0026 盾と連なりの星々
7/17 …… 初期点振りのルールを変更
眷属心話。
それは例えるなら、深層意識という深い海の中を魚群が泳いでおり、その中から目的の1体を見つけて呼びかける行為に等しい。
だが"エイリアン語"を「認識」する以前の俺は、より大きな「種族」や「系統」という意味での眷属達との繋がりは感じられても、その中のさらに個別の個体と自由に繋がる術があるわけではなかった。
もちろん、直接に目で見て観察すれば個体ごとの違いは識別できる。走狗蟲であれば尾の太さや強靭な後脚の足爪の形、皮膚を波打つ太い血管の紋様などは一様ではない。そうした、すぐそばにいる個体には、彼を指定して【眷属心話】によって語りかけることもできる。
だが、そもそも個体が識別できるほど近くにいるのであれば、簡単な指示なら口頭で済む場合も多い。眷属心話を使うのは、より複雑な俺自身の望み――今、彼に何をして欲しいのかを、思考そのもののイメージとしてぶつける時であったが、それだって眷属心話が無ければできないものではない。眷属心話があるからそれを使うのが便利なだけであり、無ければ言葉を尽くして「望むこと」を伝えるだけである。
しかしこのやり方は、意識の繋がりという大海原の中ではなかなか通用しなかった。理由は単純で、剥き出しの感性や感情、生物としての原理すら異なる"意識"が無数に向き合う「眷属心話"界"」とでもいうべき領域では、俺は尾の太さや鋏脚の傷跡などといった、生身の感覚に頼った個体識別ができなかったのだ。
……そしてそこに、エイリアン達の高度な"群体知性"性が個体識別を困難にしていた、という事情があった。あるいは、これは【エイリアン使い】の長所であると同時に欠点ともなりうるものだろう。
ル・ベリを例に挙げればわかりやすい。
単に眷属心話で「おい、ル・ベリちょっと」と念じれば、彼は即座に反応する。「心話空間」に繋がったものは、直接その姿を見れずとも、思考のパターンや時に心話自体が垂れ流しとなっているのである。
一方でエイリアン達は違う。
確かに生身の身体において個体差はあるが、それはどれもある程度の"誤差"の範疇に収まるものだ。そして何より、複数体集まればただちに俺の指示を共有して、それこそ真社会性の昆虫のように自然で本能的な、かつ高度な分業と連携を自発的に形成してしまう彼らは、意識レベルにおいては一種の"集合知性"の領域に片足突っ込んだ生物なのである。
つまり、部品としての交換可能性だ。ある労役蟲が落盤により事故死しても、その役割をすぐに他のものが引き継ぐのである。
そうした巨大な連携と分業体制の中では、意識レベルでの「規格性」が求められており、故に個々の個体レベルでは「個」の認識が非常に曖昧で、均質的。
そのため、複数が共同して大規模な作業をさせるような命令をする時は大雑把なイメージを投げつけて、後は彼らの連携に任せれば良いが……個別の任務を特定の個体や小集団に与えようとすると、問題が起きる。それこそ部署内に通知するはずが、社内全体に間違えてメールしてしまっただとか、1年生にだけ伝えれば良いお知らせを学校全体に放送してしまったかのような混乱が起きる。
対策無しだと全エイリアンが、自分達が既に与えられていた大規模な任務のローテーションの中に、その個別特定のチームに任せたい指令を組み込んで連携して分業しだしてしまうのである。
ユニットが自動で行動するタイプのRTSゲームをやったことがある者に通じる言い方をするならば、木材集めに専念させたい村人が、わざわざ拠点の反対側の離れた位置の防壁を作成しに行ってしまう――近くに物見櫓をすぐに建て終わりそうな他の村人がいるにも関わらず、である。
それに近いことが、俺の眷属達にも起きるのだった。
故に、アルファ以下の"名付き"の存在が重要であった。
最初からそうしようと思ったわけではない。アルファ達は【眷属心話】を得る前のまだ少数だった頃に、愛着的な意味もあって何気なく名前をつけたに過ぎない。
だが、それは結果的に「心話空間」での個体識別に役立つこととなった。単純にアルファ、ベータと呼び掛ければ、彼らはそれに応えてその他の"名無し"の群体とは異なる反応を示すし、彼らを名指しして与えた指示は彼らだけのものである、と名無し達は認識するのである。
そして"名付き"達はそんな他よりも強い個体性を持ちつつも、しかし高度な連携を周囲の個体と計ることができる群体知性性を維持している。
俺が個別に与えた任務について、アルファ達は俺の他の指令に反しない限り、そう指示しなくても自発的に周囲の"名無し"達を取り込んで小チームを形成する、という判断をしてくれるのである。
この場合俺は、「アルファ班」や「ゼータ班」という形で"名付き"の率いる小集団を心話空間から識別できるようになる……逆に単に、そこら辺を歩いている"名無し"数体に暫定的な「第1班」「A部隊」のような記号名を与えても、うまくいかないということが何度もあった。
――いいや、俺が与えた指示を完遂してくれる、という意味では大丈夫なのである。
そうではなくて「班分け」という目的は、"名無し"達に対してはうまく働かないことがわかったのだ。どうも、"名無し"達は俺がその「班」にやらせたい役割自体を巨大な群体知性の中で共有し、俺が暫定的に与えた「班分け」と関係なく、自分達のローテーションの中に組み込んでしまうのである。
具体的には、ある"名無し"の労役蟲数体を「第1班」として、彼らにある通路の細かい修復を命じた。だが、どうも彼らは自分達自身の巨大な群体知性的連携の中で「俺の指示」を解釈したようであり、俺がその場で割り当てた「第1班」に拘らずに、適切に別の数体を割り当ててその作業をこなしてしまったのである。
……そしてそれは、大抵の場合は俺の適当な班分けよりも、ずっと効率的なローテーションであったのだ。
というのも、例えばだがここまで数が増えた労役蟲達の、個々の【凝固液】の残量まで俺はいちいち把握できていない。そのため【凝固液】の残量が少ない個体を捕まえて、【凝固液】が大量に必要な作業の「班」に指定してしまうことがあるが――"名無し"達の群体知性はそれを補ってくれるのである。近くを通りがかった優先順位の低い作業をしていた【凝固液】を多く残した個体と、俺が「班」に指定した個体を自然に交代させるのである。
結局、"名無し"達にとっては、俺の暫定的な役割分けは良い意味で関係が無いのであった。あくまでも俺から受け取った命令の遂行だけが重要であり、ある個体への指令は全体への指令と全く同義なのである。
このため、本当に特定の個体を指定して個別の任務を与えるには"名付き"にするしかない。
しかし、じゃあ全員に名前を与える――となると、群体知性の柔軟性という利点を捨てることにもなりかねない。これは特に、労役蟲達への迷宮構築の指示のような、複数個体が連携してローテーションするのが前提である中長期的かつ継続的な大規模な作業では、大きな大きなアドバンテージであるからだ。
それこそ個々の【凝固液】の残量だとか疲労度だとかいったパラメータまで完璧に把握して調整する役割を、俺が担ってしまうとパンクしてしまうこととなる。
だが、同時に、臨機応変さや状況に応じた即時の判断で指示を変える必要がある場面では、この巨大な群体知性の性質は逆転し、融通が利かないという短所となり得る。まるで単一の遺伝子しか持たない生物が、少しの環境変化や天敵の出現であっという間に絶滅してしまうように。あるいは、レミングスが本能に逆らえず地形の変化に対応できずに、かつて道があり今は崖となった場所から次々と投身自殺してしまうとされる逸話を地で行くかのように。
それが【エイリアン】使いを"名無し"だけで構成した場合の、弱点ともなると俺は考える。
――それを解決するのが"名付き"達の存在であった。
彼らを「心話空間」の中で識別できるようになり――そして彼らもまた、群体知性から必要に応じて離れて、個別に俺に対して【眷属心話】により何らかの意思を伝えることができる。
それを俺がちゃんと受け取れるようにする、という意味での『エイリアン語』であった。
アルファ以下、シータまでを『司令室兼生産部屋』に呼び寄せ、俺は彼らの様子を睥睨する。
いつものようにベータが、ごろごろと転がってデルタにちょっかいを仕掛け、ガンマが巻き込まれてイプシロンがとばっちりを受けぬようそそくさと距離を取るように転がる――そこをガキ大将から悪いことを教えられた悪童達のようにゼータ、イータ、シータが取り囲んで小突き始める。
アルファはといえば、俺の様子をじっと全身の感覚で見つめているようであり、ベータ以下のちょっとした喧騒を放置している。しかし、俺が新たに全員に言葉を発しようとすることを感知するや、俺よりも早く低い鳴き声でベータ達に唸って、整列させるのであった。
技能【言語習得:強】の力を以ってしても、まだまだ俺は「エイリアン語」の初学者に過ぎない。「語」と認識することで無理矢理技能連携はさせたが、しかしおそらく俺が共感覚的なイメージで受け取らざるを得ない様々な「エイリアン語」は、そもそも生物としての在り方や感覚の受け止め方などが違うことに端を発するものであろう。
わかりやすい例で言えば、俺には十字の牙顎もなければ長い尾も無い。この時点で、それがある走狗蟲と同じ感覚、同じ意識、同じ「イメージ」としての「言語」の共有には無理がある。
それを【情報閲覧】と【眷属技能点付与】と【眷属経験点共有】などが技能連携した上に、さらに迷宮領主と眷属の間のつながりまで重ねて、ようやっと、その"異なる感覚"のイメージを、まるで「喩える」ように翻訳した結果が、「色が聞こえて音がにおう」かのような共感覚イメージということだと理解していた。
「だが、この点は俺がエイリアンをさらに理解していくことで少しずつ補われると考える――【情報閲覧】」
「だ」を言う瞬間にはアルファが低く唸り、真っ先にゼータ以下3体が整列。「この点」と言うまでには、全員が俺の前に並ぶ。そしてそう並ぶとわかった上で、俺は"名付き"達の全員に【情報閲覧】をかける。
それぞれのステータス画面と、その倍以上の技能テーブルのウィンドウが開き――俺は両手でそれをスライドさせ、重ね、分割しながら全員の情報を整理していったのだった。
○種族技能『エイリアン』 ※8体共通
○継承技能 ※アルファ~イプシロン共通
○系統技能『戦線獣』 ※アルファ、ガンマ、デルタ
○系統技能『噴酸蛆』 ※ベータ、イプシロン
○系統技能『走狗蟲』 ※ゼータ、イータ、シータ
○系統技能『労役蟲』 ※通りがかりの点振り済個体
○現在系統樹
○個別ステータス
【アルファ】
位階:8 ← UP!!!
技能点:14点(称号1個分の3点を含む)
【ベータ】【イプシロン】
位階:7 ← UP!!!
技能点:10点
【ガンマ】【デルタ】
位階:7 ← UP!!!
技能点:9点
【ゼータ】【イータ】【シータ】
位階:5 ← UP!!!
技能点:7点
【通りすがりの労役蟲(※数点点振り済)】
位階:4 ← UP!!!
技能点:2点
まず、これだけサンプルが集まれば『種族:エイリアン』の位階と技能点の関係は計算可能である。頭の中であれこれ暗算した結果、「位階1ごとに技能点2点」であり、さらに俺の【眷属技能点付与】の効果は「位階6ごとに技能点1点」ということがわかった。
眷属よりも従徒への付与率の方が高いことが一瞬意外ではあったが――考えてもみれば、他の生物、特に高等な知性と自由意志を持つ種族と比べて俺の眷属ほど"生き方を誘導"されている存在はいない。他ならぬこの俺自身に望まれて、である。
"名付き"達こそ必要な範囲での個性と独自判断能力が芽生えているが、それでも大きなくくりとして『因子』により方向づけられた「役割」が、既に与えられている。その意味で、種族技能はともかく『系統技能』で多数の技能群は必要ない。同様に、追加の技能点の付与割合も相応のものとなっているのだろう。
ところで、ル・ベリの"転職"をした時に発見した『継承技能』テーブルであったが、これがエイリアン達の「進化」にも適用されていた。
アルファからイプシロンまでの元走狗蟲の5体については、現在の系統の『系統技能』とは別に『継承技能』として走狗蟲時代の技能3つを保持していたのである。"爪"を持つ戦線獣ならばともかく――【蹴撃】に至っては噴酸蛆にとっては正直、役に立たせようが無いのではないか。
さりとて、走狗蟲においては【咬撃】【爪撃】【蹴撃】に1点ずつというのは、どうも系統としての"初期点振り"であるようだった。ただし、戦線獣に見られるように、それがなされるのはあくまでも「ゼロスキル」のみであり、前提技能を要するものについてまで点が振り切られる、ということはなかった。
それでも、従徒と異なり位階ごとに2点しか技能点が与えられない眷属において、「進化」次第ではこの強制的な"初期点振り"は無駄になる。それが致命的、というわけではないが、可能ならばこの系統ごとの"初期点振り"を止めさせることができれば、もう少しだけ柔軟な点振りができるかもしれない。
それについては、次にいずれかのエイリアンを第2世代以降に進化させる際の今後の検証課題の一つとすることとした。
(だが、"進化"することで『位階』を一気に上昇させる、か。エイリアンという種族の『種族経験』は、確かに、まさにそれで積み重ねるというようなものだな)
経験点と技能点に関する考察を終え、今度は「エイリアン」という種族そのものについて考え始めた。
ざっと見たところ、大まかなビルド方針としては次の3つが考えられる。
その1。【代謝活性】や【耐性】系統に振って耐久力を上げるタンク型。
その2。【群体本能】と【同調】系統に振って連携力を徹底的に強化する軍量型。
その3。豊富な【○○強化】系をエイリアンとしての『系統技能』と連携させて長所を伸ばしたり短所を補う役割特化型。
ただ、種族特徴として最も重要なのはやはり【同調】系統であろうか。
労役蟲にせよ走狗蟲にせよ、ゼロスキルの状態でもあれだけの群体知性を発揮して連携をしていた。それをさらに強化するということは、群体知性全体の強化に他ならないのである。
現状でも【眷属心話】によって、エイリアン同士、従徒であるル・ベリも巻き込んで相互に交流している。そして俺の捉えるところ【精神同調】は、【眷属心話】とは排他的であったり上位下位互換ではなく、お互いに強化し合うようなものだと考える。
なぜなら前者はあくまでも「迷宮領主と眷属」の間に「心話空間」を形成するもので、そこで行われる眷属同士のやり取りは、つまり迷宮領主の力を介したものであると言って良い。エイリアン達の【精神同調】は、いわばそこに彼ら眷属同士のもっと直接的な「精神同調空間」を形成するようなもので――俺という"異なる意識や感覚や生体原理"を有する異物を排することができるという点で、おそらくだがもっと効率的にやり取りできるのである。
しかし彼らが眷属である以上、最終的には俺と交信する必要があるため、眷属心話空間が不必要ということにはならない、ということである。
――無論、この"同調"のレベルと程度にもよるだろうが。
それに、仮に高度な同調が行えるとしても――簡単にはいかないのではないか、と俺は考えている。それは単純に、1体1体のエイリアンの「情報処理能力」の問題である。同時に2つの景色を見ながら、あるいはその情報をテレパシーでやり取りする場合、個々が自身の脳みそで処理しなければならない情報量は最低でも1倍よりは上となる。
むしろ、同調のしすぎが情報量の過多につながる恐れすらあるため、逆に連携が阻害されてしまう可能性が考えられた。
「やはり、"副脳"、だな」
俺の中で、大まかな眷属達の役割分担とそれに応じたビルド方針が立ちつつあった。
"名付き"達に関しては、その特性に応じて特化した役割と、そして「指揮官」としての役割を期待することからその2とその3のハイブリッド型が良いだろう。
"名無し"については、一芸に秀でたタイプはその3によって徹底的に役割に特化させることを中心にし、労役蟲や走狗蟲といった数をそろえてまさにその大規模な連携力に頼ることが多くなる系統については、その2を中心に連携力を高める。
――そうなってきた時に問題となるのが、たった今検討した「同調しすぎ」による処理力オーバーであるが、そこで俺が期待しているのが『因子:肥大脳』により新たに進化可能な『副脳蟲』であった。
おそらくだが、その「脳」としての圧倒的な情報処理特化能力により、個々のエイリアン達が"同調"した情報の整理統合を引き受け、その類の負担を肩代わりすることがその本質的な役割だと俺は予想していた。
そしてそれがもしできたならば、個々のエイリアンはまさに「群体」となって互いに感覚と精神を同調させ、連携に必要な行動"のみ"を成す部品となり、その他の余計な情報はすべて副脳蟲に押し付けることで、連携のキレはかつてなく高まっていくことだろう。何となればそれは、副脳蟲の実力次第では、全体をビルドその2中心にするという判断をすることも十分にありえる話だった。
「というわけで、お前達のビルドを決めていくとしようか」
アルファ達に宣言し、俺は1体1体と【眷属心話】による対話や、それに対する他の"名付き"達の反応、名を与えられたことによって芽生えた個性の芽を考慮して、次の通り点振りをしていったのであった。
○アルファ(戦線獣)
"名付き"達の中で唯一『称号』を獲得しており、俺の護衛としても"名付き"達のまとめ役としても要として使いこなしたい存在。
称号【不撓の盾】の技能と、系統技能ではなくビルドその1のタンク系の技能を取得してシナジーを狙う。"名無し"達の数が増え、また"名付き"も必要に応じて増やしていくため、戦線を強引に突破するために突っ込ませる運用はあまり考えていないので系統技能は見送り。
代わりに【おぞましき咆哮】の取得に向けて、敵の戦意をくじくという意味での「連携補助」を狙う構成とした。
○ベータ(噴酸蛆)
アルファが頼れるボスならばベータはお調子者のムードメーカーといったところか。
少しは大人しくしろよという願いも込めて、脚の遅いことが予想された噴酸蛆にしたのだが、よもや丸太を運ぶか駄々っ子が布団にくるまって転げるかのような「回転移動」を自得して移動性を補うとは、好奇心恐るべしと思わずにはいられない。
ならば徹底的にその敏捷さとトリッキーで大胆な行動を助長してやろう、ということで、その1とその3のハイブリッド構成とした。【生存本能】系統の耐性系のタンク技能と、【反応強化】【五覚強化】を目指し、単独で妙なところに現れても場を引っ掻き回して逃げおおせる役割を狙っていくのもよいだろう。
○ガンマ(戦線獣)
デルタをからかうベータによく巻き込まれる、よく言えばどっしりしていて堅実だが、悪くいえばのんびり鈍間な嫌いがある性格。ただしそれは言い換えれば、テコでも動かない頑固さの現れでもあり、実は単純な力比べだけならばデルタに勝る。
その意味でのとにかく耐久力と耐久性に信頼できるな、と俺としては思うところがあり――『因子:硬殻』さえ解析完了すれば、『城壁獣』への進化を考えている。
このためシナジーを狙って【DEF強化】などの系統を取っていくことを目指し、進化後に向けて点を残していく方針とした。
○デルタ(戦線獣)
喧嘩っ早さと短気さでは"名付き"達の中でも随一で、大抵、ガンマを挟んでベータに挑発されて取っ組み合いを始めている。激昂のままに瞬発する様は持久力にやや欠ける嫌いがあるが、言い換えれば一点突破の能力にかけてはアルファを上回っており、もしもだが2氏族競食作戦でバズ・レレーの円形陣への突貫を命じていたのがデルタであれば、俺もル・ベリも出る幕が無かった――かもしれない。
とにかく突っ込んで暴れさせる、ということを意識して、【ATK強化】から【筋力倍化】を目指しつつ、戦線獣としての系統技能を取っていくビルド方針とした。
○イプシロン(噴酸蛆)
誕生した当初からベータに舎弟のように連れ回された挙げ句、謎の「回転移動」まで覚えさせられてしまった、警戒心と勘が鋭い慎重ながら敏捷な性格。
――"蛆"という名であるからには「第3世代」以降の進化先に、ひょっとしたら虫羽を持つ系統のエイリアンが現れるかもしれない、と俺は考えており、その場合にはイプシロンをその方向に進化させるつもりでいる。
このため、ガンマと同じく振り残しを多めにキープしつつ、耐性系と速度を強化するようなベータに近いビルドを組むことを目指していこうかと考えている。
○ゼータ(走狗蟲)
○イータ(走狗蟲)
○シータ(走狗蟲)
アルファからイプシロンの"名付き"の第1陣が先行して「第2世代」としたが、現時点で判明しているだけでも「第2世代」の新たなエイリアン系統で『遊拐小鳥』と『突牙小魚』が存在している。
そうした"新種"への進化を睨みつつ、"名付き"の走狗蟲として班を率いさせたり3体で連携行動をさせていたこととが相まって、まるで三つ子のように、他の"名無し"の走狗蟲達を遥かに上回る息の合いっぷりとなっていた。
……別に彼らを宇宙の深奥の黒き星々に喩えようというわけではないが。
などと思考してしまい、俺は「しまった」と焦りを覚える暇もなく――
嫌な予感がして、3体のステータス画面に目をやったところ、それぞれ見事に『連星の絆(先鋒)』『連星の絆(次鋒)』『連星の絆(蛇足)』とかいう称号を獲得してしまっていたのであった。
突然の眷属達の称号獲得に衝撃を受けすぎたため【群体本能】に点振りをした以外はビルド構築を忘れてしまった。
が、後から考えれば、結果的に彼らはそれぞれ異なる「第2世代」とする可能性が高かったため、【精神同調:同系】にはあえて振らなかったことはそれはそれで正解だったかもしれない。
≪――御方様。"狼狩り"と"熊狩り"の準備、整いまして御座います≫
加えて、ル・ベリがまるで俺に助け舟を出すかのように、気持ちを切り替える絶妙のタイミングで【眷属心話】を送ってきたのであった。おそらく「心話空間」を通して、アルファかイプシロン辺りから状況を読み取ったか。
とはいえ、今後を考えればこちらがより重要なことであるため、俺は鷹揚に頷く肯定の意のイメージをル・ベリに【眷属心話】で送った。
「聞いての通りだ、新たなる力を得た"名付き"諸君。お前達に俺が期待する役割は、ちょっと特殊だ。だが、それだけに必要なものでお前達でなければ任せられないと俺は考えている。ゼータ、イータ、シータ……今後はお前達3体だけを特別に呼び出す時は『連星班』とでも呼ぼうかな……先行してル・ベリと共にことに当たってくれ。他の者は、追って指示を出す――散開せよ」





