第6話 惚れ症候群
結果をいうと、ゴミ拾いイベントは、無事に終了した。
その後、須藤が俺たちの関係性に言及することなく、和気藹々とした雰囲気で進んだので、ホッと一息。
ゴミ袋一つ分のノルマを達成した俺たちは、ゴミを学校に持ち帰る。
校門で、わざわざ先生が待機していて、先生は俺たちが拾ったゴミを確認。
俺たちはようやく休日の奉仕活動から解放された。
いや、まだ解放されていない。
「腹が減ったからどこか食べに行こうぜー」と須藤が言い、雪菜や桜華が首を縦に振るから、俺も縦に振らざるを得なかった。
雪菜が行くとは思えなかったけど、案外社交的な一面もあるらしい。
大通り沿いにある、こじんまりとしたファミレスに入ると、若い女の店員がこっちにくる。
「いらっしゃいませー、4名様でよろしいですか?」
「あ、いえ! 待ち合わせしてんすけど!」
「あー! なるほど! ではこちらに」
店員が歩き出したところで、俺は須藤の横に陣取り、体を寄せる。
「聞いてないんだけど」
すると、須藤はニカッと笑いながら、少しだけ頭を下げた。
「わりぃー! いやー、奈留に頼まれちってさー! 幼馴染だから断れないっしょ?」
幼馴染という言葉を聞くと、イラっとするのはなぜだろう。
家の近くに住む性悪女のことを思い出していた。
まぁそれは置いておいて、この状況は最悪だ。
須藤の様子をみると、あの事件を知っているように思える。
面倒な展開になるに違いないだろ、こんなん。
溜息が自然と出てくる。
「わりーて! そんな溜息ださんで! 奈留だって、その、なんだ、かわいいだろうが!」
須藤は苦笑いした後にそう言うと、続ける。
「幼馴染としてはー、そのー、手伝ってあげたいというか、今回は違うのと言われたらというかー……」
その言い方から察するに、あの時の奈留の話――『付き合った人数が多い』というのは、本当なのだろう。
須藤の様子を見て、俺は急に足を止めたくなった。
しかし止める訳にもいかず、結局奈留の前で足を止めることになった。
メロンソーダをストローで飲んでいる奈留は、俺たちに気づくと手を振る。
「桜華ちゃんと雪菜ちゃん! こんちー!」
「隣のクラスの奈留ちゃん、だよね……?」
「うん!」
「ふむふむ。そういことかー!」
流石桜華。
隣のクラスの奈留とも面識があるようで、最初は戸惑っていたがすぐに順応した。
一方、雪菜はチョコンと会釈すると、奥の席に座る。
なので俺も雪菜の隣に座り、桜華が俺の隣に、須藤が奈留の隣に座った。
暫くの間、女子たち、つまり桜華と奈留の世間話が続いたが、店員が注文をとりにきたところで、それは終わった。
「ご注文はいかがいたしましょうか?」
「全員ドリンクバーで! あと、俺はステーキセット!」
「じゃあ、俺は……俺ハンバーグで」
「カルボナーラでお願いします」
「私もハンバーグでお願いするわ」
「うーん、皆早くない?」
奈留は、メニュー表を見て、うんうんと唸っていた。
ドリアを指差し、しかしパスタも指差す。
一大決心のイベントのような悩み方。
「あー……ミートソースとミラノ風ドリアで」
須藤は、指をさしていた二つを注文した。
店員は「かしこまりました」と素早く言い厨房へと戻っていく。
奈留は、そんな様子を黙って見ていたが、むっとした表情で須藤を見た。
「いやー、そんなに悩んでるならミートソースとドリア半分ずつ食えばいいじゃん? 余ったやつは俺が食う」
「え、いいの?」
「もちろん。流石に足りないと思ってたから」
俺は、今何を見せられているのだろう。
この二人の雰囲気は、非常に良く、幼馴染という関係すら越えているように見える。
須藤は何度も頷くと、今度は俺を見た。
「それでー、本題っしょ」
その一言で、この場の雰囲気が少しだけ重苦しくなる、気がした。
「私、和人くんのことがすきなの!」
堂々と、しかも周りの席にまで聞こえる声でそう宣言されても。
俺は周りの席をちらりと見て、空席であることを確認する。
よし、何とかセーフ。
どうやらファミレスは空いているようで、遠くにポツポツと客がいるだけだった。
「そういわれても、なぁ」
俺は清楚系が好きなわけで、チョロインは好きじゃない。
少し胸が痛むが、そう言うしかなかった。
桜華もも俺の決断に、ケチをつける気はないようで、気まずそうにしている。
しかし、須藤は違った。
須藤は、大きなため息をつく。
「まぁ、わかるけどよぉー……そりゃー惚れやすいのは不安だけど。少しだけ前向きに考えてくれてもいいじゃんかぁー」
惚れやすいのなら、なおさらいやだ。
俺が提唱しているチョロインの定義に当てはまるとか、俺の心がいくつあっても足りない。
和人くんより好きな人ができちゃったから、ごめんね。
そんな台詞が、そんな悲しいことを言われたら、次こそは1カ月寝込む。
「惚れやすい? たしかあの時、経験人数豊富は嘘だと言っていた気がするのだけど」
「いや、それは……えーと、ごめん嘘」
「ふふ、つまり肉セ〇レとして利用したかったわけね」
「いや! その表現、今この場所で言う表現じゃないから!」
俺は空気が読めない隣の美少女にそう突っ込むと、雪菜は嬉しそうに髪を払う。
そして当然、桜華と須藤はおどろくわけで、桜華は苦笑い、須藤はにやけていた。
変な想像をしないように、俺は須藤を睨んでおこう。
「と、とにかく、なおさら、ね」
「やっぱりこれを話さなきゃダメか」
須藤はミルクティーを口に含むと、俺を見た。
「奈留は、惚れ症候群を患っているんだよ」
トーンダウンした真剣な声でそう言う須藤だが、俺の脳内は?マークで埋め尽くされた。
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