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第22話 すれ違い


「和人くん毎日桜華さんをみていたから、好きだと思っていた」

「それは……」


『たしかに魅力的な人だ』という気にもなれず、俺は話を逸らす。


「まあとにかく応援なんてしなくても――」

「――つまり、私が下ネタを禁止しなくても良かったってこと!?」

「え、あうん、まぁそうなるよ」


雪菜らしい返しを華麗に無視した俺は、続ける。


「だから俺が遊園地に誘った理由も、違うんだ」


俺がそう言うと雪菜は、ちょこんと大人しく椅子に座った。

しばらくボケーっとカップの輪郭を見ていた雪菜は、ゆっくりと俺を見た。


「でも桜華さんは気があると思う……けど……女の勘として」

「分からないよ。でも、1mmくらいはあると思う……分からないけど」


俺は1mmというところに突っ込まないことにした。

雪菜が俺を凝視しているからだ。

そんな雪菜に『それは少し嬉しいかも』なんて言う訳にはいかず、思考を消し去る。


「1mmも無かったら逆に泣く」

「私は5メートルはあるから安心して」

「安心できないんですけど!」


というのは嘘だ。内心は嬉しい。

自慢気な表情でそう言う雪菜を見ていると、不思議なことになんだか嬉しくなる。


「まぁとにかく、違うんだ」

「そ、そう……なんだ」

「そう! それに仮に俺が好きだとして、桜華さんが俺を好きになることはないよ。あれだけモテているんだから」


俺がそう言うと、雪菜はクスリと笑った。


「たしかに! それはあるかも」

「いやいや! 否定してよ!」

「だって和人くん別にかっこよくないし、特に優れている事とかないし」

「それはちょっとひどい!」

「でもなぜかチョロインに好かれる属性があるみたい。それだけは不思議」

「た、たしかにそれは……」


中学時代の幼馴染やネットの姫、さらに奈留や目の前にいる自称チョロインを合わせれば雪菜もそうだ。

なんなら遊んでいる須藤も混ぜてもいい。


俺の周りには、色々な意味でチョロインが多すぎる。


「もしかして桜華もそうだったり……」

「桜華さんは無いと思う。勘だけど、もし桜華さんもチョロかったら変な人たちの集まりね」

「このグループ唯一の女神」


すると雪菜はむっとした表情を見せた。


「わたしは?」

「あーはいはいそうでした忘れてました。みんな女神です」

「それならまあ、いい」


テーブルの上にあったポッキーを手に取った雪菜は、椅子を引きずるように近づけた。

穏やかな風が吹く中、ポッキーを手に持って俺を凝視してくる雪菜。


「奈留さんはどうするの?」

「え? どうってなにが?」

「告白したでしょ。まだ奈留さんは好きだと思うけど」


そう言えば確かにそうだ。

遊園地に誘うのはいいけど、この問題が解決していなければ永遠に気まずいままだ。


「奈留が好きだとしても、やっぱり俺は変らない」

「それって好きじゃないってこと?」

「トラウマがね」


雪菜は小さく頷いた。


「幼馴染……だよね。楓さんだっけ」

「うん」

「そっか」


と言った雪菜は、ポッキーをテーブルに置き、


「じゃあ和人くんは、トラウマが治ったら、どうするの?」

「そ、それは……奈留はなあ――」

「――チョロインだからダメということ?」

「まぁそうなるね……」


何か考え込むように目を伏せた雪菜。

庭の風景と相まって氷の美少女が何かを考えているように見える。

そのままじっと動かないので、俺はなにか話題を提供しようと声を出そうとしたところ、


「チョロインとして悪友として、解決策を二つ考えてみたの」


小声でそう呟く雪菜。

当然驚く俺。


「解決策!?」

「うん。和人くんのトラウマを治すには……原因療法と対症療法があると思う。原因療法は、楓ちゃんに良い男だと認識してもらい振ること。それによって奇麗さっぱりでしょ!? 対症療法は……」


雪菜は立ち上がり、俺が座っている肘掛に座った。


「ち、近いって!」


雪菜の片足が俺の太ももの上に乗っている状態、つまり肘掛を馬のように乗った雪菜。

意味が全く分からない俺はとにかく、目と鼻の先にある雪菜の上半身を見ないようにするため、目を逸らした。


「これが対症療法だもん」


雪菜はそう囁くと、バサッと顔にかかった髪を耳にかける。


「その、悪友として、私が……」

「うん?」


顔を真っ赤に染めた雪菜を見て、心臓が飛び出そうになった俺はとりあえず相槌を打った。


「私が……その、私が側にいれば、トラウマも無くなると思ったの」

「いやいやどういう意味だよ!?」


意味が分からないし笑えない。

とにかくそのいい匂いを消し去ってから話をしよう、頭がクラクラする。


「そのままの意味。既成事実」


雪菜の上半身が俺に急接近した。

いい匂いと体温の上昇を誤魔化して、俺はそんな雪菜の上半身を手で受け止める。


「それはダメだって!」


友達に変なことをさせるほど、俺はクズじゃない。

幸喜だったら付き進めというのだろうけど、勢いに任せて行動してもいいことはないと思う。


ここでその既成事実が作られたとして、雪菜は喜ぶのか!?

いや絶対に喜びはしない。

雪菜は『悪友として』変な行為をしようとしているのだから。


それに俺自身のトラウマもある。

正直に言うと、雪菜とこの状況で付き合えたとしても、まだ怖いんだ。


「なんで……?」

「友達どうしだから!!」


そう言うと、雪菜は儚げな表情で微笑んだ……ように見えた。

逆光で表情が見えなかった。

でも口角が上がっていたところは見えた。


「和人くんは相変わらずえっちね、私を抱きかかえて」


スルリと膝掛の上から降りた雪菜は、自分の椅子へと戻ると背を向けたまま立ち止まる。


「俺じゃないと思うけど……!」

「じゃあ私がえっちだったのかも」

「うん……?」


いつものような切味がない返事。

それに雪菜は、目をこすっているように見える。

嫌な予感がしたので、俺はすぐさま椅子から立ち上がり、雪菜に近づくと、


「和人くん……」


そう囁く雪菜。


「どうした?」


「目にゴミが入って痛いわ」


雪菜は急ぎ足で、家の中に入っていった。


「目を洗ってくるね」

「あ、うん」


俺は去っていく雪菜を見ながら、複雑な気持ちになっていた。

雪菜が俺のことを好きという事はあり得ない。


『悪友』


これから先、俺たちはその関係のまま過ごすんだ。

だから今回の決断は、我ながら見事だと思う。

俺は目をこすりながら、ムギの頭を撫でた。


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