第9話 雪菜の本性
「なんかムズムズするわね」
「学校外で話したことはなかったからな。課外活動のときも別々だったし」
上ずった声でそう言うと、雪菜は口角を上げた。
「太ももを触れる機会かもだったのに、連絡先くらい交換したらよかったと思うの」
「それは、そうかも。てか、言い方考えて!」
正直に言うと、今回の偶然の交流で、桜華が俺の理想とする人間であることが分った。
付き合えるか付き合えないかは別として、あれは正真正銘の清楚系女子だろう。
容姿端麗なので相手にされない可能性が高いけど、男を見せて連絡先くらい交換すればよかったのかもしれない。
「顔が歪んでるわ」
「え! 本当!?」
俺は慌てて口をきつく閉じる。
すると雪菜はわざとらしく溜息をつき、髪を肩からおろす。
「嘘に決まってるじゃない」そう言う雪菜に俺は、下ネタを控え目にしていた件を尋ねた。
「友達が恋煩いしているというのに、邪魔をするわけないじゃない」
「なるほど。なんかありがとう? 気を遣わせたか」
「エッチな女の子が沢山いたから緊張したってのもあるわ」
「嘘だよね!?」
「ふふ、どうかしら」
「話しは変るけど、雪菜が昼付き合うのとは思わなかった」
「私ってそう言う風に見えるかしら」
「なんというか、俺たち学校以外では話さないだろ。学校の様子だと男とは関わらないのかなと」
「私もそのつもりだったわ。でも」
雪菜は、立ち止まり動かなくなった。
「どうした?」
「うーんと……」
そう言いながら頭を左右に揺らした雪菜は悩んでいるように見える。
距離にして数十センチ。
近すぎる雪菜に、俺は後ずさりすると、雪菜は一歩踏み出す。
なんだろう、めちゃくちゃ動揺しちゃう。
しかし雪菜はいつもの氷のような美しい顔で口を開いた。
「和人くん」
「なん、だろう?」
「なんで私たちって、校外で接点がないのかしら」
「そりゃー……なんでだろう」
唐突な話題だけど、考えてしまう。
本当になんでだろう。
俺なりに解釈した結果、居心地が良かったからなのだけど、なぜ外でつき合わない方が居心地が良いのか分からない。
他の男友達のように遊ぶことだってできただろうし、雪菜もオタクコンテンツが好きなので一緒に買い物に行くことだってできたはずだ。
だけど、雪菜とは距離を取った方が上手くいくと思っていた。
本当に謎だ。
「思ったのだけど、それっておかしくない? いまさらだけど」
んえ?
口調がと声のトーンが変った気がした。
気のせいか?
「私はビッチって言ってるけど、恋人すらできたことない処女だし、和人くんは生粋の童貞……だったはず。ごめん、深く知らないから」
白銀の髪を右耳にかけた雪菜は、小首を傾げていた。
氷のような美しい表情が崩れて、女の子らしい柔らかい顔になっている。
俺はこんな雪菜は見たことがない。
左右に動く目を目の前にいる雪菜に固定し、動揺を隠す。
と、とりあえず意味不明な質問から先に答えるべきか!?
「ま、まぁ生粋??」
するとなぜか雪菜は微笑する。
なんで。
「そうだよね。ということは、つまり」
「つまり……?」
「私たちは、お互いに友達処女童貞だったわけね」
「うん?」
「私、今日一日ずっとムズムズしてたの! あ、下のほうじゃなくて」
「それは知ってる!」
「今日ずっと考えていたの。もしかしてこのムズムズの違和感の原因は、距離感だったって。連絡先を交換しているのに、今まで遊んだことはなかった。だけどよくよく考えてみると、和人くんと遊ぶのは普通じゃないかって」
興奮気味に俺に迫った雪菜を見て、少し引いてしまう。
雪菜ってこんなキャラだっけ。
絶対に違うだろう。
もっとクールな感じなはずだ。
「ちょ、ちょまて! 何かアホっぽくなってるし、女の子らしくなってるし、勢いがすごいし、もう何が何だか。ちょっと小休止しよう」
すると雪菜はハッとした表情で、一歩後退する。
「ごめん……でもこれが普段の私」
「つまり女の子らしくて柔らかくて、積極的な?」
「積極的ではないと思うけど」
なんていう事だ。
シュンとしたときは、大人しくなると知っていたが、それの延長線上の今が本当の雪菜だったって!?
たしかに雪菜の口調は少しおかしいとは思っていたけど、そんなの信じられるか。
「んなわけあるかっ!」
奈留のような勢いある突っ込みをすると、雪菜は首を横に振った。
「学校ではこのモードだわ。でも、普段はこっち」
す、すごい。
一瞬でモードを切り替えた。
それと、今の口調が本当の雪菜だったってことか!?
「でもなんでこんなことを!?」
「なんでって……言わなきゃダメ?」
そんな子犬みたいな目で見つめられましても……
正直、今俺の目を左右上下、あらゆるところを泳いでいるだろう。
頭がパンクしそうだ。てか、してる。
「え、あうん。言って欲しいかも」
すると雪菜は大きく息を吸い、数秒後に吐き出す。
「言いたくないな……」
「いやならいいんだけど」
「そう言う訳じゃないんだけど、自己表現って恥ずかしい」
と前置きした雪菜は、今度は溜息をつき、
「中学2年生のとき、私は虐められてたの。知ってた?」
「なんとなくだけど」
「それ以来、話し方を変えているの。あの話方だと距離があるでしょ」
「た、確かに……」
「ち、ちなみに触らぬ神に祟りなし状態だった私に、そのとき消しゴムをくれたのも覚えてる?」
「流石に覚えてるよ」
「あのときから好きなのは本当だよ。あ、もちろん悪友として」
赤面で微笑する雪菜に、動揺する俺。
未だにこのモードに慣れない。
というか、こんなにデレデレしてくる雪菜に慣れる気が全くしない。
「あれから確か学校で話をする様になって」
「そうそう。だけど校外では絶対に関わりは持たなかった。素を見せる事が嫌とかじゃなかったけど、私にもなんでか分からない。謎だね」
「たしかに雪菜の変化にも驚くけど、一番の謎な点はそこだな」
「うん。須藤くんがファミレスに誘ったときに、その違和感に気づいた。和人くんと遊んだことないって変じゃないかって」
帰路に方向転換した雪菜は、続ける。
「本音を言えば、それが普通だと思っていた感じもあって。嫌われたくもなかったし」
そう言う雪菜は河川敷の斜面に座ったので、俺も隣に座る。
雪菜は鞄の中から飴を取り出し、俺に手渡した。
正直雪菜はそんなもの持っているとは思わなかったので、またしても驚いてしまう。
「私だって女の子、なんだけど」
とか言い出す雪菜はジト目で俺を見ていた。
「じゃあ、普段からそうすればいいんじゃないか?」
「そうしたいけどね。正直言って慣れちゃったんだよね、あのモードに。それに人付き合いは苦手だし」
「失敗しても唯一の悪友、その名も俺がいるんだし」
すると雪菜は微笑んでくれた。
「ありがとう。でも変えるのは難しいよ。和人くんが処女を追求するように、私にはこれがトラウマで難しい」
少々語弊がある表現が使われている気がするけど、今はスルーしよう。
それに突っ込みを入れる雰囲気では全くない。
「実を言うと、俺もあの関係が心地いいと思っていた。余計なことをすれば、関係が崩れると、なんとなくそう思っていた。これこそが俺たちの友達関係だって」
なんてこっぱずかしいのだろう。
こんな恥ずかしいことを大真面目に、雪菜に話す日が来るとは思わなかった。
恥ずかしいので、俺は横にいるはずの雪菜の顔を見ずに、前方にある桜の木を見続けた。
「そっか」
「いくつか質問してもいいか?」
「もちろん」
「俺と同じ様に気になる人とか彼氏とかいるの?」
すると雪菜は、フフフと笑う。
「学校で男子と話していないのに、いるように見える?」
「全く見えない」
「正解。男の子と遊ぶことなんてないかな。そもそも遊ぶことがまず珍しいし。休日は家でゆっくり」
「じゃあ、自称チョロいって、あれはどういう意味?」
「そのまんまの意味だよ。私ってチョロいんだ。色々な意味で。変なことで好きになったり、気になったりしちゃうの」
「つまりゆるゆる……」
すると雪菜はむっとした表情で立ち上がった。
その瞬間、黒のパンツが見えたことは内緒。
「言っとくけど、私超ガード堅いから!」
「なんで怒ってるんだよ」
「美少女の私にセクハラするからだよ」
「自分は毎回してるだろうが」
こっちを向いた雪菜は目を丸くすると、首を縦に振った。
「たしかに……! でも私は美少女だから許されると思わない?」
最悪のカースト差を見せつけられた俺。
そんな俺に雪菜は手を差し出した。
「ねぇ、握手しよう?」
「……は?」
と言いつつも俺は雪菜の手を握った。
すると雪菜は瞬時に手を放す。
意味が分からない俺は雪菜を追いつつ、意味を尋ねると、
「パーソナルスペースに踏み込み過ぎだよ」
と答えた。
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