表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウィザーズレース  作者: 土偶の友@転生幼女3巻12/18発売中!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/11

10話 説得と勧誘

「ロイド。ウィザードになることは諦めなさい」

「っ!?」


 姉はハッキリとそう口にした。


「姉……ちゃん? どう……して?」

「どうして? どうしてか本当にわからないの?」

「え……だって、今回……俺は優勝にも貢献(こうけん)できて……。皆と……レギュラー争いをするって……」

「それで、そんな成績を得るためにあなたはどうなったの?」

「どう……なった?」

「あなたは一体どんな怪我をしたのか。そう聞いているのよ」

「……」

「あなたが言えないなら私が言ってあげる。まずはスピードを出し過ぎて、それで結界に頭からぶつかった。それで意識が無くなったわよね? しかも、決勝では優勝する為に骨が粉々になった。分かっているの? あなたは……死ぬかもしれなかったのよ? どうして……それでどうしてまだ続けようなんて言うの?」

「……」

「私は……気になって調べたの。昔……といっても数年前だけれど、プロのウィザードでレース中に死んだ人がいる。分かる? これは……あなたもそうなってしまうかもしれない。そんな……そんなことをさせられると思う?」


 姉は泣きそうな瞳で俺を見つめていた。

 俺の事を本気で心配してくれている。

 その気持ちが伝わってくるからこそ、不用意なことを言うことはできない。


 言い返すことは出来る。

 そんな事件は昔にあっただけで、今はほとんどない。

 怪我も今回の様にしても、治療院で治してもらえる。


 姉が心配する程のことはない。


 俺は色々な言葉を頭の中に浮かべ、姉に言おうと彼女の目を見る度にすっと目を逸らしてしまう。


 そんな言葉をどれだけ重ねても、きっと姉は説得できない。

 そう思うわせる程に、姉は強い(ひとみ)を持っていた。


 危険性が低いとはいっても、姉にとっては危険性があるだけでダメなのだろう。

 どれだけ安全に気を付けていても、0にはならない。


 だから、その瞳を説得するには、同じだけの強さを持たなければならないと思った。


 俺は姉の目を真っすぐに見据(みす)えて、口を開く。


「俺は最速最強のウィザードになりたい」

「!」


 姉がものすごく驚き、シルヴィアさんも少し口を開けて驚いているのが見えた。


「俺は、最速最強のウィザードになって、多くの人に、希望と、楽しみと、喜びをあげたい。昔、俺がニクスに貰ったように」

「それが危険を(ともな)っていても?」

「うん。なりたい。確かに危険なこともある。最速最強のウィザードになる為には、色々と乗り越えなきゃいけない障害(しょうがい)(いく)らでもあると思う。でも、それでも、それだけのことを乗り()えなきゃ、最速最強にはなれないと思う。姉ちゃんは、俺が最速最強のウィザードになれないと思うの?」

「……」

「……」


 俺は姉の目を真剣にじっと見つめ続ける。


 数秒間か、数分間か、見つめ合った後に、姉がすっと視線を逸らす。


「なれる……ロイド。あなたならなれるわ。だって、毎日あれだけの練習をこなしていたんですもの。毎日魔力を使い切って、体も限界までいじめ抜いて、絶対に他の誰よりも努力している。そう思うわ」

「なら……目指してもいいかな」


 俺は姉に聞くと、彼女はつぅっと涙を流した。


「わかった。でも約束しなさい。今日みたいに……無茶なレースはもうしないって。誓って」

「うん。誓うよ」

「絶対よ。それができなかったら、ずっと嫌いな物を食卓に並べ続けるから」

「うん……それでもいい」

「ならいい」


 姉はそれだけ言うと、席を立って扉の前に立つ。


「ちょっと用事を思い出したわ。1時間位は帰ってこない。話なら自由にしなさい」


 パタン。


 姉はそう言って部屋から出て行き、部屋には俺とシルヴィアさんの2人きりになった。


「シルヴィアさん。それで、お話って……」

「ああ、まぁ……ここまで来たら察しがついていると思うが、簡単だよ。ウィザードになるために中央に来ないか?」

「え……中央……ですか?」

「そうだ。ここだよ」


 シルヴィアさんはそう言ってポケットから名刺を取り出し、俺に渡す。


 俺はそれを受け取って名前を確認する。

 そこには、アストラリアウィザード学院のコーチとしてのシルヴィアさんの名前が書いてあった。


「え……これ……これって……」

「そこに書いてある通りさ。アタシはアストラリアウィザード学院で来年からコーチをやることになっていてね。その前にめぼしい奴がいたら誘ってみろ。そう言われているんだ。受験に関する費用とかはこっちが出してあげる。もちろん、他の生徒と同じように受験をしてもらうことになるけれど……どうだい?」

「それは……ありがとうございます。でも、この足では……」

「それね。セントリア……中央にある治療院にいけば、割とすぐ治るよ」

「本当ですか!?」

「ああ、セントリアはここと違ってこの国の首都だ。腕のいい治療師も数多くいる。だから、そっちにいけば、治療できるってことさ」

「それで……姉ちゃんは話を(さえぎ)って……」

「そうだろうね。アタシがその事を話したら、あんたはすぐに来るって言うだろう? またウィザーズレースをやるために」

「はい……」


 正直、セントリアまでは列車に乗って1週間といったところ。

 それであるのであれば、どんなにかかっても1か月くらいで治療することができる計算になる。


「なら……すぐに来るってことでいいのかい?」

「行きます!」

「いい返事だ。でも、それだけじゃないよ」

「それだけじゃない?」

「ああ、アストラリアウィザード学院は難関だ。今のままでは絶対に受からない。でも、中央に行ってから、アタシが試験日まで全力で鍛えてやる」

「ええ!? 試験までって……冬の終わりですよね? まだ夏ですよ!?」

「当然だ。それくらい時間をかけないと受からないよ」

「……」


 俺は、すぐに頷くことができなかった。


「あの……それは……俺だけ……なんでしょうか? ジャックとか……ケビンは……」

「彼らには声をかけていないよ」

「……」

「別に彼らの事を嫌っている訳じゃない。それなりの才能はあるだろうし、アタシが鍛えればそれなりにはなれるだろう」

「じゃあ」

「アタシが鍛えたいのはあんただよ。ロイド」

「俺……?」

「そうだ。アタシがあんたを選んだんだ。他の誰でもない。あんたを」

「俺を……」

「そうだよ。アタシはロイドを選んだんだ」

「でも、他にいても……」


 俺がそう言うと、シルヴィアさんはぐいっと顔を近付けて来て言う。


「ロイド。最速最強になりたいんじゃなかったのか?」

「なりたいです」

「なら。1人だけという事を理解しな」

「1人……だけ?」

「そう。どんなに多くの者と力を合わせようと、どんなに速く飛ぼうと、最初にゴールできるのは1人だけだ。しばらく考えな。列車に乗るにも、治療師の許可は必要だ。数日はいるからね」

「シルヴィアさん……」

「じっくりと考えな。その決定を……アタシは尊重する」

「……」


 シルヴィアさんがそう言って部屋から出ると、ドタドタっと音がした。


「え?」


 音がした方を向くと、ジャック、ケビン、アントン、そして、姉さんが床に倒れていた。


「盗み聞きとは……。宿屋の娘のやることかい?」

「これは盗み聞きではありません。監視です。あなたがロイドに何か変なことをしないかの」

「ふぅん。まぁ、いいけどね。それで、そっちの3人はどうするんだい?」


 ジャック達は起き上がって、俺の側に来る。

 彼らは皆無表情で、何を思っているのかわからない。


 怒っているのだろうか。

 俺がすぐにシルヴィアさんの言葉を断らなかったから。

 レギュラー争いをするって言ったのに、こうやって迷っているからだろうか。


 そして、ジャックが2人に先んじて口を開く。


「ロイド、お前……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ