1.我慢はしないからね!
今日もようやく1日が終わったんだ…
明日もまた、こんなふうに生きるのかな…
出来ることなら、外を駆け回りたい友達と遊んでみたい…
そう、願いながらまた意識が沈んでいく。
病室では忙しない機械音、せわしなく動く人、泣いている人。
なんか今日は騒がしいなそう思いながら深く深く意識が沈んでいく。
瞼が勝手におりて、視界が暗くなっていくーー
ーーーーっ!
あれ?ここはどこ?
病院のベッドにいたはずなのに…なんか、体が軽い?
起き上がり、周りを見てみると一面の花畑そよそよと風が吹き、どこまでも続く青い空。
何でこんなとこに?
「おーーい!だれかいませんかぁーー!」
出来る限り大きな声を出した。
しかし、反応はなく。そよそよと吹く風の音と風によって揺れる草木のこすれる音が聞こえる。
ふと気づく。
「あんなに大きな声を出したのに苦しくない…」
ここは本当にどこだろう…
す…少しだけ歩いてみよう!そんなに離れなければ戻ってこれるはず!大丈夫!どーせ、今は調子が良くても、この体じゃすぐ疲れてしまうから…きっと遠くには行けない…。
そうと決まれば!
「よし!じゃ、いってみよーう!」
立ち上がって私は歩き出し、周りを散策し始めた。
しばらく歩いていて気がついた。こんなに歩いても疲れてない。
いつもなら少し歩くだけでも苦しくなっていたのに…
本当にここはどこだろう。
病院を抜け出せた喜びと歩き回れる喜び、その反面いきなりここにきていたのだ、拐われたのだとしてもこんな何もない所でどうすればいいという不安もある。
早く誰か見つけてここがどこかだけでも聞ければ…
歩き続けてどれくらい経っただろう、そろそろ疲れてきた…
「はぁーー!はぁーー、だぁぁあああ!それにしても、ここ……広すぎじゃない?………もーーーーー!」
何で誰にも会わないの⁉︎
疲れて花畑に横になると風の音と草木のこすれる音そして…
カサッカサッカサッと先ほどまでと違った音…
え…。
誰かこっちに歩いてくる⁉︎
急に不安になり、身構えると…
「いやーーー!すみません!ここに連れてくる途中で、手を離してしまいまして…あなたを見失ってしまいました。探しましたよ〜!」
綺麗な青年が話しかけてきた。
そっと後ろを見てみるが誰もいない。
周りを見ても私達以外はいないようだ。
「…」
「え、あの?怒ってます?すみませんっあの〜」
「……」
「あ、あのっほんとすみません。怪我とかされてませんかっっ?」
「………。」
そう、私は固まっていた綺麗な青年に話しかけられ、話の内容からしてこいつが私をここに連れてきた…!
ってことは、犯人じゃん!
少しずつ後ろに下がりつつオロオロした青年を観察する私。
そう、観察をいいことに舐め回すようにその人を見ていr…まてまて、私は変態じゃない。そこだけは訂正させてほしい。
そう、私は変態ではない!断じて違う!見惚れてなんか…なくは…ないかm…ってちっがぁぁあう!
誰だよこいつ!顔は良くても頭がおかしい!
今目の前にいるこいつは犯人…。誘拐犯…危険?
命の危機⁉︎
自分の命が危ない⁉︎
そう気づくと私の行動は早かった。
「きゃああああ!何あれ!いやぁぁああ!!」
大声で叫び美青年が振り返った同時に立ち上がり元来た方向へ走り始めた。
体が軽い!なんで⁉︎
そんなことを思いつつも今はあの人から逃げる方が先!
「えっ!なに⁉︎…ちょっ、ま、まって!は、話が!――っもう!待ってくださいーー!」
やばいやばいやばいやばい!
顔はすごく綺麗だった、かっこよかったと思う。
でも、今はそこじゃない!大事なのは私の命!
あいつ誘拐犯だからぁぁああ!
誰でもいいから話を聞きたいと思ったけど犯人だったら、意味ないじゃん!
とにかく逃げなきゃっっ!
「はぁっ、はぁ…っはぁっっゲホゲホッ」
逃げ切れた?取り敢えず少し休んだらもう少し進んでみよ…う…
「え、えぇーーーー!ゲホゲホッおぇ」
「だ、だだ大丈夫ですか⁉︎み、水いりますか⁉︎」
コップに入った水を差し出された。
…⁉︎どこから出したのよ!その水!
なにも持ってなかったじゃん!
毒⁉︎毒ですかそれ!
誰がそんなの飲むもんか!
相手を睨みつけ少しずつ後ろに下がる…
警戒されていることに気付いた青年は慌てる。
「あ、ま、まって、あやしい者じゃないよ!本当だよ!君に危害を加えるわけじゃないから!まずは話を聞いてほしいだけなんだ!」
ねっ?ねっ?と言いながらオロオロしつつ私に話しかけてきた。
私はその青年をじっと見つめたまま考えた、殺そうとするならもっと早くに殺してるだろうし、話だけなら聞いてみてもいいかもしれない…
うーーーん。でも、さらった犯人なら危ないよなぁ…と思いつつ見ているとオロオロしたその青年が転んだ。
そう、ドッシーンと。目の前で盛大に。持っていた水は青年にかぶり、コップはコロコロと転がっていた…
足元を見ると、さっき私が草を結んで遊んでいた場所だ…。あぁ、ジーザス。天罰だよ天罰。と心で呟きながら、距離を取りつつ話しかけた。
「…だ、大丈夫ですか?」
ガバッ!
いきなり起き上がった青年はこちらを勢いよく見てきた。
びしょ濡れで、頭に草をつけ鼻は赤くなっていた。
しかし、ニコニコと笑っているではないか。
ズリズリ…
そう、私は引いた。転んで水を被っても笑顔を向けてくる美青年、そして、誘拐犯(仮…いやほぼ確定)。そりゃ怖いだろう。
心の距離も物理的な距離も共に引いていく。
「大丈夫そうなので、私はこれで失礼しますね。お大事に〜」
にこりと笑い何事もなかったかのように歩き出そうとした。
そう、歩き出したかった。
足元には青年が巻きついてきており、泣きそうな顔でこちらを見上げてきた。
「お願い!逃げないで、話を聞いて欲しいだけなんだっっ!」
こちらが悪いことをしている気分になるではないか…
はぁぁぁと長めのため息を吐き
「…聞くだけですよ。」と答えると笑顔の青年が手を離しパチンと指を鳴らす。
目の前には先ほどまで何もなかったところに机と椅子が出てきたではないか。
ポカンとそれを見つつ、頭は違うことを考えていた。
何かのマジック。凄すぎない?
ポク、ポク、ポク…
「あ、そっか、これ夢だ。なーんだ!よいしょっと!」
夢という結論に至った私はとりあえず座り、落ち着いた。
青年は指を今一度鳴らした。すると汚れていた青年は綺麗になり、同じく椅子に腰掛けた。
向かい合う形で座ることになった。
そして開口一番に言われたのは…
「僕は、君たちが思うところの神様なんだけど、お願いがあって呼んだんだ。君は藤沢未来さんだよね?」にこりと笑いながら言ってきた。
こちらもにこりと笑いかえした。
「私の名前を知っているようですが、あなたのお名前をお伺いしてもよろしいですか?ストーカーさん♪あ、それとも変態さん?誘拐犯さん?でしょうか?」
私も楽しそうに返す。
夢だと分かったからには楽しまなければ損だと思ったのだ。
「⁉︎えぇ⁉︎ち、違うよ!僕はストーカーでも変態でも誘拐犯でもないよ!神様!僕の名前はヴァイスだよ!」
「おっけー!変態神様のヴァイスね!」
違う‼︎と手振り身振りを使って変態じゃないと伝えつつ、反応を見ながらケラケラ笑う私を見てからかわれたのだと理解したようだ、少しむぅっとしつつも話を進めはじめた。
「ゔぅん!おっほん!さっきの話に戻るけど、僕は神様なんだ。か‼︎み‼︎」
「あぁー、うん。それはさっき聞いたよ。で??」
あまり、揶揄いすぎても先に進まないので取り敢えずは話を聞いてみることにした。
「先に謝らなければいけないんだ。本当にごめんね。僕のミスで、君をここに落としてしまったんだ。地球で亡くなった魂を僕の世界に連れていく予定が、途中で手が滑って君を落っことしちゃったんだ…」
「はぁ?おっことしたぁあ??馬鹿にしてんの?
大事に扱いなさいよ!私は被害者よ!誘拐犯なら、攫った人くらいしっかり守りなさいよね!それが責任ってもんでしょーがぁあ!あ”ぁ??」
失礼なことを言う自称神に少しイラッとした。
いや、少しではなく普通にイラッとした。
「ところで!私死んだことになってるみたいだけど。失礼じゃない?まだ生きてるんですけど!」
「あ、それは今、魂の状態なんです。あなたは病状が悪化してお亡くなりになったんです。それと、これは夢ではありません。現実です。信じられないようであれば、今のあなたの現状と周りの様子を確認できますが…」
は?私が死んだ?え?どーゆーこと?今は魂の状態?
じゃあ、家族は?友達は?学校にも行きたかったし、放課後に友達と遊んだら休日に出かけたり、恋愛もしてみたかったのに…
でも、何故か自分の死を本当なんだと受け止めることができた。
自分の体がいつもと違って苦しくないからかもしれない。
走ったり、大声を出してみてもいつもと違ってくるしかないからかもしれない。
そんなことを考えていたらいつのまにか涙が溢れていた。
「ふっ…っ…うぅっ…」
家族にも友達にも何も伝えられなかった。
ありがとうって伝えたかったな。元気になったら遊ぶって約束してたんだけどな。そんなことを考えたら気持ちが追いつかず、涙が溢れてくる。
ヴァイスはそんな私をみて落ち着くまでそっとしておいてくれた。
ひっく、ひっくと言いながらもだいぶ落ち着いた私は、目が腫れ鼻が赤くなっているだろう。
不細工な顔をヴァイスに向けながら言った。
「神様なら家族や友達との別れくらいさせてよ。これが夢じゃないならそれくらいさせてくれてもいいじゃん。」
私が発した言葉に、ヴァイスも考える。
うぅーんと腕を組んで考えながら言われた。
「んーーーーーとね…亡くなった人を元の世界に蘇らせることはできないんだ…それに僕は地球の神じゃないからね…夢で会うことならできる…かな…」
夢でもいいまたみんなに会えるなら、伝えられるなら…
「わかった。じゃあ夢でいいからみんなに会って伝いたいことがあるからよろしく。」
とヴァイスに伝える。
ヴァイスはからはその後にも説明があった。
まず私の魂はこれから、ヴァイスの作った世界に来てほしいという事。
そこでは自由に生きてほしいという事。
夢で会える時間は長くても1〜2時間程度だという事。
「自由に生きて欲しぃ〜?怪しくない?メリットもないのに誘拐するわけ?」
「メリットならあります!僕の世界では魔法があるのですが、地球では使わない魔力を未来さんたちのような魂をこちらに連れていく際に貰っているんです。」
ふーんなるほどねぇ…
取り敢えず、まずはみんなに何を伝えることを考えながら、ヴァイスに確認をしてみた。
「私が死んだってことは、お葬式とかあるでしょ?そこでお供えされたものって私もらえるの?」
単純な疑問だった。だって、今、私は手ぶらなんだもの。
ヴァイスはそれを聞いて、目が点になっている。
「ねぇ、聞いてる?貰えるの?貰えないの?」
「うーーーん…できないこともないけど…」
「そんじゃ準備よろしくー♪貰えるものはもらっとかなきゃね〜」
呆れた顔のヴァイスを尻目にウキウキしている未来。