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第15話 ゲーミングカフェ

そういえば、桜華はかなりのオタクなのだ。

そして俺もゲームが大好きで、その提案を断わる理由がなかった。

俺は軽く頷いた。


河川敷とは反対方向にある商店街を女子と二人で下校する、と聞くと頭がお花畑になりそうな情景が浮かぶだろうけど、今回は違った。


もちろん隣にいる桜華に男子の視線を集めているとか、隣に清楚で可愛い女の子がいることは脳内ハッピーエンドに向かいつつある状況だ。

だけど俺たちは対戦ゲームをするためにこの商店街を通っているのだ。

桜華がどんな対戦ゲームを選ぶのかは分からないけど、男として負けるのはかなり恥ずかしい。

だから悪い意味でも刺激的だ。


少し古びた商店街を桜華は歩いていく。

高校が密集している地域にある商店街なので比較的新しい店舗が多いみたいだ。

お洒落に全振りした高校生たちがそこら中にいる通りのようで、こんなところにゲームセンターがあるのかと思っていると、桜華は足を止めた。


「和人くんゲーミングカフェだよ! 先月新しくできたんだって!」

「ええ!!」


桜華は満面の笑みでそう言った。

水野桜華は正真正銘のオタクでゲーマーだった。

まさかパソコンでやるゲームだとは思っていなかった。

黒髪で美しい和の香りがする女の子がパソコンゲームをしているところを想像してほしい。

ギャップどころではない。いい意味での驚天動地級の事件。

清楚×オタク×ガチゲーマー


オタクの俺にとって、水野桜華は究極超理想的な女の子だった。


「どうしたの和人くん?」

「なんでもない……それよりゲーミングカフェは初めてかも。ほらなかなかやってる人っていないし」


探せばクラスにもいるのかもしれないけど、俺の知人にはいない。

雪菜もオタクと言えばオタクだが、方向性が違う。

雪菜は本の虫的な感じのオタクだ。

日が暮れている中、窓側の席で髪を書き上げながら読書をしている的な感じだ。

普段雪菜が何をしているか知らないけれど、学校では本が好きなのでそうに違いない。

イメージもしやすいし。


「だから私、和人くんと出会えてよかったー!」


目を宝石のようにキラキラ輝かせる桜華は、珍しい。

と冷静に考えている場合ではない。

今の発言を通りすがりの他人が聞いていたとしたら、誤解されるわけで。


「和人くん! 行こう!」


桜華はにっこりと微笑みつつ踵を返した。

俺は慌てて桜華の後を追った。



店内に入った俺たちはレーサーのようなゲーミングチェアに座る。

ドリンクを持った桜華は隣に座ると、「ふう」と息を吐いた。


「最初は奈留ちゃんのことを聞きたいな」


真面目だ。


「どこから話せばいいのだろう……」


そもそも話すべきか迷ったけど、俺は話すことにした。

桜華は奈留のことを心配しているのだと思う。


「感覚的な話だけど」


そう前置きする。


「な、奈留はおそらく過去に何かあったんだと思う」

「それはなんとなく私も感じ取れたよ。何か引っかかっているような……」

「そこが問題で、奈留は中学生の時に何かあったと思うんだ。異性絡みの」


奈留にそんな過去があるなんて考えもしなかったのだろう。

桜華は、首を傾げた。


「奈留ちゃんが……?」

「そうだと思う。根拠は……」


深呼吸する。


「根拠は、俺の経験。はずかしながら中学の頃中二病でして、まあ色々あって女子から告白されることがあったんだ。でもその女子は中二病がきもいと言って、1日後には誰かと付き合ってたり……まあそんなことがあって」


は、恥ずかしい!!

これ以上は無理だ。俺は桜華から目を逸らす。

よりにもよってなんで俺は桜華にこんな話をしたんだろう。

どうやら俺という人間はとんでもなく馬鹿らしい。

俺はちらりと桜華のことを横目で見ると、桜華は何故か頷いていた。


「それは振った女の子が見る目なかったよ! 中二病はアニメの必須要素でしょ!?」


と天使の微笑みで俺を見ていた。

桜華は続けて、


「和人くんの言いたいことが分ったかも。つまり同じような出来事があったということだよね?」

「まぁそう言うことになるかな……その結果俺はチョロインが嫌いになったわけで」

「そう言う理由だったんだ」


桜華はきもいと思わなかったらしい。

興味深そうに頷くと、


「なんか私も分かる気がするよ。そんな簡単に惚れていいのか―って」

「そうそう。理由がどうであれ、そんな簡単に惚れるのはおかしいと思うんだ」

「問題抱えている女の子が突然現れて、解決すると惚れられるとか!」

「幼馴染を毛嫌いしている主人公が、理想の惚れてくれる女の子にであったり」

「東欧美少女が何故か主人公のことを好きな物語とか!」

「さらにひどいのだと振った幼馴染を悪にして、実はモテてますってやつも」

「うん分るよ! 色々な意味であの展開は正直ないよね」

「そう言う意味でいうと、恋愛ってもっと理想的でもいいと思うんだ」

「理想的な甘い恋がしたいよね」


桜華はストローを指先でくるんと回すと、


「和人くんの言ってること凄く分かるよ。私のこと好きって言ってくれる男の子はたしかにいるけれど、何が好きなのかわからないの。1日で何が分るっのて思っちゃう」


桜華は苦笑いをした。

一目ぼれだとしても時間が必要だと言いたげだった。


「それにチョロインだとホイホイいきそうで」

「うん。その心配もあるよね。そう言う意味でも奈留ちゃんにはチョロインでいることを止めてほしかったの」

「俺はチョロインを嫌っているけど、おそらく奈留は男性を嫌っているんだと思う」


俺がそう言うと桜華はハッとした表情をした。


「桜華、さん?」

「和人くん!?」

「?」


すると桜華は、やれやれと首を振った。


「和人くん最初からなんとなくわかってたでしょ。奈留ちゃんに暗い過去があったことも、『須藤くん』が奈留ちゃんのことが好きっぽいことも」

「なんのことやら……」

「ファミレスのときに、奈留ちゃんのことが好きじゃないのに手伝うなんて変だと思ってたの。それにさっき須藤くんが立ち去った理由は、奈留ちゃんのことが好きだから、だよね?」


椅子をグイっと近づかせた桜華はなぜか目を輝かせながら問いかけてきた。

俺はそんな桜華の目を直視できずに、ちらりちらりと見る。

たしかにその通りだ。

ファミレスの時点で『奈留の過去に何かありそうだと確信していた』し、須藤が『本命がいる』と言っていた時点でなんとなく察していた。

確信したときは、今日の昼間だ。

ニコニコしている須藤を見て、確信に変わった。


そしてそのことに気づいたのは、おそらく俺と雪菜だろう。

雪菜がいつから気付いていたのか知らないけど、少なくとも昼休みの時点では気付いていたはずだ。


『仲が良いと気づかない事もあるんじゃないかしら?』


今になって思う。

無意識なのか意識してたのか、雪菜のあの言葉は須藤と奈留の関係性だけじゃなく、中学からの知り合いの奈留・須藤と桜華という意味も含まれていたのかもしれない。

それだけじゃないその言葉にはたくさんの意味が含まれている。


奈留が男嫌いになった原因を須藤は気付いていない。

《《奈留は、須藤が》》好きなことを気付いていない。

距離が近いと客観視できないという事だろう。


「知っていたとしたら……?」

「ただただ凄いなって思っただけだよ」


桜華はそう言うと、さらに椅子を近づける。


「でも和人くんは我慢していない?」

「俺はチョロインが嫌いだ」


俺がそう言うと桜華は口角を上げた。

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