第24話 友よ
「うん! 分かってた!」
ニッと笑った奈留は、涙を手で拭うとバッグからティッシュを取り、鼻をかんでいた。
「分かってたよ! だってあんなに二人は仲いいんだもん。交際人数30人の奈留ちゃんじゃ雪菜ちゃんには歯が立たないよ」
「そんなことはない、と思う……」
「お世辞はいいって! 今日だって家に行ったんでしょ?」
「たしかに行ったけど、雪菜は、その違うよ」
すると奈留は怪訝そうに首を傾げた。
「え、どういうこと!?」
心底驚いているようで、もう一度鼻をかんだ奈留は、不思議そうにしている。
無理もない。
だって奈留たちは、俺と雪菜がそう言う仲じゃないと知らないのだから。
たった今、俺と雪菜は友達宣言をしてきたことを知らないのだから。
「正直に言うと俺は雪菜のことが好きだ」
「うん知ってる」
「でも雪菜は違う。雪菜から見て俺はただの友達」
俺がそう言うと奈留は再び涙を流しながら、腹を抱えて笑った。
「うける! 和人くんそれはないって! 笑わせないでよ!」
冗談だと思っているようなので俺は繰り返し言うと、奈留は溜息をわざとらしく吐き出した。
「本気で言ってるの!? 二人とも自分自身に鈍すぎだよ! 告白してきた女の子に恋愛相談とか!」
「相談はしてないけど」
「たしかに! それはそうかも! でも! 絶対にあり得ないから。あり得ないあり得ない!」
首をブンブンと振った奈留は、スマホを取り出し誰かに連絡をしているようで、
「あ、もしもし雪菜ちゃん!?」
「え、鼻がつまっている!? 気のせいだよ! 単刀直入に言うね、和人くんのことどう思っている?」
「あーそっか……だよね……」
なぜか納得した奈留は、俺をキッと睨みつけた。
「和人くんが悪い!!」
「なんでだよ!」
「雪菜ちゃんに迫られているのに、拒否したから」
「友達と言われたし、それに……いや……」
俺はトラウマのことを言おうと思ったけど止めた。
これに関しては完全に俺自身の問題で、もう既に解決しそうだ。
奈留のあんな姿を見てしまえば、勇気を出さなきゃいけないと気付きたくなくても気付いてしまう。
「とにかく和人くんが悪いよ! あと、私も頑張ってケジメを付けたんだから和人くんもケジメくらいつけてもらわないと」
コーヒーをがぶ飲みした奈留は、再びスマホを耳に当てていた。
陽キャの行動力に驚かされる。
「今度は誰に?」
「元気」
奈留はそう言うと、俺にスマホを手渡した。
「もしもし」
『和とっち、よう。奈留といるってことは、そういうことか』
「うん」
『そっか。サンキュー和とっち。奈留が普通に戻れたのも和とっちのおかげ』
「そんなことはないと思うけど、それより須藤……奈留のこと……」
『それ以上言うなし! 俺だって傷ついているんだから!!』
「ご、ごめん……」
『俺のことは今はどうでもいいんだよぉー! なるようになるんだし!』
「結構大人な考え方してるんだな」
『まあ、俺は女性経験が多いからよ』
「それは言わない方が」
『大丈夫! 経験と言ってもただ普通に遊んでいるだけだから! それより、どうした?』
「さ、さあ……」
俺は奈留を見ると、奈留は大きな声で叫んだ。
「雪菜ちゃん! 和人くん! すれ違い!」
『あ~そういうことか!』
今ので分かるのは凄い……
というか俺と雪菜はそんなに、親しいように見えていたのか。
『そのことなら和っち! ようやく気付いた和とっちに言いたいことがあるんだよねぇー』
妙に落ち着いた声で言うので、少しドキッとする。
「言いたいこと?」
『ああ、チョロインって何だってこと!』
『奈留は確かにチョロい、雪菜さ、んだってチョロい。でもチョロいからって本気じゃないとは限らないってことよ!』
「経験的にか?」
『経験的に!』
「俺もそれは納得できたよ。奈留のおかげで」
『そか! じゃあ切るわ!』
「まて元気!」
奈留は叫んだが、遅かったようで須藤は電話を切っていた。
「あ~全くあいつ! 勝手に切るなんてむかつく!」
地団駄を踏んでいる奈留。
「ちょっと質問してもいい?」
「え、なに? 真面目なトーンで言われると怖いんですけど!」
奈留は驚いた表情をしたので、俺は口角を上げた。
「別に大したことじゃないし俺が言うのも変だけど、その須藤のことって……」
ストレートに須藤は奈留のことが好きだと言い出せずにごにょごにょと遠回しに言うと、奈留は察してくれたのか首を縦に振った。
「皆には言ってなかったよね。言いづらくてさ。だって今でも、元気が私のこと好きなんて信じられないし。でも大丈夫だよ」
「そうか。ならよかった」
これ以上聞かない方がいいと思いそう言うと、奈留は逆に続けた。
「うん。二人とも少しだけ変な行動してると思うけど、とにかく大丈夫だから。私たちは小さいころから一緒だからね。元気の思いに答えるかどうかは時間が解決する!」
ニッと笑った奈留は、コーヒーを一口飲むとまたしてもスマホを弄る。
今度は何をやる気なのか気になったので、俺は覗くように奈留の隣に立つと、素早くスマホを裏返した。
「ちょっと見ちゃダメ!」
「え、ごめん。たしかにプライバシー的にアウトだった」
「いやそう言うわけじゃないんだけどね。とにかく今はダメなの」
「そこまで言われるとちょっと気になる」
「とにかくダメ。それより、遊園地ってゴールデンウィークだよね」
「うんそうだけど」
「その日を楽しみにしとくといいかも」
笑顔でそう言う奈留。
意味が分からないけれど、一応頷くことにした。
一応と言っていいのか、今までの方が付いたので、俺たちは帰ることになった。
帰り際に奈留は、
「今日はありがとう。私は前に進むことができたのは、和人くんのおかげだよ」と言った。
その言葉を聞いて、前に進むことができていない自分に嫌気が差したと同時に、奈留と出会えてよかったと思った。
そんな奈留に首を横に振ったが、薄暗いせいで、奈留がどんな表情をしているのか分からなかった。
ただ奈留は、黙って頷くと踵を返した。
俺は再び自分に嫌気が差した。




