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第1話 俺はチョロインが嫌いだ

 俺は、チョロインが苦手だ。

 よくアニメやマンガではチョロインが出てくるが、ほぼ全員がくだらない理由で主人公を好きになる。

 主人公が圧倒的強者だから惚れる、傘を貸したので惚れる……

 そも、どこに惚れたのか分からない作品が多い。


 たしかにチョロい女の子が周りにいるという状況は気分が良いのだろう。

 しかし裏を返せば、イケメンでもない良く分からない奴を急に好きになるという事だ。

 つまり、行動を誤れば、そのヒロインたちは他の男性のところに簡単に行く可能性がある。

 あっちに行ってこっちに行き、さらに向こう側に行く。

 サキュバスのように小悪魔的に男を翻弄する存在。

 俺がチョロインを嫌いな理由だ。

 チョロインは小悪魔的存在で、俺たちオタクを狂わせる存在。


 だから俺はチョロインが出ているアニメやマンガを見ることはない。

 女の子が主人公に惚れた理由を知りたい。

 その女の子がどういう理由で主人公に惚れたのか徹底的に調べたい。

 それが本能。

 できればキュンとする理由が有ればよし。


 反対に俺は清楚で大人しい女の子が好みだ。

 ゲームで言えば、ずっと主人公の隣にいるようなタイプ。

 穢れなき聖域って感じがするし、俺の心までもが浄化される気がする。

 傷ついた心に染みわたる、炭酸が染みわたるように。


 そう、俺は、清純で黒髪でお嬢様のように礼儀正しい女の子が好きなのだ!

 黒髪は清純の証拠。

 短すぎず長すぎないスカート丈は、清純とビッチの境目。

 礼儀正しくやわらかな声は、おっとりしている証拠。

 その微笑みは、天使の証拠。


 水野桜華は間違いなく俺の理想とするヒロインだ。

 一切チョロイン要素がない。

 実際に確認したわけではないが、おそらくチョロくはないだろう。


 桜華はこちらに向かってくると、俺の視線に気づく。


「おはよう和人くん」


 清楚っぽい微笑み。

 男子とは一線置いているのだろう笑顔。

 しかし柔らかく包み込むような表情。

 この均衡こそが清楚っぽさを生み出す。


「おはよう桜華さん」

「うん。おはよう!」


 一拍遅い返事にも答えてくれる余裕。桜華は返事をすると、踵を返す。

 何かいい匂い。そう何かいい匂いとしか表現できない匂いが俺の鼻を刺激する。

 桜華はスタスタと友達の所に向かう。

 笑っている。

 口を手で少し隠しながら笑っている桜華のふとももはまさに究極の領域。

 それに、友だちのくだらない会話に微笑んで答える包容力。

 まさに完璧。


「おはよう和人くん。女の子をじっと見ているようだけど、視姦の邪魔だったかしら」

「……」


 机に伏している俺の目の前に現れる太もも。

 中学からの知り合い、白石雪菜しろいしせつなの太ももだった。

 奇麗な素肌と柔らかそうな太ももを見ただけで分かる。

 いや、こういう事故で何度も彼女の太ももを見てきたから分かる、って言う方が正しい。

 なぜこういう行動をするのか全くもって不明だが、とにかく雪菜が変人ということだけは間違いない。

 自らを『チョロイン』と呼び、モテるであろうに、ボッチであることが多い美少女。

 俺はそんな変人美少女と、付かず離れずの関係を続けている。


 学校の中だけで話す友達と言ったところだろう。

 雪菜のふとももは、今日も俺の目の前に現れる。


「私のふとももには興味がないってことね……」


 雪菜は悲しそうに顔を両手で覆うが、当然、全く悲しんでいないだろう。


「あのさ雪菜。俺は別に視姦なんてしてないから!」

「じゃあなんで桜華さんをじっと見ているのかしら」


 雪菜は、前の座席に座ると体をこちらに向ける。


「そりゃー……時間割を見ていたんだよ」

「時間割……?」

「そう時間割。今日体育があるあったかなーって……」


 俺がそう言うと雪菜は溜息をついた。


「あのね和人くん。私もいい加減疲れたの。貴方との関係に」


 わざとらしくため息をつき、俺の机にひざをつく雪菜。

 俺は答えるのも面倒になったので、ひたすら雪菜の目を見る。

 すると雪菜は視線を逸らして、小さく咳払いをする。


「和人くん。流石に毎日見ていれば分かるわ」

「というと……??」

「私がいながら桜華さんのことを、毎日いやらしい目で見ていることを」

「いやらしい目では見ていないから! それと誤解を招くようなことを言うのはやめて!」

「見ているってとこは否定しないのね。変態さん」

「……」


 相変らずの変人度だ。

 変人度で言うと百に近いだろうよ。

 どう返事をすればいいのか全く分からないときがある。


「えっちね。まさしくえっちだわ。私は悲しいけれど」


 再び両手で顔を隠す雪菜。

 俺は溜息をつきつつ、雪菜の顔を見るために手を引き剥がす……が……

 雪菜は、両手のひらを顔に押し付けそっぽを向いた。


「消しゴムを拾ってくれた優しい和人くんと両想いだと思ってたのに」


 ぼそっと言う雪菜。


「冗談で男の子を弄ぶんじゃありません!」


 そう、雪菜はこういう冗談が大好きな女の子だ。

 かわいらしい顔で、白銀の髪をわざとらしく躍動させて、しかもニッコリと微笑みながらこういうことを言う。

 今回は顔を隠しているが、きっと微笑んでいるのだろう。

 雪菜の友達だから理解してあげられるが、他の男子がやられたら一発で落ちる。

 つまり、チョロ男子になってしまう。


「ふふふ……流石ね。カズホくん」


 クスクスと笑い出す雪菜は、次に両手を顔から離した。


「消しゴムを拾ってくれる優しい和人君が好きなのは間違いないけど」


 微笑み。聖女の微笑み、または天使の微笑みを見せてくれた雪菜。

 俺は内心ドキドキしながらも平静を装う。


「たしかに中学の頃、消しゴムを何回も拾ったが、その設定はチョロすぎると思う」

「チョロインであり続けるのも才能だと思うの」

「どんな才能だよ!」

「チョロイン症候群よ」

「それじゃ病気!」

「酷いわ。女の子にそんなことを言うなんて」

「女の子というより男友達って感じだろうよ」


 俺がそう言うと雪菜は急に思考停止する。

 顎に手を当てて何やら考えているようだ。


「それも、そうね。こんな会話してるわけだし」

「いや、俺は言っていないけど!」

「私がえっちだって言いたいようね。それはそうと私、言伝を預かっているの」


 唐突。雪菜はポケットからスマホを取り出す。


「連絡先を教えてほしいって女の子がいるのだけど」

「……は? 誰の?」

「和人君以外にいるのかしら。女の子にだらしない人が」


 いや一言余計だよと突っ込みたくなったが、面倒なので喉の奥に押し込む。

 それに俺としても興味深い話しだった。

 高校に入学してまだ1週間。

 オタクでフツメンの俺の連絡先を聞きたい人がいるってことに。

 十中八九、色恋ではなく、別な用事だろうけど。


「顔がニヤニヤしているけど、桜華さんではないわ」

「まぁ、それはなんとなくわかるよ」


 す、するどいな。

 たしかに少しだけ考えていたかもしれない。

 正直、心の奥底では、期待していた自分がいる。


「顔がいやらしいだけだったのかもしれないわ」


 雪菜は完璧な突っ込みをし、続ける。


「他クラスの女の子よ。青葉奈留あおばなるって女の子よ」

「本当に俺の連絡先って?」


 以前にもこういうことがあった。

 女の子に呼び出されたが、実は俺の友達を好きだったという悲しい事件。

 悲劇を繰り返さないためにも、チョロインかそうでないかは置いておいて、人称の確認は重要だ。


「ええ。『和人君の連絡先を教えてほしい』と言ってたわ。私も急いでいたから他のことは聞いてないけど」


 無表情で淡々と説明する雪菜をみて、冗談を言っているわけではないと確信。

 となると、本当に俺の連絡先を。

 世の中には、変人もいるものだ。


「休み時間に確認してみるのもありなんじゃないかしら」

「うーん……そういってもなぁ」

「じれったいわ。昼休み一緒に食べることにしましょう」

「おいまて!」


 呼びかけるが効果はない。

 スマホを弄っている雪菜の腕を掴むが、全く動じない。

 雪菜はニッコリ笑顔で首を傾げる。


「なにかしら?」

「俺は生きたくないんだけど! それとオタクの俺を好きになるなんておかしいと思わないか?」

「たしかに中学の頃の貴方ならそうね。厨二病全開だったから。近くにいた私も恥ずかしかったわ」

「おいまて、傷を抉るな! もういいわかったから!」


 厨二全盛期。

 メモ帳に魔法陣を描き、小さなナイフを持ち歩き、呪文を唱える。

 記憶が頭の中に溢れてくる……

 他クラスの女子から告白されたが、3日で振られたこと。

 そしてその女子が厨二病きもいと言いながら、一日後には別なやつと付き合っていたこと。


 真にチョロインが嫌いな理由だ。

 最初に話した理由も嫌いな理由だが、心の深層にある理由はこれだろう。

 俺はチョロインが少しだけ怖く、そして嫌いだ。

 あー忌々しい。


「そんなに怒るとは思わなかったわ……ごめん和人くん」


 しゅんとした表情。

 雪菜がこのモードに突入すると、急に大人しくなる。

 目をキョロキョロさせている雪菜。

 だから俺は首を横に振った。


「厨二病だった自分を思い返してた、だけ」

「……和人くんはやはり女好きね」


 元の調子に戻ったもよう。

 全く調子がいい女だ。

 いつも俺のことをからかっているから、今日くらいイジメてもいいだろう。


「女好きだからね」


 制服越しでもわかる大きさ。

 俺はそれを凝視する。

 さらに凝視する。そして俺は雪菜の顔を見る。

 さっきとは違った目の泳ぎを見せてくれた雪菜の顔は、真っ赤だ。


「ぱ、パーソナルスペースに踏み込みすぎだわ」


 早口でそう言った雪菜は、素早く背を向ける。

 俺はそれを見て満足するのだった。

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