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第14話 一時休戦

昼休みだけで解決するわけがなかったので、学食を食べ終わったあと俺たちはクラスに戻った。

話し合いから午後の授業まで、須藤はいつも以上に陽気で、誰が見ても分かるような笑みを浮かべていた。

どうやら須藤は奈留のことがかなり好きらしい。

雪菜でさえその変化に首を傾げたので、俺が人を見る目がないとかあるとかそう言う問題ではない。


とにかく奇妙なほど嬉しそうだった須藤は、授業が終わると真っ先に奈留を呼びに教室を出た。


「須藤くん嬉しそうだね」


フローラルの匂いが鼻を刺激する。

俺の机の横にはさっきまで友達と話していた桜華がいた。


「あんなに喜ぶとは思わなかったけども」

「須藤くんって素直な人なんだよ実は」


行動力があり優しく素直で、おまけに顔がいい。

須藤はモテるんだろうけど、誰と付き合っているのだろうかなんてことを思っていると、須藤は奈留を連れて戻ってきた。


奈留が遅かったのか手をつないで戻ってきた須藤は、ズンズンとこちらに向かっている。

周りにいるクラスメイトは二人を興味深く見つめているし、完全に凹凸なグループの出来上がりだろう。

若干の冷や汗をかきつつ、俺は立ち上がり椅子をしまう。


「さぁ行こう」


須藤が来た方向とは逆側のドアに向かうと、雪菜が後ろから肩をチョンと突っついた。


「私たち変なことをしているんじゃないかって、さっき小耳に挟んだわ」


そりゃーそうだよ。

雪菜と俺だけでも変な噂があったのに、そこに誰にでも優しい桜華や陽キャよりの須藤や奈留がいつの間にか加わっているのだから。

だから俺は、逆側のドアに向かっていた。

物事には慣れという概念がある。

雪菜的に言うと、ホメオスタシスだろう。


奇妙なグループでもいずれ好意的に思えるということ。

俺はそのことを雪菜に言うと、雪菜はフフと笑った。


「慣れが必要なのは和人くんだと思うのだけど」


ぼそりとそう呟いた桜華。

俺はその言葉を無視して廊下に出ると、足を止める。

後方を振り向くと奈留の手を引いた須藤と桜華が姿が見えた。


「なんで反対側のドア!」

「ちょっと外の空気が吸いたかったというか」

「え? ここ廊下じゃん。まあいいや。それよりなんとなく原因が――」

「手!」

「手ってなにが?」


すると奈留は嘆息して須藤の手を振り払った。


「手!! じゃん!」

「別にいいだろー。そんな焦るなて」

「幼馴染同士で手をつなぐとか、悲しすぎだっての!」

「ぅぐ……そ、それは、たしかに」


苦笑いをした須藤を無視した奈留は、


「もしかして原因がわかった感じ……?」

「うん! 和人くんがまとめてくれたおかげで分かったよ」

「え! 本当に!? 嬉しすぎだよ」


と言う奈留は、俺に近づいてくる。

黒髪に染めた奈留は外見だけで言うとかなり清楚系で、しかもかなり好みの見た目でありまして……

俺は一歩後退した。


「なんで下がるの!?」


グイグイとくる感じは変らなく、奈留は俺の手を握った。


「ありがと! マジさすが和人くんだよ」

「でもまだ少ししか分かってないな」

「少しでも有難いよ。私のことを理解してくれてる証拠だし」


ギュッと握ってくる奈留だが、そろそろ色々と困る。

周りの目もあるし、なによりなんだか変な空気になっている感じがする。

だから俺は奈留の手を強引に離す。


「ああ!! なんで離すの!?」

「なんでって、つき合ってもいないのに手を握るなんて不埒だから」

「良いじゃん! 私だって恋人がいないんだし、セーフでしょ!」


そんなこと言われても、俺は『チョロインは無理だと』心に決めているから困る。

慣れて奈留のことを煩わしい存在だと思わなくなったとしても、チョロインは無理なのだ。


自分の中の絶対的なルール。

それを覆すときがきたら、俺はきっと今まで愛してきた2次元アニメキャラに詫びなきゃならないだろう。


「かずとっち、そんなに奈留が嫌か? また食堂の時のように険しい顔してるぜ」

「面構えが違うわね、こういう時は大抵何か考えているときだと思うの。たぶん奈留さんのことじゃないわ」

「その通りだよ! だから耳に息を吹きかけるのはやめろ!」


雪菜から即座に距離を取ると、須藤はやれやれと肩をすくませた。


「まぁかずとっち、奈留をよろしく頼むぜ」

「さっきの話をきいていたか!?」

「もちろん。そう言う意味じゃなくて、『惚れ症候群』のことだって」

「な、なるほど……」


どうやら勘違いをしていたのは、俺の方らしい。

慣れとは怖いもので、自然と意識してしまったってことか?

自分の頭を今すぐ殴りたい気分だ。


「まぁそう言う事だから、奈留ちゃん。一緒に頑張ろう!」


すると奈留は苦笑いをした。


「うーん……もういいかも的な? ほらだって私が惚れやすい原因がなんとなく分かったんでしょ? 迷惑もかけたくないし、それで十分というか……」

「なんでだよ奈留。ファミレスでは乗り気だっただろー」

「それはそのー、断りづらいじゃん? それに何となく自分でも気づいちゃったし」

「原因がってことか?」

「まぁ、うん。和人くんに振られたことで、そのピンと来たの。自分が悪かったのかもって。結局はあの当時から私は視野狭窄的だった的な、灯台下暗し的な」

「うん? 何言ってるか全くわからないけど」


須藤は何故か俺を見た。

須藤的に言えば、俺がこの状況を理解していると思っているのだろう。

そして中学時代にこっ酷く振られた俺だからこそ、奈留の言いたいことはなんとなく分かってしまった。

奈留は明らかに過去を気にしている。

その出来事がどういう事かは知らないけど、おそらく奈留も中学時代に異性に酷いことをされたとか、そういうことだと思う。


例えば中学時代に奈留は誰かと付き合っていて、その誰かは罰ゲームで奈留に告白しただけだったとか。

中学時代ってそういうくだらないことが流行る。

仲良くしていたクラスメイトに呼び出されたけど俺の友達が好きだったり、クラスの陽キャが陰キャに告白をしたりだ……


奈留はかなりモテるだろうし、人懐っこい。

そんな人間が標的になるとは思えないが、陽キャの世界も色々と大変なのかもしれない。

とにかく仲の良い須藤たちに話せないような過去が有ることは明らかだろう。

だから俺は首を横に振った。


「ま、まぁ解決したならいいけどよぉー」


明るく言った須藤は矢継ぎ早に、


「そんで原因はなんだったんだ?」


須藤らしくドスレートな質問だった。

奈留は困惑した表情でいると、雪菜が口を開いた。


「仲が良いと逆に距離が遠くなることもあると思うの」


これまた少し前に聞いたような言葉だった。

雪菜は俺を一瞥すると、


「でもそれは当人同士の問題ね。今回で言えば、奈留さんと須藤くんたち。いずれ氷解するんじゃないかしら」


そういえば、雪菜も昔女の子から虐められたことがあると聞いたばかりだ。

だから雪菜も、奈留に暗い過去があることを気付いたのかもしれない。

まるで俺が察したことをテレパシーで感じたかのように雪菜は、俺をもう一度見た。


「ごめん私も全然分からないかも」


首を傾げたのは桜華だった。

須藤と顔を見合せている。


「なんか二人とも大人みたいに見えるぜー……」

「たしかに! 私たちにはまだ見えない領域を見ている感じ」

「まぁそう言う事じゃん? 見えないこともあるってー!」


調子よくそう答えた奈留は須藤の背中をパンと叩く。


「まぁよく分からないけど、奈留がいいならそれでいいわ」


とイケメン台詞を言った須藤は、疲れたのか、廊下の壁にもたれかかり、窓の外を見ていた。

廊下にはまだたくさんのクラスメイトがいて、不思議そうに俺たちを見ている。

場所を考えるべきだった。

完全に俺たちはサーカスの動物だ。


「なぁ場所を変えないか?」


俺は辺りを指差しす。

しかし須藤は、首を横に振った。


「わりぃちょっと用事があったんだ、俺かえるわー」


唐突だった。

言葉を発した瞬間には須藤の姿は遠くにあり、俺たちは唖然として須藤が消えるのを見ていた。


「元気どうしたんだろ? 具合がわるかったのかな?」

「今日一日、にやけていたしそうは思えないけど」


俺がそう言うと、奈留は手をウルトラマンのようにした。


「ごめん、ちょっと心配だから追いかけてみる!」


そう言うと奈留は足早に消えていく。

残されたのは桜華、雪菜、俺だった。


これまた不思議な面子が残されたわけで、気まずさが若干ある気がする。

駄洒落じゃないけども。


「えーと……どうする?」


どうするもこうするもないのだが、なんとなくそう言わなければいけない気がした。

すると、雪菜は嘆息した。


「和人くん。この状況を見て分からないのかしら。超美少女二人と貴方だけよ」

「うん?」

「そして私は貴方の悪友だわ」


言いたいことがさっぱりわからない。


「つまり、私も用事があるの」

「は?」


そう言って雪菜も姿を消した。

残るは二人。

桜華と俺だけだ。

これまたなんとも奇妙な組み合わせであることは、間違いない。

桜華もそれをなんとなく感じ取っているらしく、モジモジしているような気がする。


「えーと……じゃあ、ここで解散で」


桜華とはまだ会話してから数日しか経っていない。

ここで一緒に帰るのは、なんとなくおかしいと直感がそう叫んでいた。

ちょっと惜しい気がするけれど。


「和人くん待って!」


奈留のことが聞きたいのだろうか。

桜華は俺を追いかけてきた。


「奈留なら多分大丈夫だと思う」


根拠はないが、そんな気がした。


「それもあるけど、一緒にゲームしてほしくて。周りにはゲームする子とかいないし、その……私、対戦ゲームがしてみたいの!」


真剣な表情でそういう桜華に、驚きはしなかった。

そういえば、桜華はかなりのオタクなのだ。

そして俺もゲームが大好きで、その提案を断わる理由がなかった。

俺は軽く頷いた。

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