0046 戦士(もののふ)の条件
12/3 …… 属性と魔法に関する考察をかなり大幅加筆修正
【29日目】
2氏族は『競食』により倒れ、9氏族はまた『陥落』した。
最果ての島に数百年続いてきたらしい"ゴゴーロの血統"による「小醜鬼諸氏族」の相克の歴史は終わり、新たに迷宮領主【エイリアン使い】である、この俺オーマによる支配の歴史が始まる。
もはや"隠す"必要も無くなったため、俺は走狗蟲を中心とした全ての戦力を、地上に解き放っていた。それは単に残党狩りや、大型の野生動物を間引きしたりするだけではなく――労役蟲達土木工作部隊も堂々と参加させたのである。
そしてそれと同時に、11氏族の生き残りから「奴隷」と化した小醜鬼達を【奴隷監督】の職業であるル・ベリに率いさせ、労役蟲達の土木工事の補助労働力として、参加させていた。
ル・ベリらが代胎嚢の中で傷を癒やしていた間に立てた「開発計画」に沿って、『大規模農場』や『大規模牧場』といった施設を地上に構築させるのである。
「開発計画」そのものは、ル・ベリの現場指揮官としての感覚に合わせて、修正や変更などを全面的に委ねた。そして、その中でル・ベリには改めて小醜鬼達の「選別」を行わせ――将来的な「品種改良」計画に備えていく、という構想である。
そして俺は現在、迷宮内にて竜人ソルファイドを従え、彼に約束した通り、島の制圧後の『因子』の解析状況を改めて再確認しながら、労役蟲達によって磨き上げられて凹凸一つ無い、平らな通路を部屋から部屋に向かって移動をしていた。
【因子解析状況】
・解析完了済
強筋、伸縮筋、硬殻、重骨、拡腔、水和、隠形、空棲、水棲、垂露、酸蝕、猛毒、酒精、葉緑、魔素適応、命素適応
・解析完了(NEW!!!)
瞬発筋、鋭利、豊毳、軽骨、共生、土棲、汽泉、生晶、強機動
・肥大脳:46.4% ← UP!!!
・強知覚:1.6% ← NEW!!!
・竜鱗:0.3% ← NEW!!!
・被鉄:1.8% ← NEW!!!
・血統:66.4% ← UP!!!
・分胚:3.7% ← NEW!!!
・骨芽:7.2% ← NEW!!!
・擬装:33.8% ← UP!!!
・噴霧:51.9% ← UP!!!
・粘腺:73.9% ← UP!!!
・塵芥:5.5% ← NEW!!!
・紋光:17.3% ← UP!!!
・水穣:85.6% ← UP!!!
・火属性:33.5% ← NEW!!!
・風属性:20.2% ← UP!!!
・水属性:4.3% ← NEW!!!
・闇属性:0.9% ← NEW!!!
・混沌属性:7.8% ← NEW!!!
・活性属性:12.6% ← NEW!!!
・空間属性:0.5% ← NEW!!!
・呪詛:3.3% ← NEW!!!
ル・ベリより。
獲得したのは『因子:骨芽』、『因子:呪詛』。
既にル・ベリからは、現時点での俺の権能で獲得できる因子は全て獲得したと思っていたが、再度の登板であった。だが、考えてもみれば当然のことで「新たな能力」の獲得とはすなわち、新たな「現象」を引き起こす能を得た、ということである。
【異形:鋳蛹身】のガチャによって【骨鉤爪】に置き換えられた【第二の異形】であったが――それから『骨芽』が解析されたということは、おそらくはこの【異形】はそれなりに再生力も高いことが予期された。
そして『呪詛』に関しては、ほぼ確実に【弔いの魔眼】が解析された結果と見てよいだろう。
およそ相手に悪影響を与える類の【魔眼】からは、等しく『因子:呪詛』が解析されるものだと俺は予想していた。その意味では、今後、俺自身を含めてだが【闇世】の住人と多く交流する機会があった場合には積極的に『因子の解析』を狙っていきたくもある。
「ル・ベリが変化し、奴の【異形】を入れ替える度に、主殿には新たな力――その"設計図"が手に入る可能性がある、ということだな?」
とはソルファイドの言である。
それに対し、俺はこう返すのであった。
「そしてそれは、お前もまた同じだソルファイド。お前達の成長や強化が還元される、そういう能力が俺の迷宮にはあるということだ」
ソルファイドの問いに答えた通り、彼とその二振りの『火竜骨の剣』に対しても、きっちり【因子の解析】は発動している。
そしてそこから獲得したのは『因子:竜鱗』、『因子:火属性適応』。
『因子:火属性適応』については、ソルファイド自身は魔法が得手ではないということであり、解析できない可能性も考えていた。
しかし、この「属性適応」系の因子達は――なんと、別にその解析元は魔法でなければならないことはない、と言わんばかり。魔法であろうが何であろうが、要はその"現象"を超常の力で操り司るならば、【属性】としても定義されうる。
……『火竜』の末裔であるソルファイドと、そして"生きている"魔剣にして『火竜骨』から鍛造されたという『ガズァハの眼光』『レレイフの吐息』からは、文句無しであるとばかりに、即座に【火】が属性因子として解析されたのであった。
だが、この事実は、この世界における「属性」と「魔法」というものに対するちょっとした疑念を提起するものであるが――他にも『属性適応』因子は解析されているため、このことは後で考察する。
話をソルファイドに戻せば、他に『竜鱗』という因子もまた新たに定義されていた。
竜人がかつて"竜"であったという特殊な来歴の種族であることから、ソルファイドはただでさえ頑丈である。体中ではないにせよ、部分的にでも鱗が覆われているというのは、身体の一部が鎖帷子になっているようなものであり、生半可な斬撃が通用するものではない。それは、守りをある程度考えずに、攻めの姿勢に比重を高く置くことができるということでもある。
だが、単に皮膚が硬いだけならば『因子:硬殻』などもある。
『竜の鱗』が、それとはさらに別の"現象"として俺の世界認識で定義された以上は、そこには更なる秘密か特別な効果があるのだろうと俺は考える。例えば……元いた世界の、RPGやゲーム的な発想を借りるのであれば、例えば"魔法に対して強い"ということなどといったところか。
その辺りは、俺がもう少し「魔法」を理解して、俺自身の技として確立できた段階で検証することになるだろう。
また、この他ソルファイドからは、テルミト伯からの"お土産"である片目に寄生か擬態かをしていた「目玉」より、『因子:強知覚』が獲得されたのであった。
海中の諸生物より。
『泡割きクラゲ』と名付けられた、まるでシャボン玉のように分裂する性質を持ったクラゲからは『因子:分胚』が。
『養骨珊瑚』と名付けられた、生物の骨を取り込んで分解しながら自身に継ぎ足し、成長する珊瑚からは『因子:骨芽』が。
『熱泉ナマコもどき』と名付けられた、流木を体内の【火】属性によって焼いて灰化させ、それを煙幕として噴き出すナマコのような生物からは『因子:塵芥』とわずかな『因子:火属性適応』が。
そして『鉄脚海サソリ』と名付けられた、スケーリーフットを思わせる"鉄分をまとった鋏脚"を備えた大型の海洋生物の死骸(周囲の状況からヒュドラの犯行と思われた)からは『因子:被鉄』が、それぞれ獲得できた。
その功労者は、やはり突牙小魚のシータ率いる『潜水班』である。
可能な限りだが、多頭竜蛇に近づかない、その気配を察知したらすぐにでも撤退という大前提で以て、彼ら『潜水班』には沿岸の調査を進めさせていたが、その過程で海中生物由来の因子も集まるようになってきたのである。
ただし、空中からは、遊拐小鳥のイータ率いる『哨戒班』による哨戒飛行と合わせて、わずかでも多頭竜蛇の出現の予兆――海流の変化や不自然な飛沫などが現れ次第、引き返させる体制。
さすがに地上で一気に「因子解析ラッシュ」を行ったようには、堂々と積極的な"乱獲"を海中でやるには対多頭竜蛇の戦力が心もとない。まだまだ定義したばかりであるこれらの因子の解析率は今は低いが、一通りの地上の開発と合わせて『潜水班』の大幅な拡充を計画中であるところだ。
――そして問題の「属性適応」系の因子群である。
小鬼術士や祭司達より。
【魔法】によって引き起こされた"現象"として、複数の「属性適応」の因子が獲得された。
それは【火】、【風】、【水】、そして【混沌】と【活性】である。実際の魔法攻撃手段としての【火】と【風】の他に【水】について得られたのが少し意外ではあったか。
【混沌】については、俺やエイリアン達を『悪疫』『掻痒』の術によって苦しめてくれた【混沌】属性の術からであり――さらにここからは『因子:呪詛』もわずかに解析することができていた。
また【活性】については、旧ザビレ氏族側から回収された元祭司と思しき雌の小鬼術士からのみ得られた因子である。
加えて、【黒き神】の干渉と思しきベータの『称号』より、【闇】と【空間】に関する属性も解析されているが、『呪詛』を除けば、これらは、【闇世】Wikiに記されていたかつての古代帝国で整理された「魔法学」による16の属性分類に沿うものである。
これが、そのままこの俺の「因子」という世界認識でも受容されているとすれば、今後最低でも『火・風・水・土・雷・氷・闇・光・空間・精神・重力・混沌・活性・均衡・崩壊・死』という『属性適応』の因子が獲得できると予想されるが……ソルファイドから【火】が解析された件と合わせて、もう少し考察する必要があると思えたのはこの点。
具体的には『発疹』や『掻痒』などの術から、そして特にル・ベリの【魔眼】という「魔人」固有の力から『因子:呪詛』が属性適応以外のものとして解析されたことが気になったのだ。
これらもまた立派に、単なる科学的自然的法則からは説明することができず、その術を扱う者の意思が魔素を操って生み出し、望む結果を引き起こすという類の「超常の技」には他ならない。
それに、人間の帝国であった古代帝国の「魔法学」とは関係が無かった、さらに後の時代に登場した竜人ソルファイドや多頭竜蛇が扱うという【竜】の力たる『竜言』はどうであろうか。
逆に、どうしてソルファイドからは『因子:竜言』のようなものが解析されなかったのであろうか。
――いや、実際に解析はされたのだ。
【火】属性という、結果的に引き起こされた"現象"を基準とした「因子」の分類として、だが。
それに、そもそも小醜鬼どもの『掻痒』や『発疹』といった術に関しては【混沌】属性がメインで解析されている。だが、そうすると【混沌】に対応する『呪詛』として……【火】に対する『竜鱗』だった、ということであろうか。
……少なくとも、俺の【因子の解析】では、これらの"現象"を「16属性論」に当てはめつつ、さらに当てはまらない"現象"をも独自に『呪詛』や『竜鱗』として理解した可能性があるのである。
このことを検討するために、視点を変えて、そもそも「属性」とは何であるかを深掘りしてみよう。
実は、【闇世】Wikiには「属性」に関するそのものドンピシャりという記述自体は無かったのである。
郷爵の権限でも読み取れる、この世界の創世の歴史を紐解けば――かつては共に創世した諸神達の事蹟を追うに、彼らは「世界の構成要素」を相互に分担してまずシースーアを生み出した。
そして次に、神々の争いの後に袂を分かった【闇の神】率いる『九大神』が、自らが持ち得ぬ側の「世界の構成要素」を、しかし己の持つ権能から強引に解釈することで再現することで【闇世】を生み出していくのである。
ここで重要なのは、明確にどの神がどの属性を担当しているかが【闇世】Wikiに明記されているわけではなく、しかし古代帝国の「魔法学」ではそれが16属性であると整理されている点である。
――あるいは「そんな」古代帝国の支配に対して、諸神の約半数が異を唱えて神々の大戦が起きたとでもいうことだろうか。
そうした視点を支持するかのように、【闇世】Wiki、つまり【闇世】へ分離した『九大神』派の尖兵たる迷宮領主達が編集したこの共有知識の各記述では「魔法"的"なもの=迷宮の力」と捉えるような記述が目立っているように感じられたのである。
自らが生み出した小さな世界で、限定的とはいえ全知を振るう迷宮領主達にとっては、そもそも「16属性」という分類自体が窮屈であるか、教条的なものと映っているのかもしれない。
そして問題は、16属性論に縛られないはずの迷宮領主でありながら、この俺の迷宮領主【エイリアン使い】としての「因子」という力は、先にも述べたようにその両方の視点を取り込んでいるということなのである。
16属性論が、単に驕った超帝国の恣意的な解釈であるならば、そんなものと縁を持たない『客人』であるはずのこの俺の世界認識たる「因子」にまで「属性適応」という視点が入り込むはずがない――単に『因子:混沌』とか『因子:活性』と表記すれば、現象の説明としてはそれでも充分だったはずなのである。
だというのに因子の"名称"としては16属性論という「魔法学上の分類」が使われておりながら、しかし、しかし、それをこの俺が実際に現象として解析し定義し理解する上では――必ずしも「魔法」による必要はない、という塩梅なのだ。
例えば、ソルファイドの『火竜骨の剣』から【火】が。
小醜鬼どもの「まじない」から【混沌】が。
ベータが行使した【闇の神】に与えられた力から【闇】と【空間】が「属性」として解析されたように。
こうした「ねじれ」現象が、他の迷宮領主達の迷宮システムにおいても起きているのかはわからない。爵位権限のこともあるため、あるいは知っている上位者がいてもおかしくはない。
だが……どうも、このことに関しては、単に『因子=この俺自身の世界認識=現象の理解』であるだけでは説明がつかない、何か別のカラクリがあるように思われるのであった。
「なるほど。そしてこれが……主殿が"解析"した力を引き継いで、上位種へと『進化』する『えいりあん』達ということか。繭や蛹になるあたりは【蟲使い】に近いものを感じるが……」
ソルファイドの思案気な問いに、俺は考察を中断して、意識を目の前に戻す。
今、俺達は労役蟲達に新たに鍾乳洞を掘らせて作成させた『進化部屋』にまで辿り着いていた。そこでは"名付き"達を含めて――新たに解析が完了した因子の進化系統図に沿った"進化"と"胞化"が行われていたのである。
時折、"食料係"の労役蟲達が肉塊や果実や、それらを奴隷ゴブリン達に彼らのやり方で調理させた簡単な食事を運び、肉の蛹達に給餌している。「魔素」と「命素」に対する足しであり、俺の迷宮の迷宮経済に本格的に新たな資源としての「食料と水」を導入していくための試験と実験も兼ねているのであった。
なお、新たに解析されたり定義された『因子』が反映された、進化系統図が次の通りである。
技能【因子の解析:多重】により、俺はエイリアン達を進化させる際に同時に2種類以上の『因子』を注ぎ込むことができるようになった。
進化系統図には前から既に表示されていても、進化や"胞化"をさせることができなかった新系統達に、新たに手を出すことができるようになっていたのである。
そしてこのうち、唯一の「第4世代」であるため、予測されたことだが"胞化"完了までの残り時間が、なんとまだ30日もある『加冠嚢』は別格として。
つい先ほど、数日間の時間をかけた甲斐があり、新たに"胞化"を完了させることができたのが『浸潤嚢』、『凝素茸』、『触肢茸』達である。
特に、浸潤嚢と凝素茸については、俺の【エイリアン使い】の能力をさらに先に進め、また迷宮経済を大いに強化させてくれる期待が高いエイリアン=ファンガルの新系統であり、進化を急がせていたわけである。
なお、実際に目の前に個体として彼らが現れたことで、進化系統図上のその先のエイリアン達もまた新たに名称が判明している。
「あれがアルファ、ガンマ、デルタ。そして……あれはベータで、あちらがゼータ、それにイオータか」
ソルファイドが眼帯で覆われた全盲の両目を、まるで見えており感じ取れているかのように、"進化中"である「肉のサナギ」達に向け、いちいち感嘆や反応を漏らしていた。
――実は、色々と手を尽くして、彼に視えるようにさせたのは、俺であった。
そのカラクリとして、【眷属心話】を通して俺は『エイリアン語』の解読と学習を進めつつあったが、その感覚をソルファイドに対して応用してみたのである。言うなれば「言葉によらない言葉」を心話で送る感覚で、ソルファイドに「認識」をそのまま伝える実験であった。
確かに、未だ俺とエイリアン同士では、身体構造から感性や感覚に神経系といった、そもそもの情報の受容器官や発信器官の差が大きいため、『エイリアン語』の解読や受け止めはまだまだ道半ばである。
しかし、俺と近しい人族としての特徴を色濃く持つソルファイドやル・ベリならば――俺が【眷属心話】を通して、言葉に込めた"色"や音に込めた"匂い"といった共感覚的なイメージを、エイリアン達を相手にするよりはずっと直接的に五感に訴えかけるように伝達可能であることに気づいた。
例えば、俺が「肉のサナギ」という言葉をソルファイドに送る時。
ソルファイドには、単なる言葉としてだけではなく、実際に「肉塊が蠢くサナギ状の生物形態」であるという"視覚イメージ"と共に【眷属心話】を送るのである。無論、実際にリアルな映像なんかを送っているわけではないため、ソルファイド自身は"正しい姿形"が見えているわけではないが――それでもイメージのニュアンスは伝わる。
さらに、そのことがもたらした副作用として、ソルファイドもまた『エイリアン語』を、なんとなくレベルであるが洞察できるようになりつつあった。特に、個体性を発達させている"名付き"達に対しては、今俺の眼の前でそれぞれを言い当てたように、相当の精度で盲目の状態でありながら認識することができるようになっていた。
そして、ソルファイドが急速に「視えないのに視える」ようになった理由のもう一つが、俺が迷宮領主として従徒たる彼に行った"点振り"である。
俺は、ソルファイドのビルドについては、新たに獲得した【心眼】の系統をまず優先することを決めていた。
確かに、彼を追い込んで駆り立てたのもまた俺ではあったが――それに愚直と言えるほど真っ直ぐに応えて、俺の不利であると判断するや迷わず自分自身の"目玉"を抉り捨てた、その覚悟に俺なりに応えたかった。
それで、昨日の時点では残り18点であったのを【瞑想心眼】とその前提技能に、そして残りを、ソルファイドがより"冷静に"己を見つめ直すことができる補助となるよう、特殊な技能と思われる【竜血鎮め】に振った。
彼の出身である隠れ里であった『ウヴルスの里』では、「竜へと堕ちる」ことを抑制するための、怒りと衝動を鎮めるための教えが幼少の頃から施されてきたという。それを従徒献上された"知識"から知り、俺は【竜血鎮め】が竜人の精神を保つために非常に重要な技能であると推測して――それを俺の権限によって高めてやったのであった。
ソルファイドは【火】の力を扱う『火竜』の末裔であるため、さらに本人の言によれば"先祖返り"であり、その特徴が色濃く現れているという。
【火】がどうにも弱点であるような動きを見せる俺の眷属達との連携を重視する意味では、一旦はこうした体術系、感覚系、精神の陶冶を優先しながら、盲目となったことと合わせてソルファイドが自身の戦いにおける身体のリズムを構築し直す――エイリアン達との連携の中で――手助けが必要である、と俺は考えた。
だが、それはソルファイドの"持ち味"とも言える、強力な一騎当千とも言える武勇を捨てさせるということではない。
ソルファイドが己のリズムを、俺の眷属達との連携の中で十分に再構築するのを待ってから、改めて彼の最大の武器でもある【火】に関する技能に一気に振っていく。そういう順序であれば、眷属達を巻き込むことなく、一気に強化された【火】の力を織り込んだ活躍ができるだろうと期待してのビルドである。
……ここで、先の属性や魔法に関する考察に少しだけ戻れば、ソルファイドはソルファイドでそもそもこの『種族技能』において【火】属性への適性が保証されていたわけである。
だが、この『技能点・位階上昇システム』自体は、これはこれでそもそも『迷宮システム』をも「種族」として取り込んでいる上位の世界ルールの疑いがある。
その意味では「16属性論」もまた『技能点・位階上昇システム』に組み込まれていることそのものに違和感自体は無い。
だが、そうなるとますますこの俺の「因子」という力の謎が、深まるのである。
迷宮領主達の「魔法"学"軽視」的にも読める視点を思えば、あるいは、こういう権能の在り方自体は【エイリアン使い】に限られるということはないだろうが。
他の迷宮領主達もまた、16属性に縛られることなく、むしろそれを「1要素」として取り込んだ上で、奇天烈なものを含めた独自の迷宮システムをそれぞれに有しているのだろう――警戒してもしきることはないのである。
その"警戒"のための戦力という意味で、話をソルファイドのビルドに戻そう。
これは、特に"名付き"達との連携で、どうしても「生身の肉弾の魔獣」であることが特徴であるエイリアンでは、相性の悪いような相手が出た時にソルファイドに任せる、というシナリオも意識している。
その意味では、必ずしも元獣調教師として"名無し"達とも不思議な親和性と連携能力を見せるル・ベリほどには、"名無し"達の各個体を見分ける力があるわけではない。イメージやニュアンスとして伝わる【眷属心話】は、無個性な"名無し"同士を区別してソルファイドに伝えることができないのである。
しかし、群でありながらも個でもある"名付き"達に関しては、そうではない。たった今1体ずつ"名付き"達を【心眼】によって見分けることができたように、彼らとの"連携"の構築は、今この瞬間から始まっているようなものであり――それが、俺がソルファイドに仕込んだ、成長の方向性であった。
そして、今この『進化部屋』で新たなる『因子』を俺から与えられ、新たなる「役割」を与えられて、そのために身体の全組織・全細胞を激しく肉の蛹の内側で変異させ変化させ急速な変貌を遂げていく"名付き"達。
彼らの方を向き、俺もソルファイドにならって、1体1体に目をやる。
――俺の迷宮の最大戦力にして"名無し"達を率いる"群にして個"たる彼らは、進化可能となり次第、次の世代に進めさせる。それが俺が定めた【エイリアン使い】としての戦力強化のための大戦略の一つ。
違いがあるとすれば、予想よりも少し"進化先"が多かったことで……誰をどれに"進化"させようか、と少し悩んだぐらいであるが。
結果、アルファ、デルタは『螺旋獣』に。
ガンマは『城壁獣』に。
ベータは『爆酸蝸』に。
ゼータは『縄首蛇』に。
イオータは『切裂蛇』に、それぞれ「第3世代」に"進化"を命じていた。
皆、数日内には次々とその新しい姿を俺達の前に現してくれることだろう。
そして、その他の"名付き"達についても――未解析因子が獲得できて、必要な因子が解析完了となり次第、進化をさせていく予定としたのであった。
「武人だから"戦士"達に興味が向くのは構わない。だが、お前が"戦士"に徹することと、それはそれとして俺の迷宮がどういう仕組みで成り立っているのか――俺の『迷宮経済』も理解はしてもらわないといけない。お前にも、ル・ベリにも、俺は一振りの剣としてだけの役割を求めているわけじゃないからな」
「迷宮領主の言葉で言う『施設』か」
「そうとも言うんだろう。だが、見方を変えろ。エイリアン=ファンガルも、"名付き"達も元は同じ幼蟲から枝分かれしている――『役割』は『施設』かもしれないが、走狗蟲や戦線獣にも劣らぬ"戦士"なんだ、こいつらだってな」
そう言ってソルファイドを連れ、俺は「新系統」のエイリアン=ファンガル3種の前に立った。





