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第19話 とにかく行動

幸喜が欲していたレア装備が出たのは昼の1時頃だった。

俺たちは早朝から飯も食わずにレア装備を集めていたという事になる。

早朝にあったやる気という概念もすっかりどこかに消え去り、飯を食べるために台所に向かおうとしていたのに、幸喜の耳障りな騒音が俺を外に出したいらしく、


「中途半端な形で疎遠になると辛いぞ。我も地震で壊れたフィギュアがあってだな。結局、1度触ってから疎遠だっ――」


俺は外に出ることにした。

幸喜とのボイスチャットを無視してパソコンの電源を切ると、服を着替えて外に出る。


明確な目的がないので足取りが重い。

それに……俺が奈留や須藤たちのことを気にしていると幸喜に感づかれていたのが面白くない。

たしかに陽キャに絡まれていると話したことはあるが、今の俺はそんなに気にしているように見えるのだろうか。

たった数週間の付き合い、しかも普段なら絶対に付き合わないような人種だ。

俺や雪菜はどちらかと言えば陰キャで、奈留や須藤は陽キャ。

桜華さんはもう存在自体が天使だ。

傍から見ると明かに釣り合ってない関係だろう。


でも……やはり気になる。

連絡があまりないので、奈留や須藤が俺たちと距離を取りたいのはなんとなく分かる……


ああそうだ。俺は奈留や須藤のことが心配になったんだ。

幸喜のやつ、帰ったらPKしてレアアイテムを奪ってやる。


そう意気込んで道路にでたはいいけれど、行く先が決まらなかった。

須藤や奈留の家なんて分からないし、雪菜の家すら分からない。

そう、RINEでコンタクトするしか方法がなかったのだ。


幸喜の超音波で洗脳されたせいでそんなことすら分からなくなっていた俺は、自分に嫌気が差す。


とりあえず腹が減ったしコンビニ行くか……

今から桜華や須藤たちにコンタクトを取る勇気もなく、結局俺は逃げるようにコンビニに行くことにした。

こんな日はコーラでも買って喉越しを楽しむにかぎる。

そしてどこかの公園でパンでも食べた後に、もう一度考えればいい。


たった5分ほどの距離なのに長く感じられる地獄の道を歩く。

空腹なので余計にしんどい。

さらに幸喜からの勘違いRINEで煽られたせいで気分も悪くなっていた。


『どうせ雪菜さんと遊ぶか迷っていたんだろう? 大丈夫だ安心しろ!! 中学の時のようにはならん。あと報告よろしくぅー』


「俺の純情を返せ」


俺はスマホをポケットに入れると、前方にあるカーブミラーを見た。

瞬間、強烈で嫌なワンシーンがフラッシュバックする。


『あのねゲームオタクだったら付き合わなかったし、その中二病もなんとかならない??』


ちょうどこの場所で俺は振られたのだ。

そしてその振った張本人の家はカーブミラーの目の前。

幼稚園からの幼馴染である楓という畜生の住む家だ。


楓とはあまり交流がないタイプの幼馴染だったので、気付かなかったのだけれど……


「あんまりだ」


楓は俺をこの場所で振ると、足早に曲がり角を曲がった。

俺は突然の行動に唖然としたが、さらに驚くことに楓は見知らぬ男と話していたんだ。


そう、曲がり角の向こう側には、新しい彼氏の姿があった。

今考えてもこう思う、


「あんまりだ」


中学時代に色々あったが、未だに俺はこの事件にずっと縛られている。


俺はチョロインが嫌いだ。

チョロインなんて、浮気者なんだよ。


カーブミラーを軽く蹴とばし、俺はコンビニに向かった。

足早にコンビニに向かったのが良かったのか、さっきまでの憂鬱な気分が少しだけ消え去った状態で俺はコンビニに入ることができた。


コーラとパンを2つ雑に掴むと、俺は足早にレジまで持っていくと、店員さんも素早く対応してくれた。

もしかしたら不機嫌オーラが漂っていたのかもしれないことに申し訳ないと思いつつ、俺は自動ドアまで勢いのままに向かう。


自動ドアが俺を検知するのに遅れたので、俺は斜めになりながら外に出ると、目の前は女の人が。


「す、すみません……って……」

「和人くん」


太陽光のせいで目が霞む中、必死に目を凝らすとそこに立って居るのは雪菜だった。

珍しく髪を耳にかけている雪菜は小首を傾げ、


「和人くんってこの辺りに住んでいたのかしら?」


俺は明らかにおかしい挙動をしていたはずなのに、雪菜の開口一番の疑問がそれだった。

雪菜らしいその言葉に俺はなんだか気が抜けてしまい、膝に手をつく俺。


「……雪菜こそ近くに住んでたんだな。全然気づかなかった」

「ふふ。驚きだわ。私は三宮浜側に住んでるわ」

「ああ、どうりで。俺は山神側だから」


三宮浜と山神は隣り合っていて、三宮浜の方が都会的だ。

なので山神にあるこのコンビニで、三宮浜小学校出身の顔見知りと出くわすことはあまりない。


「でもなんでこっちに?」

「散歩よ、散歩。日曜日は毎日散歩をしているの」


散歩をするような服装には全く見えなかったけど、細かいことを指摘しない方がいいと思い無視をすると、


「一緒に下校したこともなかったし当然と言えば当然かしら」

「未だに雪菜の趣味すらわからない関係だから」

「あら? 私の趣味は読書だけれど。そういう和人くんの趣味は女漁りだったかしら」

「人前で変なことを言うもんじゃありません」


俺のことを無視して雪菜は続ける。


「今日は何をするの?」

「特に……家に帰ってゲームかな」


本当はこれから公園でボッチ飯の後に作戦会議の予定なのだが、咄嗟に出た一言がそれだった。

お決まりの言葉につい脊髄反射。


「ゲームってエロゲ―のような女の子が沢山いるようなゲームかしら?」

「まぁ、確かに持っているけど!! 違うって!」

「うっ……女の子にそんなことを言うなんて和人くん、変態……」

「も、持ってない! 冗談だから」

「嘘つきね」


雪菜はクスリと笑う。


「雪菜はどうなんだよ? 今日はなんかやる事があるのか?」

「特に。暇だから散歩してるの」


雪菜は暇なようだった。

つまり、雪菜を誘う事が出来れば、須藤や奈留、桜華を誘う難易度はイージーモードに変化することを意味する。

しかしいくら相手が雪菜であろうと、遊びに誘うにはまだハードルが高く、


「そ、そうか」


俺は、ただ相槌を打つことしかできなかった。

「そうね」と雪菜も相槌を打つと続ける。


「ところであれから桜華さんとはうまくやっているのかしら?」

「あのなぁ、俺は別に――」

「――あんなにかわいい女の子とエッチできるなんて最高ね」

「……」

「違ったかしら?」

「全然違うよ!! 桜華さんとあれから一度も遊んでないから!」

「今度から根性なしと呼ぼうかしら」

「それだけは止めてくれ! 『ゆるい女に根性なしと呼ばせる男』なんて恥ずかしすぎる!!」


するとまたもクスリと笑う雪菜は、


「でもせっかく下ネタ禁止していたのに、これじゃあ水の泡ね」


なぜか嬉しそうにそう言う雪菜は、わざとらしく肩を竦めた。

俺はそんな雪菜に仕返しするように首を振る。


「そんなことより雪菜こそどうなんだよ」

「それは……恋愛ということ……?」


なぜか急に笑みが消えた雪菜。

やらかした。

完全に地雷を踏んでしまった。

物凄い大失敗をした時のような焦りが全身に駆け巡る。

笑みが消えた雪菜は目をキョロキョロと動かしているし、確実に地雷だった。


「それは……そのチョロインという、のかな……ま、まぁ女の子だから色々あって」


声も小さくなり、何かを隠すように目を伏せた雪菜。

なんだかそんな雪菜を見ていると、俺までソワソワしてくる。

何を隠そうとしているのか全く分からないけど、とにかく続きが聞きたくない気分だ。


『実は私好きな人が~』『雪菜が答えられないと怒ってしまっても』『そんな人いなに決まってるじゃない』

とにかく、どんな言葉が出てこようと恐ろしい。

せっかく雪菜との関係を校内限定から校外まで広げたんだ。

これからもっと親交を深めようというときに、邪魔になる話は聞きたくなかった。


「その、とにかく……」

「あ!!」


とにかく俺は大声を出すことにした。

驚いた雪菜は、再び小首を傾げる。


「どうしたの!?」

「えーと、その……あの、何というか・・・・・そう、おもい、だした! そう、思い出した!!」

「……??」

「えーと……ゴールデンウィーク!!」

「ゴールデンウィーク?」

「そう! ゴールデンウィークにみんなで遊びたいと思っていたんだ。それで雪菜はどこがいいかなって……」


俺がするような質問ではない。

きっと聡明な雪菜なら、『嘘は良くないわ』と簡単に見破られてしまうような出来の悪い質問。

しかし誤魔化すには十分な効果があったようで、雪菜は何度も相槌を打っていた。


「そういうこと、ね。なら遊園地がいいと思うわ。あそこなら人がいないし」

「は?」


雪菜は何か勘違いをしているようだけど、今さら『そんなパリピな場所に行けるわけない。冗談だよ!』と訂正などできるわけもなく、


「遊園地か。なるほど。遊園地にあまり行かないけれど、遊園地って空いているのか?」

「違うわ和人くん。全然理解していないわ!」


なぜかむっとした表情で目を細めた雪菜は続けて、


「とにかくコンビニ前でするような話しじゃない事だけはたしかね」


俺たちは未だに自動ドアの前に立っていたので頷く。


「ファミレスにでも移動しようか」

「山神は田舎だわ。ファミレスまで行くのに山を越えなければならないわ」

「全山神の皆さんに謝ってくださいと言いたいところだけど、たしかに遠い」


辺りはただの住宅地で電車も通っていなく、ファミレスなんてものはこの地域にない。

ただのスズメとカラスの鳴き声しか聞こえないような閑静な住宅街なのだ。


「じゃあ……公園」

「私の家なんてどうかしら?」

「い、家!?」


俺がそう言うと、雪菜は顔を赤らめた。


「勘違いしないでよ和人くん。エッチなことなんてしないわよ!! 庭よ」


普段は下ネタだらけの雪菜だけれど、流石にボーダーは弁えているようで、目をキョロキョロさせた雪菜は『庭』の部分を強調していた。


「庭」

「そう、庭。庭なら和人くんの抵抗感もないと思うの。それに両親もいないし」

「なるほど……」


たしかにその条件ならば、流儀にも反さない。

雪菜を俺の掟から除外しても良いというそもそも論があるけど、その前に庭は男女の知り合いがお喋りしていても傍から見ればなんとも思わない場所だ。


「和人くんの家よりも遠いけれど、私の家の庭、広いわ。このコンビニからなら一番いい場所だわ」


という事なので、俺は雪菜の家の庭に行くことにした。

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