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第23話 ストレスは現実的に

それから俺たちは淡々と須藤たちに連絡をして、約束を取り付けた。

もちろん雰囲気は最悪。

なので俺は逃げ帰るように雪菜の家を出た。


コンビニからどうやら数時間経っているので、薄暗くなっている。

俺は時計を見るためにスマホをポケットから取り出すと、RINEの新着のマークが。


『雪菜ちゃんの家なんだよね?』


奈留からのRINEだった。

俺は『うん』と返すと、すぐさま返事が来る。


『今から会えない!? ゴミ拾いをした河川敷の賀茂川像の前で』

『ちょっと今日は……』

『お願い』


顔文字やビックリマークがない文章は不気味だ。

特に須藤や奈留のような陽キャが感情を込めていない文章を送ってくると、不気味だ。

おそらく内容的には、須藤と奈留、そしておこがましいけど俺のことだろう。


休日終わりのこのタイミングに呼び出すのか分からないけど、至急来てほしいようだ。

さっき雪菜とあんなことがあったばかりなので、正直に言うとあまり行きたくはない。

精神的にもきつい。


だけど後回しにするのはなんとなく良くないと、俺自身の心が叫んでいる。

今日の第一目標は、奈留や須藤、桜華など、つまりグループのことだ。

ここで後回しにしたら、遊園地でも上手くいかず、結局疎遠になってしまう。


それだけは避けたかった。

俺はスマホをポケットにしまい、憂鬱だけど行くことにした。





休日の河川敷はいつもより若干人が多い。

しかも夕方は買い物帰りの主婦や運動をしているサラリーマンなどが河川敷を利用している場合が多いのでさらに多い。


そんな河川敷を歩いていると、賀茂川像が見えてきた。

賀茂川像。その名のとおり、賀茂川の整備をした人のことだ。

明治だか大正だか知らないけど、それくらいの年代に整備をしたらしく、賀茂川典久は袴を着ていた。


そんな賀茂川像に寄りかかってる人物は、赤く染まる夕焼けを見ていたが、やがて俺の姿に気づくと手を振った。


「和人くん!」


夕暮れ時にブンブンと手を振る女の子と、疲れ果て猫背な俺。

ロマンチックに見えるだろう光景も俺がいることで台無しになる。


しかし奈留は気にせずに手を振り続けるので、俺は勇気を出して前に進んだ。


「な、奈留」


するとニコッと微笑んだ奈留。

しかし奈留は奈留らしくなかった。

黒髪は元の金髪っぽい髪型に戻っているし、香水のような匂いもする。

そう、初めて奈留と出会ったときの奈留に戻っていた。


「コーヒー飲む?」


奈留はバッグの中から缶コーヒーを取り出す。


「甘い方と苦い方」

「じゃあ苦い方で」


本当なら甘い方が良かったのだけど、なんとなく奈留は甘い方がいいと思ったので苦い方を選ぶ。

それは正解だったようで、奈留は少し嬉しそうに見えた。


「ここじゃあ人が多いし、下に降りよ」


というので俺たちは下に降りる。

以前、ゴミ拾いの帰りに雪菜と話した辺りだ。

4月上旬はまだ花があまり咲いていなかったというのに、今は色々な花や雑草が生い茂っている。

その近くにあるベンチに座った奈留は、缶コーヒーを口に含んだ。


「ねぇ和人くん」

「な、なんだよ」

「私和人くんのことが色々な意味で好き」

「そ、そっか……」

「でも髪色は変えない! それが私らしいから」


髪をくるんと手で巻いた奈留は、その髪を鼻まで持っていき匂いを嗅いだ。


「うん、いい匂い」


なかなかヤバイ発言だけど、突っ込む気にもなれず、俺はただ黙ってその様子を見ていた。

話しかけるなオーラが出ていたわけではないが、話しかけづらかったんだ。

しばらくして奈留は髪をおろすと、目の前にある川を眺めながら口を開いた。


「和人くんが雪菜ちゃんのことが好きで、雪菜ちゃんも和人くんのことが好き、だよね」

「……」

「そりゃーあんなに近くにいるんだから分かっちゃうよ。二人とも両想いなんだよね? 流石の奈留ちゃんもドン引きというか、流石に手を引きますし~」


俺を見てニッと笑った奈留。


「嬉しそうに言わないでくれ、地味に心の傷が疼く」


俺がそう言うと奈留は、また川の方を向いた。


「両想いってところはやっぱり否定しないんだ……」

「今なんて……?」

「なんでも!」


首を大きくブンブンと振った奈留は、立ち上がる。


「実は私! 和人くんのことが好きなようで好きじゃないから」

「……チョロイン症候群のことか?」


苦笑いをした奈留は、頷く。


「実はね、チョロイン症候群だっけ!? そんなものないの。あるわけないよ」

「……なんとなく分かっていたかも」

「だったら話が早いかも。私ね、」


発言するのを戸惑っているのか、奈留は何度も何度も大きくし呼吸をした。

繰り返しているうちにだんだんと落ち着いてきた奈留は、俺を見つめていた。


「実は私……中学生のときに、先輩に5股されてたんだ。それで男の子が嫌いになって、いつしか告白を断わらないようになって、でもまた浮気されて……」


テンポよくそう言った奈留は、また息を吸いこむ。


「だからいつの間にか裏切らないような人を探していたんだと思う。これも知ってた!?」


涙をポロポロと流しながらニッと笑った奈留。

何とも言えない感情が押し寄せてくる。

俺が想定していたより何倍も酷い過去。


奈留は反応を待っていたが、薄っぺらいことを言葉にしてしまうと思った俺は、何も言えなかった。


俺はただ黙って奈留の話を聞いていると、奈留は再びニッと笑う。


「だから! 私の和人くんに対する恋心は偽物! 最初から幻覚だったの」

「……そっか」


結局出てきた言葉はそれだ。

奈留は嘘を言っていると分かっていたけど、それしか言えなかった。


俺は途中から気付いていた。

チョロインだからと言って悪いことはないと。

今の奈留は、正真正銘、清楚系で、俺が求めていたヒロイン像そのものだったこと。


でも、変えられなかった。

今更だけど、ここまで人を純粋に好きになる人間をチョロインと一括りにしてきた自分自身が憎い。


逃げ続けていた俺が、過去に向き合った奈留に何か言えるわけがなかった。


「うん! 和人くんたちのおかげで気付けた! そんな人ばかりじゃないって、自分自身の問題だったって」


グサリグサリと奈留の言葉が刺さる。

自分自身の問題。

俺がいつまでもチョロインを一括りにして前に進めないのは、自分自身の問題。


俺はずっと『チョロイン』を言い訳にして逃げているだけじゃないか。

奈留は向き合っているのに、俺は……


「そっか……」


俺がそう言うと奈留は涙を手で拭いながら、顔を伏せた。


「ごめんやっぱ嘘ついた……かも。私やっぱり和人くんのことが好き」


奈留のその姿を見て、心が痛む。

俺は今まで奈留のことをよく知らずにチョロイン扱いをしていた。

心の傷を抱えていることを知っていたけど、自らの心の傷に触れないようにするために、チョロイン扱いをしていた。


だから心が痛む。


「ごめん……奈留さん。付き合うはできない」


せめてと思い、誠心誠意込めて俺は頭をさげた。

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