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第27話 チョロい恋をする2

それから俺たちは色々なアトラクションに乗った。

幽霊チックなアトラクションのときには、須藤たちがいなくなり俺たち二人で入ることになったし、迷宮に入った時には桜華・俺・雪菜という3人で行動することになった。

そこまでしてもらっても俺と雪菜の間には溝があり、元の関係には戻れなかったし、素直に言いだす時間も無かった。


さらに直観が鋭い雪菜なので、須藤たちが何かを企てていることは察したようで、警戒するようになり……


海近くのテラスにて、雪菜は怪訝そうに須藤を見ていた。

その凍てつきそうな表情を見て、須藤は目線を下げる。


「あ、これ見て! かわいい」


桜華はドリンクの上に乗っているお菓子で出来たキャラクターを指差している。

気を利かせて言っていることを察した俺は、流石にこれ以上黙っている訳にもいかず、全部ここで言ってしまおうと口を開こうとしたとき、今度は奈留が口を開いた。


「たしかに! もうそろそろ閉園近いし、先お土産コーナーで買っちゃう?」


奈留は続けてこう言った。


「お楽しみはこれからでしょ! ショーはこれからだから」


俺はその台詞で全てを察した。

そのショーで、奈留たちは、俺たちを二人にするつもりだったのだろう。

それはボケっとした須藤の表情を見てもわかる。

今ここでそれを言っていいのかと言いたげだ。


「そのことなんだけどさ……」


俺がそう言いだすと、今度は須藤が口をはさむ。


「ちょっと待ったー! 俺もお土産欲しいんだ! わりぃ、ちょっと俺たち行ってくるわ!」


奈留の腕を掴み、桜華の肩をポンと叩いた須藤は、最後にへたくそな作り笑いをしながら去っていった。

当然怪しさの塊である作り笑いなどを見せられれば、誰だって怪訝な表情になる。

雪菜は、首を傾げて、俺をちらりと見た。


「その……なんというか、和人くんは知ってそうね。一体何を企んでいるの?」


がやがやとした雑音のせいでところどころ聞こえなかったけど、『知っていそうね』と言ったところははっきりと聞き取れた。

流石に黙っているわけにはいかないと思い、俺は全部説明することにした。


「その……実は」


俺はそこまで言いだすことができたが、その先は無理だった。

なかなか言い出せずにいると雪菜は、首を傾げる。


「実は……?」


本当に不思議なのかいつものように俺を見つめてくるので、余計話しにくい。

俺は目を逸らすと、ドリンクをグイっとのみ、テーブルを見つめながら話すことにした。

と言っても、雪菜の体は見えてしまうので心臓はドキドキだ。


「全部、誤解で本当は――」

「――申し訳ございません。和人様ですか? お客様がお呼びです」


集中していたので、その声に驚き体が跳ねあがってしまった。

俺は声が聞えて来た方を見ると、ウエイトレスが手を重ねながら立っている。


「お、お客様……?」

「はい。和人様に御用があるようです」


俺はその言葉で全てを察した。

今この場所にいるのは、奈留たちだけだ。

つまり、奈留たちが俺を呼びだしているのだろう。

そう察した俺は、「わ、わかりました」と短く返事をすると、ウエイトレスは厨房に戻っていった。


さて、ここで問題が一つ。

ようやく、ようやく本心を話したが、雪菜に伝わっていただろうか。


恐る恐る雪菜をチラリと見る。

雪菜はそんな俺を本当に本当に不思議そうに見ていた。


「お客様っておかしいわね」


そう、雪菜には全然聞こえていなかった。

朝からここにいる俺たちだけなので、不思議に思っているのだろう。

雪菜は怪訝そうに口に手を当てていた。


「きっと須藤たち、だよ。なにかあって、ここまで来れないんだ」


苦しい言い訳をしつつ俺は席を立ち上がると、雪菜は不快そうな表情をした。


「何を隠しているの!?」

「別に隠しているわけじゃないけど……ただその……」

「和人様ー!」


今度は男のウエイトレスによって、またしても邪魔をされた。

そんなに急ぎの要件なのだろうか。


雪菜も本当に意味が分からないようで、「早く行った方がいいわね」と言っている。

俺自身も意味不明なので、とりあえず向かうことにした。


木製で味があるテーブルが並ぶ通路を通り、カウンターまでくると、さっきの女性ウエイトレスに話しかける。

するとそのウエイトレスは申し訳なさそうに頭を下げた。


「申し訳ございません。お客様の勘違いだったようでして」


ということらしい。

ふざけるなと叫びたくなるのを抑えて、俺は社交辞令的な返しをする。

せっかく言う事が出来たのに、勘違いした誰かさんのせいで台無しだ。

俺は不快な溜息を吐き出し、席に戻ることにした。


落ちこんでしまったので、労力を使いたくなく頭をガクリと下げながら、ガヤガヤうるさい木製の通路を通り、俺たちが食事をしていたテーブルを見る。


「勘違いだったらしい」


そんなことを言いつつ、席に座ろうとしたが、雪菜がいない。

360度見渡しても雪菜がいないかった。


さてさてさてさて、本当に意味が分からない。

小パニック状態だ。

俺はもう一度辺りを見わたすが、雪菜はいない。

トイレに行っているかもと思い、少し待ってみてもこない。

RINEにメッセージを送ってみても、反応がない。


焦った俺はまたカウンターに戻り、『白銀の髪の子を見ませんでしたか?』と言うが見てないらしい。


ということはアクシデント発生だ。

俺は素早く会計票を取るために、テーブルに戻ると、お会計票と一緒にある手紙が置かれていることに気づいた。


『雪菜姫はさらわれた。見つけたければ、ホーンテッドエリアに来い。でゅへへ』


……らしい。

もう誰の仕業か言う必要もない。


本当に、心臓に悪い。

雪菜を見つけたら、奈留たちに一言いう必要がありそうだ。

それはともかく、どういう意図で計画していたか分からないけど、とにかく『雪菜姫を探す』必要がある。

なぜか高鳴る心臓を抑えて、俺は外に出た。




海辺付近でショーはもう始まっていた。

その一帯は人で埋め尽くされている。

つまり、雪菜を見つけるのは容易。

なるほど考えたなと思いつつ、俺は小奇麗な西洋建築物で囲まれたエリアを抜けて、木々に囲まれたエリアに入っていく。

街頭の種類も橙色の温かみを感じるものから、薄暗い蛍光灯のような色合いになり不気味さが増していき不気味だ。

しかし後方からはショーの雑音と歓声が聞こえてくるので、本来の怖さは薄れている。


そんな道を歩いていると徐々に幽霊的仕掛けや、小道具が俺を驚かそうとしてくる。

本当にこんなところに雪菜はいるのだろうかと少しだけ疑問に思いつつ、このエリア一番のアトラクション『ホーンテッド宮殿』が見えてきた。


ホーンテッド宮殿の周りはヴェルサイユ宮殿なので見ることができるお洒落な木々で囲まれている。


如何にも怪しい場所で、ここに囚われていると確信していたので、ゲートを通ると、横からコウモリの大群が飛び出してきた。


少しだけ少しだけドキッとしたけど、すぐにそれが機械で出来ていることを見抜き、前に進む。

進むと立派な庭が見えてくるけど、アトラクションを楽しもうとする人の姿はあまり見えない。

ちらほらと人の姿は見えるけど、ほとんど貸し切り状態だ。


そんな中、俺は雪菜がいないか辺りを見わたすが、らしい姿は見えなかった。

やはり中に入らないと駄目かと考えていると、


「和人くん!? そんなところにいたの!?」


雪菜の声がした。

雪菜は窓の縁に手をかけながら、真剣な表情をしている。


「雪菜こそ、そこでなにしてんだよ……!?」

「なにって! 和人くんを探しにきたんじゃない!」

「俺も雪菜を探しに来たんだよ!」


俺がそう言うと雪菜は全てを察したらしく、ガクリと力が抜けていた。


「和人くん……奈留さんたちの様子がおかしかったのはこのせいね……?」

「これは知らなかった」

「これはって不思議な言葉」


雪菜は脱力しながらそう言っていた。


「まあその、全て俺のせいなんだ。……俺は雪菜が好きだ」


心臓の鼓動に身を委ねることですんなりと、そう言うことができた。

奈留たちは、ここまで計画していたのだろうか。

それは置いておいて、とにかく俺は全部雪菜に話すことができた。


「そんなこと、こんな不気味なところで言われても……!」


語調は強いが怒っているようには思えなかったので一安心した俺に、雪菜は続けた。


「でもそれは正解かな。私、今凄くドキドキしてるもの。なんだか変な感覚……」


その変な感覚がなんとなく理解できたので俺も頷く。

最初は薄暗く怖いところでドキドキしているし、雪菜を見つけなきゃとドキドキしていた。

次は雪菜が見つかったことで安心し、最後にまたドキドキしているんだ。


まるでジェットコースターのように感情が揺れ動かされて疲れているのに、悪い感じじゃない。


「それより、今行くよ」

「分かった」


足早に俺は宮殿の中に入り、迷路のように入り組んだ宮殿内に手こずった。

今行くと言ったけど、雪菜がいるところがどうしてもわからない。


どうしてもわからないので、俺は4階にいた同い年らしき人に聞くことで、ようやくその場所がどこにあるか分かった。

赤い絨毯が引き詰められた通路を通ったところに、なぜか本棚が置いてある。

その本棚の中にある『影の救世主第一巻』と書かれている赤い本を押す。

すると隠し部屋が現れるらしい。

これはネズミーランドによく言っている人の間で、有名なギミックのようだ。


ゴゴゴゴと音をたてながら本棚は横にスライドしていく。

なぜ雪菜がこの仕掛けを知っていたか疑問だけど、気にしすぎだろうか。


徐々に開いていく扉をぼんやりと眺めつつそんなことを考えていると、部屋の扉が完全に開く。

この場所から見たところ、雪菜の姿は見えない。


中にいると思った俺は、足を踏み入れるが、そこには誰もいなかった。

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