つめたらそれを察知した黒須が答えてくれる。


「柴田」

「あぁ」

 こいつが例の柴田か、黒須を狙ってる女ね、そう思っていたら柴田がサラッと黒須に声をかけた。


「ふたりが嫌なら手塚くん一緒でいいよ?」

 おい、勝手に俺を巻き込むなよ、そう思ったけどとりあえず会話を折らずに様子を見た。


「嫌ならもう手塚くんにいろいろ聞いちゃおっかな。自分のこと人から聞かされるの嫌でしょ?私も嫌なの、だから黒須くんも一緒がいい」

「……柴田ってさ、押し強いって言われない?」

「他人にどう言われても平気。私は私がしたいことをするだけ。やらなくて後悔するのが一番嫌なの。そうしないと本当に欲しいもの手放すことになるもん」

 押しも強いけど、意志も強い女だな、が次の印象。


「今は答え出すときじゃなくない?黒須くん、私のことまだ何にも知らないよね?でも私もだから、私ももっと黒須くんを知りたいんだ」

 気持ちいいくらい相手に気持ちを伝える柴田を好意的に見ていたのは無意識だった。


 柴田もきっとまだ黒須への想いは未完成で不確か。

 恋するために、知りたい。

 知りたいから、恋したい。


 知った先に――恋がある。


 柴田の恋愛法則はきっとこんな感じか。それはなんとなく俺と似ている。


 相手への好意や想いがあればそれを確かめるために付き合う。

 そんな始め方の恋をしているヤツが身近にもいたのだと、それを知って思う親近感とほんのちょっとの安堵。


 自分の恋愛観に少し疑心していた自分を柴田はなんとなく慰めてくれた気がした。



 それから顔見知りになった俺たちは社内で会うと気さくに声を掛け合う仲になった。

 会うと黒須のことを聞いてくる柴田。何が人から聞かされるの嫌でしょ?だよ、めちゃくちゃ人を使って相手をリサーチしてきやがる。


「黒須くんってさ、すっごい真面目?奥手なの?」

「奥手……まぁそうかなぁ~、恋愛にガツガツ攻めていくタイプじゃないよな~」

 あいつはチキンの拗らせ野郎だよ、は飲み込んだ。


「手塚くんはガツガツ攻めていくタイプでしょ?」

「うーん、ガツガツでもないよ」

「うそだー」

「来るもの拒まずタイプ」

「うわー、そうなの~?そりゃガツガツじゃなくて無関心タイプ」

「え、無関心?」

 聞き返した俺に柴田が首を傾げる。


「そうでしょ?来るもの拒まず、去る者追わずは人とか物に執着心がないってことでしょ?手塚くん、本気で恋愛してないでしょ」

 ふふん、と笑われて久しぶりに人に対してムッとした。


「それなりにしてるわ。つーか、するときはちゃんと本気で向き合ってるし」

「するときはってなに?あ、続かないのか」

 図星をつかれて言葉を呑み込んだ。


「続かないんじゃなくて、続ける努力をしてないんでしょ?」

「え?」

「恋愛って、努力だと思うよ。人と人が付き合うんだよ?合う合わないあるの当たり前だし、嫌気が差したりうんざりすることあるの当然じゃん。それでも譲歩するかでしょ、相手をどこまで受け入れてどこまで許せて、どこまで受け止められるか。自分が努力するの、相手にもだけど、自分自身に」

 柴田の声は澄んだように透明感のある高めの声だ。聞いていると心地よい、すんなり耳に届くのは声質のせいなのかな。

 響く声が、伝えてくる言葉が、やたら俺を刺激する。


「この人を好きって、選んだ自分を信じたいから努力するの、私はね」

「……自分のために努力すんの?」

 そりゃまた自己中な恋愛観だな、そう思っていたら柴田が微笑む。


「相手に努力だってするよ、好きでいてもらうために、相手に好いてもらえるように。そうやってさ、自分を好いてくれる女、可愛いって思わない?」

「打算かよ」

「これを打算っていう手塚くんとは付き合わない」

 ただの会話の流れなのに振られた。


「相手の……ううん、女の好きがわかんないんじゃ、続かないよね~」

 柴田はさらに遠慮なく言う。


「手塚くんってさ、モテる割に女心わかんないんじゃん、そりゃ続かないよ」

 バッサリ言われてしまった。


 それからやたら柴田が気になりだす。

 どちらかというと鼻につく相手、そんな感じで気になる存在。

 あいかわらず黒須を追いかけていたようだけど、なんだか二人の関係が変わりかけているのが分かった。


 二人は――仲良くなっていた。前よりもずっと、距離が縮まって親し気に話している。


 それがまたうっとおしくてなんとなくモヤッとしてしまう。

 なんだよ、黒須、お前谷川どうなってんだ?

 そんなことを考えて自分が今までにない感情を持っていることになんとなく気づいてしまう。


 黒須に笑いかける柴田は楽しそうで、嬉しそうで。

 柴田のなかで黒須への想いが育まれているのがはたから見ても分かるから、それがまた何とも言えない歯がゆい気持ちを膨らませていた。


 ――この人を好きって、選んだ自分を信じたいから努力するの


 そんな風に微笑んだ柴田は可愛かった。

 時間が経つほど思い出す、あの時の表情を。あの時の言葉を。


 俺は、誰かを好きになった自分を信じたことなんかない。

 俺のために、好いてもらおうと努力してきた彼女たちを信じて向き合ってきたことがなかった。

 俺だって、もっと好きになってもらうように相手に努力したことなんかないじゃないか。


 そりゃ、続かないわな。

 続くわけがない、俺は本当に最初だけ、その性格が見える三カ月を目安に踏み込むことを面倒に思って何かしらの理由を言い訳にして関係を終わらせてきただけだ。


 腹が減って胃に納めたら満たされた。

 それでもまた腹は減るし、いろんなものが食べてみたい。


 食欲と性欲が一緒になって、相手を思う気持ちなんかきっとなかった。


 俺は恋愛なんかしてない、欲望のまま、人間の本能の赴くまま恋愛と勘違いして彼女たちと付き合ってきていたのか。


 その事実に気づかされてどうしようもない焦燥感に襲われた。


 俺が、本当の自分を晒すのが怖くて、逃げてきただけだった。

 彼女たちのこぼした涙の痕も、優しさも受け止めきれず、失ってなお気づけない。それを何度も繰り返して後悔さえしてこなかった。


 俺は――弱い人間だ。

 人と真正面から向き合うのを無意識に避ける、弱いヤツだ。


「最近、仲良さそうじゃん」

 昼休憩で一緒になった柴田となんとなく飯を食べることになった。


「そう?そう見えてる?」

 含み笑みを浮かべながら得意そうに言う柴田はどこか楽しそうで。なんとなく自信に溢れている。


「なに?もうすぐ落とせそうって?」

「どうかなぁ、黒須くん、やっぱ真面目そうだしね。長期戦かな」

「……長期戦」

 それは黒須も言っていた言葉だ。

 二人は似ているのだろうか、思考や考え方が。自分の中で思うこと、変えられないことや、イメージが似たように形成されているのか。


 二人は……うまく行くのかもしれない。


 黒須が谷川への気持ちを柴田にシフトさせたら、この恋は始まってしまう。

 柴田が――黒須のものになるのか。



 ――私は私がしたいことをするだけ。やらなくて後悔するのが一番嫌なの。そうしないと本当に欲しいもの手放すことになるもん



 いつかの柴田の言葉が頭の中で響き渡る。

 柴田の言葉は俺を刺激するんだ、見えずにいたもの、気づかずにいたもの、気づいていてもそれに気づかずにいたことを、直球で突き付けてくる。


「柴田さ、本気で気づいてないの?」

「なにが?」

「黒須の気持ちだよ」

 相手をよく見て冷静な柴田、知ろうとするなら嫌でも気づいているだろう?

 それでもお前は、黒須を好きなんだよな?


「志織のことでしょ?知ってるよ」

「……それでも好きなんだ?」

「嫌いになったり諦める理由にはならないよね」

「……振り向いてもらえないってわかってても?」

「諦めろって言いたいわけ?」

 箸を置いて、真っ直ぐ見つめて聞いてくる。その瞳はとんでもなく澄んだ色をしている。

 朝の光に照らされる眩しい日差しが差しこむような、透き通るような明るさと、眩しさが、俺の瞳を射貫いてくる。


「好きな子見つめてる男に健気に片思いしてる女見てると不憫になった?」

 もっと言い方ねぇのかよ、と思うけど言い返せない。そんなつもりはない、そんなつもりじゃなかった。でも柴田の言葉に言い返せない俺がいる。


「不憫とか、思ってねぇよ」

「じゃあ可哀想だ?」

「柴田」

「痛々しい?涙ぐましい努力してんなぁって内心笑ってる?」

「柴田!」

 声を荒げたらさすがに柴田が口をへの字にして黙ってしまった。

 変な沈黙がお互いを包む、食堂内のざわつきだけが無駄に騒がしい。


「……手塚くんに同情してもらう筋合いないよ」

 ――同情?


「それにさ、誰かが誰かを想うって自然の摂理でしょ?気持ちが通じ合うほうがよっぽど奇跡なの。それこそ運命なの、それくらい思ってる。だから平気、黒須くんが志織を好きでも。むしろ好きな相手に真っ直ぐなんだなって知れて嬉しいし、黒須くんになら大事にされる、それがわかったからなにも無駄なことじゃない、彼に想う相手がいること」

「それでもっ――」

 お前が報われないなら意味ないだろ、それを飲み込む。


「手塚くんにはわかんないでしょ?自分を見つめて告白してきてくれる子にしか興味ないもんね」

 ――来るもの拒まず、柴田にはそう伝えていた。


「片思いの切なさも知らないくせに、分かった風に口出してこないでよ」

 吐き捨てるようにそう言って、「ごちそうさま」と、トレイを手にして席を立つ。

 俺に見向きもせず、横を通り過ぎていく。後ろ髪引かれることもなく、迷いない足取りで置いてけぼりになる。俺を柴田は平気で置いていく、俺の気持ちなんか簡単に無視して……。


 分かった風に思ってんのはお前の方だよ。

 柴田は俺の気持ちのなにひとつだって気づいてないじゃないか。


 俺が、どれだけ柴田に振り回されてるか、どんだけ知ってんだよ――。


「柴田!」

「きゃ!」

 すぐにあとを追いかけて、誰にも使われていない会議室に引っ張り込む。


「び、びっくりした……なに……」

「心配なんだよ、柴田のことがっ」

 同情なんかじゃない、そんな気持ちじゃなくてただ心配だっただけだ。

 黒須に振られて泣く柴田を見たくなかった。


「でもそれ以上に、どうしようって思ってた」

「――え」

 柴田が黒須に取られたら、そう思うのはもう――恋じゃないか。


「黒須だけじゃない、誰にもやりたくねぇよ、柴田のこと」

 柴田が目を見開く、あの澄んだ瞳が輝くように光を宿す。その瞳を見つめて伝えたかった。


 初めて――焦がれるほど見つめている気がする、相手のことを。


「黒須見てんじゃねぇよ……俺のこと見ろよ」


 そして、思うんだ。


「好きだ。もっと俺のこと知ってよ、俺も柴田が知りたい――お前の口からいろんなこと聞いて知っていきたいんだよ」


 ずっとそばに置いておきたい、どこにもやりたくない。

 俺のそばで、俺を知りたいって笑ってほしい。


「来るもの拒まずの手塚くんを落とすなら、追いかけてもらえるような女にならないといけないって思ってた」

「――え?」

「本気で好きになってもらうなら、好きって言わせないとダメだって……そう思ってたから頑張ってたんだよ?私」

「―――――え?」

 ふふっと笑って柴田の腕が首回りに伸びてきて、フワッとした甘い香りと一緒に柴田の腕に包まれた。


「手塚くんは、やっぱり女心がわかってないね」

 そういって、柴田にくちびるを塞がれた。



 その日の夜、一緒に飯を食べてたら柴田が言う。


「黒須くんはだめ、拗らせすぎだよあれは。残念すぎる、好きなくせにぐじぐじしてるしなんなの?苛々したもん、好きなら告れよ!さっさとって」

「好きで近づいた男の片思い応援してたわけ?」

「応援っていうか……もう辛気臭すぎて!あんだけのスペック持っててなんであんなに押し弱いの?信じらんないしがっかりしたが勝ったかな、ないわーって早々に思ってやめた」

 さっぱりしていた柴田は気持ちの切り替えが早かった。


「黒須……かわいそ」

「あの性格こそかわいそうだよ、残念。お気の毒」

「言い過ぎだろ」

 言われまくる黒須に同情した俺を楽しそうに笑いながら柴田が見つめてきて言った。


「私には黒須くんより手塚くんのが合うなって思ってた」

 いつでも自分の話す言葉を真剣に聞いてくれる姿勢が好きだった、柴田は少し頬を染めてこぼした。


「ちょっとだけ距離置いて、傍観してるみたいな感じだけどちゃんと人のこと見れる人。だからミスして落ち込んでたり悩んでる人にサラッと声かけれちゃうんでしょ?それでもほんとに軽く声かけるから相手も負担にならなくてさ。でもちゃんと助けられてる、気づかないうちに。そんな優しさ、何気にしちゃう人、手塚くんって」

 澄んだ瞳で真っ直ぐ見つめながらそんな言葉吐くなよ、やばいわ。


「勝手に好きになってた、気づいたら好き」

 その澄んだ瞳が少し熱を含んだように揺れるからまた堪らなくて。

 柴田に見つめられると鼓動が速まる、胸が熱くなって、体温が上昇する。


「執着しないタイプならどうやったら関心持ってくれるだろうなって。直球で行っても付き合ってもらえるだろうけど、捨てられるのは嫌だった。好きだから、ちゃんと手塚くんの特別になりたいって……そう思ってたんだよ?」

「……普通に黒須が好きだと思ってた」

「最初はね。でももう気づいたら手塚くんのこと見てたよ。ほんと、片思い舐めんなよ」


 俺だって初めての片思い、切ない気持ち、柴田が教えてくれたよ。


「ねぇ、私たち、うまくいくかな?」

「恋愛って努力じゃないの?」

「手塚くんは努力しない派でしょ?」

「勝手に決めんな」



 柴田を選んだ自分を信じる、好きになった自分を信じる。

 こんな俺を好きだって言ってくれる柴田を大事にしたいから――俺は今度こそ、この恋を本物にしたいんだ。




ご愛読ありがとうごいざました!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] なろうでこういう作品見つけると嬉しくなる
[一言] おりそうやね…こんな考え方の男女。 恋愛の押しって、どこからが自己中でどこからが情熱なのかわからない。 俺もリアルでコロコロ変わる女に振り回されてアプローチしてないが、主人公のような強引さも…
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